2021年の「第63回輝く！日本レコード大賞」新人賞を受賞し、演歌・歌謡曲の新世代シンガーとして注目を集める望月琉叶。ソロ歌手としての活動のみならず、グラビアアイドルまでこなす活躍をみせる彼女が、22年10月から挑んでいる新たなプロジェクトが、5人のボカロPとタッグを組んだ5ヶ月連続のシングル配信リリースだ。jon-YAKITORYが手がけた第1弾「MONSTER」、柊キライによる第2弾「ロジカリアン」に続き、12月31日には、dorikoによる第3弾「いっそあなたを」が配信開始された。現在の音楽シーンを牽引するクリエイターたちとの異色のコラボレーションについて話を聞いた。

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■カラオケでは初音ミクの物まね　演歌もボカロも大好きだった中学時代

　演歌とボカロという一見対極とも思えるジャンルだが、望月にとってはともに中学生時代から愛してやまない音楽。ボカロPとの楽曲制作という今回の企画は、彼女自らの提案が実を結んだ。

「ボカロは、中学生の頃から演歌と同じように好きでした。ボカロを聴いたり、歌ったりすることで、思春期のもやもやみたいなことも忘れるくらいだったんです。ボカロPの方々と音楽を作ることは、歌手として1つの夢として持ち続けていたのですが、日本レコード大賞新人賞をいただいたときに、思い切って自分から『ボカロを歌いたいです』と言ってみたところ、周囲のスタッフの方々が快く受け入れてくださって、念願が叶いました」

　ボカロ音楽の新しさ、詞の世界観が当時10代だった自分の胸に刺さったという。

「10年ほど前、友人たちがボカロミュージックを聴いていたので、私も聴いてみたところ、今までに聴いたことのない音楽で、『すごくいい！』と思ったんです。サウンドはもちろん、歌詞も自然に身体に入ってくるような感じで。演歌はどちらかといえば、古風な言葉の使い方による美しさに魅力がありますが、ボカロの歌詞は、現代的な言葉、しかも同じ言葉のくり返しや、早口言葉のような速度感があり、これを人間が歌ったらどうなるのだろうという新鮮な驚きがありました。実際に歌うのは難しい曲も多いのですが、カラオケで歌うと、友人たちが喜んでくれました。当時の仲間は、みんな初音ミクちゃんが大好きだったので、ミクちゃんの物まねをしながら歌ったりして。22年10月に行われたニコニコの『超パーティー2022』のライブでも、ミクちゃんになりきって『裏表ラバーズ』を披露しました」

■舞台に立つときとは別の顔　自分自身を表現した第1弾

　今回のプロジェクトでコラボするボカロPたちは、そうそうたるメンバーだ。彼女が一緒に音楽を作りたいと考えたクリエイターを中心に楽曲を依頼。第1弾となった「MONSTER」は、ブラックミュージックのビートとボカロミュージックの融合を試み、Adoとのコラボ「シカバネーゼ」が大ヒットしたjon-YAKITORYの作品。攻撃的なサウンド、普段は心の奥にしまい込んでいる闇をさらけだすような挑発的な歌詞の主人公は、彼女自身を思わせる。

「一緒にできたらいいなと思っていたボカロPの方々が曲を提供してくださり、うれしいです。「MONSTER」の歌詞は私自身のことなんです。jon-YAKITORYさんには、舞台に立っているときと立っていないときの自分のギャップについて、自分自身の気持ちを表現できる歌をお願いしました。まるで叫んでいるかのようにガーンと迫ってくる歌詞が大好きで、この曲にも“誰か撃ち抜いて”といった印象的な言葉があります。歌う際には力強さと荒々しさを意識しました。最初に曲をいただいたときは、私に歌いこなせるかなと思ったのですが、実際に歌ってみて、jon-YAKITORYさんから『すごく格好いいね』とおっしゃっていただけたことが自信になりました。サウンドも間奏のギターソロが素敵で、アレンジでも人の笑い声など、随所に遊び心が入っていて、聴きこむほど面白さを感じていただけると思います」

第2弾の「ロジカリアン」は、「ボッカデラベリタ」「ラブカ？」などのヒットを放った柊キライの作品。「私は宇宙人だと言っている人の歌」と柊がコメントしているように、不思議な世界観を持つ曲だ。

「この歌の主人公は、論理を伝える“ロジカリアン”と名乗りながら、音楽という感情に訴える手段で声を届けて回るという、どこか矛盾した男です。最初は歌詞が難しく感じられるかもしれませんが、ミステリアスな世界観に引き込まれる楽曲です。以前から同じ言葉をひたすらくり返して歌うパートがある柊さんの作品が大好きで、この曲にも早口で繰り返していく部分があります。きっとお聴きになる方もそこを面白いと感じてくださると思うので、噛まないようにがんばりました（笑）。歌い出しの“宇宙”を繰り返すところは、柊さんから『最初は小さめで遠くにいる感じ』というアドバイスをいただいたのですが、それに加え、聴いてくださる方に草原で風が吹いているイメージを想像していただきたかったので、レコーディングでは少しハスキーな感じで歌ってみました」

■遊郭をイメージした詞の世界　今っぽさと演歌っぽさを融合

　機械音のように言葉を叩きつけていくようでいて、その声にしっとりした艶っぽさを失わない歌唱は、ボカロミュージックであっても演歌・歌謡曲で培ってきたボーカリストとしての幅の広さを感じさせる。そんな彼女の持ち味が存分に発揮されるのが、ボカロ黎明期から活躍を続けているdorikoが提供した第3弾「いっそあなたを」だ。演歌のエッセンスを大胆に取り入れた楽曲で、歌い出しからこぶしの効いたパンチのある歌声が響きわたる。

「愛した男性を待つ女性の歌で、個人的には“遊郭”の花魁をイメージしたところもあります。この女性が“いっそあなたを”どうするのだろう？　この先どうなっていくのだろう？　と想像力を掻き立てられる大人っぽい歌詞です。詞で描かれた世界を理解するのに少し時間はかかりましたが、とても歌いやすく、自然にこぶしも入り、しっくりと自分になじんだ曲です。dorikoさんには『夜桜お七』のイメージを希望としてお伝えしたのですが、サウンドに今っぽさも演歌っぽさもあって、これまでにはない新しいタイプの曲になりました」

　すでに公開されている「MONSTER」「ロジカリアン」のミュージックビデオ（MV）は、アニメーションと歌詞が連動していく現在トレンドのスタイルだ。

「今回はボカロ風のMVにしたいと思っていましたので、とても気に入っています。実はMVは担当マネージャーさんが制作しているんです。「ロジカリアン」のジャケットやMVのイラストは、私が所属する「民族ハッピー組」のメンバー、鐵うのちゃんが描いてくれた作品で、他のメンバーたちが描いたイラストも使われています」

　音源のみならず、今後はライブでの生歌も期待できそうだ。

「自分でも楽しみにしています。スタジオにこもってレコーディングで歌うのとは異なり、難しい挑戦ではあると思いますが、間奏では自分自身も振りをつけて動こうと考えています。みなさんも楽しみにしてくださっていると思うので、がんばりたいです」


■演歌もボカロも素晴らしい日本文化　世界中の人に聴いてほしい

　ボカロPたちとのコラボレーションを通して改めて気づいたこともあるという。

「J-POP風に歌ってはいますが、自分の歌には、自然とどこか演歌らしさがあると思っています。音楽の聴き方がサブスクの配信サービスが主流となった現在、私がボカロミュージックを歌うことで、演歌歌手としての私を知らなかった若い世代の人たちが演歌・歌謡曲を聴くきっかけになり、演歌好きの人たちもボカロを聴くきっかけになればいいな、という思いがあります。また、ボカロと演歌の融合という点では、今回、ボカロの曲も演歌らしさを残しながら歌うことができ、老若男女どんな方にも聴きやすい曲に仕上がっているという手応えがあります」

　演歌とボカロの融合という、彼女にしかできない唯一無二の今回の経験を踏まえた上で、今後どのような夢を抱いているのだろうか。

「世界中の人に聴いていただきたいですね。ボカロも演歌も素晴らしい日本の文化。サブスクに曲をどんどんあげていくことで、その魅力を1人でも多くの世界中の方に届けることが使命だと思っています」

　第4弾も本人曰く、歌詞、サウンドとも「衝撃的な歌」が用意されているそう。次なる演歌＋ボカロによる新たな化学反応は？　毎回開けてびっくりの新鮮な驚きを第5弾まで楽しみに待ちたい。

文・桑原雄太

＜リリース情報＞
望月琉叶（Luca Mochizuki）5ヶ月連続配信企画
注目の5人のボカロPとのコラボレーション

第1弾シングル：「MONSTER」
作詞・作曲・編曲：jon-YAKITORY
2022年10月15日：配信リリース

第2弾シングル：「ロジカリアン」
作詞・作曲・編曲：柊キライ
2022年11月30日：配信リリース

第3弾シングル：「いっそあなたを」
作詞・作曲・編曲：doriko
2022年12月31日：配信リリース

第4弾シングル：2023年1月リリース（予定）
第5弾シングル：2023年2月リリース（予定）
望月琉叶×5人のボカロP 特設HP：https://columbia.jp/mochizukiluca/vocalo-p/