アニメ映画『それいけ!アンパンマン ロボリィとぽかぽかプレゼント』が、6月30日に公開される。今作は、映画&テレビ35周年、絵本『あんぱんまん』誕生50周年の記念作品で、アニメ放送開始からアンパンマンとともに、この作品に欠かせない“ばいきんまん役”を35年演じ続けている声優の中尾隆聖(72)にインタビューを実施。ばいきんまんは「かみさん」のような存在になったと語る中尾に、オーディション秘話や独特の声が誕生した経緯などを聞いた。
■ばいきんまんの声は苦肉の策? 教育番組に出演中で子どもに声で勘違いさせない配慮
映画は、「ロボ彗星」に住むなんでも作れるロボットの女の子・ロボリィが、アンパンマンたちと一緒にたった1つだけ作れない“大切なもの”を見つける大冒険にでかける物語。ゲスト声優として、モデルで俳優の桐谷美玲がロボリィ役、お笑いコンビ・トレンディエンジェルの斎藤司がロボ彗星の長老・ロボじい役、たかしがばいきんまんの仲間ロボ・カビルンルン役を演じる。
――アニメ放送が開始された1988年、中尾さんは当時NHKの教育番組『おかあさんとういっしょ』内で放送されていた『にこにこぷん』のぽろり役の声を担当されていました。子どもたちが声で勘違いしないように、ばいきんまんは今の独特な声になったと聞きましたが、ばいきんまんのオーディションの様子を改めて教えてください。
【中尾】 その通りです(笑) オンエアの時間や、アンパンマンも幼稚園児や小学校の低学年の子が主なターゲットというのも一緒なので、ちょっと同じような声は無理だと思いました。苦肉の策と言っては何ですが、ばいきんまんのあの声を作りオーディションを受けたのですが、「あんな声では受からないだろう」と思っていたら合格しました(笑)
――やなせ先生がばいきんまんへのこだわりが強く、オーディションはすぐには決まらなかったそうですね。
【中尾】 やなせ先生が「もし、キャストが決まらなかったら僕がばいきんまんをやるから」とおっしゃっていました。ありがたいことにオーディションに受かったので、あの声をやることになって最初は苦労しましたね(笑)
――オーディションへは声を作り込み、すぐに現在のようなトーンにたどり着いたのでしょうか?
【中尾】 オーディションでしたので、その時にふっと浮かんだイメージでつぶした声を出しました。そうしたら担当の方が「それいいね!もうちょっとつぶしてみて」と言われて…だから当初はもっとつぶれていました(笑)
■台本に書かれていた「ハヒフヘホ」セリフに困惑 悪役だけど威圧的にならない役作り
――当時は多くの作品に出演されるなど、キャリアが充実している中で声をつぶすことは、振り返ってみると苦労した面も大きかったのでは……?
【中尾】 最初のころは「これじゃ声出なくなるよな…」と思うほどのつぶし方をしていて、『アンパンマン』の収録後は声が出なくなっていました。同日に他の仕事は受けられないほどで、声を戻してまた次の日に別のキャラクターを収録、という働き方をしていました。
――影響がある状況で、ばいきんまんに全力を注げたのは、やはり魅力を感じていた部分も大きいのでしょうか。
【中尾】 失礼な話ですが、実は担当するまであまり詳しくなかったので「絵から想像する声を形に」という感覚で声を出したのですが、その時は後悔しました(笑)。あの声だからオーディションに受かりましたが、最初はつらかったです。
――ところで「ハヒフヘホ〜ッ!」や「出たなおじゃま虫」などのセリフはアドリブではなく、実際台本に書かれていたセリフだそうですね。
【中尾】 ちゃんと台本に「ハヒフヘホ」って書いてありました。最初は「なんだこれは!?」と戸惑いました。言いづらさよりも、セリフで「ハヒフヘホ」なんて言ったことがない(笑)。でも書いてあるので言わなきゃいけないので最初はびっくりしましたが、いろんな言い方しながら現在の言い方に落ち着いていきました。
――ばいきんまんを演じる上で大切にしていることは何でしょうか。
【中尾】 語気が強くならないこと、子どもたちに威圧的にならないことです。戦う時は強い口調になってしまう中、子どもたちに何とか嫌がられない、怖がられないようにというのは、意識しています。敵役とはいえキャラクターとして、子どもたちにちょっとでも拒絶反応を起こされてしまうと嫌だし、良くないと思っているので。まあ悪役なので、いいと言えばいいのですけど(笑)。
■ばいきんまんは哀愁が魅力 「菌ならパンの中にもあるから共存共栄」愛され続ける理由
――ばいきんまんは敵、悪役でありながらも憎めない、どこか愛らしい要素が強いところが魅力の一つだと思います。改めて、中尾さんはどう感じられていますか。
【中尾】 皆さんそう言っていただけるので、とっても救われています。演じてきた悪役と言われるキャラクターの中でも特別な存在だし、まったく別物と言えるかもしれません。悪役ですが自分にとってはパートナー。「ばいきんまんは菌だけど、菌ならパンの中にもあるから共存共栄」といったような話を、やなせ先生から伺ったことがあります。確実な悪役というものではなくて、アンパンマンにはばいきんまんも必要なのだろうと、私はそう理解しています。
――そういう発想はなかったので、目からうろこですね。ばいきんまん好きの方はたくさんいますが、愛される理由は何だと思いますか。
【中尾】 負けても負けても戦いに行き、毎回「バイバイキーン」と飛んでいくけど帰ってくるところに哀愁を感じています。ドキンちゃんが大好きなのに、ドキンちゃんはしょくぱんまん様が好きで片思い。(ドキンちゃんは)ばいきんまんも好きだけど、「あれ持ってきて」と言われて持ってくるだけな感じが、どこか哀愁というか寂しさがあるけど、何かいいですよね(笑)。いろんな意味で、ばいきんまんの後ろ姿がかわいいです(笑)
――今回の映画では、ロボ彗星をバイキンロボ彗星にしようと大暴れするばいきんまんが描かれます。
【中尾】 いろんなものがロボット化されて何でもできるロボ彗星は、ばいきんまんにとっては魅力的で、乗っ取ってアンパンマンをやっつけようとします。その中で、何でも作れる星だけど一つだけ作れないものがあり、それは何かということもテーマ。タイトルに「ぽかぽか」とありますが、それがどんなもので、そしてその大切さを主人公(ロボリィ)が見つけていくのが見どころになると思います。
また『アンパンマン』は子どもたちの映画館デビューというコンセプトを掲げていて、映画館に来てみんなで見て応援する体験がいいなと思うし好きですし、みんなで劇場に来て『アンパンマン』を見たことが思い出になってくれたらうれしい。自分も子どものころに初めて映画館に行った時のことは忘れてはいないし、映画館は何かワクワクする。親が笑えば子どもが笑う。子どもが笑えば親が笑うじゃないけど、一緒に過ごす時間が大切だということを、私も『アンパンマン』を通して教えてもらいました。ぜひ劇場に来て、空気感を味わってほしいですね。
――最後に、35年間演じ続けているばいきんまんは、中尾さんにとってどのような存在になっていますか。
【中尾】 ばいきんまんはキャラクターとして独立していて確固たるものがあるので、私が声を出していますが、良きパートナーな存在です。家族や友達などパートナーにはいろんな意味がありますが、一番近いのはかみさんかも知れないです。(笑)
撮影:上野留加/文:遠藤政樹/編集:櫻井偉明
■ばいきんまんの声は苦肉の策? 教育番組に出演中で子どもに声で勘違いさせない配慮
映画は、「ロボ彗星」に住むなんでも作れるロボットの女の子・ロボリィが、アンパンマンたちと一緒にたった1つだけ作れない“大切なもの”を見つける大冒険にでかける物語。ゲスト声優として、モデルで俳優の桐谷美玲がロボリィ役、お笑いコンビ・トレンディエンジェルの斎藤司がロボ彗星の長老・ロボじい役、たかしがばいきんまんの仲間ロボ・カビルンルン役を演じる。
――アニメ放送が開始された1988年、中尾さんは当時NHKの教育番組『おかあさんとういっしょ』内で放送されていた『にこにこぷん』のぽろり役の声を担当されていました。子どもたちが声で勘違いしないように、ばいきんまんは今の独特な声になったと聞きましたが、ばいきんまんのオーディションの様子を改めて教えてください。
【中尾】 その通りです(笑) オンエアの時間や、アンパンマンも幼稚園児や小学校の低学年の子が主なターゲットというのも一緒なので、ちょっと同じような声は無理だと思いました。苦肉の策と言っては何ですが、ばいきんまんのあの声を作りオーディションを受けたのですが、「あんな声では受からないだろう」と思っていたら合格しました(笑)
――やなせ先生がばいきんまんへのこだわりが強く、オーディションはすぐには決まらなかったそうですね。
【中尾】 やなせ先生が「もし、キャストが決まらなかったら僕がばいきんまんをやるから」とおっしゃっていました。ありがたいことにオーディションに受かったので、あの声をやることになって最初は苦労しましたね(笑)
――オーディションへは声を作り込み、すぐに現在のようなトーンにたどり着いたのでしょうか?
【中尾】 オーディションでしたので、その時にふっと浮かんだイメージでつぶした声を出しました。そうしたら担当の方が「それいいね!もうちょっとつぶしてみて」と言われて…だから当初はもっとつぶれていました(笑)
■台本に書かれていた「ハヒフヘホ」セリフに困惑 悪役だけど威圧的にならない役作り
――当時は多くの作品に出演されるなど、キャリアが充実している中で声をつぶすことは、振り返ってみると苦労した面も大きかったのでは……?
【中尾】 最初のころは「これじゃ声出なくなるよな…」と思うほどのつぶし方をしていて、『アンパンマン』の収録後は声が出なくなっていました。同日に他の仕事は受けられないほどで、声を戻してまた次の日に別のキャラクターを収録、という働き方をしていました。
――影響がある状況で、ばいきんまんに全力を注げたのは、やはり魅力を感じていた部分も大きいのでしょうか。
【中尾】 失礼な話ですが、実は担当するまであまり詳しくなかったので「絵から想像する声を形に」という感覚で声を出したのですが、その時は後悔しました(笑)。あの声だからオーディションに受かりましたが、最初はつらかったです。
――ところで「ハヒフヘホ〜ッ!」や「出たなおじゃま虫」などのセリフはアドリブではなく、実際台本に書かれていたセリフだそうですね。
【中尾】 ちゃんと台本に「ハヒフヘホ」って書いてありました。最初は「なんだこれは!?」と戸惑いました。言いづらさよりも、セリフで「ハヒフヘホ」なんて言ったことがない(笑)。でも書いてあるので言わなきゃいけないので最初はびっくりしましたが、いろんな言い方しながら現在の言い方に落ち着いていきました。
――ばいきんまんを演じる上で大切にしていることは何でしょうか。
【中尾】 語気が強くならないこと、子どもたちに威圧的にならないことです。戦う時は強い口調になってしまう中、子どもたちに何とか嫌がられない、怖がられないようにというのは、意識しています。敵役とはいえキャラクターとして、子どもたちにちょっとでも拒絶反応を起こされてしまうと嫌だし、良くないと思っているので。まあ悪役なので、いいと言えばいいのですけど(笑)。
■ばいきんまんは哀愁が魅力 「菌ならパンの中にもあるから共存共栄」愛され続ける理由
――ばいきんまんは敵、悪役でありながらも憎めない、どこか愛らしい要素が強いところが魅力の一つだと思います。改めて、中尾さんはどう感じられていますか。
【中尾】 皆さんそう言っていただけるので、とっても救われています。演じてきた悪役と言われるキャラクターの中でも特別な存在だし、まったく別物と言えるかもしれません。悪役ですが自分にとってはパートナー。「ばいきんまんは菌だけど、菌ならパンの中にもあるから共存共栄」といったような話を、やなせ先生から伺ったことがあります。確実な悪役というものではなくて、アンパンマンにはばいきんまんも必要なのだろうと、私はそう理解しています。
――そういう発想はなかったので、目からうろこですね。ばいきんまん好きの方はたくさんいますが、愛される理由は何だと思いますか。
【中尾】 負けても負けても戦いに行き、毎回「バイバイキーン」と飛んでいくけど帰ってくるところに哀愁を感じています。ドキンちゃんが大好きなのに、ドキンちゃんはしょくぱんまん様が好きで片思い。(ドキンちゃんは)ばいきんまんも好きだけど、「あれ持ってきて」と言われて持ってくるだけな感じが、どこか哀愁というか寂しさがあるけど、何かいいですよね(笑)。いろんな意味で、ばいきんまんの後ろ姿がかわいいです(笑)
――今回の映画では、ロボ彗星をバイキンロボ彗星にしようと大暴れするばいきんまんが描かれます。
【中尾】 いろんなものがロボット化されて何でもできるロボ彗星は、ばいきんまんにとっては魅力的で、乗っ取ってアンパンマンをやっつけようとします。その中で、何でも作れる星だけど一つだけ作れないものがあり、それは何かということもテーマ。タイトルに「ぽかぽか」とありますが、それがどんなもので、そしてその大切さを主人公(ロボリィ)が見つけていくのが見どころになると思います。
また『アンパンマン』は子どもたちの映画館デビューというコンセプトを掲げていて、映画館に来てみんなで見て応援する体験がいいなと思うし好きですし、みんなで劇場に来て『アンパンマン』を見たことが思い出になってくれたらうれしい。自分も子どものころに初めて映画館に行った時のことは忘れてはいないし、映画館は何かワクワクする。親が笑えば子どもが笑う。子どもが笑えば親が笑うじゃないけど、一緒に過ごす時間が大切だということを、私も『アンパンマン』を通して教えてもらいました。ぜひ劇場に来て、空気感を味わってほしいですね。
――最後に、35年間演じ続けているばいきんまんは、中尾さんにとってどのような存在になっていますか。
【中尾】 ばいきんまんはキャラクターとして独立していて確固たるものがあるので、私が声を出していますが、良きパートナーな存在です。家族や友達などパートナーにはいろんな意味がありますが、一番近いのはかみさんかも知れないです。(笑)
撮影:上野留加/文:遠藤政樹/編集:櫻井偉明
2023/06/24