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“漫画キャラ”昭和、平成、令和…時代で変化する人気の変遷 「支えてあげたい」推し活ファン心も漫画文化を後押し

 漫画大国と呼ばれる日本では、これまでに多くの漫画キャラクターが誕生してきた。漫画作品の人気はその時代を反映するものだが、登場キャラクターもしかり。時代の移り変わりとともに、読者の心境に寄り添ったさまざまなキャラクターが共感を集め、支持されてきた。また最近では、自分にとってイチオシの人物を応援する「推し活」というアクティビティもすっかり浸透しており、「推し」の対象は漫画のキャラクターにも広がっているようだ。時代背景やトレンドを振り返りながら、読者を惹きつける漫画キャラクター人気の変遷について探る。

90年代の“暗黒時代”、戦うことに疑問を抱く「等身大ヒーロー」たちの台頭

 豊かな漫画文化を持つ日本では、きっと誰もが「好きな漫画キャラクター」を1人や2人は挙げることができるだろう。では、昭和から現在までを振り返ると、これまでにどんなキャラクターが人気を集めてきたのか。80年代以降の時代背景と漫画キャラの人気の傾向について、漫画読者の傾向をリサーチするブックライブの書店員「すず木さん」に話を聞いた。

 80年代は、『週刊少年ジャンプ』(集英社)黄金期のはじまりとされる時代。人気を集めた漫画の登場人物を振り返ると、すず木さんは「『キン肉マン』や『北斗の拳』のケンシロウ、『ドラゴンボール』の孫悟空といった超人級のキャラクターたちが、多くの読者を熱狂させていました」と熱く語る。

 壮大なスケールで描かれる異次元の世界を舞台に、縦横無尽に活躍するキャラクターたち。個性的なキャラクターが続々と誕生し、読者は憧れやワクワク感を抱き、思いを馳せた。それが90年代に入ると一転、人気キャラクターの傾向に変化が起きたという。

 「90年代に“ノストラダムスの大予言”ブームが拡大したこともあって、例えば『新世紀エヴァンゲリオン』(現KADOKAWA)やCLAMPの『X(エックス)』(現KADOKAWA)など、世界滅亡や終末思想の要素が含まれる作品や、オカルトを題材とした漫画が非常に増えました。みんなが何となく不安を感じていた時代だったと思います。その影響もあって、「エヴァ」の碇シンジや渚カヲル、『幽☆遊☆白書』(集英社)の蔵馬や飛影などが、人気を集めていました。80年代と比べると、“男らしさ”というよりも、中性的な魅力が増した印象です」

 80年代から90年代は、画期的な技術や様々なカルチャーが大きな躍進を見せた一方で、日本の景気が大きく後退した“暗黒時代”でもあった。そんな時代に誕生した漫画で描かれるヒーローは、戦うことに疑問を抱き、葛藤する複雑な心境まで描かれることもあった。世界を救うよりも、家族や友人、恋人など、身近な場所にいる人を想い、大切にしたい。そんな繊細な内面をも描かれたヒーローたちの姿に、多くの読者が共感し、心揺さぶられたのかもしれない。

「待つ女から“勝ちに行く”女へ」80〜90年代にみる女性キャラの変化

 一方で、女性キャラクターはどうか。1985年に男女雇用機会均等法が制定され、当時から女性の社会進出は始まっていた。しかし80年代は、まだ専業主婦が多数派だった。

 「80年代までの少女漫画の主人公は、『“普通”の私を非日常に連れて行ってくれる男性を待つ』タイプのキャラクターが多かったように思います。『めぞん一刻』(小学館)の音無響子は、清楚で守ってあげたくなるイメージ。『うる星やつら』(小学館)のラムちゃんは、能力者という力はあるけれど、一途で男性と一緒に生きる女性として描かれました。『ときめきトゥナイト』(集英社)の江藤蘭世は、王子様との憧れの恋愛という物語で、ファンタジーな恋愛に憧れる女性読者からの支持が厚かったと思います」

 そんな中で衝撃的だったのが、90年代に登場した『美少女戦士セーラームーン』(講談社)だった。守られる側だった女性が、“守る側”となり、自ら未来を切り開いていく物語だ。

 「月野うさぎをはじめとする主要メンバーは、キラキラと華やかで可愛くて、望むもののためには自ら戦うという強さも兼ね備えています。この時代の女の子たちの理想がすべて詰まった、革命的な存在でした」

 『美少女戦士セーラームーン』に始まった戦う女性キャラクターの系譜は、現在も人気ジャンルとして続いている。たとえば昨年からスタートした、漫画のキャラクターを讃える『マガデミー賞2021』(ブックライブ主催)で主演女優賞に輝いた『暁のヨナ』(白泉社)のヨナも、根強い人気を誇る魅力的なキャラクターだ。

 「彼女は最初から強かったわけではなく、頼りなかった彼女が冒険を通して成長していく姿が『勇気や感動を与えてくれた』と、男女問わず支持されています。特に女性読者は、社会の荒波に揉まれる自分を投影して『背中を押してもらえた』というコメントが多いんです」

“雑誌ブランド”に頼らずヒットへ、2000年代以降の電子書籍の功績

 2000年代に突入すると、電子書籍が登場。雑誌のブランド力がなくても、多くの読者に作品が届けられるようになり、大手出版社以外の作品がヒットするケースも増えたという。

 「とくに人気を集めたのが、『鋼の錬金術師』(現スクウェア・エニックス)のエドやロイ・マスタング大佐などです。キャラクターを応援する読者の思考が、作品丸ごと応援したいという気持ちにシフトし始めたように感じます。このほかにも、『BLEACH』(集英社)の黒崎一護や朽木白哉、女性キャラだと『フルーツバスケット』(白泉社)の本田透など。この頃あたりが、“推し文化”の始まりかもしれませんね」

 2000年代は、電子書籍が後押しするかたちで海外版を出版する出版社も増え、世界的に漫画の地位が向上。2010年代もその勢いは続き、読まれる漫画の数が格段に増えた。読者にとってますます漫画が身近な存在となり、トレンドの移り変わりも早くなっていったようだ。

 その後、推し活はじわじわとメジャー化。漫画のキャラクターを相手に、実在の人物さながらに愛情を注ぐ人も増えていった。すず木さんも、自身が学生だった2000年代初頭までの漫画の受け取られ方との大きな変化を語る。

 「かつては『漫画のキャラクターが好き』と愛を込めて言うと、ちょっと変わり者扱いされたものです。だけど今では、誰もが気軽に“推し活”を楽しめる時代になりました。この10年の人気キャラを振り返ると、たとえば『銀魂』(集英社)の坂田銀時、『進撃の巨人』(講談社)のリヴァイ・アッカーマン兵長、『名探偵コナン』(小学館)の安室透など。『架空の人物という存在を超えて大好き』と、ファンの心を掴んでいます」

 最近とくに印象強かった漫画キャラとしては、今年1月期でドラマ化もされた『ミステリと言う勿れ』(小学館)の主人公・久能整だ。来年秋には映画化も発表され、キャラクターの魅力もますます広がりを見せている。

 「昨年の『マガデミー賞2021』で主演男優賞を受賞したのが彼でした。特に評価されたのが、「名言度」と「現代とのマッチ度」。鋭い観察眼や多方面から物事を分析した発言に、読者からの推薦コメントでは『今まで言語化できなかったモヤモヤをズバリと指摘してくれた』『言いたいことを代弁してくれてありがとう』と、多くの読者が共感と感謝のメッセージを寄せています。彼はまさに、多様性を重んじる今の時代のヒーローなのだと思います」

“推し活”メジャー化した2010年代、漫画キャラが人々に与えた豊かな生き方

 2010年代以降、電子書籍の普及とともに、漫画作品の総数は格段に増加。それに伴い、キャラクターに寄せるファンの熱量も高まっている。グッズを身につけたり、展示会イベントに参加したりと、ファン同士がリアルやSNSで繋がったりといった“推し活”がメジャー化したのも、漫画のキャラクターをより身近に感じている現れなのだろう。

 今年とくに勢いを増した『東京卍リベンジャーズ』(講談社)のマイキーこと佐野万次郎は、『マガデミー賞2021』で助演男優賞を受賞している。すず木さんは、彼が支持を集めた背景について、「カリスマ的存在の強いキャラだけど、どこか不安定で危うい部分も持ち合わせています。そこが、『支えてあげたい』『フォローしてあげたい』と感じさせます。完璧ではないところも魅力的ですよね」と、推したくなるファン心理について解説する。

 読者が共感できるところも人気キャラの外せないポイントだが、最近だとどんな作品のキャラクターが支持を集めているのか。今後人気を集めそうなキャラクターについても聞いてみた。

 「漫画ファンが注目する『クイーンズ・クオリティ』(小学館)の主人公・文ちゃんの“開き直り力”に、個人的にも感銘を受けています。私自身、自分に自身がなくてマイナス思考。人の発言をネガティブにとらえてしまったりするんですが、とくに仕事をする中で、同じように感じる人は多い気がします。物事に追い込まれたときに、どうモチベーションを上げていくか。そうして気持ちを切り替える彼女の強さはとても理想的です。仕事や対人関係に振り回されて、心を病む人の多い現代において、ある種の指標になるキャラクターだと思います」

 今や漫画のキャラクターは生活に潤いや活気を与え、コミュニケーションを豊かにしてくれる存在にまでなった。現代人に多くの喜びをもたらしてくれる漫画のキャラクターたちに、今こそ感謝を寄せたいものだ。
【プロフィール】書店員・すず木
オススメ作品を紹介する連載『月刊 書店員すず木』(外部サイト)

 2005年にBookLiveの前身である株式会社ビットウェイに入社し、コミックサイトの運営に従事。その後、事業統合により2013年に株式会社BookLiveへ。現在は主に少年・青年マンガジャンルをメインに、サイト運営を担当。また、キャンペーンの企画、おすすめ特集ページの作成を行い、ユーザーにマンガとの出会いを提供している。年間に約 2000 冊ものマンガを読み、一回読んだマンガも多い時には 50 回以上読み返すことも。元々本の虫で、趣味であるマンガを読める環境が天国だと感じ、現在では今の仕事が天職のように感じている。「漫画についてはこの人に聞けばいい、何を読むか迷ったらブックライブを覗いてみればいい」。こんな風にユーザーに思ってもらえることが目標。ただ“メディア化されている”、“宣伝したい作品”ではなく、面白いと思った作品を自身の言葉で発信している。人生を変えたマンガは『東京BABYLON』(CLAMP)。

ブックライブ(外部サイト)

【プロフィール】書店員・すず木

  • ブックライブの“プロ書店員”すず木さん

    ブックライブの“プロ書店員”すず木さん

 2005年にBookLiveの前身である株式会社ビットウェイに入社し、コミックサイトの運営に従事。その後、事業統合により2013年に株式会社BookLiveへ。現在は主に少年・青年マンガジャンルをメインに、サイト運営を担当。また、キャンペーンの企画、おすすめ特集ページの作成を行い、ユーザーにマンガとの出会いを提供している。年間に約 2000 冊ものマンガを読み、一回読んだマンガも多い時には 50 回以上読み返すことも。元々本の虫で、趣味であるマンガを読める環境が天国だと感じ、現在では今の仕事が天職のように感じている。「漫画についてはこの人に聞けばいい、何を読むか迷ったらブックライブを覗いてみればいい」。こんな風にユーザーに思ってもらえることが目標。ただ“メディア化されている”、“宣伝したい作品”ではなく、面白いと思った作品を自身の言葉で発信している。人生を変えたマンガは『東京BABYLON』(CLAMP)。

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『マガデミー賞2022』今年も開催


■マガデミー賞(外部サイト)
毎日の勇気や感動、豊かさを与えてくれる漫画のキャラクターたちを讃えることを目的とした賞。2021年に創設された。1年間で単行本が発売された漫画のキャラクターが対象で、読者の推薦と審査員の選考で受賞が決定する。ブックライブが主催。

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