昨年韓国で公開されると1270万人を動員し、韓国歴代興収TOP10入り(7位)した大ヒット映画『暗殺』(日本公開7月16日)。日本統治時代の朝鮮を舞台に、祖国独立を目指すレジスタンスと政府の抗争を韓国側の視点で描く内容が、“反日映画”でこそないものの当初日本公開は難しいとされていた。そんな同作に日本の密偵役で出演したのは、トップスターながらこれまで日本メディアの前に立つことはほとんどなかったイ・ジョンジェ。言葉は少ないながらも、ORICON STYLEのインタビューに真摯に答えてくれた。
◆18キロ減量して臨んだ日本統治時代の日本スパイ役
韓国で1000万人以上を動員するメガヒット映画にいくつも出演しているトップスター、イ・ジョンジェ。男同士の激烈な絆を描いた『新世界』、しびれるくらいのクールな悪役を演じた『観相師』などで、日本でも近年人気が急上昇中。K-POPアイドル人気とは異なる俳優としての評価で、女性ファンの心をしっかりと掴んでいる。そんななか、イ・ジョンジェの次なる大ヒット作『暗殺』がいよいよ日本上陸する。
1933年の日本統治下の朝鮮を舞台に、独立を志すレジスタンスと日本政府の密偵との暗闘を描く同作。イ・ジョンジェが演じたのは、朝鮮臨時政府の警務隊長であり、日本政府の密偵。日本政府要人と親日派朝鮮人の暗殺を企てるレジスタンスに属するが、実は日本側のスパイであり、祖国独立を願う同胞を“売る”役どころ。エンタテインメント作品とはいえ、昨今の竹島問題後の韓国と日本の穏やかならぬ関係性が尾を引いているなか、トップスターのポジションに立つイ・ジョンジェは、あえてその役を演じることの意義をどこに見出していたのだろうか?
「台本を読むと、映像が自然に頭に浮かび上がってきて、キャラクターたち全員が活き活きとしていてストーリーもおもしろいと感じました。監督とは撮影前から議論を重ね、(演じた)ヨム・ソクチンという難しい立場のキャラクターを作り上げていきました。20代前半から60代までを演じますが、ただ年齢の変化ではなく、ある男の極端な生き様を見せなければいけません。顎のライン、精気のないうつろな目など役づくりのため18キロ減量しましたが、挑戦しがいのある役でした」
◆葛藤はあった。祖国と民族を裏切るのは哲学に反する
物語に伝えるべきメッセージがあると信じる作品において、その役柄をまっとうする。俳優として前向きで真摯なスタンスだが、日本のスパイという役どころへの葛藤はなかったのだろうか。とくに、映画がエンタテインメントのメインストリームにある韓国では、大ヒット作の役のイメージがそのまま定着することも多々ある。1500を超えるスクリーンで上映され、動員1270万人という記録的ヒットになった同作は、実に国民の6人に1人が観ていることになる。この役を演じることで、自身のイメージの悪化や、熱量が高い観客からの反発などの不安はなかったのか。踏み込んで聞くと心の内をのぞかせてくれた。
「もちろん負担は大きかったです。祖国と民族を裏切るということは私自身の哲学にも反することだったので、役柄といえど葛藤はありました」
そんな不安や葛藤を踏み越えての役者魂を見せたイ・ジョンジェ。物語のラストには、その時代にそう生きなければならなかった、生き抜くために戦っていたひとりの人間の弱さが、心の奥底からこぼれだしたような言葉とともに表れる。そして、それぞれに正義がある時代性も描かれながら、韓国の多くの観客が溜飲を下げるであろう結末に結びつく。
同作を信じて、身を挺して祖国を裏切る役に臨んだイ・ジョンジェの評判は、決してマイナスになることはなかった。一部ファンからはネガティブなリアクションもあったようだが、それも役柄をしっかりと演じ切れたからこそ。むしろ、センシティブな役柄に確固とした覚悟を持って真正面からぶつかったイ・ジョンジェの俳優としての評価は、それまで以上に高まっていることがうかがえる。一方、作品としても、記録的大ヒットという結果がついてきた。
「そうなるのではないかという思いは、少しはありました。すばらしいストーリーと優秀な監督やスタッフたち、そこにチョン・ジヒョンさん、ハ・ジョンウさんをはじめ、実績と実力のある役者たちが集まって、渾身の努力をして挑みました。その努力をしたぶん、必ず成功させたいと思っていましたし、みんな成功を祈っていました」
◆出演作選びは、演じる意味のあるキャラクターかどうか
イ・ジョンジェの近年の出演作を見ると、映画が中心であり、日本での韓流人気のラブコメドラマなどにはほとんど出演していない。それでもここ最近、上述の2作やエンタテインメント大作『10人の泥棒たち』などへの出演で、日本でも映画ファンを中心に女性層への支持を広げている。一方、トップスターの地位を確立している韓国では、40代のベテラン俳優ながら20代の若手をしのぐ人気ぶりで、昨年の釜山国際映画祭のレッドカーペットに登場した際は、同日一番のわれんばかりの大歓声を一身に浴びていた。
そんなイ・ジョンジェの俳優業について聞くと、出演オファーが殺到しているなかでの作品選びについて「まずキャラクターありきです。観客にとって、もしくは俳優イ・ジョンジェにとって、その作品で演じる意味のあるキャラクターかどうかということです」。
また、多くの作品に出演してきたなかでは、俳優人生の転機になった作品もあることだろう。それには「映画『太陽はない』(1998年)です。その撮影現場で、キム・ソンス監督とチョン・ウソンさんがあそこまで情熱的でありながら楽しそうに取り組んでいる姿を見て、感じることが大いにありました」と明かしてくれた。撮影現場での居方、作品への向き合い方、それまでの俳優としての自身の姿を振り返るきっけかになっていたようだ。
では、クランクイン前には不安や葛藤もあった、自身のイメージが変わる可能性もあった、今回の『暗殺』撮影現場への向き合い方はどうだったのだろうか。「私にとって一番大変だったのは、毎日の撮影終了時です。いつもみんなで集まって、ビールを飲みながらその日にあったことを話していたのですが、私だけ(役作りのため)お酒が飲めず炭酸飲料を飲んでいたので(笑)」。
愛嬌のある気さくな人柄も人気の理由のひとつだろう。最後に、俳優として第一線で活躍し続けるために必要なことを聞くと、「努力、新鮮さ、そして根気です」とさらりと力強く語った。
◆18キロ減量して臨んだ日本統治時代の日本スパイ役
韓国で1000万人以上を動員するメガヒット映画にいくつも出演しているトップスター、イ・ジョンジェ。男同士の激烈な絆を描いた『新世界』、しびれるくらいのクールな悪役を演じた『観相師』などで、日本でも近年人気が急上昇中。K-POPアイドル人気とは異なる俳優としての評価で、女性ファンの心をしっかりと掴んでいる。そんななか、イ・ジョンジェの次なる大ヒット作『暗殺』がいよいよ日本上陸する。
1933年の日本統治下の朝鮮を舞台に、独立を志すレジスタンスと日本政府の密偵との暗闘を描く同作。イ・ジョンジェが演じたのは、朝鮮臨時政府の警務隊長であり、日本政府の密偵。日本政府要人と親日派朝鮮人の暗殺を企てるレジスタンスに属するが、実は日本側のスパイであり、祖国独立を願う同胞を“売る”役どころ。エンタテインメント作品とはいえ、昨今の竹島問題後の韓国と日本の穏やかならぬ関係性が尾を引いているなか、トップスターのポジションに立つイ・ジョンジェは、あえてその役を演じることの意義をどこに見出していたのだろうか?
「台本を読むと、映像が自然に頭に浮かび上がってきて、キャラクターたち全員が活き活きとしていてストーリーもおもしろいと感じました。監督とは撮影前から議論を重ね、(演じた)ヨム・ソクチンという難しい立場のキャラクターを作り上げていきました。20代前半から60代までを演じますが、ただ年齢の変化ではなく、ある男の極端な生き様を見せなければいけません。顎のライン、精気のないうつろな目など役づくりのため18キロ減量しましたが、挑戦しがいのある役でした」
◆葛藤はあった。祖国と民族を裏切るのは哲学に反する
物語に伝えるべきメッセージがあると信じる作品において、その役柄をまっとうする。俳優として前向きで真摯なスタンスだが、日本のスパイという役どころへの葛藤はなかったのだろうか。とくに、映画がエンタテインメントのメインストリームにある韓国では、大ヒット作の役のイメージがそのまま定着することも多々ある。1500を超えるスクリーンで上映され、動員1270万人という記録的ヒットになった同作は、実に国民の6人に1人が観ていることになる。この役を演じることで、自身のイメージの悪化や、熱量が高い観客からの反発などの不安はなかったのか。踏み込んで聞くと心の内をのぞかせてくれた。
「もちろん負担は大きかったです。祖国と民族を裏切るということは私自身の哲学にも反することだったので、役柄といえど葛藤はありました」
そんな不安や葛藤を踏み越えての役者魂を見せたイ・ジョンジェ。物語のラストには、その時代にそう生きなければならなかった、生き抜くために戦っていたひとりの人間の弱さが、心の奥底からこぼれだしたような言葉とともに表れる。そして、それぞれに正義がある時代性も描かれながら、韓国の多くの観客が溜飲を下げるであろう結末に結びつく。
同作を信じて、身を挺して祖国を裏切る役に臨んだイ・ジョンジェの評判は、決してマイナスになることはなかった。一部ファンからはネガティブなリアクションもあったようだが、それも役柄をしっかりと演じ切れたからこそ。むしろ、センシティブな役柄に確固とした覚悟を持って真正面からぶつかったイ・ジョンジェの俳優としての評価は、それまで以上に高まっていることがうかがえる。一方、作品としても、記録的大ヒットという結果がついてきた。
「そうなるのではないかという思いは、少しはありました。すばらしいストーリーと優秀な監督やスタッフたち、そこにチョン・ジヒョンさん、ハ・ジョンウさんをはじめ、実績と実力のある役者たちが集まって、渾身の努力をして挑みました。その努力をしたぶん、必ず成功させたいと思っていましたし、みんな成功を祈っていました」
◆出演作選びは、演じる意味のあるキャラクターかどうか
イ・ジョンジェの近年の出演作を見ると、映画が中心であり、日本での韓流人気のラブコメドラマなどにはほとんど出演していない。それでもここ最近、上述の2作やエンタテインメント大作『10人の泥棒たち』などへの出演で、日本でも映画ファンを中心に女性層への支持を広げている。一方、トップスターの地位を確立している韓国では、40代のベテラン俳優ながら20代の若手をしのぐ人気ぶりで、昨年の釜山国際映画祭のレッドカーペットに登場した際は、同日一番のわれんばかりの大歓声を一身に浴びていた。
そんなイ・ジョンジェの俳優業について聞くと、出演オファーが殺到しているなかでの作品選びについて「まずキャラクターありきです。観客にとって、もしくは俳優イ・ジョンジェにとって、その作品で演じる意味のあるキャラクターかどうかということです」。
また、多くの作品に出演してきたなかでは、俳優人生の転機になった作品もあることだろう。それには「映画『太陽はない』(1998年)です。その撮影現場で、キム・ソンス監督とチョン・ウソンさんがあそこまで情熱的でありながら楽しそうに取り組んでいる姿を見て、感じることが大いにありました」と明かしてくれた。撮影現場での居方、作品への向き合い方、それまでの俳優としての自身の姿を振り返るきっけかになっていたようだ。
では、クランクイン前には不安や葛藤もあった、自身のイメージが変わる可能性もあった、今回の『暗殺』撮影現場への向き合い方はどうだったのだろうか。「私にとって一番大変だったのは、毎日の撮影終了時です。いつもみんなで集まって、ビールを飲みながらその日にあったことを話していたのですが、私だけ(役作りのため)お酒が飲めず炭酸飲料を飲んでいたので(笑)」。
愛嬌のある気さくな人柄も人気の理由のひとつだろう。最後に、俳優として第一線で活躍し続けるために必要なことを聞くと、「努力、新鮮さ、そして根気です」とさらりと力強く語った。
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2016/07/08