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鈴木敏夫プロデューサーが明かす“宮崎駿の近況”と“転換期を迎えたジブリの今後”

 スタジオジブリが初めて海外スタジオと共同制作した『レッドタートル ある島の物語』。オランダ人のマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の短編『岸辺のふたり』(2000年)に感銘を受けたジブリ・鈴木敏夫プロデューサーの「この監督の長編を観てみたい」という気持ちが出発点となり、高畑勲監督の協力を仰ぎながら、8年の歳月を経て完成した。宮崎駿監督の長編からの引退でジブリの今後への注目が高まっているなか、外国人監督による“スタジオジブリ作品”となる今作の制作の裏にはどのような意図があるのか。ジブリのこの先に向けてのどのような位置づけになるのか。高畑勲監督、宮崎駿監督の近況も含めて鈴木プロデューサーに話を聞いた。

スタジオジブリはヌーベルバーグ以前の映画を作っていると語る鈴木敏夫プロデューサー

スタジオジブリはヌーベルバーグ以前の映画を作っていると語る鈴木敏夫プロデューサー

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◆ジブリ作品を外国人監督にオファーした理由

――今回はスタジオジブリ初の“海外との共同制作”という触れ込みで、鈴木さんがプロデューサー、高畑勲さんがアーティスティック・プロデューサーという肩書でクレジットされていますが、アニメーション制作の実作業的な部分でジブリはどのように関わったのでしょうか?
【鈴木敏夫】 アニメーション制作の実作業に関しては、すべてヨーロッパのスタジオで行いました。日本でやるかどうかは最初に話し合ったのですが、言語などの問題から、マイケルがヨーロッパでやりたいと。そこは僕らもこだわるところではなかったので、向こうのスタジオでやってもらいました。僕と高畑さんがそれぞれのプロデューサーという立場で参加しています。

――これまで短編しか撮ってこなかったマイケルさんに長編を撮らないかと提案したそうですが、これまでの鈴木さんのジブリ作品でのお仕事ぶりを拝見すると、クリエイターを刺激する、挑発するというやり方を貫いている気がします。鈴木さんにとっては、そうすることこそがプロデューサーの仕事であるという考えなのでしょうか?
【鈴木敏夫】 ある意味、挑発ですし、そういうのが好きなんでしょうね。ただ、この『レッドタートル』に限って言うと、今までとはまるで違う。今までは高畑さんや宮さんにしろ、作ってもらわないとジブリがやっていけないということがありましたけど、マイケルの場合はそうじゃなかった。本当に素直に彼の長編作品が観たいと思っただけなんです。その違いはありましたね。結果として公開までに8年かかってしまいましたけど、僕はこの映画をすごく気に入っています。いろいろな人に観せたいな、という気持ちが大きいんですよ。

――『レッドタートル』は、アート作品的な色合いも強いと思いました。アートとエンタテインメントとの棲み分けはどのように考えられていますか?
【鈴木敏夫】 フランスのヌーベルバーグがあって、それ以前と以降で、映画は変わったと思っています。もともと映画は作るのにお金がかかるものだから、商業主義を入れざるを得ない。だからみんながエンタテインメントをやりながらも、そうではない部分も入れ込んで1本の作品のなかで両立していました。それがヌーベルバーグ以降は、商業主義を外して作っていいという流れができて、エンタテインメントとそうではないアート系や社会派などの映画と大きくふたつにわかれました。高畑さんにしろ、宮崎駿にしろジブリ作品というのは、実はヌーベルバーグ以前の映画を作っているんです。要するに、ひとつの作品のなかに両面を入れる。というふうに僕は思っています。

◆創作意欲は衰えず!高畑勲、宮崎駿の近況は?

――最近、宮崎さんはCGを駆使して美術館用の短編を作っているそうですが。
【鈴木敏夫】 そうです。ただ、CGを使っているのは全面的にではなくて、だんだんと手描きの部分も増えています。順調にいけば来年の頭には完成すると思います。

――高畑さんも『岸辺のふたり』がお好きだったと聞きました。本作でもアーティスティック・プロデューサーとして参加されていますが、まだまだ高畑さんも創作意欲が旺盛ですね。
【鈴木敏夫】 宮崎駿もですが、高畑さんも意欲は衰えませんね。自分が作ったものを世間に出して、それで大向こうをうならせるのが映画監督というものだとしたら、やはり1回その味をしめた人は死ぬまでそこから離れられないですよね。映画監督なんてそういうものですよ。そういう意味ではむしろマイケルの方が珍しい。その要素が少ないんですから。普通は大きな予算をかけて長編を作るとなったら心配になるじゃないですか。いつのまにか心が弱くなって、ついついサービスをしておこうかなとなってしまう。それはひと言でいうと「媚びを売る」ということなんですが、彼にはそういう要素がない。驚きですよね。世の中には、“媚びを売る映画”ばかりあふれている時代ですから。

――高畑さんは最近は何をやられているんですか? のんびり過ごされているわけではないですよね?
【鈴木敏夫】 全然! 僕は最近、分かってきたんですけれど、人間って年をとればとるほど忙しくなるなんだなと。高畑さんも精力的に日本全国を飛び回っていますよ。それどころか海外にも出かけて、講演会をやったりしています。求められるがままに、それこそ、そこが行きたい場所だったらすぐにでも飛んで行ってしまうんですよ。今度もまた海外に行くと聞いていますしね。ふたりには隠居という気分はまったくないですね。

――そうすると鈴木さんも休めないですね。
【鈴木敏夫】 僕は隠居したいんですけどね。僕ね、マイケルから真剣に聞かれて困ったことがあったんですよ。なんで自分で映画を作らないんだと。隠居したいからっていう本当の答えは言いづらかったです(笑)。

◆転換期を迎えている日本アニメ。スタジオジブリの今後は模索中

――ジブリのアニメーション映画が夏休みの映画館で観られる日はまたいつか来るのでしょうか?
【鈴木敏夫】 あったとしても、とうぶん先になるでしょうね。やはりいまはジブリの転換期だと思います。今までやってきた作り方も内容も含めて、次にいったい何を作ればいいのかと、みんながそれぞれにテーマを探しあぐねている時代ですから。そして手法としても手描きからCGへと移っていくなかでどういう体制でやるのか。これらを見極めるのにもう少し時間がかかります。

――3DCGのアニメを作るかもしれないし、今まで通りかもしれない。そういう状況のなかで宮崎さんの制作へのモチベーションも高まっていると。
【鈴木敏夫】 そういうことですよね。自分の年齢の問題もあるから、若いスタッフと組んでやるというのもあるかもしれないですしね。いろいろな意味で、今は日本のアニメーションの転換期だと思いますよ。手描きのアニメがなくなったわけではなくて、今でもたくさん作られているけど、その作っている人たちの高齢化が進んでいます。僕らが『となりのトトロ』を作っていたときは、みんな30歳前後でしたから。あんまり言うと業界のマイナス要素になってしまうか(笑)。でも、そんななかで新海誠監督の『君の名は。』があれだけヒットしているのはすごくいいことですね。

――宮崎吾朗さんは今は武者修行中ですか?
【鈴木敏夫】 そんなことはないです。自分の信じた道を行きなさいですよね。何をやるかは、そのひと次第です。なかには映画以外のことやりたいというひともいるかもしれないし。

――スタジオジブリのこの先の方向性とは……。
【鈴木敏夫】 ひと言でいうなら「スタジオジブリの今後は模索中」です。
(文:壬生智裕)

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