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佐藤二朗が明かす無名時代からの転機「売れていない俳優の利点を活かした」

 特異な存在感と独特な芝居で多くのドラマや映画、CMにひっぱりだこの俳優・佐藤二朗。現在放送中の『神の舌を持つ男』(TBS系)、10月スタートの『勇者ヨシヒコと導かれし七人』(テレビ東京系)など主要キャストとしてのドラマ出演が続き、今やすっかり“お茶の間の顔”になっている。そんな佐藤に、売れなかった時代とそこからの転機、さらに現在の自身を振り返ってもらった。

芝居もツイッターも“表現の欲求”を満たすものと語る佐藤二朗(写真:逢坂聡)

芝居もツイッターも“表現の欲求”を満たすものと語る佐藤二朗(写真:逢坂聡)

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福田雄一監督との特別な関係…恩なんて感じてる場合じゃない

――初の著書『佐藤二朗なう』が発売されたばかりですが、本の最後には盟友の(?)福田雄一監督がコメントを寄せていますね。
佐藤二朗 福田には僕から頼んだんです。こんな本を買ってもしょうがないと言いながらも、ちょっとだけ褒めてくれるはずだと。絶対にそういうテイストで書いてくると思っていたら、案の定まったくその通りで(笑)。それを読んですぐにお礼の連絡をしたら、「大丈夫でしたか? 二朗さん的には?」というすごく不安そうなメールが返って来て。もちろんそれも予想していました。全部、仏の手のひらで転がしてやったという感じです(笑)。

――佐藤さんにとって、福田さんとはどういうクリエイターですか?
佐藤二朗 やはり僕のことを、俳優としてすごくよく分かってくれている存在ですよね。それは言葉にできないくらいにありがたいことです。街を歩いていても、(『勇者ヨシヒコ』シリーズで演じた)仏と呼ばれることが多いですから。ただ、こういう取材で恩人はだれかと聞かれることも多いんですけど、福田の名前は意地でも出さないんです。福田にも口が裂けても言いませんし。この仕事を辞めるときにはお礼を言うと思いますけど、今この道でお互いに仕事をしている間は、恩なんて感じている場合じゃないので。そういう間柄です。

――今でこそテレビや映画で佐藤二朗という名前を見ないことはないほどの出演数ですが、役者としての転機は?
佐藤二朗 何回かあります。今はなき新宿のシアタートップスという劇場に、劇団『自転車キンクリート』の舞台を堤幸彦監督が見に来てくれて。そこで僕のことが気になったそうで、本木雅弘さんが主演したドラマ『ブラック・ジャック』(TBS系)にワンシーンだけ医者Aという端役で呼んでくれたんです。堤さんは無名の人でも“いい芝居”をすればそれを撮ってくれるのでおもしろいシーンになり、それを見た本木さんの事務所の社長からスカウトされ、今の事務所に入りました。

――まさに転機ですね。
佐藤二朗 それから、2004年の竹野内豊さん主演のドラマ『人間の証明』(フジテレビ系)に出演したのもそうです。僕は竹野内さんをいじめる刑事の役で、本当に大抜擢だったんですけど、無名だったのでみんな僕の顔を知らないわけです。でもそれって俳優としてはすごい利点で。だから「もしかして本物の刑事をキャスティングした?」と思われるまでとことんやってやろうと思ったんです。

――例えばどのような演技を?
佐藤二朗 捜査会議のシーンって、刑事が捜査状況を説明するんですが、役者さんのなかにはそれが説明セリフだと言って嫌がる人もいるんですよ。でも僕はそれは違うと思っていて。むしろ“本物っぽさ”を表現できる。本物の捜査会議を見た人はそうそういない。でも本物の捜査会議ってもしかしたらこんなふう“かも”と思わせるチャンスがある。そう思って台詞に妙な節をつけました。捜査会議以外のシーンでもわざと“演技の素人”のような芝居をして、とにかく「本物の刑事?」と観る人に思わせようとしました。後から聞いたら、スタッフの間では「なんだあの目立ちたがりの俳優は」と不評だったそうです(笑)。でもディレクターの河毛俊作さんだけは「あいつには好きにやらせろ」と言ってくれたんですよ。

◆出演作数を気にしたことはない、売れたいという欲求もない

――世間的な評判はどうだったんですか?
佐藤二朗 竹野内さんをいじめる悪役ということもあったんですが、ネットではけっこうたたかれましたね。でも、それは悪役の勲章みたいなものなので、僕はしめしめと思っていました。打ち上げのときに河毛さんから「このドラマで一番の収穫はお前だ」と言われたときは、本当にうれしかったですね。それからフジテレビの仕事が増えました。

――今では、お茶の間にも広く佐藤さんの顔が知られるようになっているわけですが、出演作が多いだけに、先ほどおっしゃっていた“利点”とは逆の難しさが増していませんか?
佐藤二朗 そうですね。顔が知られるようになってきて、この人は「演技の素人?」という企みはもう通用しなくなりました。でも、そこで俳優の楽しみがなくなったかというと、もちろんそんなことはない。ハードルが上がっていくなかで、諦めずにその役柄が本物に見える努力をしていかなくてはいけないわけですけど、それが俳優という仕事ですから。

――作品のなかで本物になるのが俳優ですね。
佐藤二朗 ただそれは作品によります。例えば、日常のなかで本物の仏が歩いていた、なんてことはないじゃないですか。福田組においては“本物”は無視していることが多いです。それから、芝居のなかで素で笑うということも俳優は絶対にあってはいけないんですけど、福田組ではそれも無視しています。なぜなら福田は1ミリでもおもしろいものを目指そうとしていて、そこに近づくことが一番だから。仏の場合は、素で笑ってしまってもいいんです。

――俳優は、仕事の成果や評価が見えにくいものだとも思います。佐藤さんはそういうものを数字に求めたりしますか?
佐藤二朗 数字で求めてもしょうがないという気持ちはあります。出演作数を気にしたこともないですし、売れたいという欲求も実はあまりありません。家族を養えるくらい稼げればいいと思っているくらいです。ただ、才能あふれる俳優たちと一緒に芝居がしたい、優秀な監督やスタッフさんと組んで仕事をしたいという想いがあって、俳優として知ってもらえるようになるとそこにつながっていきます。それが僕の役者としてのモチベーションかもしれません。数字という形で欲求が満たされなくても、芝居をすることや、ツイッターを書くことで表現の欲求が満たされるなら、僕はそれで十分ですね。
(文:壬生智裕)

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