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ORICON NEWS
池松壮亮『このまま進んでいくことが正しいとは思わない』
恥ずかしげもなくぶつけあうことがうらやましい
池松純粋に物語がおもしろかったんですよね。荒井(晴彦)さんの脚本もすごいなぁと思いましたし、この物語をいまこの時代にやる意味も感じました。観客に何をキャッチしてもらうのかは分からないんですけれど、(僕らは)言葉にならない映像で戦っているわけですから……。なんていうか、この映画を表現するための言葉を僕は持ち合わせていないだけで、でも観ていただければ伝わると思うんです。それでいいんじゃないかなと。
──取材で語るには難しい作品ですよね。
池松そうなんですよね(苦笑)。
──そこを敢えて聞きますが、先ほどの「おもしろかった」というおもしろさについてもう少し詳しく聞きたいです。
池松簡単にいうと、男と女の話、人と人の話、彼らの見つめ方というか眼差しに惹かれたんです。荒井さんが30年前に書いた脚本が、当時は映画にならずここまで流れてきた、ということにも惹かれました。あと、この映画で描かれている孤独は、観た人のすごく個人的な孤独としても刺さると思うんです、きっと。
──というのは?
池松今はあまりにも情報量が多くて、自分で(自分の気持ちに)勝手にストッパーをかけている気がするんです。だからこそこの映画のふたりは、あまりにも心のままに、恥ずかしげもなく気持ちをぶつけあっていてうらやましいと思いましたし、よっぽど心がきれいなんだなとも思いました。情報量が多いと、きれいなものであっても捉えることが難しくなる。そこに数滴の毒を垂らすことで浮かび上がってくるものがある。
──やはり、聞いているだけでも難しい役だった気がします。
池松僕はそういう方が楽なんです。「今回演じたのはこういう役ですね」と言われるのが好きじゃなくて、自分で「こういう役です」と話すのも好きじゃないんです。それは心のどこかで、そんなに簡単に他人のことを分かるわけないでしょ? て思っているからかもしれないし、2時間で分かってたまるかって思っているのかもしれない……(苦笑)。
──それを分かりたいと思うことが観客にとっての「おもしろい」に繋がるのかもしれないですね。演じた洋は、決してプレイボーイじゃないし計算高くもないですが、正直であるがゆえのズルさがあります。同じ男として、池松さんは洋をどう捉えましたか?
池松(僕の芝居は)その時々に感じていたものを演じていただけで、気まぐれです(笑)。というのは、演技というのは心さえあれば、何をやっても正解だと思っているので。ただ、悪い男だとは思っていないです。そう思ってしまったら演じられない。でも、ズルさにしても、狙っているのか純粋ゆえなのか曖昧なところに僕自身惹かれたし、魅力を感じました。
一段落してここからどうしようか…
池松そういう感覚的な言葉を現場でもよく使っていましたね。
──その格闘の相手である、市川さんの演じた恵美子という女性について。池松さん自身は彼女をどう思う?
池松恵美子は「魅力的です」とは言いがたい女性ですけど、恵美子も洋も、女と男のお互いの本質をついてしまう相手だったんでしょうね。それは荒井さんが脚本の段階で描いてくれていたので、僕らはそれを演じればいいだけでした。
──この映画を観て、男と女はやっぱり違う生き物なんだなと思ったんですが……。
池松よく分からないですけど……僕も違う、と思いますね。
──その分からないなかで、この映画に参加して良かったなと思うことは?
池松たくさん、ありますよ。30年間ころがり続けてきた本(脚本)をちゃんと映画にできたということはものすごく嬉しいことだし、僕の今の年齢で、安藤さんと荒井さんのタッグに出会えたというのも大きいことです。安藤さんの作品は『blue』と『ココロとカラダ』を観ています。何に惹かれて観たのかは覚えていないけれど、それも感覚でしかないんですよね。
──本当に、観るというよりも感じる映画だと思いました。そんな『海を感じる時』を含めて、今年は8本の主演・出演作が公開。自分にどれだけできるのか勝負に出たような、そんな20代前半になりましたね。
池松そうですね、やりきった感はあります。でも、このまま進んでいくことが正しいとは思わないですし、この前まで舞台『母に欲す』をやっていて、いま一段落したんですけど、ここからどうしようか……という感じです。具体的に「どうしたい」というのは言えないけれど、やり方を含めてここからさらにワンステージ上がらないとな、というのはありますね。この2年間はとにかく自分がやれるだけのことはやる、とやってきましたから。もちろん、それで失うこともあったので、一つひとつ真摯に取り組んでいきたいです。
──失った、というのは?
池松役を引きずるというのはないけれど、10しか心がないなかで、たとえば、こっちの作品に6、こっちに4という感じになってしまうということです。(役として感情を)吐き出すのも限界ありますから、吸い込まないと、ですね(笑)。
(文:新谷里映/撮り下ろし写真:鈴木一なり)
海を感じる時
関連リンク
・『海を感じる時』公式サイト