少子化が進む日本で、玩具市場が成長を続けている。その背景にあるのが、「キダルト(Kid+Adult)」と呼ばれる大人たちの存在だ。『トミカ』『リカちゃん』『ポケモン』など、子どもの頃に親しんだ玩具を再び買い求める層が市場を下支えしている。そんな“大人になっても卒業しないおもちゃ”の先駆けこそが、発売67年目を迎える『プラレール』だ。主役の子どもが減る中、メーカーはいかにして、新たな商機を生み出してきたのか。『プラレール』にみる少子化時代の玩具ビジネスの生存戦略を追った。
■ターゲットは「かつての子ども」、大人の心を掴む仕掛け
厚生労働省によれば、2025年に国内で生まれた日本人の数は67万1236人と、10年連続で過去最少を更新した。ターゲットである子どもが減少する一方、国内の玩具市場は6年連続で過去最高(2025年度は1兆1,664億円)を記録している。この一見矛盾する現象の鍵を握るのが、「キダルト」だ。
新規の子ども層の獲得が先細りする中、かつてユーザーだった大人を再び市場に呼び戻す手法は、玩具業界全体にとって不可避の生存戦略となっている。タカラトミー・プラレールマーケティング課の伊藤渉さんも、近年の市場動向について「キダルト需要に加え、子どもの頃に好きだったものを大人になって改めて楽しむ“ノスタルジア”の流れが大きくなっている」と分析する。
親子3世代にわたって親しまれ、国内で累計2,174種類、1億9,532万個以上(2025年12月末現在)を販売してきたプラレールには、まさにその“ノスタルジア”を受け止める強固な歴史がある。
だが、過去の思い出に依存するだけの復刻路線では大人の心はつなぎ留められず、「懐かしさはもちろん大切ですが、それだけでは続かないとも思っています」と、伊藤さんも指摘する。思い出による一過性のブームで終わらせず、大人の鑑賞欲や知的好奇心を満たすブランドへとどう進化できるかが、“卒業しないおもちゃ”になれるかどうかの大きな分かれ目になる。
「例えばプラレールも、子どもの頃は車両を走らせて楽しみますが、大人になると車両そのものやレイアウトづくりに興味を持つなど、年代によって楽しみ方が変わります。その時々で新しい魅力を見つけてもらえることが、長く支持される理由なのかなと思います」
そうした「大人の楽しみ方」に応えるため、2023年には細部までリアルに造形した大人向けシリーズ『プラレール リアルクラス』シリーズを始動した。小田急ロマンスカーなどを発売すると、「初めてデートで乗った」などと思い出を重ねる声が寄せられ、鉄道好きな大人たちの関心を集めている。
今年は、『キミの街のヒーローシリーズ』として横浜線や南武線など、一部地域を走るおなじみの通勤電車を商品化。「ずっと乗ってきた電車だから欲しい」と、大人ならではの収集欲も刺激し、子どもだけでなく大人からも予想を超える支持を集めたという。
こうした戦略に加え、67年間変わらない“青いレール”の規格も、大人層の回帰を後押ししている。子どもの頃に買ってもらった古いレールと、現在の最新レールがそのまま繋がる。その互換性の高さが、大人層の「買い足し」需要へ確実につながっている。
■手作業の試行錯誤が、現代の親世代に支持される理由
一方で、本来のターゲットである子どもたちへの訴求も手を抜いていない。
今年7月に発売され「日本おもちゃ大賞2026」のアクション部門で大賞を受賞した『動くぞ!変形!ギガデカドクターイエロー』もそのひとつだ。
“新幹線のお医者さん”と呼ばれるドクターイエローは、プラレールの中でも屈指の人気車両。来年の完全引退の報を受け、「さらに進化させられないか」と開発された同商品は、全長約470mmの大迫力走行に加え、整備工場など4つの情景パーツへの変形ギミックを実現した。これが子どもたちの心を掴み、目標対比130%の売上を記録する大ヒットとなっている。
ダイナミックな進化を遂げつつも、プラレールの根幹にあるのは「レールや情景を組み合わせて世界観を拡げる」というアナログ玩具ならではの体験という。デジタル社会の今、手先を使って試行錯誤する物理的な遊びは子どもにとってかえって新鮮であり、同時に親世代からも「知育的価値が高い」と支持を集める要因になっている。
「お子様はレールがうまく円につながらず、頭をひねりながら“付けては外し”を繰り返します。そうして工夫して作り上げた自分だけの鉄道世界に、お気に入りの電車を走らせる。坂道を上る電車に『頑張れ!』と声をかけて応援する姿は、手先を使うプラレールならではの光景です」
■「観光需要の開拓」から「空」へ、広がるプラレールの世界観
「今後は子どもから大人まで、国内だけでなく海外にも魅力を広げ、年齢や地域の枠を超えてより多くの人に手に取っていただけるよう商品開発に取り組んでいきたい」
伊藤さんの言葉通り、プラレールは「鉄道玩具」という従来の枠組みを超えた新たな市場開拓へと動いている。9月19日に発売された『ご当地車両シリーズ』では、第1弾として『浅草・銀座線&雷門』と『京都・京阪電車&稲荷神社』が登場。有名観光地に絞った地域限定展開により、観光や土産物としての需要開拓を狙う。
10月には、ブランド初となる飛行機モチーフの『プラレールエアー 空をぐるっと!ANA旅客機セット』を投入する。従来の青いレールを縦方向に組み上げ、立体的な飛行ルートを作るという新発想とリアルなギミックが話題を呼び、発表直後から大きな反響を集めている。陸から空へと、表現の領域を広げる試みだ。
「長く遊んでいただいている方にも飽きられない商品を作り続けていかなくてはいけないというのは、歴史の長いブランドだからこその使命だと思っています。今後はまだまだ驚きを与えられるよう取り組んでいきます」
67年間変わらない「青いレール」の規格を土台としつつ、大人向けの展開や観光市場への進出など、時代に合わせて商品やターゲットを拡張していく。基本となる価値を変えずに市場の枠組みを広げ続けるプラレールの展開は、これからの玩具ビジネスにおける一つの生存モデルを示していると言えるだろう。
(取材・文/河上いつ子)
■ターゲットは「かつての子ども」、大人の心を掴む仕掛け
新規の子ども層の獲得が先細りする中、かつてユーザーだった大人を再び市場に呼び戻す手法は、玩具業界全体にとって不可避の生存戦略となっている。タカラトミー・プラレールマーケティング課の伊藤渉さんも、近年の市場動向について「キダルト需要に加え、子どもの頃に好きだったものを大人になって改めて楽しむ“ノスタルジア”の流れが大きくなっている」と分析する。
親子3世代にわたって親しまれ、国内で累計2,174種類、1億9,532万個以上(2025年12月末現在)を販売してきたプラレールには、まさにその“ノスタルジア”を受け止める強固な歴史がある。
だが、過去の思い出に依存するだけの復刻路線では大人の心はつなぎ留められず、「懐かしさはもちろん大切ですが、それだけでは続かないとも思っています」と、伊藤さんも指摘する。思い出による一過性のブームで終わらせず、大人の鑑賞欲や知的好奇心を満たすブランドへとどう進化できるかが、“卒業しないおもちゃ”になれるかどうかの大きな分かれ目になる。
「例えばプラレールも、子どもの頃は車両を走らせて楽しみますが、大人になると車両そのものやレイアウトづくりに興味を持つなど、年代によって楽しみ方が変わります。その時々で新しい魅力を見つけてもらえることが、長く支持される理由なのかなと思います」
そうした「大人の楽しみ方」に応えるため、2023年には細部までリアルに造形した大人向けシリーズ『プラレール リアルクラス』シリーズを始動した。小田急ロマンスカーなどを発売すると、「初めてデートで乗った」などと思い出を重ねる声が寄せられ、鉄道好きな大人たちの関心を集めている。
今年は、『キミの街のヒーローシリーズ』として横浜線や南武線など、一部地域を走るおなじみの通勤電車を商品化。「ずっと乗ってきた電車だから欲しい」と、大人ならではの収集欲も刺激し、子どもだけでなく大人からも予想を超える支持を集めたという。
こうした戦略に加え、67年間変わらない“青いレール”の規格も、大人層の回帰を後押ししている。子どもの頃に買ってもらった古いレールと、現在の最新レールがそのまま繋がる。その互換性の高さが、大人層の「買い足し」需要へ確実につながっている。
■手作業の試行錯誤が、現代の親世代に支持される理由
一方で、本来のターゲットである子どもたちへの訴求も手を抜いていない。
今年7月に発売され「日本おもちゃ大賞2026」のアクション部門で大賞を受賞した『動くぞ!変形!ギガデカドクターイエロー』もそのひとつだ。
“新幹線のお医者さん”と呼ばれるドクターイエローは、プラレールの中でも屈指の人気車両。来年の完全引退の報を受け、「さらに進化させられないか」と開発された同商品は、全長約470mmの大迫力走行に加え、整備工場など4つの情景パーツへの変形ギミックを実現した。これが子どもたちの心を掴み、目標対比130%の売上を記録する大ヒットとなっている。
ダイナミックな進化を遂げつつも、プラレールの根幹にあるのは「レールや情景を組み合わせて世界観を拡げる」というアナログ玩具ならではの体験という。デジタル社会の今、手先を使って試行錯誤する物理的な遊びは子どもにとってかえって新鮮であり、同時に親世代からも「知育的価値が高い」と支持を集める要因になっている。
「お子様はレールがうまく円につながらず、頭をひねりながら“付けては外し”を繰り返します。そうして工夫して作り上げた自分だけの鉄道世界に、お気に入りの電車を走らせる。坂道を上る電車に『頑張れ!』と声をかけて応援する姿は、手先を使うプラレールならではの光景です」
■「観光需要の開拓」から「空」へ、広がるプラレールの世界観
「今後は子どもから大人まで、国内だけでなく海外にも魅力を広げ、年齢や地域の枠を超えてより多くの人に手に取っていただけるよう商品開発に取り組んでいきたい」
伊藤さんの言葉通り、プラレールは「鉄道玩具」という従来の枠組みを超えた新たな市場開拓へと動いている。9月19日に発売された『ご当地車両シリーズ』では、第1弾として『浅草・銀座線&雷門』と『京都・京阪電車&稲荷神社』が登場。有名観光地に絞った地域限定展開により、観光や土産物としての需要開拓を狙う。
10月には、ブランド初となる飛行機モチーフの『プラレールエアー 空をぐるっと!ANA旅客機セット』を投入する。従来の青いレールを縦方向に組み上げ、立体的な飛行ルートを作るという新発想とリアルなギミックが話題を呼び、発表直後から大きな反響を集めている。陸から空へと、表現の領域を広げる試みだ。
「長く遊んでいただいている方にも飽きられない商品を作り続けていかなくてはいけないというのは、歴史の長いブランドだからこその使命だと思っています。今後はまだまだ驚きを与えられるよう取り組んでいきます」
67年間変わらない「青いレール」の規格を土台としつつ、大人向けの展開や観光市場への進出など、時代に合わせて商品やターゲットを拡張していく。基本となる価値を変えずに市場の枠組みを広げ続けるプラレールの展開は、これからの玩具ビジネスにおける一つの生存モデルを示していると言えるだろう。
(取材・文/河上いつ子)
2026/09/25