ディズニー公式動画配信サービス「Disney＋（ディズニープラス）」で配信中のドラマ『拾われた男』（NHK・BSプレミアムでも放送中）に、本人役で出演している俳優の松尾諭。同ドラマは、松尾自身の嘘のような実話に基づく、強運な男の物語。自分の半生がドラマ化されるなんて、どんな気分なのか？　松尾諭をモデルにした主人公・松戸諭役の仲野太賀、兄・松戸武志役の草なぎ剛、松戸諭の妻・結役の伊藤沙莉への思いを語ってもらった。

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――ドラマ『拾われた男』の配信・放送が始まったいまの心境は？

【松尾】変な気分ですね。そもそも、「文春オンライン」に連載していた時は、自分の話だということをあまり表に出さず、どこかにいる誰かの話という体（てい）で書いていました。もちろん僕のことを知っている人が読めば、完全に僕の話だとわかると思うのですが、すごく面白いもの書いているとは思っていなかったんです。ただ、連載していた頃からドラマ化できるんじゃない？と言ってくださる方はいて、うっすらと映像化されることを思い描きながら書いていたところはありました。

　それが、本当にドラマ化されることになって、脚色が入った台本を読んだ時、これ、すごく面白いな、と思ったんですね。そして、でき上がったドラマを見たらもう、びっくりするくらい面白かった。原作は僕で、僕の話なんですけど、そういうことを抜きにして、面白いと思った。でも、いくら僕が「面白い」「面白い」と言っても、原作者だからでしょ、自分のことだからでしょ、と思われてしまうのかなぁ。原作者が僕じゃなければ、素直に「面白い」と伝わるんじゃないかと、変なジレンマを抱えています。

――松尾さんの奥さんをモデルにした結を演じる伊藤沙莉さんについては？

【松尾】もう最高です。このドラマが決まってから、妻と伊藤さんが初めて顔合わせした時にすぐに意気投合していました。沙莉ちゃんのことは、昔からよく知っていましたけど、結役には彼女以外考えられない、それくらいハマっていると思いました。松戸諭役の太賀くんと、沙莉ちゃんと3人で食事した時に、太賀くんと沙莉ちゃんのコンビ感がすごく良くて、この2人をキャスティングしてくれたこと、また、引き受けてくれたこと、本当によかったと思っています。太賀くんの芝居がうまいから、僕も芝居がうまいんじゃないかと勘違いしてもらえたらいいな（笑）。

――伊藤沙莉さんは奥さんのお墨付きなんですね。お兄さん・武志役の草なぎ剛さんについては？

【松尾】草なぎさんは舞台で２度、共演したことがあります。1つは、『バリーターク』という、草なぎさん演じる男1と僕が演じる男２が奇妙な共同生活を送っているという二人芝居で、兄弟という設定ではないのですが、僕は心の中で「お兄ちゃん」と思っていました。

　武志役に草なぎさんの名前が挙がった時に、やってもらえるなら、そんなにすごいことはないけど出てくれるかな、と思っていたので、引き受けていただけたという知らせを聞いた時は本当にうれしかったです。

　その話が決まった後に、『アルトゥロ・ウイの興隆』というギャングが暗躍するショー仕立ての音楽劇でご一緒したのですが、ギャングの兄弟分みたいな間柄の役だったんですよ。どちらも血はつながっていないんですが、なんか縁があるのかな、と勝手に喜んでいます。草なぎさんのお芝居を観ていると、作品ごとに違った魅力を感じます。稽古（けいこ）をしていても、考え方が柔軟で、着眼点が鋭くて、適応力が高くて、だから全部魅力的なんでしょうね。

――役者を目指して上京した主人公・松戸諭（仲野）が自販機の下に落ちていた1枚の航空券を拾うところから始まった、ドラマ『拾われた男』ですが、運命の女性・結（伊藤）と出会い、役者としてもようやく軌道に乗り出したころ、突然かかってきた1本の電話により、アメリカに渡ったきり音信不通であった兄・武志（草なぎ）が倒れたという連絡があり、15年ぶりの再会を果たしました。仲野さんと草なぎさんはアメリカロケを敢行したと聞きました。

【松尾】そうなんですよ、僕も行きたかったです（笑）。終盤はドラマのトーンがガラッと変わっていくんですけど、ロケから帰国した後、お二人それぞれと話す機会があって、太賀くんに「どうだった？」って聞いたら、「剛さんがすごすぎて…」って。草なぎさんとお話した時には「太賀くんが、本当に良かった」とおっしゃっていたので、その相思相愛ぶりから察するに、相当、２人ともすごいお芝居をアメリカでしてきたんだろうなって。話の結末を知っている僕でさえ、草なぎさんと太賀くんによる松戸兄弟がどうなっていくのか、ドラマを見るのが楽しみで仕方ありません。