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紅ゆずる「立ち向かわずに凌ぐだけでも、大丈夫」 書籍『わたしが27歳だったころ』【全文公開】

 ファッション誌『with』(講談社)で連載されていた「わたしが27歳だったころ。」をまとめた書籍『わたしたちが27歳だったころ 悩んで、迷って、「わたし」になった25人からのエール』が、22日に発売される。

『with』別冊本『わたしたちが27歳だったころ』に登場する紅ゆずる

『with』別冊本『わたしたちが27歳だったころ』に登場する紅ゆずる

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 本書に登場するのは、俳優、映画作家、脚本家、宇宙飛行士、映画字幕翻訳者、ドラマプロデューサーなど、さまざまな職業で活躍する25人の女性たち。27歳だった頃、何に悩み、どんな生き方を選択し、今何を思うのか――。時代を作り、活躍する女性たちが語る「わたし」ヒストリーを一冊にまとめた。

 3月発売の5月号で定期刊行が終了となったが、40年以上にわたり「働く20代」に寄り添い、応援し続けてきた『with』から、働く女性たちへの最後のエールとなる本書について、ORICON NEWSでは6日間にわたって一部誌面を公開する。

 第2弾は、元宝塚星組トップスター・紅ゆずる。11歳から「入るしかない」と宝塚を目指してきたが、入団時の成績は50人中47番。その後の試験もずっと下位だったが、「いつか見ておれ!」と強い信念を持ち続け、想像を絶する厳しい特訓を経てつかんだトップの座。その過程で彼女が感じたこと、そして伝えたいこととは……。

■『わたしたちが27歳だったころ 悩んで、迷って、「わたし」になった25人からのエール』

・紅ゆずる
「立ち向かわずに凌ぐだけでも、大丈夫」

Profile
8月17日生まれ。大阪府出身。2000年宝塚音楽学校入学。‘02年、宝塚歌劇団に第88期生として入団・初舞台。星組に配属。‘16年、星組トップスターに就任。‘19年、『GOD OF STARS-食聖-』『Eclair Brillant(エクレール ブリアン)』東京宝塚劇場千穐楽をもって退団。

辛い状況の時は、それに
立ち向かわなくてもいい。
そこから逃げずに
居続けたことが
財産になる時がくる。

『with』別冊本『わたしたちが27歳だったころ』の発売が決定

『with』別冊本『わたしたちが27歳だったころ』の発売が決定

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20代半ばで初めて大きな役がついた時、待っていたのは容赦ない試練の連続だった

 昔から思い込みが激しいんです。小学校3年生の時かな。『ピーターパン』のミュージカルを観てすっかりハマってしまい、親に緑の服を買ってもらって、自分をピーターパンだと思って1年ぐらい生活していたことがある(笑)。11歳で初めて宝塚と出会った時には、「宝塚に入る人生しかない」と思い込んでいました。
 宝塚に入った時の成績は50人中47番。優秀な受験生が多い期でした。せっかく入ったからにはトップスターを目指したい。でも、劇団に入ると何回か試験があって、私の成績はずっと下位でした。そんな中、途中から、ちらほらと同期が辞めていくんです。厳しさに耐えられない者あり、この道じゃないと思い直す者あり、成績がいいのに使われないからと去っていく者あり。それぞれにいろんな理由があったようです。20代半ばに将来のことを考えて迷うのは、宝塚の生徒も、普通にお勤めしている人も同じだと思います。
 香盤(配役)が決まる試験のたびに、下位の成績を彷徨っていた私には、一つ決めていたことがありました。それは、新人公演が終わるまでは、どんなに出番が少なくても、宝塚にしがみつこう、ということ。宝塚に入っている自分が好きでしたし、内心では、「いつか見ておれ! 絶対にこの人たちが唸るほどのものをやってやる」という思いがありました。
 たぶん、20代半ばを過ぎたころだったと思います。宝塚大劇場に隣接する小劇場・宝塚バウホールで若手育成のための公演として、『アンナ・カレーニナ』が上演されることに。私はそのオーディションを勝ち抜き、なんと、2番手の役をいただけたんです。それまで役らしい役を勝ち取ったことのなかった私が、初めて堂々と「あの舞台では、この役を演じました」と言える。そのことが嬉しくて、ただただ楽しみながら、舞台をやり切ることができました。そして、続く『スカーレット ピンパーネル』の新人公演のオーディションでは、なんと主役に抜擢されたのです!
 演出の小池修一郎先生は、とにかく厳しいことで有名でした。後にも先にも、あの時ほど人生で人に叱られ、しごかれ、鍛えられたことはないと思います。革命貴族たちの物語だったので、足を出す仕草をするだけでも、「違う! 貴族はそんな振る舞いはしない」と怒鳴られ、「辞めてしまいなさい」「出ていきなさい」は日常茶飯事。「あなたが新人公演の主役をするなんて、宝塚も終わりだ」と言われたこともあります。この舞台は、新人公演だけでなく本公演にも出演したのですが、その時は、たった一言の台詞にOKが出ないまま、周りの上級生を4時間待たせてしまったこともありました。
 当時は、本当に地獄でした。夜中に特訓があって、帰りは3時、4時もザラ。今だったら考えられませんが、当時はまだ稽古場が24時間使えたんです。だから、毎日の睡眠時間も1時間半か2時間。ご飯を食べる暇もないような状態でした。
 こんなことを言うと、「パワハラだ!」って思われるかもしれませんが、違うんです。多分、人間が限界を突破するためには、厳しい愛情が必要なんです。あの時小池先生にしごかれなかったら、今の私はここにいません。実際、私をそうやって窮地に追い込みながらも、いつも成長するための課題とやりがいのあるお役をくださいましたし、トップになった時には、「あのころは追い込むだけ追い込んで、その這い上がり方を見ていたんだよ」って言われました。
 厳しさが、一つのパフォーマンスだった部分もあると思います。実際、周りが可哀想と思うくらいに厳しくされることで、上級生の方々が守ってくれました(笑)。情熱がある人って、愛情過多なんですよ。小池先生が注ぐ以上の情熱を注げないと、こちらは勝てない。「私の方が深く考えています」という態度を示せれば、先生は対等になってくれましたし。今もちょこちょこLINEをくださるんですが、作品が決まるたびに、「おめでとう、行くよ」とか。マメなんです。来年予定されている舞台も「博多まで観に行こうかな」とわざわざ連絡をくださる、最高の恩師です。

立ち向かわず、凌ぐだけだって、自信につながることもある

 今はコロナ禍で、みんながみんな“ピンチだ”って思ってますよね。でも、やっぱりピンチはチャンスだし、チャンスはピンチでもある。それは表裏一体というか……。私の27歳だって、とことん最悪な自分も知ったけど、とことん最高な自分も知ることができて、それが私の中の転機になっています。最悪な状況って、自分自身の人間性も露わになるけど、相手の人間性も同じように露わになるから、人を見極める最適なタイミングでもありますね。
 辛い時は、その場を凌ぐだけでいいんです。逃げることは簡単だけど、逃げたら一生逃げ続けることになる。でも逃げなかったら、「あれを耐え抜いたぞ」っていう自信になる。全然立ち向かわなくていい。頑張らなくてもいい。ただ、逃げなければいい。そうしたら、いつかそのピンチな日々のことを笑って思い返せる日が、きっと来ます。結局は、最後に笑えたもの勝ちなんですよね。私の27歳も、あんなに辛かったはずなのに、今ではすべてがいい思い出です(笑)。

当時のわたし
オーディションで、『アンナ・カレーニナ』の2番手アレクセイ・カレーニン役を射止める。その作品を観に来ていた、小池修一郎先生に「あなたが紅さん?」と声をかけられる。続く『スカーレット ピンパーネル』では、本公演で安蘭けいさんが演じたパーシー・ブレイクニー役を、またもオーディションで勝ち取る。新人公演ながら、小池先生に徹底的にしごかれ、本公演でも鍛えられる。一度も褒められなかったが、それ以降、役を与えていただけるようになった。地獄を味わいつつ、生涯の恩師と出会う、20代後半が転機となった。

『with』2021年2月号掲載
撮影/来家祐介(aosora)
スタイリスト/森本美砂子
ヘア&メイク/miura(JOUER)
取材・文/菊地陽子

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  1. 1. 『with』連載「わたしが27歳だったころ。」書籍化 時代をつくる女性25人のヒストリーが一冊に【冒頭全文公開】
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