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再びシーンも活況、「アカペラ」コンテンツの今 コロナ禍を逆手にリモートアカペラ…多様化する“自己表現”
アカペラブームをけん引した、ゴスペラーズと「ハモネプ」の功績
日本におけるアカペラグループの第一人者・ゴスペラーズがメジャーデビューしたのは1994年だが、ライブ動員は順調なものの、すぐには大きなヒットを掴めずにいた。その理由として考えられるのが、日本にアカペラという音楽が定着していなかったことだろう。
2001年、フジテレビの人気バラエティ『力の限りゴーゴゴー!!』内で、アカペラで活動する若者たちを応援するコーナー『ハモネプリーグ』が始まる。リードボーカルやコーラスパートだけでなく、声だけで打楽器のような効果音を出したり、楽器の音色を真似たりといった音楽手法の豊かさは、当時の視聴者に新鮮な驚きを呼んだ。ボイスパーカッションという手法が広く知られるようになったのも、この番組の影響が大きいはずだ。
こうして「ハモネプ」の熱狂とともに、アカペラそのものにも脚光が当たるようになった。また2001年は、ゴスペラーズの「ひとり」が大ヒットを記録し、NHK紅白歌合戦に初出場したことも大きな話題を集めた。以後、RAG FAIR、INSPi、Little Glee Monsterといった後進グループも続々と活躍する礎を築いた。
プロからアマチュアまでグループの層が厚いのは、楽器が弾けずとも誰でも気軽にチャレンジ出来るのがその要因であり、アカペラの最大の魅力と言えるだろう。
仲間同士の“息づかい”で伝わるグルーヴ、コロナ禍で魅力が仇となるも“逆転の発想”で新手法が誕生
しかしその一方で、アカペラには「声だけで作られている音楽」という根本的な魅力がある。やがてコロナ禍では、その「場所」をリアルからオンラインに移した「リモートアカペラ」という手法が編み出された。
個々が撮影した歌唱動画を編集することで1曲に仕上げる「リモートアカペラ」は、場所はもちろん時間に縛られることもないことから、アカペラの可能性を次のステージへと押し進めている。今やYouTubeには無数のリモートアカペラ動画が投稿されているが、その中には国や地域を超えたものも多い。「大学のアカペラサークル仲間が卒業から久しぶりにオンラインで集まることができた」、「国際リモートアカペラのプロジェクトに参加した」といった人もいたようだ。
シーンはネクストステージへ、アニメ声優が挑むアカペラも誕生
CDアルバム『アオペラ -aoppella!?-3』(2022年2月10日発売)
『アオペラ』とは、アカペラに魅了された高校生たちの青春ストーリーをメディアミックスで展開していくプロジェクトで、人気と実力を兼ね備えた11名の男性声優がキャラクターの声を担当している。つまり、“声のプロ”である声優が、キャラクターを演じつつもアカペラを披露するというプロジェクトである。
近年は音楽を軸とした作品が増え、キャラクターソングを歌うことも多く、今や「歌」も声優に求められる重要なスキルとなっている。それと共にユーザーの耳もどんどん肥えており、中途半端なクオリティでは満足させられないことは声優自身が痛感しているはずだ。
「実際、『夢にまで見る』と唸られていたキャストの方もいました(苦笑)。それでも収録までには完璧に仕上げてこられて、お忙しい中でどれだけ練習をされてきたか想像されます。それとともに“声の表現”にかける声優さんのプロ意識に脱帽しました」(KLab株式会社プロデューサーの横山憲二郎さん)
なお公式YouTubeチャンネルには、彼らのオリジナル楽曲やJーPOPアカペラカバーの“楽譜”が公開されていたが(現在は公開終了)、アカペラに詳しい人によると「テクニカルな要素も多く、アカペラ経験者でも簡単ではないところもある」とのこと。これも、昨今の日本におけるアカペラのレベルが飛躍的に向上していることの証左と言えるだろう。
『アオペラ』のオリジナル楽曲は、RAG FAIRをはじめ、人気アカペラアーティストたちも制作に参加している。さらに6月発売予定のアルバムには、ゴスペラーズによる楽曲提供も発表されたばかりだ。また公式YouTubeチャンネルでは、King Gnu「白日」やOfficial髭男dism「Pretender」、DISH//「猫」、BUMP OF CHICKEN「天体観測」などのアカペラカバーを公開。人気J-POP曲の意外かつ新鮮なアレンジに、アカペラの魅力を再確認する人も多いはずだ。
アカペラコンテンツが日本に定着して20年余。従来メディアはもちろん、各種SNSやYouTubeなどでも表現の場は広がりを見せたと同時に、レベルの向上と共に表現方法の多様化も顕著。前述の声優たちによるアカペラでの新たな表現方法は言うに及ばずだが、何よりも「身一つで全ての音色を奏でる」という手軽さと汎用性の高さ、そこに新たなプラットフォームを融合させるという行為は、着実に実績を重ねてきたアカペラコンテンツを“全く新しい解釈”で伝える土壌を作り出しているのかもしれない。