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堺雅人&赤堀雅秋監督 SPECIAL INTERVIEW 人気俳優のオーラを消し去った唯一無二の「顔」 こんなにも崇高で美しい、そこら辺のゴミみたいな日常
自分が“笑っている俳優”という意識はない(堺)
赤堀キャスティングは毎回難航するんです。僕が描くのは“ザ・凡庸”という人物で、タレント名鑑を片っ端から探しても見当たらない。どうしたって皆さん華があるし、毒もあって、色気もある……。そんな時に、ご縁があって居酒屋で堺さんとご一緒したんです。端っこの光の当たらないところに座っていらして。
堺華がなかったんでしょう、きっと(笑)。
赤堀いやいや(笑)。ただ、その時に感じた堺さんの朴とつとした雰囲気を僕なりに引き出せたらと。すぐにプロデュサーに相談しました。
――堺さんはこれまでのイメージとはかけ離れた役という印象でしたが、出演を決めた理由はなんですか?
堺とくに何も。僕は何でもやりたいし、きっかけのようなものはないです。ただ、今回は脚本が圧倒的におもしろかった。
――堺さんといえば、2000年の映画デビュー当時に“小劇界の貴公子”というキャッチフレーズがありました。現在も感情を内包したさまざまな笑顔が印象的ですが、徹底して笑わない今回の役にギャップは?
堺そこについてはいろいろ言いたいこともあるし、もともとそんな風に呼ばれてもいないからね(笑)。まず、自分が“笑っている俳優”とか“決め顏は笑顔”とか、そんな意識は全くなくて。きっと周囲もそう捉えている人は少ないんじゃないかな。
赤堀ハハハ。これまで幾つか取材を受けて、この作品の記事を拝見すると「微笑み封印」とか書いてありますけど、僕が封印したわけでもなければ、堺さんが意図したものでもない。役者がひとつの役を演じれば、当たり前ですけど唯一無二の「顔」になるわけです。
堺僕自身は(作品が公開された)結果、周囲から見て「いつもの堺とは違うね」でも「同じだね」でも、どちらでも嬉しいです。
赤堀監督のこだわり「一貫して生活者を描く」
赤堀一貫しているのは生活者を描くこと。例えば、チェーホフ(ロシアの作家)を読むと、物語自体はすごくおもしろいんだけど、どこかで「お金持ちが“哲学”しよう」という感じがあって……暇だから哲学を語り合うような。僕からすると「いいから働けよ」って思うんです(笑)。僕の場合はそういう“哲学している暇もない”ような、いわゆる市井の人々を描きたいと思っています。
――登場人物に順風満帆な人が誰一人いないように思えました。
赤堀そんなことはないんですよ。今回の作品の登場人物も平凡で、どこにでもいる細やかな幸せのなかで暮らす人たちです。事件を機にタガが外れてしまっているけど、奇人変人大集合じゃない。作品をご覧になって「対岸の火事」のようなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、身近な距離感で、誰にでもありうる事と受け止めていただけたら嬉しいです。
堺どれもひとつずつの要素はそこら辺に転がっている日常、ゴミみたいなものかもしれない。でも、俯瞰で眺めて全てを観終わってみると、すごく崇高なものを観たという印象があります。登場人物は体臭漂う汗ばんだ男たちだけど、最後にこんなに美しいものがあったのかと。そういうことを気づかせてくれる作家であり、劇団です。今回はその一員になれたことが俳優として嬉しいですね。
(写真:鈴木一なり)
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