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“共同CEO”立花慎之介・福山潤が向き合う声優界の未来 新事務所は「声の総合商社」

 人気声優の立花慎之介(40)と福山潤(39)が今年4月、これまで所属してきた事務所「アクセルワン」を退社し2人で新事務所「BLACK SHIP株式会社」を立ち上げた。同社で2人は、共同でCEOに就くという異例の体制を敷いている。声優として人気を不動のものとした彼らがなぜ今、会社経営の海原へ漕ぎ出すのか、なぜ“2人”で創業したのか。昨今、声優業界の急激な変化を目の当たりにしてきた立花と福山の決意に迫った。

■3年前から考えた独立 森川智之氏の言葉が後押し

 両CEOとの“名刺交換”からスタートしたこの日のインタビュー。2人とも名前の上に「代表取締役 CEO」とはっきり肩書が刻まれていたが、現役声優が共同でCEOを務めるのは業界でも前例がないという。もともと同じ事務所に所属、同じユニットで歌手活動もするなど関係の深かった両者ではあるが、極めて異例の“ツートップ”経営に至った経緯をさっそくたずねてみた。

 新事務所の設立について福山は、3年ほど前から考えていたと明かす。「いちプレーヤーの声優としてやりたいことは事務所に所属していればできたんですが、それとは別に自分でやりたい企画というのをもともと20代の頃から持っていたんです。ただ、アクセルワンは人気声優をたくさん抱えてますので、そこで僕だけのために動いてもらうというのも現実的ではありません。その中で独立であったり、会社の中の個人プロジェクトだったり、いろんな選択肢が出てきて。これまでそれを実現させるには自分の屋台骨が足りていなかったのですが、ようやく、具体的に行動へ移すタイミングを迎えられたという感じです」。

 そこで、前事務所の社長で声優の森川智之氏に、将来的に独立したい意志が芽生えたことを伝えた。「独立心は持つべきだし、大変良いことだと思う。いつ独立してくれても構わない」と森川氏からは温かい言葉で背中を押してもらい、本格的に独立への道すじを立てることになったという。

■“失敗例”から決断した2トップ経営 互いが「“歯止め”になる存在」に

 一方の立花は「全く時を同じくしてなんですが、僕は3年くらい前から経営そのものに興味を持ち始めたんです。業界内外の会社を色々見て、自分が経営するとしたらどういう形でやるべきなんだろう、というのを膨らませていた期間があって」と、福山とは別のスタート地点から独立を模索し始めていた。芸能界全体にも言えることだが、声優業界のシステムが今の時代に適応しきれない“古さ”が目立つようになってきたと言い、そこへの問題意識が起業の大きなモチベーションになった。

 「ここ10年くらい声優を取り巻く環境も急激にグローバル化が進んできました。その影響で雇用や契約形態、コンプライアンスの問題も含めた事務所のあり方として、従来の業界のシステムだけではやっていけない、“変えなきゃいけない”部分が多くあることを強く感じていました。一世代前のシステムを刷新しようという動きは業界全体でも進んできてはいます。ただ、いわゆる一般企業のクライアントの方たちと同じ目線で戦える企業というのがこの声優業界にも必要なんだろうと思いますし、それを形にするにはやっぱり自分で何か新しいことを始めなきゃいけない」。

 より柔軟に自由に時代をとらえる経営。その実現へ考えを巡らせる中で行き着いたのが「共同経営」という選択だった。「会社経営の事例を勉強して行く中で、僕は成功例よりも失敗例を調べるのが好きでした。その経営者はなぜ失敗し、そこから何を学んだのかというストーリーが必ずあるわけです。そこから自分なりに導いたのが、僕の場合は『独りでやってはダメだ』ということ。トップが僕一人でマネージャーたちと二人三脚では絶対に成功しないと思いました。ずっと声優でプレーヤーだった僕が経営者になるわけですから、僕が判断を誤りそうな時、暴走した時に対等な立場でモノが言えて歯止めになってくれる存在が必要という考えに至ったわけです」と、共同経営の線を模索するようになった理由を明かした。

 そしておよそ1年半前、立花と福山は2人で話した際にお互い独立の考えがあることを知り意気投合する。ただ、立花いわく最終的に福山と組むことになったのは、単に同じ時期に独立を考えていたから、という理由ではない。

 「まずは経営者としてお金が好きなやつだということ(笑)。がめついという意味ではなくて、利益を追求しそれを分配・還元することが好きっていう感覚は社長として必須ですから。あとは、お互い建設的にダメ出しを言い合える関係だということです。例えば僕が提案したことに対して福山が『それは違くない?』と何も気兼ねなく言える。そして僕も彼の意見を取り入れてみる。これまで長いことそういうやりとりを重ねてきているので、先ほどのような“歯止め”になる存在としてこれ以上のパートナーはいないと思いました」。

■問われる後進育成のあり方「多様な“目的意識”に対応を」

 こうして立花と福山の両輪でスタートを切った新たな事務所。「BLACK SHIP=黒船」とは実に野心を感じさせる社名だが、将来的に同社として注力したいことをたずねてみると、福山は一番に「後進の育成」を挙げた。昨今、新人・若手声優をとりまく急激な環境の変化に“新たな可能性”と“懸念”両方を感じ取っているようだ。

 「ここ10年くらい特にですが、新人の方たちの声優という仕事に対する“目的意識”が本当に多様化しました。僕らが駆け出しの頃の声優といえば、あくまで作品に声を当てる事が中心でしたが、今では歌を歌い、イベントに出演し、テレビもラジオもやる。以前より圧倒的に作品外の“パーソナル”な部分で勝負することが増え、声優として成功するという意味のゴールとそこに至るルートの選択肢が増えたことは良い傾向だと考えています」。

 その反面、選択肢が増えたがゆえの問題点・ジレンマも指摘し、「仕事の幅が広がるのに比例して、タレントの“拘束時間”も朝から夜まで長時間に及ぶようになりました。そうした変化のなかで、自分の芸・スキルを磨くための時間、あるいは上から下の世代へ声優としてのノウハウを伝承させる機会が昔と比べて急速に失われていっていると思います」と、業界全体が抱える問題もある。

 同社の経営理念の一つには「一、それぞれの未来に希望が持てる」と掲げられているが、「若手が多くを抱え込んで、将来像や夢に向かうプロセスをともすれば見失いがちな今、役者一人ひとりの多様な“キャリアプラン”に合わせた細かい支援が事務所として必要とされています。そして、プレーヤーとしてキャリアを積んで来た僕らだからこそ提案できる育成方法が必ずあると考えています。それを実現するために最適な事務所の規模だったり、方法だったりを今後検討していきたいですね」と力を込めた。

■“人を大切にする”事務所のあり方とは 「総合商社」という新たな視点も

 立花は所属タレントと社員の“働きやすさ”を何より大事にしたいと経営の展望を語ってくれた。「僕らの経営理念で最初に掲げられているのは“人を大切にする”というものなんです。これは今、芸能界に限らず社会問題化していることですが、パワハラやブラック労働をゼロにするという強い決意を込めています」。

 先にも挙がった、雇用形態やタレントとの契約、あるいは縦社会からの脱却という倫理観の部分についても、「業界全体でだいぶ改善されてきたとは思います。ただ、グローバルな市場で通用するためには、まだブラッシュアップしていかなければならないし、労働環境の水準をあげるシステムの整備は何よりも大事にしていきたいと思います。社名にBLACKと入っていますが、ロゴでこれを“白抜き”にデザインしたのはそんな我々のポリシーの表れだったりします」と方針を明かした。

 一方で立花は、タレントの“働き方”に関わる問題として、事務所の収益も既存の考え方にとらわれないことが重要だと説く。「これからの時代は特に、タレントの稼働に頼りきった経営ではなく、もう一つ別に(収益の)柱を確保する必要があると思います」。

 「例えば今、AI(人工知能)やVR・ARなどテクノロジーが一気に発達する中で、僕ら声優の“声”が必要とされる局面て急激に増えているわけです。声を活用してもらうビジネスチャンスを受け身ではなく、僕ら事務所側から積極的に企業・広告代理店に提案することもできるんじゃないかと。あとは自分たちで作品の企画・製作も考えていきたいですし、事務所が(知財など)権利を有して収益になるようなプランを実現できたらと思います。多分ですが、声優事務所というより、声を扱う“総合商社”という考え方が一番近いかもしれないですね」。

 今はまだ所属タレントも立花と福山のみ。まずは会社を経営しながら自身の声優業を滞りなく進めることに細心の注意を払っているという。自分のキャリアだけでなく社員の生活も抱える身となったが、精神的に気負ってしまう時などはないのだろうか。福山に聞いてみると、意外にも「実際に走り出してみると『誰のせいにもできない』っていう覚悟が意外にしっくり来てるんです」とすがすがしい答えが返ってきた。

 「今は自分達の仕事を一つ一つ丁寧に行い、名刺を受け取ってもらい、会社の事も知ってもらいながら資金も集める。そういったプレイヤーとしてだけではなく会社として動くことが、誰のせいにも出来ないっていう自分に対する楔(くさび)みたいになって大変心地いいな、と。立ち上げるまでは、経営であったりスタッフまわりに気を遣うことで気持ちがそぞろになるのではと不安でしたが、それが思った以上に集中の方に向かえていて、自分にとっては大変うれしい誤算でしたね」と、独立したことで声優という自分の存在が地に足の着いたものになったという。

 そんな福山の言葉を受け立花は「あの会社で仕事がしたい、そう業界から言ってもらえるような企業にしていきたいですね」と改めて決意を口にした。また、福山に対しても「まあ僕としては、パートナーとして信頼してるので、元気でいてくれたらそれでいいかなと。骨折はしないでねってことだけ言いたい(笑)。ちゃんと書いといてください!“注:福山はこの4年で3度骨折している”って」とイジり、2人の屈託ない笑い声が部屋に響く。こしらえたばかりの小さな事務所の一室。ここからきっと新たな才能が育ち、声優業界を進化させる楽しい企画が生まれていく…、エネルギーに満ちた2人の言葉に接し、こちらまで胸が高鳴るようだった。



関連写真

  • 『BLACK SHIP』CEOの(左から)立花慎之介・福山潤
  • 『BLACK SHIP』CEOの(左から)立花慎之介
  • 『BLACK SHIP』CEOの(左から)福山潤

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