10人に1人といわれる左利き。右利きと脳の使い方が違う左利きには、自分の気持ちを言葉で伝えるのが苦手な人も多いといいます。コミュニケーションがうまくいかずストレスが溜まってしまうときには、どう対処すれば良いのでしょうか。
今回は、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)の発売を記念し、特別インタビューを実施。数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏に、左利きが生きづらさを解消するコツについて聞きました。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)
左利きが「繊細」になりやすい理由
──マイノリティである左利きが、抱え込みがちなストレスについて教えてください。
加藤先生(以下、加藤):もちろん「人による」というのは大前提として、ストレスを感じやすい傾向にはあると思います。左利きと右利きではそもそも脳の使い方が違いますし、マジョリティである右利き用に作られた社会のなかで、小さなストレスを抱え込みやすいんですよね。
たとえば、私は右利きよりも左利きのほうが、繊細で感受性の強いHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)の特性を持つ可能性が高いと考えています。左利きの人のほとんどがかなり繊細な特性を持っているんじゃないか、と思うくらい。
──そう思うようになったきっかけは、何かあったのですか?
加藤:左利きは、意識を向ける範囲が広くなりやすいんですよね。いや、広くならざるを得ない、と言ったほうがわかりやすいかもしれないな。
もともと人は、自分の利き手側に意識が向きやすいんです。右利きの人なら右サイドに、左利きなら左サイドに注目がいきやすい。ただ、左利きは、右利き用の社会に適応して生きるために、左サイドだけでなく、自分が得意としない右サイドにも注意を向けなくてはならないんです。
──たしかに、ICカードをタッチして改札を通るときも、左利きは「右でタッチしないと」と意識を向けなくてはいけませんよね。右利きなら、無意識にさっと右手が出るので困りませんが。
加藤:そうなんです。だから左利きには、左へ意識を向けながら右側にいる人と対話できるなど、そもそも視覚の注意の範囲が広い人が多いんです。これはもちろん左利きならではの強みですが、一方で、「いろいろなことに敏感になりすぎてしまう」という側面もあります。
たとえば、会議やミーティングのとき、みんなの気持ちを感じ取りすぎてしまって疲れるとか、顔色を伺いすぎてしまうとか、そういうお悩みはよく聞きますね。
右脳と左脳を“同時に使って”言語化する仕組み
──なるほど。本のなかで、「左利きは自分の気持ちを言葉でまとめるのが苦手」というお話もありました。となると、左利きの人にとって会議はかなり大変ということに……?
加藤:そうかもしれないですね。たとえば、「今の企画についてどう思う?」と突然投げかけられて、その瞬間にぱっと自分の考えを言う、みたいなのがすごく苦手なんです。これは左利きと右利きの脳の違いに原因があって。
基本的に、左利きは右脳が、右利きは左脳が発達しやすいと言われています。
右脳は、画像や空間などの非言語系情報の処理が、左脳は言語系の処理が得意だと言われていて、役割が異なっている。それで、ある研究によると、右利きの人のおよそ96%が左脳で言語系の処理をしていたのに対し、左利きはおよそ73%だったんです。(?)
この結果からわかるのは、右利きのほとんどが左脳のみで言語処理を完結させられるのに対し、左利きは「左脳と右脳の両方のネットワークを同時に使わないと言語化できない」ということ。
つまり、言葉に置き換えて言いたいことを発するまでに使用する脳のルートが、右利きよりもほんの少し遠回りなんです。
本当はすぐ言えば済む話なのに、いちいち頭の中で遠回りして考えてしまうとか、伝えたいイメージはあるのに、それと言葉をうまく結びつけることができないとか、そういう感覚を抱いたことがある人も多いんじゃないでしょうか。私も話していると、優柔不断になってしまったり、言葉が出ないのをようやく出しているような感覚になったりするんですよね。
生きづらさを解消するには
「観察」と「推測」がおすすめ
──コミュニケーションが必須の仕事場においてそんな生きづらさを抱えていると、つらいですね。どのように訓練していくと良いでしょうか。
加藤:とにかく「観察」と「推測」の癖をつけるのがおすすめです。会議で「あなたはどう思う?」と聞かれる前に、周囲を観察して「こういうことを聞かれそうだな」と推測しておくんです。
もともと左利きは、右利き社会で生き残るために幼い頃から「観察」と「推測」を繰り返していますから、慣れればすぐにできるようになると思いますよ。そうやってつねに心の準備をしておくようにすれば、突然何か振られても慌てなくて済みますしね。
──ただ、周りに注意を向けてばかりだと、疲れてしまうという人もいそうです。
加藤:それはあるかもしれませんね。だから、それと同時に、「右利きへの遠慮を捨てる」ということも心がけられるといいかもしれません。
同調癖をひっくり返して、自分は何をやりたいのか、しっかりと自問自答する時間を定期的に持つこと。私は今回の本の中で「ひらめきノートを書く」というワークを提案していますが、ぜひみなさんにやってほしいですね。右脳が発達している左利きは直感が鋭く、いいアイデアややりたいことなど、ひらめきがどんどん生まれやすいんです。
仕事とかでも、家に帰ったあとによりよいアイデアが浮かんできたり、「あのとき〇〇さんが言っていたこと、絶対おかしかったよな」とか「もっと言い伝え方があったはずなのに、なんであんなこと言っちゃったんだろう」とか、時間が経つごとに考えが膨らみやすいんです。
だから、マジョリティである右利き社会で生きている左利きは、周りに同調することも、自分のアイデアを大切にすることも、どちらもできるんです。今日は周りに合わせておこうとか、今日は合わせずに、自分の言いたいことを言おうとか、どちらもできる。選択肢が広いのは左利きならではの強みだと思うので、ぜひ生かしていってほしいなと思いますね。
参考文献: Knecht S, Dräger B, Deppe M, Bobe L, Lohmann H, Flöel A, Ringelstein EB,Henningsen H. Handedness and hemispheric language dominance in healthy humans. Brain. 2000;123 Pt 12:2512-8. doi: 10.1093/brain/123.12.2512. PMID:11099452.
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第1回 「左利きは右利きに矯正すべき?」脳内科医が明かすメリット・デメリット
第2回 「左利きには天才が多い」脳内科医が断言する納得の理由
第3回 左利きの才能「活かせる環境、そうでない環境」決定的な差