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星野源だけじゃなく意外なアノ人の楽曲も? 春のセンバツ・行進曲の“編曲の妙”

 3月19日に開幕する『第89回選抜高等学校野球大会』(兵庫・阪神甲子園球場)の入場行進曲に、昨年大ヒットした人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の主題歌である星野源の「恋」に決定した。センバツ入場行進曲は「その前年に広く社会に親しまれた曲、その年を象徴するような曲」を選定しているだけに、なかには“この曲はバラードだから、行進するのに合わないんじゃないか…”などと心配してしまう曲もあるが、そんなヒット曲たちも不思議なことに絶妙に“マーチ風”に仕上げられている。そうした“名編曲”を振り返りながら、センバツの入場行進曲の歴史を眺めてみたい。

宇多田ヒカル「First Love」などのバラードも、“名編曲”で軽快な行進曲に

  • 『第89回選抜高等学校野球大会』入場行進曲に決定した星野源

    『第89回選抜高等学校野球大会』入場行進曲に決定した星野源

 センバツ入場行進曲は1924年、第1回大会の「星条旗よ永遠なれ」「双頭の鷲の旗の下に」というアメリカの行進曲の大定番からはじまるが、太平洋戦争開戦間近の1941年(第18回大会)には「国民進軍歌」となり、当時の世相を如実に反映しているのも興味深い。翌1942年から1947年は戦争の影響でセンバツ自体が中止となったが、その後はやはり定番のマーチが入場行進曲となり、1962年(第34回大会)の「上を向いて歩こう」(坂本九)以降、入場曲は“前年の流行歌”から選ばれていくことになる(ちなみに、夏の甲子園大会の入場行進曲は毎年「栄冠は君に輝く」)。ただ、意外なほど“忠実”に前年の流行歌から選ばれるため、バラードなどのスローテンポな曲が選ばれることもある。日本人のほとんどは小学校の運動会などで入場行進を経験しているだろうが、やはり曲は「イチ、ニ、イチ、ニ…」と行進しやすい2分の2拍子、もしくは4分の2拍子のマーチが定番だけに、テンポが速くてノリがいい曲ではない場合、行進曲には合わないのではないか……と懸念の声が上がるのも無理はない。しかしそこには、“名編曲”の妙というものがあるのだ。

 1999年(第71回大会)の入場曲はKiroroの「長い間」で、泣かせる名曲ではあるが、ミディアムテンポのバラードである。それがアップテンポにアレンジされるのはもちろん、原曲では伸ばしている音を短くしたり、メロディをトランペットで高らかに吹き上げたり、バックのリズムのスネアドラム(小太鼓)をマーチ調にすると、見事に明るく快活な“マーチ”になり、開会式の中継のゲストだったKiroroのふたりも「合いますね、こういう風にできるんですね。うれしいです……鳥肌立つ」と感動しきりだったのである。翌2000年(第72回大会)の入場行進曲は宇多田ヒカルの「First Love」で、大ブレイクした後の宇多田ヒカルの楽曲を選ぶのは当然としても、この曲も完全なミディアムバラードバラード。しかしKiroro同様に、見事に軽快な行進曲となったのである。

マーチと対極の“ワルツ”も行進曲へと変貌

 また、桑田真澄・清原和博の“KKコンビ”が甲子園を席巻していた1985年(第57回大会)の入場曲は、チェッカーズの「星屑のステージ」。この曲はスローテンポのロッカバラードであり、リズムは8分の6拍子で3連譜が並ぶいわゆる“ワルツ調”である。マーチとはまさに“対極”にあり、行進しにくいことこの上ないはずなのだが、この曲をなんとも大胆に2拍子のマーチに変えると、静かな導入部も力強く聴こえるから不思議である。そして一昨年の2015年(第87回大会)は、映画『アナと雪の女王』の主題歌「Let It Go〜ありのままで」だった。ご存じのように、静かな調子からどんどん盛り上がっていく壮大かつ大熱唱系バラードのわけで、ネットでも「行進しにくそう…」と心配する声も多かったが、やはり導入部からメリハリの効いた元気のよいアレンジで、“ノリのよいドラマチックな行進曲”へと見事に変貌していたのである。

 こうした名編曲は、辻井市太郎氏(第34回大会〜第58回大会、2月上旬に入場曲の録音を行なう大阪市音楽団の団長)、永野慶作氏(第59回大会〜第80回大会、大阪市音楽団団長)、酒井格氏(第81回大会以降、作曲家)の3名が行なってきたが、一部ネットでは“神編曲”と称える声もあるほどだ。編曲によっては原曲とは“別物”になる場合があるが、氏たちの名編曲は球児たちのフレッシュな行進と相まって、原曲とはまた別の魅力を引き出してくれるのだ。

 今年のセンバツの入場行進曲『恋』を歌う星野源も、「行進曲用のアレンジがどのようになるのかとても楽しみです。高校生のみなさんがワクワクして“やるぞ”という前向きな気持ちになってもらえたらうれしいです」とコメントしているように、私たちもともすれば聴き流してしまいかねない“名編曲”に注目しながら、春のセンバツ高校野球を楽しんでみようではないか。

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