| つんく♂、新会社TNX(ティーエネックス)設立。 「プロデューサーであっても、経営者であっても、お客様に選ばれているという感覚は失ってはいけない」 つんく♂氏が起業したTNX(ティーエネックス)?。メジャーレーベルとして音源制作はもちろんのこと、映像などのコンテンツ制作や配信、ミュージカル等々の舞台制作や新人発掘育成も手がけるという。しかし、最大の目玉は、つんく♂氏自らが代表取締役社長を務め、経営権をダイレクトに握る点。「プロデューサーつんく♂」の実績は語るまでもないが、これからは「事業家つんく♂」の手腕が問われる。そのつんく♂社長に、TNXの経営方針や将来像を語っていただいた。 ── TNX設立のモチベーションは。 つんく♂: そこではダイレクトがキーワードになっています。そもそも僕が所属していたプロダクションであるJ.P.ROOMにも、音源等々のコンテンツ制作機能はありました。それらはさまざまな経路を通り、アウトプットされていたわけです。たとえば大手レコード会社であり、舞台であり、ポータルサイトとか。その選択肢のひとつとしても、制作現場からのダイレクトな出口を持つことが、これからの時代は重要になると考えました。その発想自体は、21世紀になった頃から漠然と持っていましたが、設立へ向けての具体的な動きは、約1年前からです。 ── ダイレクトは産地直送的な意味合いですか。 つんく♂: それも含まれます、鮮度を保つという意味では。コンテンツの完成からお客様に届くまでの時間を、既存の経路よりも、より短縮できれば、より新鮮なコンテンツを提供できますから。それ以外の意味もありますが…。たとえば弊社から発売される音源のなかには、僕以外のクリエイターやプロデューサー達が作るものもあるわけで。こちらから依頼するという形態で。その場合、僕自身が出口を持っていないと、話が非常にややこしい。先輩であろうと、新人であろうと、僕が興味を持ったクリエイターやプロデューサーと仕事をしようと思っても、今までなら三者なり四者間での刷り合わせが必要でした。それでは頼みづらい。先方にも余計なストレスを与えてしまうし。だけど、TNXでは、極論すれば、僕と先方がダイレクトに話せば済む。その意味でのダイレクトも含みます。 ── ユーザーとの距離を縦、外部クリエイターとの距離を横と位置づけると、縦横のダイレクトの交差点がTNXであるとも言えそうですね。 つんく♂: だから、風通しがいいんです。 ── TNX設立は、プロデューサーから事業家への転身と捉えてもいいのでしょうか? つんく♂: 事業あるいは企業への進出ではあるけれど、ひとりのプロデューサーやクリエイターとしての活動を辞めるわけではありません。それに僕の軸は、やはり“ものづくり”にあります。だから、TNXも現時点ではあまりテーブルを広げませんでした。10年ほど前の音楽バブルの時代、僕もその渦中にいましたが、さまざまな会社やアーティストがテーブルを広げすぎた感は否めなかったし。不動産業でもない |
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| 会社が風呂敷を広げ、土地やビルを買い漁り、結局は不良債権化したみたいな(笑)。それは教訓にしないといけない。だから、TNXは非常にコンパクト。従業員やクリエイターも少数精鋭。ゆえに少々の冒険や少々の脱線もできると思っています。フットワークの軽いエンターテイメントビジネス会社だから、話の進展も迅速だし、制作においても臨機応変な対応ができます。そうした細やかさが大切ではないでしょうか。 ── TNXには「レコード事業部」「音楽・映像製作事業部」「イベントコミュニティ事業部」「新人開発事業部」の4事業部がありますが、それでもテーブルを広げていないという感覚ですか。 つんく♂: はい。弊社の4事業部は、J.P.ROOMですでにやっていたことなので。たとえばレコード事業部に属するインディーズレーベルGOOD FACTORY RECORDは、僕がアマチュア時代からやっているから、15年以上継続していますし。だから、広げたつもりはありませんし、事実広げてもいません。わかりやすく言うなら、今までは“つんく♂プロデュース”という言葉で語られていたものを、事業部とし、外側からも一目瞭然にしたということでしょうか。イベントコミュニティ事業部の業務内容には、オーディションの企画・開催も含まれていますが、それをやるためのノウハウは僕のチームに蓄えられているわけだし。もう7年以上もやっているので。その有形無形の財産を有効活用しない手はない。初めての会社がそれを企画・開催するのとは雲泥の差があると思いますよ。同事業部による舞台企画制作にしても、これまでのミュージカル経験があるからできることです。 ── 事業家としてのノウハウは、今からの実践のなかで吸収されていくのですか。 つんく♂: いえいえ。J.P.ROOM経営により、もう5年以上も修行と実践を積み重ねてきました。右も左もわからないということはありません。経費等々の金銭面やインディーレーベル経営法とかも。事業家とプロデューサーの二束の草鞋で大変だろうという声もありますが、むしろその逆です。プロダクション経営からは解放されるわけだし、エンターテイメントに特化できる環境ですから。それだけに頭のなかも、今は非常にクリアです。3年あたり先までの計画は見えています。自分が何者なのか、何をやってきたのかみたいな、自分探しをするための起業ではないし。自分の実績や経験を心得たうえでの船出です。 ── 来た道も往く道も見えているわけですね。 つんく♂: これだけの音楽を作っていけば、必ずお客様が振り返ってくれる、映像も然りですが、そうした確信は持っています。最初の3年は、それを基本にやろうとしているところです。たとえ“企業家なら、もっと違うものを制作したほうが儲かるのに”と言われても。もちろん慈善事業ではないので、売上・利益も求めますが、当面はそれにあまり振り回されずにやろうと。 ── ご自分のなかに経営者とクリエイターがいるなら、後者を優先させるということですか? つんく♂: そうとも限りません。今までの経験から得た手ごたえを優先させるってこと。いきなり事業家の看板を振り回すような真似はしないってこと。 お客様と直接触れ合う販売店との連携がないと、渦は広がらない ── では、ご自分のなかの経営者とクリエイターの割合を、具体的な数字にすると? つんく♂: そこはズルくてもいいでしょう。場面ごとに、その割合が豹変しても構わないと思っています。ときに99:1、ときには1:99かもしれない。むしろ固定するほうが危険です。経営的にも創作的にも。だから、断固経営者として決断し、ある企画を中止させることがあってもいいし。そうかと思えば、儲けよりクリエイター魂で突き進む場面があってもいい。つまり、相手がバッターボックスに立ってから、投げる球を決めてもいいと。直球勝負か、ぶつけるかを(笑)。それが他のエンターテイメント会社の経営者にできない、僕の利点であるし。エンターテイメント業界での、僕の役割ではないでしょうか。でも、会社発足のこの時期は、あまり乱暴な決断はしないでしょうね。僕なりの慎重さで事を進めると思います。 ── 「最初から乱暴な決断はしない」「慎重に進める」というあたりの発言が、経営者としての真剣さを物語っていますね。 つんく♂: 会社を設立させたからには、ある意味、継続は力なり、ですから。継続させることにより、TNXのブランド力もつくでしょうし。今の世の中では、情報も含むエネルギーが一点に集中する瞬間があると思います。それがヒットというか、ブレイクという現象ですが。以前は、ちょっと様子が違っていました。僕らシャ乱Qなら、雑誌から火がつき、CDの売上げが伸び、次にテレビが飛びつき、そしておばちゃん達の井戸端会議の話題に登るみたいな流れがありました。そのタームが約3ヶ月。それが今や半分以下に縮まっています。それは一瞬の出来事のようにも見えるものです。で、今すぐそのエネルギーの集中を狙って起こせるかと言うと、それは誰にもできません。ブームと言われるほどの大ブレイクは。 ── さすがにそれには偶然性やタイミング等々も必要ですしね。 つんく♂: ええ。ただし、僕には、そのブレイクから先、そこからどうやってビジネスに転じていくかの経験則があるわけで。それは武器だと思います。今は、業界全体としても、大ブレイクもしくは大ヒットにつながる中小規模の爆発を継続させるほうが賢明だと思うし。ゆえに小規模なフットワークの軽い会社が現代的ではないでしょうか。大きな波ばかりを狙わなくてもいいわけだから。ただし、レコード会社はメジャーであることが重要です。うちなら、レコード事業部に属するメジャーレーベルTN-mix(販売元:ポニー・キャニオン)のような。メジャーでいる利点は、音楽産業の最前線であるレコード店やCDショップなどの販売店からの声がダイレクトに聞こえてくること。そして、僕らの声もダイレクトに届くこと。いくらメディアを使って宣伝しても、お客様と直接触れ合う販売店との連携がないと、渦は広がらないから。 ── 当然、TNX発信のコンテンツは、つんく♂社長の好みが色濃く反映されるのでしょうね。 つんく♂: いや、僕自身の好みは2割程度でしょう。それ以外は、そのプロジェクトごとに判断することになりそうです。もちろん大前提は、TNXの信用をそこなわないだけのコンテンツであり、TNXの理念に沿ったソフトですが。僕が好きなものだけをやる会社ではありませんから。たとえば業務提携をしたプロデューサーに制作を進めていただく場合も多々あるし。クライアントやスポンサーとなる方々からのリクエストを、僕が通訳となり、実働部隊に伝える場合も出てくるでしょう。仮にA社からコンテンツ制作の依頼があったとします。今までのJ.P.ROOMなら、人員的、物理的にお引き受けできない場合は、残念ながらお断りするしかなかった。極論すれば、やるかやらないか二者択一。でも、TNXでは選択肢が広がります。A社と、僕が興味のあるクリエイターやプロデューサーを引き合わせることも可能ですから。 ── TNX設立発表時の資料には、業務提携プロデューサーとして、Gackt氏、浅倉大介氏、寺岡呼人氏の三名が記載されていました。 つんく♂: その三名の方々以外でも、さまざまなプロデューサーから興味を持っていただいていると思います。“つんく♂のレコード会社はどんなやろ?”とか。僕が今までプロデュースしていたときに感じていた疑問は、きっと他のプロデューサーも感じていただろうし。そこをザックバランに話しつつ、ダイレクトにコミュニケーションを取りつつ、情報交換もできればと思います。 僕だけが儲ける会社では、誰からも協力してもらえませんから。 TPOを見極め、細やかな制作・宣伝ができるエンターテイメント企業でありたい ── 経営者として成功するための資質とは? つんく♂: そこはプロデューサーと大きくは違わないと思います。それは楽観視しているってことではなくて。最終的には、お客様に選ばれる立場にいるって意味においてです。レストランにしても、1回目は話題で足を運ばせることができても、料理がマズければ2回目はない。ある意味、ワン・チャンス。そうした感覚を忘れがちなのではないでしょうか、長く音楽業界にいると。だから、お客様に選ばれているという感覚は、経営者であっても、プロデューサーであっても、失ってはいけないと思います。そして、お客様とは一対一のコミュニケーションであるという点も重要でしょう。特に音楽は。その点でも料理に近いと思いますが。 ── しかし、顧客やユーザーのニーズが多様化しているところが問題では? つんく♂: そうです。デフレの悪影響ですが、質より安さを求める傾向が根づいてしまいました。音楽業界なら、音質は問題にしない、曲さえ聴ければそれでいいという風潮。ところが、家電量販店などに行くと、僕が見ても宝石に等しいほどのスピーカーやオーディオアンプを置いてあったりして。つまり、ハイスペックへのニーズもある証明です。この両極化を、僕は“音楽耳格差”と呼んでいますが。そのどちらか一方のお客様に対象を絞り込むことは、正直、無理です。常に両極を視野に入れておかないと。それと似た現象ですが、ライヴにはいかない、配信で楽曲さえ聴けばいいというお客様もいれば、それとは正反対のお客様もいらっしゃいます。その後者のニーズに応えるのが、エンターテイメントの基本であり、最新型のような気もしますが。 ── 触れ合いのエンターテイメント? つんく♂: ミッキーマウス型。本人はそこにしかいませんから、会いにきてくだいと。これはダイレクトだし、わかりやすい。僕が小学生の頃に見たアイドルの握手会感覚。演歌の世界には、1曲を1年かけて自ら全国を売り歩き、8000枚売ったなんて話は、きっと珍しくないでしょ。それがアイドルやバンドでもできないわけはない。問題は気合い。時東ぁみには、それがあったから、インディーズでも1万5000枚を売る実績を残せたわけだし。“握手会なんか無駄”と言われた時代もありましたが、今はそうじゃないと思います。ただし、弊社契約のアーティストが全員、時東スタイルとは限りません。中国での15万人オーディションから選ばれた歌手ジャ・ジャは、すでに中国では大ブレイクの兆しが見えていますから。来日するスケジュールが作れない。そうなると、時東の対極ではないですが、メディアやインターネットを駆使することになるでしょうね。Gacktプロデュースの楽曲はすでに完成していますから。 ── 音楽耳格差への対応同様、ユーザーへのアプローチもアーティストの状況や特性より、一律ではないと? つんく♂: アーティスト本人も含め、コンテンツの内容も質も売り方も、TPOを見極めることが重要だというところに行き着きます。10年前の音楽バブルの頃と同じ発想で、単一商品を全国津々浦々、同じように宣伝して、一気呵成に売るって時代ではないので。もっと細やかな制作や配慮が必要ではないでしょうか。豊かなアイデアも。それができるエンターテイメント企業でありたいですね。 (インタビュー・文/藤井徹貫) | ||||||
2006/10/25