海外で名の通る日本人映画監督のなかでも、ハリウッドリメイク版『THE JUON　呪怨』（2004年）で全米1位を獲得し、人を怖がらせるショックシーンの創造力やコンセプト力を高く評価されている清水崇監督。オリジナルのビデオ作品『呪怨』が発売されたのが1999年。その劇場版が大ヒットしたのは2003年のこと。清水監督は「『呪怨』に一番呪われたのは、自分（笑）。代表作ではあるけれど、10年以上も経っている。早く次の代表作を作りたいし、ホラー専門のようなイメージも払拭したい」とジレンマを語る。

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　社会現象にもなった『呪怨』抜きに清水監督は語れないが、アジアで初の3D実写長編映画にトライしたのも彼だ。2009年公開の『戦慄迷宮3D』は3Dカメラまで“手作り”して、新しい映像表現を武器に新境地を拓こうとした。その先で生まれたのが最新作『ラビット・ホラー 3D』（9月17日公開）だ。

　タイトルで“ホラー”を謳っているが、「ダーク・ファンタジーの要素が強い」作品に仕上がった。「派手なサプライズの恐怖描写が目立つホラーや“外へ向けて”の3D効果ばかりを狙ったハリウッドお得意の映画手法では脳がない…今作では、窮屈な親子関係や姉弟のきずなを軸に、血筋に関する秘密やトラウマといった無限の闇が広がる人間の内面世界を迷宮に見立てて、新たな恐怖のドラマを描きたいと思った」と清水監督。

　同作の主人公キリコ（満島ひかり）は、少女時代のある出来事がきっかけで失語症を患い、いまだに言葉を話すことができない。ある日、弟の大悟と映画館で3Dのホラー映画を観ていると、劇中のウサギのぬいぐるみがスクリーンから飛び出してきた…。

　この導入部分は、たぶんに3Dを意識したものだが、「何分かに1回、飛び出すシーンを入れるといった3D映画のセオリーは気にせず、今回はドラマを重視した」。前作と同じことをしたくないというクリエイターの“欲”を満たしたのは、「娘と父親が会話している引きのシーンが、3D技術を使うことで以前より臨場感を出せたように思う。それは撮影監督として参加してくれたクリストファー・ドイルの感性のおかげだし、満島さんや香川照之さんの役者の力も大きかった」と話す。

　ウサギのぬいぐるみを思わずつかみとってしまった大悟は、その夜から不思議な世界へと入り込んでしまう。弟の異変に気づいたある夜、何者かに連れ去られそうになっている弟を助けようとしたキリコの脳裏に、封印された過去の記憶が甦る。そして、父親（香川）からは衝撃的で残酷な真実が告げられて…。

　「今作は、人のうわさや、妄想、想像の産物だったものが、独り歩きして実在のものとされてしまう怪談めいた話が発想のもとになっている」というように、実在しているのか、実在していないのか、存在自体の危うさが不安をあおる。

　さらに、同作で一番のインパクトはウサギの着ぐるみだろう。ウサギ＝かわいいと記号的に思われていることを逆手に取って、白昼堂々と主人公たちを追いかけまわすウサギの姿はシュールで“怖い”。「相反するものをモチーフとして取り入れたかった。家族のきずなを取り戻そうとしているキリコの趣味が押し花で、現実から目を背けて閉じこもっている父親が飛び出す絵本を作っているという設定もその一つ」と説明する。

　そのウサギの着ぐるみを連れて、清水監督は今年のイタリア・ベネチア国際映画祭にも参加した。「『呪怨』という代表作があるのは幸せな事ですが、早くホラー以外の代表\作も生み出してみたい。一緒に仕事をした俳優や関係者からは“コメディ撮れば？”とよく言われるんですけどね…なかなか実現しない。次回作もホラーですし（笑）」と笑顔で話していた。

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