『遺留捜査』人気シリーズ化の決め手は良きマンネリと新鮮さの追求
事件解決後の“3分”が人間ドラマのクライマックス
第4シリーズから参加し、今作でも続投する藤崎絵三プロデューサーは、前作での試みを以下のように語る。
「第4シリーズのもっとも大きな試みは、舞台を東京から京都に移したことですが、これにはいい手応えを感じました。つまり『遺留捜査』という作品の性質と京都の情景が、非常にマッチしていたことに気づいたんです」
本シリーズのクライマックスは、容疑者の動機や被害者の最後の想いを、糸村刑事が事件関係者に語る事件解決後の「3分」だ。遺留品に秘められた事件の真実を、飄々としながらも温かみのある口調で糸村刑事が語り、関係者のかたくなだった心が解きほぐされていく。『遺留捜査』にはそんな人間ドラマとしての側面もある。
「この発見があってから、大事なシーンでは意識的に京都らしい画になるロケーションを配置するようにしました。この手法は第5シーズンでも踏襲します」
また放送時間も前シーズンまでは21時台だったが、第4シーズンから木曜20時台へと変わっている。
「木曜20時は主婦の方々に愛されている時間帯なので、女性目線を意識した明るめの画面にしました。結果的に、夏の京都の情景が鮮やかに映える画面になったとも思います」
とはいえ、藤崎プロデューサーはこうした第4シリーズの改善点について「あくまでマイナーチェンジであり、核の部分は初回シリーズから変わっていない」と断言する。
主人公像を守ることがシリーズ安定化に重要
「海外の刑事ドラマでも人気シリーズになっているものは、やはり主人公の性格なり能力なりを魅力的に描く作りになっています。ただ、シリーズが続いていくと、制作サイドがマンネリを恐れてなのか、キャラクターに少しずつ尾ひれが付いていって、ついには原型を留めなくなってしまうケースも往々にして見られます。視聴者が愛してくれる主人公像を守ることは、シリーズの安定化にとても重要だと思います。上川さん自身も昨年2年ぶりに演じるにあたって、何の違和感もなくスッと役に入れたとおっしゃっていましたが、糸村刑事の軸は初回シリーズからまったくブレていません」
主人公像だけでなく、ストーリー展開もマンネリになりやすいのが刑事ドラマというジャンルの性質だ。『遺留捜査』についても、事件解決のカギを握るのが遺留品であることや、糸村刑事の最後の3分の語りなど毎話おなじみの要素は多い。
「マンネリ=作品のコンセプトを崩さないことと捉えるのであれば、それは必要だと思っています。そうした縛りを崩さないレベルで、遺留品や捜査プロセス、事件の構図といったモチーフによって新鮮さを追求することで、いつまでも観たいと思ってもらえるシリーズを目指したいです」
「岩田刑事は糸村刑事との上下関係はないのですが、ちょっと先輩風を吹かせるような人物。糸村刑事とは真逆なキャラクターで、2人の掛け合いもおのずとコミカルなものになっていきます。プライベートでも親交がある上川さんと梶原さんの芝居の呼吸は絶妙。今シリーズで楽しんでいただきたい要素の1つです」
第4シリーズからの舞台となっている京都府警の捜査チームは、シリーズでも群を抜くエリート集団。クールかつスピーディーに捜査を進めていく捜査チームと、糸村刑事のマイペースぶりのギャップも見どころだったが、捜査チーム側にコメディ要素が加わることで、人間関係もより魅力的なものとして描かれそうだ。
そうした遊び要素はもちろん、遺留品や捜査プロセスも「これまで以上に見応えあるものとなっています」と藤崎プロデューサー。今期がさらなるシリーズ長期化への足がかりとなることに期待したい。
(文:児玉澄子)