• ホーム
  • 音楽
  • ダイナミックプライシングはコンサートチケットに活用できるか? 価格変動制チケットの課題

ダイナミックプライシングはコンサートチケットに活用できるか? 価格変動制チケットの課題

 三井物産とヤフーが6月4日に、需要と供給に応じて価格を変動させるダイナミックプライシング事業を行う新会社「ダイナミックプラス株式会社」を設立。ぴあも参画し、同事業を本格的にスタートさせた。

■世界規模でもエンタメ活用に向けて模索

 ダイナミックプライシングは、商品、市況、天候、個人の嗜好などに関するビッグデータをクラウド上のプラットフォームで迅速に分析し、需要の予測を基に価格の上げ下げを自動的に行うことで顧客のニーズに即応し、併せて収益向上に役立てるというもの。すでにホテルや航空会社などで利用されており、海外ではスポーツイベントのチケットなどにも活用されており、国内でもプロ野球などでの実証実験もスタートしている。

 このダイナミックプライシングをコンサートチケットなど、エンタメ分野にもさらに広く活用していこうとする動きは世界規模でも起きている。その背景には社会問題化されているチケットの不正高額転売への対策という点もある。果たして、ダイナミックプライシングのエンタメ活用は可能なのか、この問題に詳しい八木京子氏(江戸川大学社会学部准教授)に聞いた。

「世界最大のコンサート・プロモート会社のライブ・ネイションは、2011年の早い段階からダイナミックプライシングに着目し、グループ傘下でチケッティング会社世界最大手のチケットマスターと共に、コンサートや大型イベントへの適用に取り組んでいます。しかし、7年経過した現在も、アーティストやオーディエンスにとっての最適な仕組みを模索し続けているというのが実状です。こうした海外の動向から1つ言えるのは、ホテルや航空券などで導入されている一般的な仕組みのままでは、エンタメ分野ではうまく機能しないという点です」(八木氏)

 例えば、ホテルなどは一定期間、それぞれの部屋が定位置に固定されているため1年365日、部屋の価値自体は変動しない。そこで、「週末か平日か」、「繁忙期か閑散期か」といった“時期”を変数にすることで、繁忙期は割高、閑散期は割安などのように価格を変動させることが多い。一方、コンサートやイベントは、ホテルの部屋などと違って、常に固定化されたモノではなく、無形で希少性が高いという特徴があるため、コンサートの価値がそれぞれの顧客によって異なる。そのため、エンタメに適用するには、ホテルや航空券にとっての“時期”のようなエンタメ独自の変数を設定する必要がある。「ここがエンタメで活用するためのポイントになる」と八木氏は分析する。

「ダイナミックプライシングでよく使われる「時間軸」の変数をコンサートなどに適用すると、さまざまな問題が出てくる可能性があります。例えば、コンサート前日や当日に、売れ残っていたチケットを低価格で販売した場合、同じ席種のチケットをいち早く購入した人からは、不満の声も上がるでしょう。ダイナミックプライシングを活用するうえで最も重要なのは、『顧客が納得する価格を設定する』ということです。そのためには、顧客にとっての「価値」をできるだけ多く抽出し、それらを変数として価格設定に活用していくことが必要です。例えば、コンサートの開催日時や曜日、座席は前方か後方か、立見か指定席か、グッズや握手券は付いているかなどのさまざまな要素を数値化して分析し、顧客の価値に見合った価格を設定するなど、エンタメ独自のダイナミックプライシングを確立していくべきでしょう。そうすることによって、チケットの券種や価格レンジを大幅に増やし、顧客のニーズや価値の多様化に対応していくことができると思います」(八木氏)

■“適正価格”で流通されれば極端な高額転売は防げる

 実際、ここ数年、顧客側も良い席ならば高額でも購入したいという意向もみられるようになっており、席による価格差には抵抗感は少ないだろう。主催者側、顧客側が納得のいく“適正価格”でチケットが流通されるようになれば、その結果、高額転売を防ぐことにも繋がっていく。

「もう1つ重要なのは、アーティスト側の意向と顧客のニーズをつないだうえで価格設定するということです。例えば、会場の最良席をアーティストが納得する価格を上限として、高額で販売した場合、そこで得られる収益を還元し、これまで売れ残っていたような席をより低価格で販売することもできるようになるでしょう。その結果、1つの公演で2000円から40万円までの、十数種類のチケットが販売されることになるかもしれませんが、顧客とアーティスト、主催者側が納得する“適正価格”を設定することができれば、極端な高額転売の抑止にもなるでしょう。何より学生から大人までより広く、健全にチケットを行き渡らせることができると思います」(八木氏)

 エンタメ独自のダイナミックプライシングのシステムを構築していくことは、高額転売が横行する現状を改善していくための一助になっていく可能性は十分にある。世界規模のスポーツイベントも間近に迫り、イベントチケットの適正な流通環境を作っていくことは急務とも言える。その意味でも今回の新会社の今後の動向が注視される。



提供元:CONFIDENCE

【最新号】コンフィデンス 18年8月13日号 詳細はコチラ バックナンバー 一覧

最新号コンフィデンス18年8月13日号

<COVER STORY>
鈴木大地氏(スポーツ庁長官)
観客が競技会を楽しむには音楽は欠かせない要素。
スポーツと音楽は一体として考えるべきです

<SPECIAL ISSUE>
イベント開催時の「災害リスク」の考え方
「ORICON LIVE STUDY with ACPC」Vol.14

お問い合わせ

オリコントピックス