





世界的にも高く評価された、
新型の『マツダ アテンザ』
マツダと言えば現在、“車好き”として知られるアーティスト・奥田民生さんが企業CM曲を歌っていることでもお馴染み(民生さんも広島出身)。特にデザインに関しての評価が高く、昨年は世界各国のジャーナリストやデザインのエキスパートにより審査される『2013 ワールドカーデザインオブザイヤー』で新型の『マツダ アテンザ』がTOP3に選出。さらに、秀でたデザイン、ドライブフィールなどを持つクルマに与えられる『2013-2014日本カー・オブ・ザ・イヤー エモーショナル部門賞』を受賞するなど、国内外を問わず人気を集めています。

ファンにはたまらない
歴代の名車の数々が展示される
工場を見学する前に、まずは同じ敷地内に建設される『マツダミュージアム』で、同社のクルマづくりの歴史をおさらい! ちなみに、敷地内はとっても広大で、あちらこちらへの移動手段はすべて車でした。さて、早速中に入ると歩みを辿る年表がお目見え。順を追って説明してくれるので、クルマの発展とともにしっかり学ぶことができました(1920年の創業当時、コルクを製造する会社だったと知って驚き)。
そして、戦前主流だった3輪自動車や、80年代に一世を風靡した赤いファミリア、特撮番組『帰ってきたウルトラマン』でも使用されたコスモなど、クルマ好きにはたまらない歴代の名車たち。ロータリーエンジンの断面図やクルマ作りに使用されるパーツなど、クルマに疎い私にとっても心高鳴る展示の数々でした。

マツダの歩みを年代別にプレイバック!

工場で実際に作業する模様も見学できます!

魂動の“デザインオブジェ”

こちらがクレイ。この粘土を使って手作業で
模型を作成していきます
理解が深まってきたところで、いよいよ開発拠点へ! 冒頭で“マツダはデザインがすごい”と説明しましたが、まずはその秘密に迫っていきましょう。昨今のクルマ作りは、デザイン作成から車体作りまでの過程をすべてパソコン上で処理することが多くなってきているそうですが、マツダは“クレイ”という特殊な粘土を使って手作業で模型を作成、デザインを立体化するという手法をとっています。今回はそのこだわりのクレイルームを見学させていただきました。
さまざまな動きのある造形を模索していたマツダは、2010年秋に今後のデザインテーマを統一し“魂動(こどう)”と定義することを発表。これは、生物が見せる一瞬の動きや強さ、美しさを表現したもので、クレイモデラーたちはデザイナーのアイデアを元にその肉体的な曲線美を手作業でカタチにしていくのです。
魂動をテーマにしたマツダにおけるカーデザインの手順は、(1)テーマを象徴する“デザインオブジェ”を作成⇒(2)デザインコンセプトを決め、それに沿って外形や室内、カラー設計を行う⇒(3)外形や室内、カラー計画をクレイモデルを作り立体化する⇒(4)設計や生産技術と連携し、工場で製品化できる最終的な姿に仕上げる――というもの。

1/4スケールモデル(左)と
フルサイズのモデル(右)
見学させていただいたクレイルームでは、主に(3)の作業を行います。まず、1/4等のスケールモデルを製作し、ある程度の形が見えてきたらフルサイズモデルの製作へと移っていくそうなんですが、ここがポイント! マツダでは、クレイモデルを製作しながらデザイナーとクレイモデラーを中心に何度もディスカッションを重ね、「今までにない新しいクルマ作り」に全身全霊を注ぎます。そこで、クレイを使った“手作業”にこだわる理由は、即座にトライ&エラーができることだと言います。
コンピューターで映し出す3Dのモデルと実物のモデルとでは“見た目の印象”も異なり、手作業で製作することで、その場でイメージを確認することが可能に。スピード感をもって議論を重ねることができるのです。また、ディスカッションは、必ずお互いが顔を合わせた状態で実施。上下関係なく何でも言い合える“風通しの良い環境”を作ることが、最高の一台を作るためには必要なんだそう。
マツダでは、そうやってこだわることで、クレイモデルにかける時間をしっかり設け、何度も作り直すためクレイの使用量がとても多いんだとか。そして、モーターショー等で披露される、デザイン重視のコンセプトカーと量産車との“差”を極限まで減らし、デザイン性に優れたクルマ作りを目指しているようです。

ハンドルなど、
内部の細かいパーツも作成します

クレイを削ったり、
曲線を描くために使用する小道具は、
自身が使いやすいよう手作りした物も

あっという間にクレイを塗りつけてしまった
職人さんたち、さすがです!
指には匠の証として見事な“クレイだこ”が

今回説明してくださった
(左から)助川裕さん、森脇由香さん
クレイにかける情熱がわかってきたところで、実際にクレイを触らせていただけることに! 常時のクレイは硬く、造形していく際は45度〜50度に温めて使用。そのため、室温は1年を通して常に23度程に設定されているそう。早速触ってみると、初めのうちは温かく柔らかい印象でしたが、クレイの温度の低下とともにあっという間に固体へ。
実際に造形作業も体験させていただきましたが、どんどん硬くなってクレイを一定の薄さに塗りつけていくのは至難の業! 人差し指の内側に力を入れて塗っていくんですが、馴れていない私の指はすぐに悲鳴をあげてしまいました(職人さんの指には証として見事な“クレイだこ”が)。塗り終わったら小道具で削り、造形していきます。この工程も削りすぎてしまったり、デコボコになってしまったりと、素人にはまったく歯が立たず……。ましてや、曲線美を作り出すなんて気が遠くなる作業です。
クレイモデラーの助川裕さん、森脇由香さんにお手本を見せていただくと、お2人は何の躊躇もなく、クレイを塗って形を削り出していきます。この仕事に就いて助川さんは21年、森脇さんは11年。仕事柄「子どもの夏休みの宿題などは見る目が厳しくなります(笑)」と森脇さん。どんな時に喜びを感じるかを聞くと、助川さんは「クレイモデルが完成した時はもちろん、街で完成した車が走っているのを見た時もすごく嬉しいですね」と笑顔で語ってくれました。
国内外で絶大な人気を誇るマツダのデザイン。それを支えているのは、情熱をかけ最高のモノを作ろうと日々磨きをかける匠たちの技。そして、生産者たちがクルマに注ぐ愛情のようです。