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アジカン・後藤正文が語る「音楽賞」の必要性

 ASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文がポピュラー音楽の新人賞『APPLE VINEGAR -Music Award-』を立ち上げ、3月22日に第1回目の大賞を発表した。ミュージシャンである彼が「音楽賞」の設立に至った経緯、その狙いとは? 後藤本人に聞いた。

ASIAN KUNG-FUGENERATIONの後藤正文 Photo:MITCH IKEDA

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◆日本には業界の新陳代謝を促す音楽賞が全くない
 きっかけは、昨年のある晩に見た“音楽賞を作る夢”。起床後もその夢のことが忘れられず天啓のように感じた後藤は、それを実行に移した。

 「日本には音楽の売上を基準とした賞や芸能の賞はあっても、音楽を正当に評価する『グラミー賞』のようなものはないですよね。音楽をやっている人間からすると、そういうアワードの存在は羨ましく、存在してほしいと常々感じていました。

 特に新人を応援したり、新陳代謝を促したりするような音楽賞は全くないから、若手はどこにモチベーションを持ったらいいかわからない、夢がないのが悩みでした。そういう現状に一石を投じたいという思いもあり、自分がやるつもりは当初なかったんですが、芥川賞みたいにミュージシャン自身が評価する賞があっても面白いかもと思い、始めてみました」

 この新人賞、気鋭のアーティスト“本人”へというよりも、その人の“アルバム作品”に贈られる。その点も芥川賞に似た形態の新しい音楽の賞だ。

 「文学界には芥川賞のほかにも三島賞など、新しい書き手をどんどん世に輩出する役割を担う賞があって、音楽界より積極的に新人を発掘していくイメージがありますよね。とはいえ、今や音楽ではアワードの役割は半分ぐらい終わっていて。権威の側が何かを選ばなくても自分の好きなものを聴いて、逆にリスナー側が世の中に提示できるような、矢印の向きが逆の時代になった。

 でも、そういうフラットな世の中だからこそ、ミュージシャン側から『この作品は良くできている』という評価や発信をするのも面白いんじゃないかと思うんです。それで少しでも、その音楽に興味を持ってもらえたらいい」

◆賞金は後藤ほか、賛同した坂本龍一らも拠出

 このアワードは、後藤があらかじめ10枚のアルバムを選び、片寄明人(GREAT3)、日高央(元BEATCRUSADERS)、福岡晃子チャットモンチー)を加えた4人で大賞を選考した。その過程は現在、同賞のサイトでアップされている。

 大賞に選ばれたのは、ヒップホップユニットFla$hBackSのメンバーでもある、トラックメイカーのJJJによる『HIKARI』(17年2月発売)。彼には賞金として、40万円が贈られる。

 「10作品どれも素晴らしく、作品同士を比較するのは難しいですが、JJJの作るトラックのセンスが素晴らしいことと、賞金を使ってスタジオや機材をアップデートしたら、さらに素晴らしいトラックを作ってくれるだろうという期待を込めて彼を選びました。

 賞金は僕が自腹で10万円、『あと10万ぐらいあったらいいなぁ』とブログで書いていたら、坂本龍一さんからすぐに連絡が来て『僕が10万出すから』と言って下さいました。若者たちの取り組みを応援してくれる坂本さん、神です、神!(同取材後に、トライバルメディアハウス エンターテインメントマーケティングレーベル「Modern Age/モダンエイジ」が協賛企業として加わり20万円を拠出。賞金は計40万円となった)」

 数十万円あればプロらしい機材が買えると、この賞は地に足のついた、若手が音楽を作ることを徹底的に応援するものだ。そして、それが循環していくことを彼は願っている。

 「僕は音楽で収入を得ていますから、賞金の10 万円も音楽ファンから預かったお金で、それを新しい才能に廻しているだけだと思っています。お金も想いも溜め込むのではなくて、使わないと廻っていかない。良い循環を作ることはとても大切です。音楽業界の現状に嘆いてばかりでなく、素晴らしいアルバムを楽しみ、賞賛を送っていく。皆で業界を盛り上げていくことが大切だと思います」

 同アワードの授賞式をネット番組で放映するという計画もあるそうで、ワクワクする。これも音楽の輪を拡げる1つの方策で誰がやってもいい。後藤自身、同時多発的にこういった賞が増えるのを期待している。ワクワクは多いほど良いに決まっている。

文/和田靜香

(『コンフィデンス』 18年4月2日号掲載)

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提供元:CONFIDENCE

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