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地下アイドルヲタの現場記録〜知られざる世界の実情〜【第5回】
【第5回】ファンとヲタは違う生き物!
アイドル現場では大抵“おまいつ”や“TO”と呼ばれる者がいる。
“おまいつ”とは、“おまえいつもいるな”の略で、どこの現場でも必ず来ている出席率99%レベルの超おっかけのことを指す。地下アイドルは、年間のライブ本数が100本を超えることはザラにあるが、そのほぼ全てに通っているのだ。
もちろんそれが休日であれば全然問題はないのだが、学校に通っているアイドルたちには夏期休暇や冬期休暇というものが存在する。ということは、その期間は平日でもお構いなしにライブが組まれる。
……どう考えても、マトモな社会人生活をしていれば平日の夜、ましてや昼になんてライブに行けるわけがない。だが、なぜかなぜか、彼らはいるのだ。
なんの仕事をしていればそんなことが出来るのか……まぁそれは野暮なので聞かないが(本当は怖くて聞けない)、とにかく場所がどこであれ何時であれ、彼らはいつも通りに来ていつも通りのポジションにいる。
当然チケット代だってかかるわけだし、それに伴い莫大な時間も消費している。
我々はこんな人たちをヲタと称し、この活動をヲタ活と呼ぶ。いわゆるファンとは一線を画した種族だ。もう、社会的信用なんて言葉からはかけ離れたぶっ飛んだ存在だ。
いくらファンでも、昼の部に行ったから夜はいいや。昨日行ったから今日はいいや。という心理が働くだろう。わからないでもない。多少の調整はあるにしろ、曲順も構成もまったく同じでやるのだから。
けどおまいつのヲタには、そんなことは一切問題にならない。今日は東京で2公演、明日は名古屋で1公演、明後日は大阪で3公演。仮に全部同じ曲順と衣装であったとしても、それはそれなのだ。いつも通りに応援するだろう。行くだろう。それがヲタって生き物なのだ。
ヲタがいう「好き」と、ファンがいう「好き」のレベルには凄まじく大きな差があると感じていて、やはりそれは実際に現場に通っているエネルギーの違いなのだと思っている。なので、私はヲタの前で軽々しく「好き」って言葉は出さないようにしている。自分よりもまだまだ上のヲタさんなんかたくさんいるのだ。
もうひとつ、ファンとヲタの違いを例に挙げてみよう。
仮に、9月15日が彼女との交際1年記念日だったとする。TDLに行きたい〜!なんて。それは大切な日だ。わかる。わかっている。けど……週末なんて確実に現場はある……。
とはいえ、さすがに現場があるから行かないよ、とは言わない。
だが、どうやったら回せるか?は考えてしまうと思う(笑)。
17時に終われば18時からは現場行けるから、ライブは諦めても物販で握手とチェキくらいは行けるかな?と。よし!じゃあ朝から夕方までで交渉しよう!と(笑)。
実際、どうしても断れない合コンが入ったと言って17時スタートのイベントで18時に中抜けして合コンに出席し、20時には現場に戻ってきたヲタもいた。
こんな、人生を捧げているとしか表現のしようがないヲタ活の日々。
ここまで来るとむちゃくちゃ格好いいと本気で思う。当然、彼女からしたら最悪だけれど。
そして実はこのヲタたちのなかには、さらに上の階級である“TO”と呼ばれる者が存在する。“トップヲタ”というやつだ。
“TO”と呼ばれるようになるには様々な要因が絡んでいると思うが、おおむねは応援している期間の長さや現場への出席率による。
その立ち位置になると、推しの生誕祭に備えての花束やケーキ(生クリームやチョコは苦手かどうかまで把握する)、サイリウムなどの準備もやらなくてはいけないし、運営とのネゴもしておかなければならないので、人格的にもしっかりとしている者が多い。優良現場と呼ばれる界隈では、やはり“TO”は頼られる存在になっているし、現場を支える大きな屋台骨とも言える。
だが、そのクラスに辿り着いてしまったら、そうそう普通の一般的な生活には戻れないだろう。ハマればハマるほど抜けられない場所。それが地下アイドル現場の特徴でありおもしろいところだ。
……オススメはしないが。
(文:シーウィード高科)
連載:地下アイドルヲタの現場記録 BUCK NUMBER
【最終回】地下現場に通うヲタの気持ち
【第9回】新規アイドルファンに注意セヨ!
【第8回】ロックフェスにアイドルがブッキング!
【第7回】アイドル業界のビジネス
【第6回】推し被り敵視と心の病み
【第5回】ファンとヲタは違う生き物!
【第4回】ブレイク=古参が離れるタイミング[Part2]
【第3回】地下→ブレイク→地下のループ[Part1]
【第2回】女の子に突きつけられる競争社会の現実(握手会編)
【第1回】地下アイドル現場の実情(序章)
[PROFILE] シーウィード高科
出版業界で働きながらもモーニング娘。の登場でアイドルにハマり、その後、有名無名の様々なライブに通うようになる。1年間でのライブの本数は約200本。現在はデジタルコンテンツ・プランナーとして働きながらアイドルライターとしても活動する。ご飯代よりも握手とチェキ代を優先しているうちに自然にダイエットに成功した現場主義者である。