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米津玄師『ニコニコ動画とメジャーシーンの違い――ぶち当たった大きな壁とは!?』
大きな島国(ニコニコ動画)を出てわかった、メジャーシーンでの壁――
「ニコニコ動画というのは、大きな島国みたいなものなんです。そのなかでしか通用しない方法論や独自文化があって、そこにいた僕は、それがそのまま外の世界でも通用すると信じて疑わなかった。でも、実際に一歩外に出ると、必ずしも通用するものではなかったんですよね。インディーズでリリースした前作『diorama』は、ニコニコ動画でやっていたときの気持ちのまま、それこそ自信満々でオリコン1位のつもりだったんですが、蓋を開けてみたら6位だった。僕自身、そこで初めて通用しないんだと気付いた感じです。確かにニコ動で曲がウケたことは、僕に自信を与えてくれたし、否定するつもりもないんですが、やっぱりボーカロイドを使っていたからこそ成立していたんです。それをそのまま生の声に変えて歌ったとしても、ニコ動と同じような反応は得られるはずもなくて。メジャーにはメジャーの、新たな方法論を手にする必要がありました」
最新作『YANKEE』を制作するにあたり、米津のなかでは音楽に対する意識改革が行われた。
「正直に言うと、前作『diorama』のときは、聴く人のことはあまり考えていなかったし、自分の思う美しさは、万人に共有してもらえるものだと勝手に思い込んでいたんです。しかも自分のなかでの美学しか信じてなくて、他人の意見や感性をまったく寄せ付けなかったから、ガラパゴス状態もいいとこだった。今の自分に欠けているのは、人と一緒に同じ方向を向いて、同じ熱量を持って物作りをすることだったと気付きました」
多くのボカロPは、自宅のパソコンで作詞・作曲からアレンジまですべての作業をひとりで行っている。一方、メジャーシーンでの音楽制作は、プレーヤーやミックスエンジニアなど、様々な分野のプロフェッショナルが集結し、多くの人の感性が交わることによって、楽曲により大きな大衆性を与えていく。米津は、バンド形式でレコーディングを行い、スタッフの意見も採り入れることで、自分ひとりでは浮かばなかったアイディアも浮かび、結果すごく楽しい作業になったという。
J-POPのスタンダードに――国民的な音楽家になりたい
「以前とは違うタイプの人が反応してくれました。ツイッターのリプライを見ると、書いてある文字の感じやアイコンの感じが明らかに違っているんです。たとえば普通のOLさんとか、ニコニコ動画やボーカロイドシーンにあまり触れていない、いわゆる一般的な方なんだろうなって。“こういう曲は聴いたことがなかったけど、好きになりました”とか言葉をいただいて。もともとより多くの人に伝わるものをという意識でアルバム制作をしていたところだったので、報われた気がしてすごくうれしかったです」
「アイネクライネ」は、アコースティックギターを中心にしたしっとりとしたバンドサウンドと、内側にエモーショナルなものを感じさせるボーカル。胸を締め付けるような切ないメロディー。“別れと終わりとか、そういうものに対する思想のない、ただのポジティブな明るい音楽は、毒にも薬にもならない”という彼独自の哲学に基づいた前向きな歌詞が特徴。メジャーシーンにもボカロシーンにもなかった、新しいポップスだと言えるだろう。そんな米津の目指す先は?
「言い方に語弊があるかもしれないですが、僕はJ-POPを作りたいんです。日本のいわゆる歌謡曲があって、その上にロックとか、今ならEDMとか、時代ごとの要素を乗っけて、スタンダードになれるものを作りたい。国民的な音楽家になりたいです」
ニコ動で育まれたアマチュアリズムや、もともと持っていた音楽センスを壊すことなく、メジャーならではの制作スタイルに馴染ませることによって、自分の進む道を見いだした米津玄師。彼の描く道筋は、今後ニコ動からメジャーを目指す多くのボカロPにとってのスタンダードとなり得るだろう。
(文:榑林史章)
東京メトロのCMでもお馴染み「アイネクライネ」のMV
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