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裏側に喫煙者の本音も…市場縮小のなか新規参入も続々「加熱式たばこ」の可能性とは?

 近年、たばこを取り巻く環境の変化は劇的だ。改正健康増進法による原則屋内禁煙、昨年10月の増税、その流れに付随するように周囲の目もより厳しくなっている。たばこをやめる人も多く出る一方、残った喫煙者のマインドとしては、「周囲に極力迷惑をかけずに吸い続けたい」という志向が大半であろう。結果、紙巻たばこから加熱式たばこへの移行が増えている昨今だが、過渡期であるだけにまだまだ問題も山積み。各社が注力したデバイスが出揃うなか、その現在地とは? 非喫煙者と喫煙者、相容れない両者はどう“落としどころ”を見つけることができるのか。加熱式たばこの可能性を探った。

機能面もアップした各社の加熱式たばこ

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■海外とは異なる日本人特有の“配慮”、一部のマナーの悪さに喫煙者も辟易

 2019年の厚生労働省の調査によると、紙巻たばこユーザーと加熱式たばこユーザーの割合は7:3。それ以降に調査が実施されていないため、3年経った今はより加熱式ユーザーが増えている可能性は高い。目算ではあるが、東京都心の喫煙所では両者の割合はおよそ半々のようにも見える。

 だが、たばこ市場全体では、まだまだ紙巻たばこのほうが主流といえる。各ユーザーの割合は地域や年代によって異なり、禁煙場所の多い都市部では加熱式の割合が高く、比較的吸う場所が限定されない地方では紙巻が多い。また、高齢者は新しいデバイスに変えず、昔ながらに紙巻を吸う人が多いと見られる。とはいえ、少しずつ加熱式ユーザーが増加していることは確かだろう。

 そもそも、喫煙者が加熱式たばこへと移行する理由とは何か。加熱式たばこ使用者を対象としたインターネット調査(2018年、厚生労働省)では、加熱式を使い始めた最大の理由は「匂いが少ないから」、次いで「周囲の人への害が少ないから」。つまり、“周囲への配慮”が主な理由だ。海外では「自身への健康被害」が理由として多く挙げられることを考えると、誠に日本人らしい考え方だといえよう。

 しかし最近では、加熱式たばこの存在感が増したことから、「加熱式でも変わらず健康懸念がある」「加熱式による受動喫煙の曝露が増加している」といったネットニュース等も増えてきた。もちろん、加熱式だからといって、健康懸念や受動喫煙による被害がなくなるわけではない。JTからは、第三者機関による調査で「紙巻たばこに比して健康懸念物質の約9割が削減された」と発表されているが、やはり「0」ではない。結果、嫌煙家VS愛煙家の論争も紙巻から加熱式へと舞台を移し、いまだ繰り広げられているというわけだ。

 とくにヒートアップしがちなネットやSNS上の論争では、とかく対立しているように見える両者。だが、そもそも大半の喫煙者は対立構造を望んでいないはずだ。どちらかといえば、一部のマナーの悪い喫煙者に対する怒り、加えてそれを全体像と捉えられることに辟易している人が多勢だろう。

 そんな加熱式たばこのデバイスのシェアは、フィリップ モリス ジャパンの『IQOS(アイコス)』をはじめ、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンの『glo(グロー)』、JTの『Ploom(プルーム)』の3強となっている。ほかにも、フィリップ・モリス・ジャパンが発売した中温加熱式『リル ハイブリッド』、紙巻を加熱式のように吸う『HIMASU』などの新規参入組、電子たばこ(VAPE)のようなたばこ成分が入っていないものもあり、その市場は成長傾向にあるという。

 この背景についてJTは、以下のように見ている。

 「喫煙者への風当たりが強いこの時勢、『紙巻きたばこを吸い続けるのははばかられるが、それでも吸いたい』という人が加熱式たばこへ移行しているのでしょう。TPOに応じて紙巻と加熱式を併用する方が多い一方、完全に加熱式のみに移行する方もいます。そうして市場は成長しているわけですが、これは各社が吸いごたえや味わい、フレーバーなど品質を向上させていった結果でもあると思います」。

 この説明にある通り、2021年には最新デバイス『アイコス イルマ』、『プルーム・エックス』が発売。各社のデバイスの性能が飛躍的に向上した結果、それぞれ個性はあるものの機能面ではそこまでの差はなくなっている。

 「私たちは“移行”というよりも、さまざまな“選択肢”を提案したいと取り組んでいます。その結果、『加熱式たばこは単なる“紙巻たばこの代替品”ではなくなった』との声もあります。代替品でないのならば、加熱式には紙巻と同様の美味しさや吸いごたえ、またにおいや煙の少なさも求められる。それに応じて、『プルーム・エックス』が誕生したわけですが、発売から1年、たばこスティックのフレーバーも増えました。また、コンセプトやデザインで“ハイエンドガジェット”のイメージを付与することにより、シェアも伸びています。喫煙者の方々が周囲に配慮しながら、さらに味でも満足できるといった状況が形成されつつあるのではないかと見ています」。

 喫煙者にとっては、以前よりは自由度が減ったとはいえ、デバイスの進歩は歓迎すべき話だろう。だが、非喫煙者が気になるのは、やはり受動喫煙による周囲への影響だ。前述のように、加熱式だからといって安心はできない。

 「もちろん、懸念がすべて払拭されたわけではありません。それだけに、健康懸念物質を削減するための研究、第三者機関を入れた調査を実施し、少しでも課題解決できるよう努めています。60年代からは喫煙者のマナーに関する呼びかけも行ってきましたが、加熱式といえどそこは変わらない。非喫煙者に迷惑をかけない意識の向上も必須だと考え、現在も続けています」。

『楽天生命パーク宮城』の『プルーム』専用喫煙スペース

『楽天生命パーク宮城』の『プルーム』専用喫煙スペース

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 このように、時流に合わせてたばこ業界も大きな変革を遂げているが、「たばこゼロを求める嫌煙家」と、「加熱式たばこに移行してでもなんとかして吸い続けたい愛煙家」、両者の“落としどころ”を見つけるのはいまだ困難だ。だが最近では、「きちんと分煙され、自分に迷惑にならないならそれでいい」という、中間層の意見も目立つようになってきている。

 現在は「それぞれの嗜好を尊重しよう」という時代であり、しかも喫煙は違法ではない。冷静に客観的にこの状況を見る非喫煙者の声が増加しており、喫煙者としても、それだけ“譲歩”してもらえるのならば「マナー違反をしてはいけない」と考える人が大半だろう。その証拠として、実際にしっかりと分煙が機能し、喫煙者も非喫煙者も快適に過ごしている場も増えた。

 たとえば、東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地『楽天生命パーク宮城』では、従来から喫煙スペースを設けていたが、現在は紙巻たばこ用のほかに加熱式たばこ『プルーム』専用喫煙スペースも設置している。それぞれを分けた背景について、楽天野球団は「においや煙について気にされている方に対しての環境づくりや、非喫煙者に対しても少なからず配慮ができるのではないかとの期待があった」と明かす。実際、加熱式ユーザーからは好評で、「加熱式が増えてきた昨今を考慮すると、加熱式をご利用の方々は紙巻のにおいが気になっていたかもしれません」と、効果を感じている。

 一口に喫煙者と言っても、紙巻と加熱式でにおいや煙に差があるだけに、このように“分ける”ことは有効に働く。もちろん、それは喫煙者と非喫煙者を“分ける”ことにも通じる。同球団が語る、「非喫煙者が楽しく観戦できる環境と喫煙者の利便性が共存できるよう、自治体等の指導を仰ぎながら日々改善、検討していきたいと思います」との言葉が示すとおり、正しく分けることが、相反する両者の共存に繋がるのではないだろうか。

 加速していく、紙巻たばこから加熱式たばこへの移行。「きちんと分煙され、迷惑にならないならそれでいい」というのが非喫煙者側の“譲歩”だとすれば、加熱式たばこは喫煙者側が両者の共存に向けて踏み出せる、“選択肢の一つ”ともいえる。つまり現在は、互いが不快な思いをしないための歩み寄りを進めている道半ばだ。ならば、両者にとって実現可能な“落としどころ”とは、加熱式たばこがよりシェアを伸ばした時に見えてくるのではないか。そのときこそ、本当に“共存”が可能かどうかの議論が始まるのかもしれない。

(文:衣輪晋一)

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