孫悟空でいいじゃないか!
フェラーリのフラッグシップオープンスポーツ「812GTS」に試乗。最高出力800PSを誇る伝統のV12エンジンと、ワンタッチで開閉可能なリトラクタブルハードトップが織りなすオープンエアモータリングを、新緑のワインディングロードで味わった。
天下取ったー! の気分
現代のフェラーリのすごさは融通無碍(むげ)な柔軟性にある。V12を搭載するフラッグシップフェラーリともなれば、ゼロスタートから340km/hの最高速までを悠々とカバーする。環境さえ許せば、誰でもスロットルペダルを踏み込むだけで、何ら特別な技量を必要としない。
考えてみれば、それはとてつもないことなのである。他のクルマに埋もれて一般道を走っていると、いつの間にか40km/hちょっとの速度でもトップの7速に入り、まったくむずがることなく粛々と走るというのは、実は驚異的なことである。
昔のスーパーカーを経験した世代だからこそ感慨ひとしおだ。ある限られた速度、限られた回転数だけでなく、全域で縦横無尽にして天衣無縫のレスポンスと怪力を持ちながら、まったく無理なく、ひたすら従順に走る。0-100km/h加速3秒以下というパフォーマンスよりも、これこそが技術の進歩というものだろう。ちなみにクーペの「812スーパーファスト」は同2.9秒と発表されていたが、こちらは3秒以下という表記で最高速は同一である。
6.5リッター自然吸気V12を朗々と響かせて加速すると、まるで山のてっぺんから四方を見渡しているかのような雄大な気分である。その時だけは王様だ。
2019年の秋に発表された812GTSは、812スーパーファストのコンバーチブルモデルである。フェラーリによれば、シリーズ生産のV12スパイダーは「365GTS/4」、通称「デイトナ スパイダー」以来だという。そう言われてみればそうだ。「550マラネロ」にも「バルケッタピニンファリーナ」というオープンモデルが存在したし、その後の「575Mマラネロ」や「599」にもオープントップ仕様はあったが、それらは皆限定シリーズであり、シリーズ生産のフロントエンジンV12スパイダーとなると、このGTSがデイトナ スパイダーのデビュー以来、実に50年ぶりということになる。
もっとも、1973年まで生産されたデイトナ スパイダーの台数は全部で130台あまり(当然今では博物館レベルの貴重品、デイトナ全体でも約1400台にすぎない)、市販モデルとはいっても現在のフェラーリとは比較にならない規模だった。...