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新レーベル「ブラウンズウッド」始動

新レーベル「ブラウンズウッド・レコーディングス」を
始動


 かつて率いたレーベルで世界的な音楽ムーブメントを巻き起こし、90年代以降における最も影響力のあるDJ/レーベルオーナーとして知られるジャイルス・ピーターソン氏が、新たなレーベルをスタートさせた。頼るものはコマーシャリズムではなく、自らの耳とテイスト。音楽ビジネスのスタイルが刻々と変化するなか、「新しい音楽を送り出す時期が到来した」と語るその根底には、時代に翻弄されることなく、誠実に音楽と向き合うミュージックマンとしての真摯な姿勢があった。

新しい才能を発掘し世に送り出していく
「重要人物」としての自負


―― 久々に新たなレーベルを立ち上げたということで、非常に期待が集まっています。

ピーターソン:気がついたら、レーベル運営に携わらないまま7年くらい経っていたね。最初は1〜2年のブレイクのつもりだったんだけど、DJやラジオをやっていたら、そっちのほうが楽しくなっちゃって。ただその間にも、新しい音楽がどんどん耳に入ってくるし、「どうしたら彼らをプッシュできるだろうか?」ということはずっと考えてきたんだ。

―― ブラウンズウッド・レコーディングスのスタートにあたり、「新しい音楽を送り出す最高の時期が到来した」と発言していましたが、なぜ“今”なのでしょうか。

ピーターソン:冷静に考えれば、この2007年に新しいレーベルを立ち上げるのは、賢い話じゃないよね。配信の普
 

ジャイルス・ピーターソンさん(ブラウンズウッド・レコーディングス主宰者)


『ブラウンズウッド・バブラーズ・フォー・ジャパン』
(TRCP3/4) 2枚組 3150円(税込)
5月23日発売 
TRAFFIC:03(5770)8143


及でCDの売上は落ちているし、一部の若者たちは平気で違法コピーをしているなど、音楽でお金を生み出すのはとても難しい時代だと思う。ただリスナーだけでなく、音楽業界自体も変わったよね。いわゆるエグゼクティブと呼ばれる人たちの中に本気で新しい才能を発掘し、世に送り出していこうという人間が減っている気がするんだ。
 レコード会社にもジョン・ハモンドだとかテオ・マセロみたいな“名物A&R”といわれるような人物がいなくなってしまったしね。レーベル運営から離れてはいたけれど、DJやラジオをやっていると、まだ世に出ていないいい音楽がたくさん耳に入ってくる。自分はそういうアーティストたちを世界中に紹介できる、音楽業界の中でもある程度は重要な人間のひとりだという自負もあった。だから“今”やるべきだと思ったんだ。まぁ、ただ単に僕がマッドなだけかもしれないけど(笑)。

―― 今、ご指摘のあった「情熱あるミュージックマン」はどこへ行ってしまったのでしょうか?

ピーターソン:別の業界に移っていくケースが多いよ。おそらく、大手レコード会社の考え方が、マーケティング主体に偏ってきたからじゃないかな。どうやったら音楽が「売れる」のかという、とてもつまらないものにね。特に、ここ数年は顕著だと思う。普通にCDを出せば売れるっていう時代じゃなくなったからね。だけど、ブラウンズウッド・レコーディングスでやりたいのは、そういう企業レベルの壮大なことじゃないんだ。このレーベルの唯一の存在意義は、才能ある新しい人たちを紹介すること。だから、僕はあくまでインディペンデントな立場でありたい。大手レコード会社の政治力とは関係ないところで、音楽を作る楽しさを存分に味わい、本当にいいと思える音楽を紹介していくためにね。

―― とはいえ、レーベル運営となるとビジネス面も考えなければいけない。そこにジレンマが生じますよね。

ピーターソン:もちろん、このレーベルを趣味と思っているわけじゃないよ。ただ、あまりにビジネスライクになってしまうと、冒険はできないってこと。何より、自分には優れた才能を発掘する自信がある。これまでも、ベースメント・ジャックスやZero7、ナールズ・バークレイなど、自分が初めて紹介したアーティストはいっぱいいるし、テイストには自信を持っているんだ。
 自分が契約したアーティストはかなりレベルが高いというね。ブラウンズウッド・レコーディングス第1弾アーティストのベン・ウェストビーチだって、初めて会った頃はまったく知られていない存在だったけれど、「彼は絶対にいい!」と直感したから契約したんだしね。これからも自分の直感を信じて、新しい音楽を紹介していくつもりだよ。

いかに時代が変わっても音楽業界の最重要課題は新人アーティストの開発

―― 先ほどレコード会社のマーケティング偏重を危惧していましたが、それも音楽ビジネスからかつてのような勢いを失わせた原因のひとつだとお考えですか。

ピーターソン:うーん……。実はつい先日、サンフランシスコでドキュメンタリー映画の取材を受けたんだよ。『企業が音楽を殺している』というテーマのね。状況は非常に複雑で、それだけに原因があるとは思わない。だけど何が昔と違うかと言うと、今はMySpaceをはじめとするSNSが普及して、新人たちが自分の音楽を世の中に届けやすくなった。いいアーティストはどんどん口コミで広がるよね。そこにレコード会社は乗っかればいい、みたいになっているんじゃないかな。昔はレコード会社が行動を起こして発掘していたけれど。「proactiveからreactiveへ」という変化は起きていると思うよ。

―― 名物A&Rが減っている、というところにもつながる話ですね。

ピーターソン:それでも、アメリカではまだクライヴ・デイヴィス(アリスタ・レコード社長)みたいなミュージックマンが存在感を示している。それに、ファレル・ウィリアムズがネプチューンのためにいい音楽を作れば売れるし、アウトキャストやレディオヘッド、アリシア・キーズ……彼らは、本当にいい音楽は売れるってことを証明してくれているわけで、非常に喜ぶべきことだよ。それによって、自分がやっていることは正しいんだとも思えるしね。大手がどうしても、バラエティ番組に出るようなアーティストをメインに手掛けるのは仕方ないことだと思う。それは、昔から変わってないことだしね。でも、何が違うかというと、競馬でいえばオッズなんだよね。10数年前だったら、100ポンドを賭けるとオッズが5倍だった。けれども、今は22倍もつくんだ。「当たらない場合」と「当たった時の大きさ」の差が、今はますます開いているんじゃないかな。

―― 刻々と変化する状況を踏まえて、レコード会社が重点を置くべきことは何だと思いますか。

ピーターソン:結局のところ大事なのは、アーティストをディベロップさせること、それも自分のところできちんと育てること。さらに、CDという枠に留まっているアーティストでは、もうダメだと思う。もっと、それ以上の存在になれるアーティストに育てる必要があると思うよ。

世界が着目するファッションと音楽を
一体化したマーケティング


―― ところで、ブラウンズウッド・レコーディングスは日本のSoil &“Pimp”Sessionsもリリースしていますが、日本の音楽シーンを見て感じることは?

ピーターソン:オリコンのトップ100にSoil &“Pimp”Sessionsが入っているのは素晴らしいことだよね。たしかに自分の手掛ける音楽を支持してくれる人は世界中にいるけれど、その中でも日本のリスナーはいったん好きになったものに対してあまりブレない気がする。ヨーロッパのリスナーは、新しいものが流行るとすぐそっちに向かう傾向にあるんだよ。昨日まではエレクトロが好きだったけど、今日はクール・ジャズみたいにね(笑)。

―― DJとして、日本のジャズもよくかけるそうですが。

ピーターソン:来日したときは、レコード店を覗くのをすごく楽しみにしているんだ。日本のリテイルは世界一だね。POPやプレゼンテーションも最高だし、各店舗のみなさんの音楽に対する愛情や心意気をものすごく感じるよ。イギリスのチェーン店はどこも一緒、ファストフードのお店みたいなものだから。DJとしてプレイしていても、オーディエンスの反応がヨーロッパとはぜんぜん違うのが興味深いね。イギリス人はクラブにいてもどこかあら探ししてやろうって感じがするし、フランス人に至ってはその場を楽しむより、終わった後に音楽の話をするのを楽しみにしているみたいなんだ(笑)。
 その点、日本人はそんなにシニカルじゃないし、純粋に音楽を楽しんでいる。もちろん日本にも批評家と呼ばれる人はいるし、ブログや掲示板を見ればいろんなことが書いてある(笑)。だけど、日本のユーザーのピュアな反応って、音楽やアーティストをディベロップさせてくれる、最高のエネルギーを秘めていると思うよ。

―― 音楽を含めたエンターテインメント・ビジネスの面で興味深く感じることは?

ピーターソン:日本発のユースカルチャー全般に学ぶべき点が多いよ。特に、NIGOのA BATHING APEやUNDER COVERとか、音楽とファッションが一体となったマーケティングは、今やアメリカでも大人気だよね。こうした新しいマーケティングの手法が生まれた背景には、おそらく日本人がとてもエクスクルーシブなもの、「自分が最初に知った、自分だけのモノ」という感覚を好む傾向があるからだと思う。
 そういう意識を植え付けるのに、ファッションと音楽をコネクトしたのが非常に効果的だったと思うんだ。それを好きになった人同士が口コミを広げていって、大きなムーブメントに育っていく。Tシャツなんかがドッと売れたりする。その流れで、音楽もいったん好きになったものをとことん支持するんだろうね。

新レーベルのテーマはムーブメントの
牽引よりもアーティスト個々の成長


―― これまで手掛けたアシッド・ジャズやトーキン・ラウドでは、いわゆる「レーベル買い」現象が起きましたが、ブラウンズウッド・レコーディングスが目指しているレーベルカラーは?

ピーターソン:常にその時々の自分の直感に反応していきたいから、ジャンルにはこだわっていないよ。例えば、すでにUKで出ているので言えば、ザ・ヘリテイジ・オーケストラという44人編成のストリングス・オーケストラ。彼らは最近、アークティック・モンキーズのCDでストリングスも担当したみたいだね。それから、ホセ・ジェイムズというNY出身のシンガーのCDが9月に出るんだけど、男性版エリカ・バドゥとでも言えばいいかな。もしくは、ディアンジェロをもっとジャジーにした感じ。でも、コルトレーンなんかも好んでいて、そこにヒップホップのアティテュードをミックスしたような音をやってるんだ。

―― 世界中からフレッシュな音楽を収集しているんですね。

ピーターソン:あと、エラン・メーラーというソロ・ピアニスト。ジャズなんだけどちょっとオルタナティブな感じで、ビル・エヴァンス風なところもあるけど、ぜんぜんコマーシャルじゃないんだ。ちなみに、エランに初めて会ったのは、スイスのオテル・ド・バースというスパで演奏していた時。ここのスパはかなりお薦めなので、ぜひ行ってみてほしいな(笑)。

―― 「ジャイルス・ピーターソンと言えば、ジャズやソウル、エレクトロ」というイメージを払拭せんばかりのラインナップですが。

ピーターソン:ともかく、音楽的にはオープンでいたいね。自分が手掛けるレーベルってことで、他人から見たらこれまでの流れを汲んでいると思われる部分はあるかもしれないけど。ただ、長いこと音楽業界でやってきて、リスナーというのはジャンルにこだわっているわけじゃなく、質の高い音楽を聴きたいだけなんだということがわかったんだ。いいものであれば、フォークシンガーだってプログレだって、迎え入れたいと考えてるよ。なにしろ、世界中でまだ世に出ていない素晴らしいアーティスト、素晴らしい音楽がどんどん生まれているんだから。

―― また、これまで数々のムーブメントを牽引してきただけに、ブラウンズウッド・レコーディングスでは何を起こそうとお考えですか。

ピーターソン:いや、あんまり狙ってないんだよね。というのも、アシッド・ジャズにしろ、トーキング・ラウドにしろ、どちらかというとムーブメントのほうが大きくて、実はアーティスト一人ひとりを見ると、唯一ジャミロクワイくらいを除いて、他はそれほど大成功を収めてはいないんだ。過去の話をすると、ベースメント・ジャックスやZero7みたいに発掘はしたけれど、あえて他のレーベルからリリースしたケースもたくさんあったんだよ。自分のレーベルに置いておいても、なかなかビッグになれなかっただろうからね(笑)。

―― では、過去の2レーベルとは違って、今回狙っていることとは?

ピーターソン:一番やりたいのは、本当にビッグでインターナショナルと呼ばれるアーティストをひとりでもふたりでも輩出すること。第一弾アーティストのベン・ウェストビーチは、会う前からプロデューサーも立てずにひとりでアルバムができあがるくらいの音を作っていてすごいなと思ったけど、今ではライヴも重ねて、さらにパフォーマーとしての力もつけてきている。とても期待しているよ。ともかく自分の見つけてきた新しい才能が、大きく育っていける場でありたいんだ。これまではDJとしての自分、ラジオのブロードキャスターである自分、そしてレーベルを運営する自分、すべてを一緒くたにしていた。だけど、今はそれぞれを別に考えようと思っているんだ。ここをジャンプ台に、アーティスト個々がより大きな世界に、扉の向こうに跳び出して行ってもらえるようなレーベルを目指しているよ。
(インタビュー・文/児玉澄子)



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