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「悔しい思い」を経験した小川彩佳アナが語る、メディアが意識すべき“無意識の加害性”

『NEWS23』の新メインキャスター・小川彩佳アナ/撮影:嘉陽宗也(C)oricon ME inc.

『NEWS23』の新メインキャスター・小川彩佳アナ/撮影:嘉陽宗也(C)oricon ME inc.

 6月3日(月)にリニューアルした報道番組『NEWS23』(TBS系)。そのメインキャスターに抜擢された小川彩佳アナは、『報道ステーション』(テレビ朝日)のサブキャスターを7年半務め、今年の3月に同局を退社。フリーとなって2ヵ月後、歴史ある報道番組『NEWS23』のメインキャスターに就任した。放送開始から10日(インタビューは6月13日に実施)。彼女の今の心境、メインキャスター就任を決断した理由を明かしてくれた。

とてつもなく長い10日間、視聴率のことが目に入って「しゅん」としたことも

  • 小川彩佳アナ/撮影:嘉陽宗也(C)oricon ME inc.

    小川彩佳アナ/撮影:嘉陽宗也(C)oricon ME inc.

――新生『NEWS23』の放送がスタートして2週間。今、どんなお気持ちですか?

小川彩佳とてつもなく、長い長い10日間でした。ここ数週間は自分の中で「休まる時」がなく、本当に余裕がありませんでした。友達からのメールにも全然返信できないくらい。自分で感じていた以上に「体」が感じていたんだと思います。でもその状態は自分にとって良くないと思って、映画を観たり、音楽を聴いたり友達と話したり。今は意識的に気分転換するようにしています。

――放送を見ていると、すごく落ち着いているように感じました。

小川彩佳本当ですか。 OAを確認する余裕もなくて、10日(月)に初めて放送を見返しました。もともと自分のOAを見返すタイプではないんです。このような仕事をしていてなんなんですが、あまり自分を観たくない、嫌なんですよね(苦笑)。ただ放送している以上、ちゃんと見直す必要もありますし、しっかり確認して次に生かすようにしています。

――23時台はニュース番組の激戦区と言われています。「視聴率」やネットでの反応などもチェックしますか?

小川彩佳ハッシュタグ「#news23」はチェックしています。毎日、色んな意見があってありがたいですね。ただ「視聴率」については、そういった記事が何らかの形でふいに目に入ってきて「しゅん」ってなったことはあります(苦笑)。

――やはり「視聴率」は気になりますか?

小川彩佳「視聴率」を上げたいという想いよりもまず今は、「受け入れてもらいたい」という気持ちが強いですね。というのも、視聴者の方はキャスターが変わったから、という理由で動かないと思っていて、もっと本質的な部分を見てくださっている。そうした人にまずは受け入れてもらうことが大切で。今まで『NEWS23』を見てくださっている視聴者の方がいらっしゃって、番組を大切に作ってきたスタッフさんがいます。そんな皆さんに「小川、馴染んできたな」と思って頂くために、一つひとつ丁寧にやっていく。まずはそこに徹することだと思っています。時間をかけて、番組の本質的なところや今までとは違う側面を少しずつ感じてもらう。それが今は大切なんだと思います。

――初回放送では、「ネットを見ながら、晩酌をしながら、半分お布団に入った状態でも良いです」そう話されていましたね。

小川彩佳今まで夜の生放送を担当していたので、お昼くらいに起きて明け方に寝るという生活だったんです。それが3月にテレビ朝日を退社してから、朝起きて日付が変わる頃に寝るという生活スタイルを1カ月ほど過ごしてきました。その生活サイクルの中で「23時」という時間が、思っていた以上にゆったりした気持ちで過ごしている時間帯なんだと感じたんです。少し眠かったり、お風呂上りだったりお酒を飲んでいたり、明日の事を考えていたり。自分自身がその感覚を知ることができて感じたからこそ、あの言葉が出てきたんだと思います。

――「ネットを見ながらでも」という言葉が印象的でした。

小川彩佳今、外出時はスマホで情報を得ている人がほとんどだと思います。インターネットは、広い世界のいろんな「主義」「主張」「価値観」に触れることができるすごく便利なツールですが、「情報を選ぶことができる」がゆえに、自分が見たい情報にしかアクセスしなかったり、自分に近い情報しか入ってこない側面もありますよね。今はそういった側面がどんどん大きくなって、なんとなく自分の型というか「自分の世界」が出来あがっている。だからこそ、家に帰ってきて「23時」。少しゆったりした時間になんとなくテレビをつけると、今日1日見てきた世界ではない、自分が知らない世界や出来事、新しい気付きや考えが得られるような場所になって欲しい。そんな想いもありました。

かつては炎上経験も。覚悟があっての発言か無自覚かで“伝わり方”は変わる

  • 小川彩佳アナ/撮影:嘉陽宗也(C)oricon ME inc.

    小川彩佳アナ/撮影:嘉陽宗也(C)oricon ME inc.

――ずっと報道畑で12年半。『報道ステーション』では7年半、サブキャスターを担当されていました。小川さんにとってどんな番組でしたか?

小川彩佳私のテレ朝人生のほとんどが『報道ステーション』と共にあったので、間違いなく自分を育ててくれた番組。小学校よりも、中学高校よりも長い時間を過ごさせてもらいました。もう、私の1番の「学校」だと思っています。

――今回、メインキャスターのオファーを受けた時の心境はどんなものでしたか?

小川彩佳長い歴史がある番組ですし、筑紫哲也さんの時代に私は高校生、大学生で敏感にニュース番組を見ていた身としては、とても思い入れがある番組でした。だからこそ凄く驚きましたし、正直、怖気づいたところもあります。

――迷いがあった中で、引き受けよう思った理由は何ですか?

小川彩佳テレビ朝日を退社してフリーになって、そのタイミングでお話が来て。こういったチャンスを頂けることは、人生においてもなかなかないんだと思います。「5年、10年待って下さい。それまでに勉強します」なんて言えるような甘い世界ではない。色んなタイミングや巡り合わせがある中で私に声をかけて頂いたのは、本当にありがたい事だと思いました。私自身まだまだ未熟ものですが、このキャリアの中で発信出来ること、お手伝いが出来る事があれば、後悔しないために挑戦したい。今は1日1日、番組を通して自分自身も成長していきたいと思っています。

――先ほど、“番組の本質”とおっしゃっていましたが、「伝える仕事」をずっとされてきた小川さんにとって「言葉の重み」とは何でしょうか?

小川彩佳どんな言葉でも誰かを傷つけてしまうかもしれません。あらゆる価値観、感覚を持った方がいて、そうした不特定多数の人たちが番組を見てくださっている以上、「発言」だけじゃなく、「放送」だったり「映像」を通して傷つけてしまうことがあるかもしれない。全員を満足させる言葉というのは難しいかもしれないですが、だからこそ「無意識の加害性」みたいなものは、常に意識していかなければならないと思っています。その上でどう語るのか、どういう言葉を使っていくのかを探っていく。かっこ良い事を言いたくなったり、綺麗な「正論」ももちろん素敵なんですが、本当の意味で『伝わる言葉』というのは何なんだろう。伝え手として、それはいつも自問自答していますね。

――これまで「報道」の仕事をしていて「悔しかった」経験はありますか?

小川彩佳もうたくさんありますね。自分が放った言葉が、意図しない形で炎上してしまった事が何回かあって、こういう風に感じる方もいらっしゃるんだ、こっちの側面は考えていなかったと気付かされたことがあります。それは悔しいというか、自分の至らなさを痛感して「申し訳ない」という気持ちの方が強かったですね。

――先ほどおっしゃっていた「無意識の加害性」の部分ですね。

小川彩佳はい。私たちが意識しなければいけないのは、どういった反応が返ってくるのかを考えたうえでの発言なのか、全く考えずに言ってしまった無意識の言葉なのか。アナウンサーとして覚悟があって言うのか、無自覚で言うか、それを意識するだけで伝わり方は違ってきます。自分がコメントしようとしていることや自分が読もうとしているニュースのリード文、この中身で自分はちゃんと納得出来ているのか。ちゃんと熟慮を重ねているのか。毎回全てというのは難しいのですが、そういった意識、危機感は常に持っていなければならないと思っています。

――始まったばかりの『NEWS23』ですが、どんな番組にしていきたいですか?

小川彩佳どこでも誰とでも繋がることが出来る「インターネット」とは違い、「テレビ」は不特定多数の人と同じ時間を共有する装置でもあると思うんです。世代や性別を超えて、目の前のニュースを見て感じたこと、気づいたことを、テレビ画面を通じて一緒に考える。この番組を見て、それぞれ違う立場の人が、同じ考えの人を見つけたり、共感したり、勇気づけられたり、知らない誰かに思いをはせてみたり。テレビを通して何か繋がっているような感覚を共有出来たら嬉しいなと思っています。私自身も等身大の自分と向き合って、皆さんと一緒に繋がっていられる1時間を過ごしていきたいと思います。

取材・文/山本圭介 SunMusic

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