2016年、デビューシングル「あいたい」が、“今、もっとも泣ける歌”としてロングセラーを記録し、“泣き歌の貴公子”として一躍スターの座へと駆け上がった林部智史。以降も精力的にコンサートやリリースを行い、心に沁み入る透き通った歌声で、オリジナル曲から叙情歌まで届けてきた。9月27日には、デビュー7周年にちなんで、7組の作家陣による7色の虹をイメージしたアルバム『RAINBOW』をリリース。松井五郎、林哲司、阿木燿子、宇崎竜童ら錚々たる作家陣が集結した本アルバムの制作の裏側と、自身の音楽世界へのこだわり、今後の展望について話を聞いた。
■色の持つ力と作家の持つ想像力のすごさを感じさせる7曲
「デビュー7周年記念として、虹をイメージした7色の楽曲が入ったアルバムを作る」。そのテーマを生むきっかけとなったのは、阿木燿子と宇崎竜童との縁だった。
林部 阿木さんには2018年にリリースした4枚目のシングル「恋衣」の歌詞を書いていただき、それ以来、ご夫妻で何度かコンサートに来てくださいました。そんなご縁から、今年2月に7周年のアニバーサリーコンサートを開くにあたり、“7”にちなんで虹をテーマにした楽曲を作っていただきたいと考え、お願いにあがりました。僕としては、面接に行くようなすごい緊張感でしたけど(笑)。これまでの活動や音楽との向き合い方など、ありのままの自分をお話しして、コンサートタイトルにもなった楽曲「虹めいて」を作っていただきました。
このとき、同時に阿木&宇崎が作ってくれたのが、本アルバムに【橙】として収録されている「七つの子 その後」だった。
林部 初めて聞いたとき、童謡の「七つの子」からはじまる構成や歌詞の内容、曲調から、夕暮れのオレンジ色の空が頭に浮かびました。それが決定打となって、デビュー7周年のこの年に、7組の作家さんによる、7色の曲を収録したアルバムを作りたいと考えました。
まずは、かねてより交流があり、7周年のアニバーサリーコンサートにも訪れてくれた作詞家の松井五郎に依頼。何色がいいか尋ねたところ、【赤】という答えが返ってきたという。
林部 その理由は、僕が作った楽曲や人柄とは真逆な歌詞を書いて、歌わせてみたいというものでした。実際、松井さんの詞と林哲司さんの曲でできあがった「La Rouge」は、自分にとって新しい世界観の楽曲でした。
【黄】をイメージした藤林聖子作詞、マシコタツロウ作曲による「SUNNY-SIDE UP」、【青】をイメージした森由里子作詞、Minnie P.作曲の「もうひとつの未来」も同様に作家陣が色を意識して制作。どの曲も、「色の持つ力と作家の持つ想像力のすごさを感じた」と林部は振り返る。
変則的だったのは、【緑】と【紫】と【藍】だった。
林部 【緑】の「Omoide」は、もともと東欧の民族楽器であるコカリナ(木で作った笛)のコンサートのために松本俊明さんが書かれたインスト曲でした。神秘的な心地よい木の音色がまさに【緑】の風を思わせるなと感じて、ぜひアルバムの中の1曲にさせていただきたいとお願いしました。詞は鮎川めぐみさんがタイトルに合わせて書いてくださいました。
【紫】の来生たかお作曲、来生えつこ・林部智史作詞の「やさしい眺め」は、「恋衣」制作時に、すでに来生たかおから提供されていた作品だった。
林部 来生たかおさんの楽曲が、品と色気がある艶やかな紫色のイメージだったので、今回、来生えつこさんの詞を残しながら、【紫】のもう反面のイメージである不安や罪、悪の部分を僕の作詞で足させていただき、収録しました。
【藍】の「心の傘」は自身のオリジナル曲。「自分の作品は入れても入れなくてもどっちでもいいと思っていた」が、収録に至った裏にはこんなエピソードがある。
林部 最初にアルバムのために7色の曲を作るという構想を立てたとき、作家さんたちに色を選んでいただくとすると藍色が残る気がして、実は前もって自分で作っておいたんです。案の定、藍色が残ったので、収録することができました(笑)
1枚のアルバムの中で、6組の錚々たる作家陣と共演し、シンガーソングライターとしては「高音の響きなど自分の得意なところをたくさん使うのが自分の楽曲の特徴かもしれない」と改めて感じたという林部。さらに今回の貴重な経験からこんな学びも得たという。
林部 これまで小椋佳さんが書き下ろした楽曲を歌わせていただいてきた中でも感じていたことですが、クリエイティビティ溢れる言葉遊びの部分で戦うとか、それ以前に人生経験とか、作家の皆さんと同じ土壌では戦えないことが多く、自分が書ける歌と書けない歌があるということも痛感しましたので、今後の楽曲作りにおいては、より自分を探そう、自分を突き詰めようと思うようになりました。
一方で、歌い手としては、7色を描き出すレコーディングは苦労が多かったと苦笑する。
林部 自分の楽曲のレコーディングでは、1日で2曲とか3曲の歌入れをしますが、今回は1日1曲集中で、7日間使いました。歌によって全く世界観が違うので、練習も必要でしたし、僕と2人のディレクターは、その日に歌う色の服を着てレコーディングに臨んだりして(笑)。その意味では、全曲を披露する予定の秋冬のコンサートは、歌い分けがけっこう痺れることになりそうで大変だなと思っています。ただ、僕の場合、これまでバラードが多く、コンサートが一本調子になりがちでした。前情報のないまま映画館に行くような気持ちでゆったり聞いてほしいという思いから、うちわなどを使った応援も控えていただいています。今回は、楽曲で7色を出すことによって、変化のあるコンサートにできるのではないかと考えています。
■現状維持は停滞、挑戦できるものを常に探して向上していきたい
デビューした年から、林部はコンサートを大切にし、全国へ歌を届けてきた。と同時に、もう1つの柱としてこだわってきたのが、叙情歌を歌い継ぐことだ。2018年からは“はやしべさとし”名義で、日本の唱歌や童謡、美しい調べを歌い継ぐ叙情歌コンサートをスタートし、アルバムも4枚リリースしている。
林部 僕らの世代から音楽の教科書に童謡・唱歌が掲載されないようになってきて、僕自身、童謡・唱歌にほとんど触れることなく育ちました。童謡・唱歌は今の日本のJ-POPの前身です。その前身を知らないというのは、歌手としてどうなんだろうと考えたのがきっかけでした。知らないことの悔しさもありましたし、歌手になったからには、覚えて、さらに歌い継ぐことを目標にしました。
もともと「知識を蓄えるのが好き」という林部は「曲の背景を知らずに歌うのは失礼」という思いから、歌が生まれた時代や風俗、歌に込められた意味を勉強し、「日本のいろいろな歴史ある場所で歌いたいという思いが溢れてきた」という。5月27・28日の2夜にわたって実現した広島・嚴島神社での奉納演奏会も目標に掲げていたことの1つだった。
林部 童謡・唱歌には戦争の影響を受けた歌がたくさんありますので、広島の世界遺産でぜひ歌いたいと考えていました。
奉納演奏会では、自身が作った奉納曲も披露した。これまでリリースした叙情歌アルバムにも必ずオリジナル曲を入れるなど、林部はシンガーソングライターとして、叙情歌や童謡を意識した楽曲作りにも取り組んでいる。
デビューから7年、「現状維持は停滞だと思うので、進むことで向上していきたい」と穏やかな瞳の奥に強い光を放ちながら語る林部。
林部 これからもまだやっていないことは何かを考えて、自分なりに活動していくことが必要だと思っています。もっとできることを増やして、自分のエンターテインメント力をできる限り磨いていきたいです。自分のコンサートに対して自分が一番努力する人でありたいですから、挑戦できるものを常に探して進んでいきたいと思います。
繊細な声の印象とは裏腹に、強い向上心と行動力で、シンガーとしてもソングライターとしても進化を続ける林部のこれからがますます楽しみになってきた。
文・河上 いつ子
<リリース情報>
林部智史 デビュー7周年記念アルバム『RAINBOW』
2023年9月27日発売
<収録曲>
01. La Rouge
02. 七つの子・その後
03. SUNNY-SIDE UP
04. Omoide
05. もうひとつの未来
06. 心の傘
07. やさしい眺め
【デラックス盤】CD+DVD
AVCD-63493/B/3850円(税込)
CDボーナストラック
08. 虹めいて(スペシャル・バージョン)
DVD:「林部智史 7th Anniversary Concert 〜虹めいて〜」
2023年2月21日東京サントリーホール大ホールで行われた一夜限りのスペシャルコンサート『7th Anniversary Concert 〜虹めいて〜』のライブ映像収録(100分程度収録予定)。
【通常盤】CD
AVCD-63494/2750円(税込)
■林部智史オフィシャルサイト:https://hayashibe-satoshi.com/
■色の持つ力と作家の持つ想像力のすごさを感じさせる7曲
「デビュー7周年記念として、虹をイメージした7色の楽曲が入ったアルバムを作る」。そのテーマを生むきっかけとなったのは、阿木燿子と宇崎竜童との縁だった。
林部 阿木さんには2018年にリリースした4枚目のシングル「恋衣」の歌詞を書いていただき、それ以来、ご夫妻で何度かコンサートに来てくださいました。そんなご縁から、今年2月に7周年のアニバーサリーコンサートを開くにあたり、“7”にちなんで虹をテーマにした楽曲を作っていただきたいと考え、お願いにあがりました。僕としては、面接に行くようなすごい緊張感でしたけど(笑)。これまでの活動や音楽との向き合い方など、ありのままの自分をお話しして、コンサートタイトルにもなった楽曲「虹めいて」を作っていただきました。
このとき、同時に阿木&宇崎が作ってくれたのが、本アルバムに【橙】として収録されている「七つの子 その後」だった。
林部 初めて聞いたとき、童謡の「七つの子」からはじまる構成や歌詞の内容、曲調から、夕暮れのオレンジ色の空が頭に浮かびました。それが決定打となって、デビュー7周年のこの年に、7組の作家さんによる、7色の曲を収録したアルバムを作りたいと考えました。
まずは、かねてより交流があり、7周年のアニバーサリーコンサートにも訪れてくれた作詞家の松井五郎に依頼。何色がいいか尋ねたところ、【赤】という答えが返ってきたという。
林部 その理由は、僕が作った楽曲や人柄とは真逆な歌詞を書いて、歌わせてみたいというものでした。実際、松井さんの詞と林哲司さんの曲でできあがった「La Rouge」は、自分にとって新しい世界観の楽曲でした。
【黄】をイメージした藤林聖子作詞、マシコタツロウ作曲による「SUNNY-SIDE UP」、【青】をイメージした森由里子作詞、Minnie P.作曲の「もうひとつの未来」も同様に作家陣が色を意識して制作。どの曲も、「色の持つ力と作家の持つ想像力のすごさを感じた」と林部は振り返る。
変則的だったのは、【緑】と【紫】と【藍】だった。
林部 【緑】の「Omoide」は、もともと東欧の民族楽器であるコカリナ(木で作った笛)のコンサートのために松本俊明さんが書かれたインスト曲でした。神秘的な心地よい木の音色がまさに【緑】の風を思わせるなと感じて、ぜひアルバムの中の1曲にさせていただきたいとお願いしました。詞は鮎川めぐみさんがタイトルに合わせて書いてくださいました。
【紫】の来生たかお作曲、来生えつこ・林部智史作詞の「やさしい眺め」は、「恋衣」制作時に、すでに来生たかおから提供されていた作品だった。
林部 来生たかおさんの楽曲が、品と色気がある艶やかな紫色のイメージだったので、今回、来生えつこさんの詞を残しながら、【紫】のもう反面のイメージである不安や罪、悪の部分を僕の作詞で足させていただき、収録しました。
【藍】の「心の傘」は自身のオリジナル曲。「自分の作品は入れても入れなくてもどっちでもいいと思っていた」が、収録に至った裏にはこんなエピソードがある。
林部 最初にアルバムのために7色の曲を作るという構想を立てたとき、作家さんたちに色を選んでいただくとすると藍色が残る気がして、実は前もって自分で作っておいたんです。案の定、藍色が残ったので、収録することができました(笑)
1枚のアルバムの中で、6組の錚々たる作家陣と共演し、シンガーソングライターとしては「高音の響きなど自分の得意なところをたくさん使うのが自分の楽曲の特徴かもしれない」と改めて感じたという林部。さらに今回の貴重な経験からこんな学びも得たという。
林部 これまで小椋佳さんが書き下ろした楽曲を歌わせていただいてきた中でも感じていたことですが、クリエイティビティ溢れる言葉遊びの部分で戦うとか、それ以前に人生経験とか、作家の皆さんと同じ土壌では戦えないことが多く、自分が書ける歌と書けない歌があるということも痛感しましたので、今後の楽曲作りにおいては、より自分を探そう、自分を突き詰めようと思うようになりました。
一方で、歌い手としては、7色を描き出すレコーディングは苦労が多かったと苦笑する。
林部 自分の楽曲のレコーディングでは、1日で2曲とか3曲の歌入れをしますが、今回は1日1曲集中で、7日間使いました。歌によって全く世界観が違うので、練習も必要でしたし、僕と2人のディレクターは、その日に歌う色の服を着てレコーディングに臨んだりして(笑)。その意味では、全曲を披露する予定の秋冬のコンサートは、歌い分けがけっこう痺れることになりそうで大変だなと思っています。ただ、僕の場合、これまでバラードが多く、コンサートが一本調子になりがちでした。前情報のないまま映画館に行くような気持ちでゆったり聞いてほしいという思いから、うちわなどを使った応援も控えていただいています。今回は、楽曲で7色を出すことによって、変化のあるコンサートにできるのではないかと考えています。
■現状維持は停滞、挑戦できるものを常に探して向上していきたい
デビューした年から、林部はコンサートを大切にし、全国へ歌を届けてきた。と同時に、もう1つの柱としてこだわってきたのが、叙情歌を歌い継ぐことだ。2018年からは“はやしべさとし”名義で、日本の唱歌や童謡、美しい調べを歌い継ぐ叙情歌コンサートをスタートし、アルバムも4枚リリースしている。
林部 僕らの世代から音楽の教科書に童謡・唱歌が掲載されないようになってきて、僕自身、童謡・唱歌にほとんど触れることなく育ちました。童謡・唱歌は今の日本のJ-POPの前身です。その前身を知らないというのは、歌手としてどうなんだろうと考えたのがきっかけでした。知らないことの悔しさもありましたし、歌手になったからには、覚えて、さらに歌い継ぐことを目標にしました。
もともと「知識を蓄えるのが好き」という林部は「曲の背景を知らずに歌うのは失礼」という思いから、歌が生まれた時代や風俗、歌に込められた意味を勉強し、「日本のいろいろな歴史ある場所で歌いたいという思いが溢れてきた」という。5月27・28日の2夜にわたって実現した広島・嚴島神社での奉納演奏会も目標に掲げていたことの1つだった。
林部 童謡・唱歌には戦争の影響を受けた歌がたくさんありますので、広島の世界遺産でぜひ歌いたいと考えていました。
奉納演奏会では、自身が作った奉納曲も披露した。これまでリリースした叙情歌アルバムにも必ずオリジナル曲を入れるなど、林部はシンガーソングライターとして、叙情歌や童謡を意識した楽曲作りにも取り組んでいる。
デビューから7年、「現状維持は停滞だと思うので、進むことで向上していきたい」と穏やかな瞳の奥に強い光を放ちながら語る林部。
林部 これからもまだやっていないことは何かを考えて、自分なりに活動していくことが必要だと思っています。もっとできることを増やして、自分のエンターテインメント力をできる限り磨いていきたいです。自分のコンサートに対して自分が一番努力する人でありたいですから、挑戦できるものを常に探して進んでいきたいと思います。
繊細な声の印象とは裏腹に、強い向上心と行動力で、シンガーとしてもソングライターとしても進化を続ける林部のこれからがますます楽しみになってきた。
文・河上 いつ子
<リリース情報>
林部智史 デビュー7周年記念アルバム『RAINBOW』
2023年9月27日発売
<収録曲>
01. La Rouge
02. 七つの子・その後
03. SUNNY-SIDE UP
04. Omoide
05. もうひとつの未来
06. 心の傘
07. やさしい眺め
AVCD-63493/B/3850円(税込)
CDボーナストラック
08. 虹めいて(スペシャル・バージョン)
DVD:「林部智史 7th Anniversary Concert 〜虹めいて〜」
2023年2月21日東京サントリーホール大ホールで行われた一夜限りのスペシャルコンサート『7th Anniversary Concert 〜虹めいて〜』のライブ映像収録(100分程度収録予定)。
【通常盤】CD
AVCD-63494/2750円(税込)
■林部智史オフィシャルサイト:https://hayashibe-satoshi.com/
2023/09/29




