• ORICON MUSIC(オリコンミュージック)
  • ドラマ&映画(by オリコンニュース)
  • アニメ&ゲーム(by オリコンニュース)
  • eltha(エルザ by オリコンニュース)
ORICON NEWS

大竹しのぶ、“悪女”について思うこと「愛情を表せないのは切ない」

 直木賞作家・黒川博行氏が実際の事例を取材して執筆し、圧倒的なリアリティで話題を集めた小説『後妻業』を、鶴橋康夫監督がブラックコメディに仕立てた映画『後妻業の女』。婚活ブームに熟年離婚、高齢化に核家族化など、現代日本の世相を背景に、財産を狙ってリッチで孤独な老人の後妻に入り、その財産とときには命までをも吸い上げてしまう主人公・小夜子を怪演した女優の大竹しのぶに、本作への向き合い方、これまでにも演じてきた“悪女”について思うことを聞いた。

主演映画『後妻業の女』(8月27日公開)で感じた社会問題についても語る大竹しのぶ(写真:逢坂 聡)

主演映画『後妻業の女』(8月27日公開)で感じた社会問題についても語る大竹しのぶ(写真:逢坂 聡)

写真ページを見る

◆シュールに描かれているドロドロしそうな話

――黒川博行氏の原作小説の印象とはガラリと趣が異なって、化け物のように物騒な人々が集う、鶴橋ワールド炸裂! の映画でした。
【大竹しのぶ】 私も鶴橋さんの脚本を読んだときに、原作と全然違うのでびっくりしました。コメディタッチになっていて、黒川先生が怒らないかな? って、ちょっと心配になったんですけど、先生が「小説と映画は全然違うものだから。すごくおもしろかった」って言ってくださったので、安心しました。鶴橋さんの作品に出てくる人って、すごいワルなんだけど、目が離せないというか、応援したくなるような人たちばかり。だけど切なさもある。もっとドロドロしそうな話を、鶴橋さんのオシャレな感じで、シュールに描かれていて。ホント、鶴橋さんの世界だなって思いましたね。

――本作の主人公・武内小夜子を、どのように演じようと思っていましたか?
【大竹しのぶ】 若い頃、鶴橋さんと作ったテレビドラマ(大竹の女優復帰作となった、1990年放送のスペシャルドラマ『愛の世界』)でも、ちょっと悪い女の人を演じたんですけど、どこかかわいくて、どこか哀しいっていうのが、鶴橋さんの世界にはあって。今回も、そういう感じになるんだろうなと思っていました。「チャーミングでなくちゃいけないんだよ、小夜子は!」と言われていたので、“こんなに悪い人なのに”とは思っていたんですけど(笑)。でも鶴橋さんがそういう撮り方で、柏木(豊川悦司)とのコンビもポジティブで活き活きと描かれているので、演じていてすごく楽しかったです。

――これまでにも新藤兼人監督の『ふくろう』(2003年/東北地方の開拓村で起きた、母娘による連続殺人事件を描いたブラックコメディ)をはじめ、数々の悪女を演じて来られた大竹さんですが、本作の小夜子は“悪女”だと捉えていましたか。
【大竹しのぶ】 いえ、そんなには……。もちろん悪い女なんですけど、面倒を見てあげたから、お金をもらって何が悪いの? という思いはありました。いま思い出したんですけど、『ふくろう』では、水道局員とか、国に仕える人たちを次々に殺して復讐する役だったんです。母娘で、男の人を次々と引きずり込み、1回だけ関係をもって、毒を飲ませて殺してしまい、お金を取っていくっていう……。全部で9人を殺す母親の役だったんですけど「どうせ殺すんだったら、関係を持たなくてもすぐに殺せばいいじゃないですか?」って新藤監督に聞いたことがあったんです。そうしたら「それがね、愛なんですね」って。「悪人の愛っていうか、そこはやってあげるんです。それが、この映画の優しいところなんです」っておっしゃっていて、あぁおもしろいなって。小夜子も、少なくともお金をもらうまでは“この人を幸せにしてあげる”という信念を持って接していたから、相手の人も短い時間は幸せだったろうなとは思います。勝手な言いぶんですけど(笑)。

――後半には「ホンマに欲しいもんには、必ず逃げられる」という、悲痛なナレーションもありましたが、小夜子は何を求めていたのだと思いますか。
【大竹しのぶ】 愛ですね。たぶん親からも愛されないままに家を出て、生きるために働いて、お金しか頼るものがなくて、子どもができたけど、どう接していいかわからない。結局、ちゃんと人を愛せないし、愛されもしない。だけど一方では“何があっても、楽しく生きてやる!”みたいな強さやエネルギーもあって。だから人を殺すシーンでさえ全部(演じていて)楽しかったんですけど、子ども(風間俊介演じる岸上博司)とのシーンは“あぁいやだ”ってなってしまいましたね。どう愛していいのかわからないんだけど、どこかで大事なんだっていうことも、わかってる。だけど愛情を表せないっていうのは、切ないなって思いました。

◆ライトに笑いを入れたことで、より一層怖さを感じた

――鶴橋組はの雰囲気はいかがでしたか。
【大竹しのぶ】 鶴橋組って、役者がみんな鶴橋さんを好きで集まってくる。今回も、豊川さんにしても、津川雅彦さんをはじめ被害者役の方たちにしても、鶴橋さんならと集まってきた人がたくさんいて。鶴橋さんの夢は、いつかそういう人たちを全員揃えて、作品を作ることだっておっしゃっていました。人が嫌いで好きっていう、気難しいところもあるんですけど、スタッフを含めて、とにかく人を気遣う方なので。

――大竹さんにとっても特別ですか?
【大竹しのぶ】 今回は脚本に書かれている、鶴橋さんのイメージする小夜子を現場でやっていく感じでしたね。あまりああしよう、こうしようとか、細かくは考えずに演じていました。「考えなくていいよ」って、鶴橋さんにも言われていたし。でも昔から、そういう感じで見られているというのかな。「本当に何も考えてないなあ。それでいい! じゃあ、やってくれ!!」みたいな感じなんです(笑)。

――最初に「もっとドロドロしそうな話を、鶴橋さんのオシャレな感じで、シュールに」とおっしゃっていましたが、本作を拝見しながら、井上ひさしさんの「ひとはあらかじめその内側に、苦しみを備えて生まれ落ちる。苦しみはそのへんにゴロゴロと転がっている」「笑いは、ひとが自分の手でつくり出して、たがいに分け合い、持ち合うしかありません。もともとないものをつくるんですから、たいへんです」という言葉を思い出していました。大竹さんは、重たいテーマを描くとき、笑いは必要だと思われますか。
【大竹しのぶ】 チェーホフの生涯を描いた『ロマンス』という芝居のなかのセリフですね。でもそこは監督のセンスだと思います。この原作も、もっとドロドロとリアリティでやろうと思えば作れるわけだし。鶴橋さんみたいに、ライトな感じにして笑いを入れたことで、より一層怖い感じも出たとは思うんですけど。今回は、関西弁っていうのも大きな影響があったと思いますね。関西弁って笑いに変える力がある。リズムも含めて、関西弁の持つパワーって、すごいなって。私自身は、笑いも、リアリティのある怖さ、醜さだけっていうのも、両方好きですね。

――本作には、エンドロールが終わっても、最後まで席を立たずにぜひ聞いてほしい、小夜子のセリフがあります。笑いを誘いながらも、なんだか元気もくれるあの言葉は、どう受け止めましたか。
【大竹しのぶ】 あれは全部撮り終わって、何ヶ月も経ってから、アフレコのときに突然鶴橋さんに言われて(笑)。「こんなことでは屈しない。希望である」、そんな小夜子であってほしいと。だから「小夜子、あらわる!」って、怪獣みたいな感じで言いました(笑)。高齢の親御さんを持つ40、50代の方にぜひこの映画を観て、「小夜子が現れるかもしれない、気をつけなきゃ」って感じていただければ。親に面倒を見てもらって大きくなったんだけど、親の面倒を見るって精神的にも経済的にもけっこう大変なことだと思うんです。やっぱりみんなそれぞれに人生があるから。それを後妻業がやってくれるんだったら、それもありかな? なんて。殺しちゃいけないけど、いろいろ考えさせられるなと思いましたね。
 いまの高齢社会のなかで、幸せに年を取って死んでいける人って、一体どれくらいいるんだろうか? って。経済的な事情で特養に入れても、実はやりたくないかもしれないお遊戯とか折り紙とかして。“昔は楽しかったな”って思ってる人も、たくさんいるわけじゃないですか。本当に大きな問題だと思います。映画を観て笑った後、現実に戻ったときに、お金があったら後妻業もありかなって思ったりしちゃう。そこが、この映画の怖いところなんですよ(笑)。
(文:石村加奈)

オリコントピックス

あなたにおすすめの記事

 を検索