働き方改革の取り組みの1つとして、近年、注目を集めている「健康経営」。従業員の健康の維持・増進と、会社の生産性向上を目指す経営手法のことで、特に優良な実践企業を“見える化”するべく経済産業省が8年前にスタートさせた「健康経営優良法人認定制度」には、社会的な評価をベースにしたブランディングができるとあって、申請する企業が年々増加。昨年度は大規模法人部門と中小規模法人部門合わせて前年より約3千社増の約2万1千社が申請した。2023年に音楽メーカーとして唯一、この認定を取得したのがポニーキャニオンだ。今年はさらに評価を上げ、大規模法人部門で2年連続の取得を実現した。映像や音楽、ライブの現場での超過労働など業界特有の問題を抱えるなか、厳しい基準をどのようにクリアしていったのか、その取り組みについて聞いた。
■企業理念実現のためには従業員の健康が不可欠
「従業員等の健康保持や増進への取り組みが、将来的に企業の収益性等を高める」という考えのもと、「社員の健康管理を経営的な視点で考え、戦力的に取り組む経営手法」として経済産業省が推進、近年取り組む企業が増加している「健康経営」。ポニーキャニオンがその優良な実践企業に与えられる「健康経営優良法人」の認定取得を目指したのは、コロナ禍がきっかけだった。
2017年以降、働き方改革を積極的に推し進め、20年2月には新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴い、テレワーク・リモートワークをいち早く導入した同社。翌21年6月には、新たな働き方の実現に向け、本社オフィス改革の一環として、仕事内容に合わせて働く場所や時間を自由に選択できるABW(Activity Based Working)を導入。新型コロナワクチンの職域接種にもいち早く取り組み、従業員、家族、所属アーティストやグループ会社、関連会社や取引先の従業員に至るまで、延べ4回にわたり実施した。
「健康経営」に着目し、注力したいと考えたのはその最中だった。
「弊社の企業理念である『想像力を越える創造力で、世界中の人とつながります』を実現するためには、従業員が心身ともに健康であり、個々の持てる能力を存分に発揮できることが不可欠です。それに加え、ブラックと思われがちな業界のイメージを払拭したいという気持ちもありました。当時、音楽メーカーで『健康経営優良法人』に認定されている企業はありませんでした。しかし、映像や映画業界では、東宝さんやハピネットさんがすでに認定されていることを知り、総合エンターテイメント企業である弊社も本腰を入れて取り組み、認められる会社になりたいと考えました」(ポニーキャニオン 人事総務本部 古宇田隆之助氏)
その考えのもと、22年10月、「会社と従業員、そして家族が一体となって『健康づくり』を推進し、従業員の活力向上と、エンターテイメントの創造によって豊かな地域・社会の実現に寄与していくこと」を目的とした「健康経営宣言」を策定。「健康経営優良法人」認定を目指し、改革に着手した。翌23年度に初めて申請し、認定決定の報を受けたときは、「携わってきたメンバー全員で、小躍りするくらい喜びました」と古宇田氏は破顔して振り返る。
■業界で常態化している問題にも部門別に適した対策を実行
「健康経営優良法人」申請のためには、「健康経営度調査」に回答し、認定基準に適合しているか否かの判定を受けることがファーストステップとなる。フレームワークとして設定されているのは「経営理念・方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」の4つ。各々に設問が設けられ、その得点の合計が偏差値化され、評価値が決定される。
「ものすごい量の質問があるのですが、それによって、自分の会社のウィークポイントとストロングポイントが明確になりました。弊社の場合、『経営理念・方針』『制度・施策実行』『評価・改善』は平均点以上だったのですが、実施体制や従業員への浸透が問われる『組織体制』だけが平均点より低い結果だったんです」(古宇田氏)
課題は明確だった。この業界では常態化している長時間労働・過重労働だ。
「アニメ・映像事業、音楽事業、ライブ制作事業でそれぞれ問題が異なります。23年の結果を受けて、24年度に向けての最大の課題とし、それぞれの現場と真摯に向き合い、密なコミュニケーションを取りながら、適時適切な対策を講じて解決にあたるよう取り組みました。たとえば、ある一定の部門や個人に仕事が集中する状態に対して、どのようなフォロー体制をとるか。また、新たな人材採用をどう実現するか、などです。現在も部門別に適した対策を検討、実行中です。さらに他社の情報も収集しながら、弊社なりのガイドラインを作る準備も進行しています」(古宇田氏)
一方、評価から浮き彫りになったストロングポイントは、経営理念や方針、保健師による保険指導やメンタルヘルスケア、健康診断や復職時のフォローなど。これまで同社が注力してきた施策の1つひとつが確かな数値となって評価された。
「制度・施策実行」の中の「健康経営の実践に向けた土台作り」もその1つ。同社では、認定取得に向けて、23年8月を「ポニーキャニオン健康月間」に設定。「女性の健康セミナー」や「無料歯科検診&オーラルケアセミナー」「オンラインピラティス」「適正飲酒知識向上」、10月には「ピンクリボン月間」、そして年明けには「歩こうフェス」など、従業員の健康維持・増進のためのさまざまな企画を実施してきた。
「いろいろな施策をパラパラと繰り出すよりは、1つにまとめたほうが浸透しやすいだろうということで、8月を健康月間と決め、社の勉強会的な枠である毎週火曜日の9時からの1時間の『朝活』の時間を中心に行ってきました。そのほかにも、1月は「正月太り解消」、2月は「花粉症セミナー」など、時流に合わせた施策も実施しており、今年5月には「睡眠セミナー」なども用意しています。コロナ禍を乗り越えた今、各種セミナーやイベントを通して、従業員間のコミュニケーションを復活させ、会社全体の活性化にもつなげたいと考えています」(古宇田氏)
■いずれは上位500社が認定される「健康経営優良法人 ホワイト500」を目指したい
24年度はさらに評価を上げ、2年連続で認定を受けた同社。しかし、「組織体制」の中でも問われている「従業員への浸透」の難しさも感じているという。
「健康経営に関する会社としての取り組みを全社にどう理解・浸透させるか。しっかり全社に浸透させ、いずれは従業員のみんなからいろいろなアイデアが出てくるようになればいいなと考えています。そのためにかかる経費はコストではなく、投資ですからね」(古宇田氏)
さらに今後は、上位500社が認定される「健康経営優良法人 ホワイト500」を目指したいと目を輝かす。
「今、総合順位で3520社中1851位という中途半端なところにいますが(笑)、ホワイトに認定される企業になり、従業員とその家族やパートナーが心身ともに健康であることで幸福度が高まるとともに、生産性が向上し、会社全体の活性化が図られるよう取り組んでいきたいと思います」(古宇田氏)
22年の経済産業省の調査によると、就活生とその親が就職先を検討するうえで最も重視しているのが「従業員の健康や働き方に配慮している」こと。人手不足といわれる現在、「健康経営優良法人」は求職者への強力なアピールにもなるだろう。
「健康管理は自分で行うもの」という考え方から、「従業員の健康は会社の資本」という考え方へ、時代は確実に移り変わっている。
文・河上いつ子
■経済産業省 健康経営優良法人認定制度:
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html
■ポニーキャニオン:https://www.ponycanyon.biz/
■企業理念実現のためには従業員の健康が不可欠
「従業員等の健康保持や増進への取り組みが、将来的に企業の収益性等を高める」という考えのもと、「社員の健康管理を経営的な視点で考え、戦力的に取り組む経営手法」として経済産業省が推進、近年取り組む企業が増加している「健康経営」。ポニーキャニオンがその優良な実践企業に与えられる「健康経営優良法人」の認定取得を目指したのは、コロナ禍がきっかけだった。
2017年以降、働き方改革を積極的に推し進め、20年2月には新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴い、テレワーク・リモートワークをいち早く導入した同社。翌21年6月には、新たな働き方の実現に向け、本社オフィス改革の一環として、仕事内容に合わせて働く場所や時間を自由に選択できるABW(Activity Based Working)を導入。新型コロナワクチンの職域接種にもいち早く取り組み、従業員、家族、所属アーティストやグループ会社、関連会社や取引先の従業員に至るまで、延べ4回にわたり実施した。
「弊社の企業理念である『想像力を越える創造力で、世界中の人とつながります』を実現するためには、従業員が心身ともに健康であり、個々の持てる能力を存分に発揮できることが不可欠です。それに加え、ブラックと思われがちな業界のイメージを払拭したいという気持ちもありました。当時、音楽メーカーで『健康経営優良法人』に認定されている企業はありませんでした。しかし、映像や映画業界では、東宝さんやハピネットさんがすでに認定されていることを知り、総合エンターテイメント企業である弊社も本腰を入れて取り組み、認められる会社になりたいと考えました」(ポニーキャニオン 人事総務本部 古宇田隆之助氏)
その考えのもと、22年10月、「会社と従業員、そして家族が一体となって『健康づくり』を推進し、従業員の活力向上と、エンターテイメントの創造によって豊かな地域・社会の実現に寄与していくこと」を目的とした「健康経営宣言」を策定。「健康経営優良法人」認定を目指し、改革に着手した。翌23年度に初めて申請し、認定決定の報を受けたときは、「携わってきたメンバー全員で、小躍りするくらい喜びました」と古宇田氏は破顔して振り返る。
■業界で常態化している問題にも部門別に適した対策を実行
「健康経営優良法人」申請のためには、「健康経営度調査」に回答し、認定基準に適合しているか否かの判定を受けることがファーストステップとなる。フレームワークとして設定されているのは「経営理念・方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」の4つ。各々に設問が設けられ、その得点の合計が偏差値化され、評価値が決定される。
「ものすごい量の質問があるのですが、それによって、自分の会社のウィークポイントとストロングポイントが明確になりました。弊社の場合、『経営理念・方針』『制度・施策実行』『評価・改善』は平均点以上だったのですが、実施体制や従業員への浸透が問われる『組織体制』だけが平均点より低い結果だったんです」(古宇田氏)
課題は明確だった。この業界では常態化している長時間労働・過重労働だ。
「アニメ・映像事業、音楽事業、ライブ制作事業でそれぞれ問題が異なります。23年の結果を受けて、24年度に向けての最大の課題とし、それぞれの現場と真摯に向き合い、密なコミュニケーションを取りながら、適時適切な対策を講じて解決にあたるよう取り組みました。たとえば、ある一定の部門や個人に仕事が集中する状態に対して、どのようなフォロー体制をとるか。また、新たな人材採用をどう実現するか、などです。現在も部門別に適した対策を検討、実行中です。さらに他社の情報も収集しながら、弊社なりのガイドラインを作る準備も進行しています」(古宇田氏)
一方、評価から浮き彫りになったストロングポイントは、経営理念や方針、保健師による保険指導やメンタルヘルスケア、健康診断や復職時のフォローなど。これまで同社が注力してきた施策の1つひとつが確かな数値となって評価された。
「制度・施策実行」の中の「健康経営の実践に向けた土台作り」もその1つ。同社では、認定取得に向けて、23年8月を「ポニーキャニオン健康月間」に設定。「女性の健康セミナー」や「無料歯科検診&オーラルケアセミナー」「オンラインピラティス」「適正飲酒知識向上」、10月には「ピンクリボン月間」、そして年明けには「歩こうフェス」など、従業員の健康維持・増進のためのさまざまな企画を実施してきた。
「いろいろな施策をパラパラと繰り出すよりは、1つにまとめたほうが浸透しやすいだろうということで、8月を健康月間と決め、社の勉強会的な枠である毎週火曜日の9時からの1時間の『朝活』の時間を中心に行ってきました。そのほかにも、1月は「正月太り解消」、2月は「花粉症セミナー」など、時流に合わせた施策も実施しており、今年5月には「睡眠セミナー」なども用意しています。コロナ禍を乗り越えた今、各種セミナーやイベントを通して、従業員間のコミュニケーションを復活させ、会社全体の活性化にもつなげたいと考えています」(古宇田氏)
■いずれは上位500社が認定される「健康経営優良法人 ホワイト500」を目指したい
24年度はさらに評価を上げ、2年連続で認定を受けた同社。しかし、「組織体制」の中でも問われている「従業員への浸透」の難しさも感じているという。
「健康経営に関する会社としての取り組みを全社にどう理解・浸透させるか。しっかり全社に浸透させ、いずれは従業員のみんなからいろいろなアイデアが出てくるようになればいいなと考えています。そのためにかかる経費はコストではなく、投資ですからね」(古宇田氏)
さらに今後は、上位500社が認定される「健康経営優良法人 ホワイト500」を目指したいと目を輝かす。
「今、総合順位で3520社中1851位という中途半端なところにいますが(笑)、ホワイトに認定される企業になり、従業員とその家族やパートナーが心身ともに健康であることで幸福度が高まるとともに、生産性が向上し、会社全体の活性化が図られるよう取り組んでいきたいと思います」(古宇田氏)
22年の経済産業省の調査によると、就活生とその親が就職先を検討するうえで最も重視しているのが「従業員の健康や働き方に配慮している」こと。人手不足といわれる現在、「健康経営優良法人」は求職者への強力なアピールにもなるだろう。
「健康管理は自分で行うもの」という考え方から、「従業員の健康は会社の資本」という考え方へ、時代は確実に移り変わっている。
文・河上いつ子
■経済産業省 健康経営優良法人認定制度:
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html
■ポニーキャニオン:https://www.ponycanyon.biz/
2024/04/24




