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(更新: ORICON NEWS

アイディアの源泉は作品愛、agnam代表取締役社長・中村太一氏

プロデューサー=葉脈

――プロデューサーとしての立ち位置が多いと思いますが、その中で大切にしていることはありますか?
 『葉』を例にさせてもらうと、葉には真ん中に管が通っていてそこから魚の骨のように枝分かれしていますよね。これは栄養分を送る葉脈という、いわば人間でいう血管みたないものです。見えにくいのですが葉の外側に沿った部分にも切れ目なく葉脈は通っています。実は、この見えにくい葉脈がとても大事で、たとえ太い脈が切れても、外側の葉脈を伝って栄養分が送られてくるんです。そうした葉の構造とチームは似ていると思っていて、外側の葉脈のように、どこにでも顔を出して、チームにちゃんと情報やモチベーションを与えられるプロジェクトは、生きる強さが違うんです。

 自然の構造的にこの葉脈は不可欠なものですが、既存の組織論だと、こういう役割の人がいなかったり、ちゃんと評価されていないと思う事があります。一般的にはプロデューサーはピラミッドの頂点にいて指示を出すイメージですが、僕の場合は、『プロデューサー』=『葉脈』という考えです。それを意識して仕事をしていますね。

――今は一人ですが、ゆくゆくは会社を大きくしていきたいと考えていますか?
 有り難いことに、面白いプロジェクトを、僕からオファーしたり、頂いたりしているので、この1、2年はそれでも良いかなと思いますが、やっぱり、大きく仕組みを変えるとか、ベンチャーっぽくやるというのは凄く興味はあります。例えばですが、漫画が大好きなので、『漫画に特化した新しい本屋』は僕のなかでもチャレンジしてみたいと思っています。

 本屋をやるのはかなりきつい世の中ですが、あえてそれをやりたいなと思っていて、Amazonがリアル店舗のブックスをオープンさせたときも、アメリカまですぐに見に行ったんですよ。店内を2日間ぐらいかけて見て、それでお客さんなど20人ぐらいに話を聞いて「どこがいいの? どこが悪いの?」とヒアリングしたり。

 また、上海の近くに世界一綺麗な本屋「鍾書閣」が出来たという話を聞いて、それもすぐに行って。行くと、ここはそうでもないな、ここは面白いなというのが実体験で分かりますし、ビジネスモデルも分かります。鍾書閣だと、本の収益で成り立っているのではなくて、カフェ収入や、観光名所になるから国が補助金を出しているなどウェブには載ってない情報を知ることができます。

agnam代表取締役社長・中村太一氏(C)MusicVoice

agnam代表取締役社長・中村太一氏(C)MusicVoice

――面白い企画が浮かんだ時、どういうアプローチをされていますか? 知り合いや関係者を探していく感じですか?
 そうですね。あとは本当にやりたかったら、その会社さんに電話をすれば良いかなと思いますね。行動力というのはそういうものだと思います。

――中村さんの行動力は、その先の好奇心からくるものですか?
 そうですね。それと、自分がやらせて頂いているコンテンツで考えますと、コンテンツのことを考えた時に、「こういうことって本質的だし、とても役に立つんですよ」という確信があるということ。それが、『ただ自分が目立ちたい』『儲けたい』という気持ちが強いと、絶対にうまくいかない。作品にとって新しいこと、良いことであれば、自信をもって伝えれば良いと思いますし、そうしています。ただ普段の僕はそんなに自信をもって過ごしているわけではないですが(笑)。

――中村さんが同じ世代に感じる事はありますか?
 上の世代と下の世代の両方が分かるのが僕ら世代の強みだと思いますし、会社でも面白いものが作れる立場にいると思います。それと、みんなチャレンジングですよね。どの業界で活躍している人に話を聞いても、このままだとまずいという健全な危機感を持ちつつ、新しいことにトライすることに臆病じゃない。ガンガンやっていくという気概を持っている人たちが多いと思います。

――これからエンタメ界はどう変化すると思いますか? 展望も含めて考えをお聞かせください。
 ちゃんと仕掛ける人たちがいるので、こう変化していくと言うのはおこがましいと思っています。ただ、ビッグトレンドである、AIとか、VR、VTuberとか、最近ですと暗号通貨とか、そういう話も好きなので、詳しい方々によく話を聞きにいきます。

 慶應義塾大学の斉藤賢爾先生という、10年以上も前から暗号通貨を実際に作って研究されている方がいらして。その先生は、市場経済は止まると言っているんです。極論を言えば日本円を使わなくなると。それだけ聞くととんでもない話ですが、それをエンタメで置き換えると、“面白い”と評価されるところには今まで以上の量とスピードでリソースと収益機会が集まると僕は解釈しています。

 今までは、制作に労力と時間がかかり、ファンが本を買って、CDを買って、イベントに参加して、さらに時間が経過して、ようやく作り手に利益が戻ってくるという感じでしたが、その仕組みがいま劇的に変わろうとしています。エイベックスさんのエンタメコインや、オタクコインやなんかもそうで、面白いと思ったものにはクラウドファンディング以上にリソースが集まるようになるなと思っています。

 そういう時計の針は進めたいですし、僕自身は先ほども話しましたが、リアル店舗とオンラインを組み合わせた新しいカタチを含め、早々に仕掛けたいと思いますね。

――コアなところにリソースが瞬時に集まるとなると、いわゆる「中間」はなくなりますね。
 そうですね。良い意味でも悪い意味でもなくなっていくと思います。

――中村さんのように、作品やそのジャンルがどれだけ好きか、あるいはファンの期待を超えられるようなものを提供し続けることが、ますます大切になってきますね
 そうですね。ルールはどんどん変わっていくので、その時々で一番何がベストかというのは、常に模索し続けなければならないですね。だから僕は、なるべく一日を振り返るようにしています。『アウトプットできたか』『新しい体験をして分析したか』『自分を大切にしたか』等々を考える事を習慣にしています。そういうことを意識していると、個人としてのアップデートもしていけるし、いま世の中がどうアップデートしているのかにちゃんとアジャストできると思いますね。

――最後に、中村さんが仕事をしている中で大事にしているものは何ですか?
 先ほども言いましたが、ちゃんと振り返りの時間を設けて、自分が日々やっていることとか、世の中で何が動いているのか、ちゃんと反芻(はんすう)する時間が、僕の中では一番大事な部分ですね。その思考の時間が無くなるといろんな意味でずれてくる。自分の真実からも、いま現在の正しさからもずれてくるから。考える時間は大事にしています。

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agnam代表取締役社長・中村太一氏(C)MusicVoice

agnam代表取締役社長・中村太一氏(C)MusicVoice

 中村氏への取材を終えて気付いたのが、我々の質問に対して一度も否定的な言葉がなかったということだ。必ず「そうですね」と肯定から入る。人は、受け入れてくれるところに心を許す。相手を受け入れる姿勢は仕事を進める上では大事なことだ。ましてやプロジェクトともなればなおさらだ。物腰が柔らかく、知性的で好奇心旺盛、何よりも作品への愛情が深い。作品やマーケティング、理論、展望…、難しい話も分かりやすく、そして丁寧に説明していた。

 そんな中村氏はプロデュースの心構えを「葉脈」に例えて話していたが、彼の言葉の端々からも「葉脈」を大事する人柄が伝わってきた。その「葉脈」という言葉を使わせてもらうならば、「作品」を「葉」に見立てたとき、植物が光合成などによって新たな物質を作り出すように、彼自身には、光を当て新たな魅力を作る太陽のような存在でもあるだろう。そして、その光源はきっと作品への深い愛情だ。

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