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【インタビュー】アニメ『怪獣8号』テーマソングに書き下ろしの洋楽を起用 タイアップの新しい形を実践

 4月13日にテレビ東京系列で放送がスタートしたアニメ『怪獣8号』(原作・松本直也)。地上波放送と同時間帯での日米公式X(旧Twitter)アカウントによる全世界リアルタイム配信など新しい試みが取り入れられているが、なかでも注目すべきは、いわゆる “アニソン”に書き下ろしの洋楽を起用している点だ。アニソン史上でも珍しい試みとなったYUNGBLUD「Abyss(怪獣8号OPテーマ)」とOneRepublic「Nobody(怪獣8号EDテーマ)」はどのような経緯で制作されたのか、従来の邦楽タイアップとはどんな差異があったのか、2アーティストを担当するユニバーサル ミュージック川崎たみ子氏(レーベルヘッド)に話を聞いた。

YUNGBLUD/OneRepublic「Abyss/Nobody」(怪獣8号OP/EDテーマ)

YUNGBLUD/OneRepublic「Abyss/Nobody」(怪獣8号OP/EDテーマ)

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■ “89秒”に代表されるアニソンの常識が通じないジレンマ

 アニソンに書き下ろしの洋楽を起用するという試みは、東宝など製作チームの強い意向からスタートしたという。そこには、洋楽のカッコよさだけでなく、原作漫画自体が海外ファンの多いIPであり、NETFLIXやAmazonプライムビデオなど主要プラットホームで配信されることから、さらなる海外アニメ・ファンを開拓したいという狙いもあったようだ。だが、そうした意向を受けた川崎氏は当初、戸惑ったと語る。

「アニソンの洋楽タイアップ自体がおそらく初めてのことで、私どもの洋楽チームも経験がありませんでしたから、最初は正直『ええっ、無理でしょ』と思いました(笑)。ただ、ちょうど昨年1月に弊社の洋楽部門で大きな組織変更があり、新生1年目、固定概念を持たずに挑戦しようという社内ムードもあり、やるしかないという気持ちになりました」(川崎氏/以下同)

 そこから同社グループの海外レーベルにヒアリングを進めていくなかで川崎氏が意識したのは、音楽性はもちろん、ビック・アーティストであっても、「日本が好き」「アニメが好き」かどうか、というバックボーン。アニソンがヒットするためには、アニメ作品の内容や雰囲気に歌詞がリンクしていることが大切だと考えていたからだ。

「いくら『怪獣8号』のための書き下ろしと言っても、作品と音楽がリンクしていなければアニメ・ファンは受け入れてくれません。そうなってしまうと、結果的にアーティストのイメージダウンにもつながりますし、『やっぱり洋楽タイアップは無理だね』という話にもなりかねません。ですから、ちゃんと原作を読んで、『この単語をここに入れて欲しい』といった部分まで細かくディレクションしつつ、それ以外の部分では自由に作ってもらうという進め方をしました」

 結果、レディー・ガガビリー・アイリッシュも所属するL.A.のレーベル、インタースコープの反応が最もよく、スケジュール等の面も精査しながら同レーベル所属のYUNGBLUD(Imagine DragonsのフロントマンであるDan Reynoldsとの共作)と、OneRepublicの2組に決定した。YUNGBLUDはアニメ好きであり、昨年の初来日公演時のオフ日に「スタジオに行こう!」と、東京でOPテーマ曲のレコーディングを実施。また、プロデューサーとしてグラミー賞受賞経験のあるOneRepublicのフロントマン、ライアン・テダーは、プライベートでも日本を訪れる親日家だ。

 それでも、従来の邦楽タイアップとは異なる場面にいくつも直面した。たとえば、今やアニソンと言えば“89秒”(OP/EDテーマの各放送時間枠)が日本では常識だが、洋楽アーティストにとっては初めて提示される条件。加えてイントロ問題にもついても、事前に入念に打ち合わせたそうだ。

「2組とも当初は『89秒? そんなに短い曲とはクレイジーだ!』という反応でした(笑)。でも、それを面白がって取り組んでくれるアーティストで助かりました。また、『冒頭の5秒に命をかけて欲しい』ということは強くお願いしましたね。配信、特にNETFLIXだとイントロスキップ・ボタンが表示されるので、アニメ本編を早く見たい人にオープニングをスキップされないように、『イントロスキップに負けない曲を』とディレクションしました」

 制作費や進行面でも邦楽と洋楽では考え方に違いがあるという。一般論として、邦楽アーティストはアニメ・タイアップを自身のプロモーションにもつながると捉えるが、洋楽のビック・アーティストの場合、現状ではそのような考えがないうえに、デモの制作や曲の手直しなど、その都度、一流のエンジニアやスタジオを使うため、回数が増えれば制作費も膨らんでしまう。邦楽アーティストのようなフットワークの軽さは望めないという。

「ただ今回、特にOneRepublicは特例中の特例で、ボーカル兼フロントマンのライアン・テダーが大の日本好きで、しかも作詞・作曲だけでなく、編曲、歌唱、プロデュースまで自分でこなすので、デモ制作や曲の手直しも自宅のデスクトップですぐに対応してくれ、本当に助かりました」

 他にも、日本のアニメ製作タイムラインに対する納期の設定や、最終的に楽曲のフル・バージョンを作る際、納品済の放送用OP/EDテーマ部分は変更できないといった、邦楽アーティストなら当たり前に対応してくれる部分を、洋楽アーティストに事細かに理解してもらうことがとても大変だったという。

■日本のIPと洋楽のコラボが生み出す新しいビジネスモデル

 常識の差異という点では、プロモーションに対する熱量も当初は大きく違ったという。邦楽アーティストならば、アニメ放送に合わせてSNSで告知するなど積極的に稼働してくれるため、自然とアニメ・ファンも無意識にそれを期待する。しかし洋楽アーティストは頻繁に配信シングルをリリースすることもあり、あくまでも「その中の1曲」という認識で、そこまでプロモーションをせず、やっても一度きりで終わりという傾向がある。

「それでも、日本人の特性というか、特に今の若い世代はアーティスト本人のオーガニックな声を求めていますから、2組には『どんどん発信してください』と協力をお願いしました。OneRepublicは楽曲の歌詞をInstagramに投稿したり、歌っている自撮り動画をSNSで発信してくれ、その結果、毎週放送後にストリーミングやダウンロードの数字が顕著に右肩上がりとなりました。ですから彼らに、『もっと発信したらより数字が上がるよ』『今週はあまり告知しなかったから数字も伸びなかった』と正直に伝えることで、日本でのプロモーションの重要性を認識してもらうようにしていました」

 川崎氏によると、プロモーションを嫌がっているわけではなく、あくまでもマインドセット、意識の違いなので、そこを理解してもらえるよう尽力したという。ただしその中で、「日本のためにやって欲しい」という伝え方はしなかったと続ける。

「アニメは日本発のものですが、今や世界各国で見られるグローバル・タイアップ。つまり、『日本のためにやってください』ではなく、『あなたが売りたい原盤のために、私たちはグローバル・タイアップを日本で取ってきました』ということをしっかりと伝えるようにしています。OneRepublicなら、世界的にヒットした彼らの「アイ・エイント・ウォーリード」(映画『トップガン マーヴェリック』タイアップ挿入歌)と同じだと何度も話をし、理解してもらえた結果、インタースコープ・レーベルは、世界各国、特にアジアでの数字の伸びに驚いていて。私としては『だから最初から言ってるでしょ』という気持ちでした(笑)」

ユニバーサル ミュージック レーベルヘッド 川崎たみ子氏

ユニバーサル ミュージック レーベルヘッド 川崎たみ子氏

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 それでも川崎氏は、「日本アニメは世界中で見られているものの、まだ日本国内のように誰しもが見ているというわけではない」と冷静に分析する。事実、海外レーベルと交渉を始めた際、大半のレーベルは「アニメ主題歌は本当にヒットするのか?」と半信半疑だったという。だからこそ、今回の洋楽タイアップを絶対に成功させなければならないという強い想いで挑んだと振り返る。

「今回は、私たちが今後ずっと使っていく事例、数字になると考えていました。もし失敗してしまうと、『やっぱりアニソンに洋楽はナシ』という話になったり、悪影響が出かねない。でも成功すれば、洋楽アーティスト自身の認識も変わって、次シーズンや新たなアニメ主題歌を向こうから『やりたい』と言ってもらえるはずだと考えました。これまで、社外の方と話をする中で、『こういうコンテンツを作っているけど……、洋楽は無理ですよね』と言われることがすごく多かったんです。それを今回のタイアップで、『いえ、出来ます!』と言える証明ができたと感じていますし、業界内のマインドも変えられたのではないかと思っています。そして何よりも、今回の事例をきっかけに、他社さんも含めて洋楽全体が盛り上がっていければ、それが一番うれしいことだと考えています」

 若年層の洋楽離れが語られるようになって久しいが、しかし現実的には、今年テイラー・スウィフトが東京ドーム4daysをソールドアウトさせ22万人を動員するなど、洋楽アーティストの来日公演は大盛況だ。つまり、洋楽が聴かれなくなったのではなく、日常生活の中での接点があまりにも少なくなってしまったのではないかと川崎氏は考えている。

「近年のストリーミング配信やYouTubeなどのアルゴリズムが優秀すぎて、邦楽とK-POPコンテンツを見ている方には洋楽がまったく提示されません。だからと言ってSNSに広告を出しても若い世代はPR色を嫌う傾向が強く、洋楽アーティストに日本のためだけに特別なことをやってもらうことも難しい。そこでたどり着いた現時点での最適解が、日本のIPと洋楽の組み合わせと、邦楽アーティストとのコラボレーションだと考えています」

 前者の試みが、まさしく今回のアニメ・タイアップであり、事実、『怪獣8号』の楽曲が乗った切り取り映像がTikTokにたくさん投稿されたことで、自然な形でアニメ・ファンに楽曲をアプローチでき、その結果、それがYUNGBLUDとOneRepublicの右肩上がりの数字に結びついている。

 これまでアニメは地上波番組という認識が強かったが、今ではほとんどのアニメが配信され、アニソンはグローバルな存在となりつつある。そういう状況で、それこそ洋楽アニソンが今年の洋楽No.1ヒットになったとすれば、必然的に海外アーティストの日本への見方も変わるだろうし、アニメに限らず、国内のドラマや映画にも良い影響を及ぼすことが期待される。そして、それは同時に、若年層にとっての洋楽とのタッチポイントの増加を意味する。まさしく、こうしたストーリーの第一歩が、今回の『怪獣8号』での洋楽タイアップであり、アニソンそのものの立ち位置が新しいフェーズに入っていく象徴的な事例としても、今後の動向に注視していきたい。
※川崎たみ子氏の「崎」は「たつさき」が正式表記

文・布施雄一郎

■アニメ『怪獣8号』
2024年4月13日より毎週土曜23時〜テレ東系列ほかにて放送/X(Twitter)にて全世界リアルタイム配信開始。各種動画配信サービスにて毎週土曜23:30より順次配信開始

24年4月クールで放送中の『怪獣8号』(テレビ東京系ほか)

24年4月クールで放送中の『怪獣8号』(テレビ東京系ほか)

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<リリース情報>
YUNGBLUD/OneRepublic
「Abyss/Nobody」(怪獣8号OP/EDテーマ)
【初回生産限定盤】【10インチ・サイズ紙ジャケット仕様】
品番:UICS-9183/価格:5,500円(税込)

先着特典:A4クリアファイル
※特典は先着、無くなり次第終了
初回封入特典:キービジュアル・ポスター/ポストカード2枚(全6種からランダム2枚封入)

収録内容:CD
01. Abyss(怪獣8号OPテーマ)
02. Nobody(怪獣8号EDテーマ)
03. Abyss(怪獣8号OPテーマ)(インストゥルメンタル)
04. Nobody(怪獣8号EDテーマ)(インストゥルメンタル)

収録内容:Blu-ray
01. ノンクレジットオープニング
02. ノンクレジットエンディング

関連写真

  • YUNGBLUD/OneRepublic「Abyss/Nobody」(怪獣8号OP/EDテーマ)
  • YUNGBLUD
  • OneRepublic
  • ユニバーサル ミュージック レーベルヘッド 川崎たみ子氏
  • 24年4月クールで放送中の『怪獣8号』(テレビ東京系ほか)

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