徳川家康の生涯を新たな視点から描く大河ドラマ『どうする家康』。物語は終盤を迎え、数々のピンチに見舞われるたびに「どうする!?」を突きつけられてきた家康が、いよいよ安寧の世を実現しようとしている。ドラマを彩る音楽を収録した『大河ドラマ「どうする家康」オリジナル・サウンドトラック Vol.3』が、10月25日に発売された。手掛けたのは家康とその家臣団に音楽面で伴走してきたピアニストで作曲家の稲本響氏だ。
■家康と視聴者を応援する楽曲を制作 キーワードは「人間くさい愛の物語」
稲本 『どうする家康』の音楽を担当することが決まり、ドラマの撮影現場にお邪魔した際、脚本を手がける古沢良太さんから「家康をはじめとするみんなの愛が詰まったストーリーにしたい」という話をお聞きしました。さらに制作スタッフとは、「徳川家康というと天下を取った偉人で、達観した目で世の中を見た成功者という印象が強いけれど、家康も多くの苦難を乗り越え、成功も失敗もした我々と同じ1人の人間。家康を中心に人間くさい物語を紡いでいければ、日曜夜に放送をご覧になった方に、『明日からの1週間もがんばるぞ』と思っていただけるのではないか」という話になりました。この「人間くさい愛の物語」という言葉をコンセプトに、家康と視聴者の皆さんを応援する楽曲を作ることを心がけました。
使命は言葉を超えた思いを音楽で表現すること。
稲本 歌詞があると、言葉として認識され、喜怒哀楽の情報が入ってしまいます。その点、インストゥルメンタルには歌詞はないので、言葉で白黒をつけられないことを音楽で表現できる気がするんです。言葉にして、話し合っても解決しないことはたくさんあると思います。でも、家康たちも敵対する強者たちも、平和を願い、家族や愛する人を守りたいという思いは一緒のはず。ただ、そこに互いの利害関係があって、争いが起きていく。だからこそ、言葉では伝えきれない、言葉を超えた思いを音楽で表現することが、最大の使命の1つだと考えています。
音楽の核には、変幻自在のピアノを据えた。
稲本 ピアノは多種多様の音楽に対応できるオールマイティな楽器で、単独でも、複数の楽器と一緒でも輝くという特徴があり、それは1人でも、周りの人を巻き込んでも輝く家康のキャラクターと近いと思うんです。音楽を作るにあたって使用したピアノは、製作年代の異なる4台のニューヨーク・スタインウェイ。年を重ねていく家康に合わせて使い分けました。たとえば、家康の若武者時代を描いたドラマ序盤の音楽では1989年製のものを使用し、そこから家康の年齢に合わせてピアノの音色も年を取っていく工夫を凝らしています。晩年のシーンを彩る楽曲は、1887年製のピアノで演奏しました。製作年代が異なると、素材も作りも違うし、音がきれいに輝く黄金スポットのようなものも変わってくるんですよね。ぜひ聴き比べてみてください。
レコーディングには、さまざまなジャンルの音楽家が集結した。
稲本 ドラマの舞台となる戦国時代は、ポルトガルや中国など、世界中からさまざまなものがもたらされるようになった時代。きっと、音楽もいろいろと入ってきていたはずだと想像が膨らみました。そこで、レコーディングにはクラシックの音楽家やロックミュージシャン、ジャズの演奏家や和楽器奏者など、あらゆるジャンルの音楽家に集まってもらいました。彼らとアイデアを出し合いながら、クラシック音楽からラテン系の音楽、変わったところではアフリカの先住民が川で洗濯する音で作られたリズムからもインスピレーションを受けて、バラエティ豊かな楽曲制作を試みました。制作期間は1年以上に及ぶため、いつもは各々のステージで活躍している100人を超える演奏者を始め、さまざまな技術者が集い、垣根を越えたモノ作りが大河ドラマという旗のもとで実現できたんです。
音楽制作の現場では、小国・三河の岡崎城主の子だった竹千代が、天下人・徳川家康になるまでの苦難と成長の物語と重なるように、紆余曲折があったと振り返る。
稲本 レコーディングは膨大な楽曲数になるのですが、演奏者・スタッフ皆が一丸となってダイナミックで繊細な表現を実現させてくれました。たとえば、ベテランのミュージシャンが若い音楽家に触発されて、「オレも駆け出しのころはピュアな音を出していたんだよな。なのにだんだん俗っぽい音になっちゃって……。ゴメン、もう1回やらせてください!」なんて言って、テイクを重ねて素晴らしい音ができ上がったこともありました(笑)。さまざまなキャストが集まって、生み出す苦しみを味わいながら切磋琢磨して物語を作っている撮影現場と、若武者がいて古参の武士もいて、時にぶつかり、時に支え合って安寧の世を作りあげるという劇中の家康家臣団が重なるように、音楽の現場も同じく、多くのミュージシャンやスタッフたち試行錯誤を経て楽曲が仕上がりました。
■サウンドトラック第3弾は登場人物や撮影現場にフォーカスした音楽を収録
稲本 たとえばカメラで撮影した映像には、対象物の全体を写す「引きのカット」と、対象物に近づいて写す「寄りのカット」があります。テレビドラマの劇伴では、比較的「寄りの音楽」が多く、見ている方が感情を揺さぶられる場面では、セリフと音楽の両輪で伝えることによって感情をさらに増幅させるという手法が多用されている気がします。『どうする家康』では制作スタッフと相談する中で、「引きの美学」も音楽で表現したいという話になり、「引きの楽曲」と「寄りの楽曲」の両方を作りました。サウンドトラックの第1弾と第2弾は、ドラマ全体の色がイメージできるような「引きの楽曲」を中心に収録し、今回の第3弾は 「寄りの楽曲」がメインとなっています。
「寄りの楽曲」は、登場人物をはじめとしたディテールにフォーカスしている。
稲本 底辺からはい上がり、大出世を遂げ、家康最大のライバルとなった秀吉は、同じモチーフでアレンジの異なる4曲を作りました。6曲目の「猿と呼ばれる男」は序盤のお調子者のころの曲で、7曲目の「ましらのごとく」は悪の色に染まっていく秀吉を「ましら」という猿の悪魔に重ねた曲、8曲目の「猿神」は自分を神だと言い出した秀吉を表した曲、そして9曲目の「老猿」は孤独な老人となり果てた秀吉をイメージして作った曲になっています。劇中の秀吉像が見えてきたところで4曲を聴き比べて、秀吉の変化や歴史上の動きを音楽面からも感じていただけたらと思います。
劇中の時間経過に合わせて、楽器の変遷も意識した。
稲本 ドラマの序盤では、まだ田舎侍だった家康たちをイメージし、土と水を混ぜたものに藁を使ってスネアドラムのように叩いた音を入れました。とても楽器とはいえない、泥んこ遊びの音から始めたんです(笑)。そんな原始的な音から、次第にハープのような古典的な楽器に移行し、ドラマ終盤ではドラムやエレキギターといった現代的な楽器を使う音楽になっているので、楽器自体の歴史や変遷も楽しんでいただけるのではないでしょうか。
言葉を越えた思いが込められた音楽には、さまざまなメッセージが詰まっている。
稲本 2曲目の「紅蓮の王」は信長へのオマージュ的な曲で、海外の文化を取り入れた信長が乱世に警鐘を鳴らすが如く、西洋の鐘の音を意識的に使いました。14曲目の「稀代のほら吹き」は家康の家臣・本多正信にあてた曲で、実際に倉庫に何十年も眠っていたマンドリンをチューニングせず、出たトコ勝負の音を採用することで癖の強いキャラクターを表現しています。19曲目の「天を仰ぐ長槍と旗印」は、撮影現場で美術スタッフさんから聞いた徳川家の旗印にまつわる逸話に感激して作った曲です。このように、サウンドトラック第3弾は登場人物に光を当てたり、撮影現場にフォーカスしたりして作りあげた楽曲をラインナップしています。楽曲にはいろいろな音を用いてメッセージを込めているので、思い思いに想像しながら聴いていただけたら嬉しいですね。
リード曲である「どうする家康 メインテーマ曲 〜暁の空〜」が、甲子園球場で行われた高校野球の大会などで吹奏楽バージョンが演奏されたように、いまや『どうする家康』の音楽はすっかり聴きなじみのある曲となった。それは、楽曲に込めた稲本氏の思いがしっかりと人々の心に伝わっているという、何よりの証拠だろう。
文・森中要子
<リリース情報>
大河ドラマ『どうする家康』オリジナル・サウンドトラック Vol.3
稲本 響
2023.10.25発売/VICL-65893/3300円(税込)
<収録曲>
01. Never Neverland ~only Edo~
02. 紅蓮の王
03. 徳川マーチ ~くにをつくろう~
04. 終のひめ
05. 鬼の棲家
06. 猿と呼ばれる男
07. ましらのごとく
08. 猿神
09. 老猿
10. 虎の血族
11. 慈愛 クインテット Ver.
12. 時はまだ
13. どうする家康 II
14. 稀代のホラ吹き
15. saravah! ~家臣団よ永遠なれ~
16. 方々界隅
17. 奸戦・・・負ける!
18. 服部党ここに見参!
19. 天を仰ぐ長槍と旗印
20. どうする家康 メインテーマ ~暁の空~ クインテット Ver.
21. 豊穣の大地(「どうする家康ツアーズ」より)
22. 三河の小春日和(「どうする家康ツアーズ」より)
■家康と視聴者を応援する楽曲を制作 キーワードは「人間くさい愛の物語」
稲本 『どうする家康』の音楽を担当することが決まり、ドラマの撮影現場にお邪魔した際、脚本を手がける古沢良太さんから「家康をはじめとするみんなの愛が詰まったストーリーにしたい」という話をお聞きしました。さらに制作スタッフとは、「徳川家康というと天下を取った偉人で、達観した目で世の中を見た成功者という印象が強いけれど、家康も多くの苦難を乗り越え、成功も失敗もした我々と同じ1人の人間。家康を中心に人間くさい物語を紡いでいければ、日曜夜に放送をご覧になった方に、『明日からの1週間もがんばるぞ』と思っていただけるのではないか」という話になりました。この「人間くさい愛の物語」という言葉をコンセプトに、家康と視聴者の皆さんを応援する楽曲を作ることを心がけました。
使命は言葉を超えた思いを音楽で表現すること。
稲本 歌詞があると、言葉として認識され、喜怒哀楽の情報が入ってしまいます。その点、インストゥルメンタルには歌詞はないので、言葉で白黒をつけられないことを音楽で表現できる気がするんです。言葉にして、話し合っても解決しないことはたくさんあると思います。でも、家康たちも敵対する強者たちも、平和を願い、家族や愛する人を守りたいという思いは一緒のはず。ただ、そこに互いの利害関係があって、争いが起きていく。だからこそ、言葉では伝えきれない、言葉を超えた思いを音楽で表現することが、最大の使命の1つだと考えています。
音楽の核には、変幻自在のピアノを据えた。
稲本 ピアノは多種多様の音楽に対応できるオールマイティな楽器で、単独でも、複数の楽器と一緒でも輝くという特徴があり、それは1人でも、周りの人を巻き込んでも輝く家康のキャラクターと近いと思うんです。音楽を作るにあたって使用したピアノは、製作年代の異なる4台のニューヨーク・スタインウェイ。年を重ねていく家康に合わせて使い分けました。たとえば、家康の若武者時代を描いたドラマ序盤の音楽では1989年製のものを使用し、そこから家康の年齢に合わせてピアノの音色も年を取っていく工夫を凝らしています。晩年のシーンを彩る楽曲は、1887年製のピアノで演奏しました。製作年代が異なると、素材も作りも違うし、音がきれいに輝く黄金スポットのようなものも変わってくるんですよね。ぜひ聴き比べてみてください。
レコーディングには、さまざまなジャンルの音楽家が集結した。
稲本 ドラマの舞台となる戦国時代は、ポルトガルや中国など、世界中からさまざまなものがもたらされるようになった時代。きっと、音楽もいろいろと入ってきていたはずだと想像が膨らみました。そこで、レコーディングにはクラシックの音楽家やロックミュージシャン、ジャズの演奏家や和楽器奏者など、あらゆるジャンルの音楽家に集まってもらいました。彼らとアイデアを出し合いながら、クラシック音楽からラテン系の音楽、変わったところではアフリカの先住民が川で洗濯する音で作られたリズムからもインスピレーションを受けて、バラエティ豊かな楽曲制作を試みました。制作期間は1年以上に及ぶため、いつもは各々のステージで活躍している100人を超える演奏者を始め、さまざまな技術者が集い、垣根を越えたモノ作りが大河ドラマという旗のもとで実現できたんです。
音楽制作の現場では、小国・三河の岡崎城主の子だった竹千代が、天下人・徳川家康になるまでの苦難と成長の物語と重なるように、紆余曲折があったと振り返る。
稲本 レコーディングは膨大な楽曲数になるのですが、演奏者・スタッフ皆が一丸となってダイナミックで繊細な表現を実現させてくれました。たとえば、ベテランのミュージシャンが若い音楽家に触発されて、「オレも駆け出しのころはピュアな音を出していたんだよな。なのにだんだん俗っぽい音になっちゃって……。ゴメン、もう1回やらせてください!」なんて言って、テイクを重ねて素晴らしい音ができ上がったこともありました(笑)。さまざまなキャストが集まって、生み出す苦しみを味わいながら切磋琢磨して物語を作っている撮影現場と、若武者がいて古参の武士もいて、時にぶつかり、時に支え合って安寧の世を作りあげるという劇中の家康家臣団が重なるように、音楽の現場も同じく、多くのミュージシャンやスタッフたち試行錯誤を経て楽曲が仕上がりました。
■サウンドトラック第3弾は登場人物や撮影現場にフォーカスした音楽を収録
稲本 たとえばカメラで撮影した映像には、対象物の全体を写す「引きのカット」と、対象物に近づいて写す「寄りのカット」があります。テレビドラマの劇伴では、比較的「寄りの音楽」が多く、見ている方が感情を揺さぶられる場面では、セリフと音楽の両輪で伝えることによって感情をさらに増幅させるという手法が多用されている気がします。『どうする家康』では制作スタッフと相談する中で、「引きの美学」も音楽で表現したいという話になり、「引きの楽曲」と「寄りの楽曲」の両方を作りました。サウンドトラックの第1弾と第2弾は、ドラマ全体の色がイメージできるような「引きの楽曲」を中心に収録し、今回の第3弾は 「寄りの楽曲」がメインとなっています。
「寄りの楽曲」は、登場人物をはじめとしたディテールにフォーカスしている。
稲本 底辺からはい上がり、大出世を遂げ、家康最大のライバルとなった秀吉は、同じモチーフでアレンジの異なる4曲を作りました。6曲目の「猿と呼ばれる男」は序盤のお調子者のころの曲で、7曲目の「ましらのごとく」は悪の色に染まっていく秀吉を「ましら」という猿の悪魔に重ねた曲、8曲目の「猿神」は自分を神だと言い出した秀吉を表した曲、そして9曲目の「老猿」は孤独な老人となり果てた秀吉をイメージして作った曲になっています。劇中の秀吉像が見えてきたところで4曲を聴き比べて、秀吉の変化や歴史上の動きを音楽面からも感じていただけたらと思います。
劇中の時間経過に合わせて、楽器の変遷も意識した。
稲本 ドラマの序盤では、まだ田舎侍だった家康たちをイメージし、土と水を混ぜたものに藁を使ってスネアドラムのように叩いた音を入れました。とても楽器とはいえない、泥んこ遊びの音から始めたんです(笑)。そんな原始的な音から、次第にハープのような古典的な楽器に移行し、ドラマ終盤ではドラムやエレキギターといった現代的な楽器を使う音楽になっているので、楽器自体の歴史や変遷も楽しんでいただけるのではないでしょうか。
言葉を越えた思いが込められた音楽には、さまざまなメッセージが詰まっている。
稲本 2曲目の「紅蓮の王」は信長へのオマージュ的な曲で、海外の文化を取り入れた信長が乱世に警鐘を鳴らすが如く、西洋の鐘の音を意識的に使いました。14曲目の「稀代のほら吹き」は家康の家臣・本多正信にあてた曲で、実際に倉庫に何十年も眠っていたマンドリンをチューニングせず、出たトコ勝負の音を採用することで癖の強いキャラクターを表現しています。19曲目の「天を仰ぐ長槍と旗印」は、撮影現場で美術スタッフさんから聞いた徳川家の旗印にまつわる逸話に感激して作った曲です。このように、サウンドトラック第3弾は登場人物に光を当てたり、撮影現場にフォーカスしたりして作りあげた楽曲をラインナップしています。楽曲にはいろいろな音を用いてメッセージを込めているので、思い思いに想像しながら聴いていただけたら嬉しいですね。
リード曲である「どうする家康 メインテーマ曲 〜暁の空〜」が、甲子園球場で行われた高校野球の大会などで吹奏楽バージョンが演奏されたように、いまや『どうする家康』の音楽はすっかり聴きなじみのある曲となった。それは、楽曲に込めた稲本氏の思いがしっかりと人々の心に伝わっているという、何よりの証拠だろう。
文・森中要子
<リリース情報>
大河ドラマ『どうする家康』オリジナル・サウンドトラック Vol.3
稲本 響
2023.10.25発売/VICL-65893/3300円(税込)
01. Never Neverland ~only Edo~
02. 紅蓮の王
03. 徳川マーチ ~くにをつくろう~
04. 終のひめ
05. 鬼の棲家
06. 猿と呼ばれる男
07. ましらのごとく
08. 猿神
09. 老猿
10. 虎の血族
11. 慈愛 クインテット Ver.
12. 時はまだ
13. どうする家康 II
14. 稀代のホラ吹き
15. saravah! ~家臣団よ永遠なれ~
16. 方々界隅
17. 奸戦・・・負ける!
18. 服部党ここに見参!
19. 天を仰ぐ長槍と旗印
20. どうする家康 メインテーマ ~暁の空~ クインテット Ver.
21. 豊穣の大地(「どうする家康ツアーズ」より)
22. 三河の小春日和(「どうする家康ツアーズ」より)
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2023/10/27





