■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第29回 株式会社KADOKAWA原田浩幸プロデューサー
宮沢りえが鮮烈なスクリーンデビューを果たした映画『ぼくらの七日間戦争』から31年経った令和元年、『ぼくらの7日間戦争』というタイトルで、宗田理の傑作小説がアニメーション映画化された。実写映画が公開された1988年は、まさにバブル真っ盛り。現在とはまったく趣が違った時代に描かれた作品からときを経て、いまなにを伝えようとしたのか――。本作のプロデューサーを務めた株式会社KADOKAWAの原田浩幸氏に話を聞いた。
■主人公を中学生から高校生へ
企画の始まりは2016年の冬。2008年に創刊された「角川つばさ文庫」創刊10周年の目玉企画として、創刊タイトルでもあった「ぼくらの七日間戦争」のアニメ映画化が持ち上がった。原作は、1988年に宮沢のスクリーンデビュー作として実写映画化され、主題歌であるTM NETWORKの「SEVEN DAYS WAR」と共に大きな話題となった。知名度は抜群だが、一方で30年前とは子どもたちを取り巻く環境や時代背景も違っており、アニメ映画化の発表時には、ストーリーラインを含め、どんな形で生まれ変わるのか注目が集まった。
原作、実写版とアニメーション映画の大きな違いは主人公たちの年齢設定。中学生から高校生に引き上げられている。原田氏は「もともとはつばさ文庫の企画ということで、ターゲットは子どもだったのですが、“悪い大人を、自らの知恵と力でやっつける、爽快なストーリー”というぼくらシリーズの持つスピリットと普遍性は決して子ども向けだけのものではないと思い、今回はより広い層に届けたかった」とコンセプトを明かす。
さらに詳しく狙いについて聞くと「大人や社会は、高校生を都合よく大人扱いしたり、子ども扱いしたりする。その特殊な期間の子たちを中心に据えることで、よりぼくらシリーズの持つスピリットが伝わると思ったんです」と説明。
確かに設定を中学生から高校生にすることで、大人との対立構造は複雑化し、より多くの世代からの共感ポイントは増える。原田氏はさらにもう一つ、原作や実写版と、本作の大きな違いを挙げた。それは大人と子どもの対立構造の変化だ。「ネタバレになるので詳細は言えませんが、30年以上前の日本社会が背景となっている原作や実写版では、当時の厳しい管理教育、教師による体罰など、子どもの視点から見てわかり易い“悪い大人”が描かれていましたが、本作ではそこは大きく変わっているところです。逆に言えば、子どもから大人まで、それぞれの役割の人がいるなかでの正義というか、自分たちのすべきことが描かれているので、単純な勧善懲悪の構造にはなっていません」。
■リメイクや原作物の映像化で外してはいけないこと
個人で情報が得られる時代になったことで、趣味嗜好も多様化した現代。子どもたちはインターネットやスマホの普及によって、30年前とは得られる情報量が圧倒的に違う。一方、大人像も30年前のそれとは大きく様相が異なってきている。ストーリー構成上、作り手が一方的に“善悪”を提示するのではなく、より多くのなかから、選択肢を与えて判断させるという意図が、作品には反映されている。こうした変化を、原作者の宗田理氏はどう感じていたのだろうか。
「企画の立ち上がりのとき、今回の趣旨を説明すると、宗田先生は二つ返事でOKをくださいました。先生からの要望は、映画を観終わったあとの爽快感と、先述した“ぼくらシリーズ”のスピリットを守ってほしいということだけでした。それでも、やはりストーリーを構築していくところで、子どもたちを取り巻く悩みや数多ある問題のどの部分にスポットを当てていくのか迷う部分はありました。特徴的だったのが、現代ならではの設定というか、やはりネット社会によって子どもたちがダークな社会と繋がっていってしまう危険性が高くなったと感じますし、凄惨な事件も起こっている。まさに現代的な内容なのですが、そういう設定が果たして正しいのか……宗田先生に意見はお聞きしました」。
原作ものの映像化や、過去の作品をリメイクすることは映像の世界では一つのジャンルとして確立している。原田氏は「考え方はそれぞれ。どれが正解でどれが間違いというものではない」と前置きしつつ「大切なのは作品の持つ芯がなにかをしっかりと把握すること。それがブレていなければ、設定やストーリーラインが多少ズレても、軌道修正できるし、大きく道を外れることはないんです」と持論を展開する。
■新旧の融合により受け継がれていく「ぼくらシリーズ」のイズム
本作でも劇中、実写版で宮沢が演じた中山ひとみや、TM NETWORKの「SEVEN DAYS WAR」が登場する。「企画が立ち上がった段階から、原作と実写版に対するリスペクトが強くあり、オマージュを取り入れたいという気持ちがありました。恐らく制作陣のみんなが同じ思いを秘めてもやもやしていたと思うんですが、村野(佑太)監督が『SEVEN DAYS WAR』をどうしても使いたいと口を開いたんです。そこから一気に盛り上がっていきました」。
最も効果的な登場の仕方、曲の使い方はすでに村野監督の頭のなかにあったようだが、具体的に提示したことにより、原田氏は実現に向けて奔走した。「宮沢さんの事務所に趣旨を説明しにいくと、すぐに興味を持っていただけました。『SEVEN DAYS WAR』に関しても、関係各所にしっかりと筋を通していくうえで、大きな困難はありませんでした」。
ストーリーラインの調整などで、現在の中高生たちや若者層をしっかりとターゲットに入れつつ、小学生を中心とするつばさ文庫現役読者層、実写版や原作ファンである40〜50代にも「これはあなたたちの映画ですよ」というメッセージを込めた。ビジネス的な視点で見れば、明確なターゲットを絞って製作・プロモーションを進める方法もあるが、本作では全方位に広げた。そこには今作で原田氏が掲げたテーマにもリンクする。
「この企画を立ち上げるとき、僕のなかにあったのが新旧の融合でした。それは30年以上前の作品といまを結びつけるキーワードにもなるのですが、スタッフィングを含め、ベテランと若手が混ざり合うことでなにか大きな化学反応が起きるのかなと思ったんです。例えばキャラクター原案に、アニメの仕事が初めてのけーしんさんを起用した一方で、キャラクターデザイン・総作画監督はベテランの清水洋さんにお願いしました。監督の村野さんもアニメ映画は初めてでしたが、脚本家にベテランの大河内一楼さんを起用。音楽面では、今作の主題歌でメジャーデビューを果たしたSano ibukiさんに3曲書き下ろして頂きつつ、劇中のBGMは繊細な旋律を市川さんにお願いしてバランスをとるなどしました」。
こうした組み合わせにすることで、新鮮さを保ちつつ、良きものが継承されていく。宗田氏が紡ぎ続けた“ぼくらシリーズ”も30年の歳月を経て、いまの時代に“イズム”が受け継がれていき、さらに未来に思いが馳せられる。原田氏の話を聞いていると、非常に意義深い取り組みだと唸らされる。(取材・文・撮影:磯部正和)
宮沢りえが鮮烈なスクリーンデビューを果たした映画『ぼくらの七日間戦争』から31年経った令和元年、『ぼくらの7日間戦争』というタイトルで、宗田理の傑作小説がアニメーション映画化された。実写映画が公開された1988年は、まさにバブル真っ盛り。現在とはまったく趣が違った時代に描かれた作品からときを経て、いまなにを伝えようとしたのか――。本作のプロデューサーを務めた株式会社KADOKAWAの原田浩幸氏に話を聞いた。
企画の始まりは2016年の冬。2008年に創刊された「角川つばさ文庫」創刊10周年の目玉企画として、創刊タイトルでもあった「ぼくらの七日間戦争」のアニメ映画化が持ち上がった。原作は、1988年に宮沢のスクリーンデビュー作として実写映画化され、主題歌であるTM NETWORKの「SEVEN DAYS WAR」と共に大きな話題となった。知名度は抜群だが、一方で30年前とは子どもたちを取り巻く環境や時代背景も違っており、アニメ映画化の発表時には、ストーリーラインを含め、どんな形で生まれ変わるのか注目が集まった。
原作、実写版とアニメーション映画の大きな違いは主人公たちの年齢設定。中学生から高校生に引き上げられている。原田氏は「もともとはつばさ文庫の企画ということで、ターゲットは子どもだったのですが、“悪い大人を、自らの知恵と力でやっつける、爽快なストーリー”というぼくらシリーズの持つスピリットと普遍性は決して子ども向けだけのものではないと思い、今回はより広い層に届けたかった」とコンセプトを明かす。
さらに詳しく狙いについて聞くと「大人や社会は、高校生を都合よく大人扱いしたり、子ども扱いしたりする。その特殊な期間の子たちを中心に据えることで、よりぼくらシリーズの持つスピリットが伝わると思ったんです」と説明。
確かに設定を中学生から高校生にすることで、大人との対立構造は複雑化し、より多くの世代からの共感ポイントは増える。原田氏はさらにもう一つ、原作や実写版と、本作の大きな違いを挙げた。それは大人と子どもの対立構造の変化だ。「ネタバレになるので詳細は言えませんが、30年以上前の日本社会が背景となっている原作や実写版では、当時の厳しい管理教育、教師による体罰など、子どもの視点から見てわかり易い“悪い大人”が描かれていましたが、本作ではそこは大きく変わっているところです。逆に言えば、子どもから大人まで、それぞれの役割の人がいるなかでの正義というか、自分たちのすべきことが描かれているので、単純な勧善懲悪の構造にはなっていません」。
■リメイクや原作物の映像化で外してはいけないこと
個人で情報が得られる時代になったことで、趣味嗜好も多様化した現代。子どもたちはインターネットやスマホの普及によって、30年前とは得られる情報量が圧倒的に違う。一方、大人像も30年前のそれとは大きく様相が異なってきている。ストーリー構成上、作り手が一方的に“善悪”を提示するのではなく、より多くのなかから、選択肢を与えて判断させるという意図が、作品には反映されている。こうした変化を、原作者の宗田理氏はどう感じていたのだろうか。
「企画の立ち上がりのとき、今回の趣旨を説明すると、宗田先生は二つ返事でOKをくださいました。先生からの要望は、映画を観終わったあとの爽快感と、先述した“ぼくらシリーズ”のスピリットを守ってほしいということだけでした。それでも、やはりストーリーを構築していくところで、子どもたちを取り巻く悩みや数多ある問題のどの部分にスポットを当てていくのか迷う部分はありました。特徴的だったのが、現代ならではの設定というか、やはりネット社会によって子どもたちがダークな社会と繋がっていってしまう危険性が高くなったと感じますし、凄惨な事件も起こっている。まさに現代的な内容なのですが、そういう設定が果たして正しいのか……宗田先生に意見はお聞きしました」。
原作ものの映像化や、過去の作品をリメイクすることは映像の世界では一つのジャンルとして確立している。原田氏は「考え方はそれぞれ。どれが正解でどれが間違いというものではない」と前置きしつつ「大切なのは作品の持つ芯がなにかをしっかりと把握すること。それがブレていなければ、設定やストーリーラインが多少ズレても、軌道修正できるし、大きく道を外れることはないんです」と持論を展開する。
■新旧の融合により受け継がれていく「ぼくらシリーズ」のイズム
本作でも劇中、実写版で宮沢が演じた中山ひとみや、TM NETWORKの「SEVEN DAYS WAR」が登場する。「企画が立ち上がった段階から、原作と実写版に対するリスペクトが強くあり、オマージュを取り入れたいという気持ちがありました。恐らく制作陣のみんなが同じ思いを秘めてもやもやしていたと思うんですが、村野(佑太)監督が『SEVEN DAYS WAR』をどうしても使いたいと口を開いたんです。そこから一気に盛り上がっていきました」。
最も効果的な登場の仕方、曲の使い方はすでに村野監督の頭のなかにあったようだが、具体的に提示したことにより、原田氏は実現に向けて奔走した。「宮沢さんの事務所に趣旨を説明しにいくと、すぐに興味を持っていただけました。『SEVEN DAYS WAR』に関しても、関係各所にしっかりと筋を通していくうえで、大きな困難はありませんでした」。
ストーリーラインの調整などで、現在の中高生たちや若者層をしっかりとターゲットに入れつつ、小学生を中心とするつばさ文庫現役読者層、実写版や原作ファンである40〜50代にも「これはあなたたちの映画ですよ」というメッセージを込めた。ビジネス的な視点で見れば、明確なターゲットを絞って製作・プロモーションを進める方法もあるが、本作では全方位に広げた。そこには今作で原田氏が掲げたテーマにもリンクする。
「この企画を立ち上げるとき、僕のなかにあったのが新旧の融合でした。それは30年以上前の作品といまを結びつけるキーワードにもなるのですが、スタッフィングを含め、ベテランと若手が混ざり合うことでなにか大きな化学反応が起きるのかなと思ったんです。例えばキャラクター原案に、アニメの仕事が初めてのけーしんさんを起用した一方で、キャラクターデザイン・総作画監督はベテランの清水洋さんにお願いしました。監督の村野さんもアニメ映画は初めてでしたが、脚本家にベテランの大河内一楼さんを起用。音楽面では、今作の主題歌でメジャーデビューを果たしたSano ibukiさんに3曲書き下ろして頂きつつ、劇中のBGMは繊細な旋律を市川さんにお願いしてバランスをとるなどしました」。
こうした組み合わせにすることで、新鮮さを保ちつつ、良きものが継承されていく。宗田氏が紡ぎ続けた“ぼくらシリーズ”も30年の歳月を経て、いまの時代に“イズム”が受け継がれていき、さらに未来に思いが馳せられる。原田氏の話を聞いていると、非常に意義深い取り組みだと唸らされる。(取材・文・撮影:磯部正和)
2019/12/15