やんごとなき乗り物
押しも押されもしない英国の名門、ロールス・ロイス。そのラインナップの頂点に君臨するのが、1925年からの伝統を受け継ぐハイエンドモデル「ファントム」である。8代目となる最新型の試乗を通し、このクルマだけが持ち合わせる無二の世界観に触れた。
古くて新しいメーカー
ロールス・ロイスという名前には長く輝かしい歴史があるが、現在の「ロールス・ロイス・モーターカーズ」社は、厳密には1998年にBMWがゼロから立ち上げた自動車メーカーである。
アラフィフ世代以上の好事家の皆さんならご承知のように、1931年から98年までのロールス・ロイスはベントレーと一体の企業だった。そんな英国の最高級車メーカーをめぐって、1990年代にフォルクスワーゲン(以下、VW)グループとBMWが激しい買収争いを繰り広げたのだった。
買収合戦そのものは、実体ある自動車メーカーとしての旧ロールス/ベントレー本体をVWグループが買収することで決着したが、BMWも負けてはいなかった。ロールス・ロイスの商標権が、じつは自動車メーカーとは別の航空機エンジンメーカーである「ロールス・ロイス・ホールディングス」が所有していることを突いて、ロールス・ロイスの商標権だけを譲り受けることに成功した。
こうしてBMW傘下でロールス・ロイスの名の下で設立された新しい超高級車メーカーが、最初に手がけたのが、2003年にデビューしたファントムだった。
ファントムは初代が1925年にデビューして、今回の新型で通算8代目となる歴史ある銘柄だが、前記の経緯からもお分かりのように、歴史ある工場や熟練の職人、そして架装技術など、有形無形の資産をすべて受け継いだのはVW傘下のベントレーのほうだった。
というわけで、現在のロールスは創業20年足らずの新興企業であり、超高級車のノウハウもすべてゼロから作り上げた。それなのに、こうして旧ロールスの威光をしっかりと受け継いで、イメージとしてもクルマそのものの完成度にしても、“世界で最もやんごとないクルマ”という存在感の確立に成功している。このロールスといい、同じ英国の「MINI」といい、こっち方面のBMWの手腕は見事というほかない。...