日々話題を集めるエンタメニュースも、経済目線で知ればもっと面白くなる。そこで『ORICON NEWS』は、エンタメをこよなく愛する経営コンサルタント・坂口孝則氏に、エンタメにまつわるニュースを経済視点で解説してもらう連載企画『オリコンエンタメビズ』を開始した。今回は、世界的規模で活躍を見せるAdoの凄みについて語ってもらった。
■Adoは卑弥呼を超え、宗教革命を起こした。
時代というものは常にビッグスターを生み出しますが、まさにAdoさんの旋風が続いています。2023年末の『NHK紅白歌合戦』では、雨の京都で東本願寺の能舞台から、楽曲「唱」を全日本に届けました。あのコンディションでのあまりに圧倒的な歌唱力は、人々の印象に深く残ったところです。
Adoさんが全国的に有名になった「うっせぇわ」の配信開始は2020年。まだ4年ほどしか経っていません。このあいだに「踊」があり、映画『ONE PIECE FILM RED』でフューチャリングされた「新時代」「私は最強」「逆光」がありました。昨年末に「クラクラ」を出したかと思えば、本年にも「ショコラカタブラ」公開とまさにリリースを緩めようとはしません(ところで私は「世界のつづき」を推します)。
何かご自身が背負った業を利用して、創作で解き放っているようです。
ところで、個人的な話ですが、私が以前、日本テレビ『スッキリ』に週一レギュラー出演していたときのことです。私の出演翌日に、テレビの前で大声を出してしまいました。Adoさんが「天の声」としてナレーション出演をしていたのです。令和の、かつ、世紀の歌姫とニアミスすらできなかった後悔を私は背負って生きることになるでしょう。
そのナレーションは素晴らしく、私はその後、Adoさんの『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)熱心なリスナーになります。番組のキャッチフレーズは<「21歳の明るい陰キャ」が一生懸命、月曜深夜に喋ります>という自虐的かつ逆説的なもの。とくに冒頭のオープニングトークは「明るい陰キャ」と「暗い陽キャ」の融合のようなトークを聞かせてくれました。残念なことに、番組自体は今年の3月で終了します。海外ツアーなどのスケジュールの関係のようです。
この才能は日本だけに埋もれるはずはなく、世界ツアーの11ヶ国・地域、全14公演は即完売となりました。2倍のキャパへ変更した会場もあります。この世界ツアーは今年の2月から4月までで、世界にAdoさんのシルエット歌唱が届きます。
企業のマーケティング観点から、ここに驚愕せざるをえません。というのも、数年前に無名だったアーティストが、わずかな期間で途方もない金額を稼いでいます。14公演それぞれ平均5000人としても(※)収容は約7万人。チケットが1万円としたら7億円で、さらに関連の経済効果までを含めると倍の14億円が生じます。これは最低の金額であり、実際にはさらに増えるでしょう。しかもたった数ヶ月。数ヶ月で14億円とは、日本の少なからぬ上場企業における売上高にも匹敵します。現在、SNSを中心とした注目が個人に集まり、それによる爆発的な評価を受けることの凄さがわかります。つまり、ビジネス観点からアーティストのヒット要因を深掘りすることは、自社ビジネスのヒットを模索することにほかなりません。
ところで、私はAdoさんのキーワードとして、圧倒的歌唱力、精力的リリース、明るい陰キャ、シルエットなどを挙げました。おそらく、年末に紅白を見ていた少なからぬシニアが、実家帰りの子どもらに「これカメラミスかね。歌手の顔が映ってないやないか」と話しかけたはずです。
かつて芸能界で成功するとは、顔を出し、プライベートをさらけ出し、プライバシーもなく、メディアとファンに追いかけられる存在でした。有名税、という単語もあるくらい、「お金を稼げるんだから当然でしょう」とする雰囲気がありました。かつて芸能界でハラスメントまがいの行為が氾濫していても、一般人は「そんなの仕方ないでしょ」と是認する空気があったのは否定できません。名誉と豊かな生活の代償だと。
卑弥呼のようなシャーマン(宗教的職能者)は尊敬され敬われる対象でありながら、同時に非難、処刑や処罰の対象にもなってきました。日本における芸能人はシャーマンだったのです。
しかし、私の子どもらもよくAdoさんを愛聴しています。姿のわからないシルエットだけのAdoさんをまるで、アニメキャラかVTuberか、そもそもAdoさんという記号を楽しむほど人類として“進化”しています。
「Adoさんのライブに行っても、本人を見られないから意味がない」といっている人。たぶん、わかってないのは、そっちのほうだね。むしろ、そんなAdoさんと空間を共有していることに人々は興奮しているのです。Adoさんでも、yamaさんでも、ずっと真夜中でいいのに。でも、いいのですが、もしかしたらスタバで、自分の隣でスターがコーヒーを飲んでいるかもしれない、というリアリティ。
これまでビジネスでは「素顔を出せ」「自らをさらけ出せ」といわれました。それが令和になってからは、出さないことが、むしろリアルになっているのです。これはビジネス観点からもきわめて示唆的です。
すべてをさらけ出さないといけないシャーマン(宗教的職能者)を脱して、自らを隠してスターダムに登った痛快さ。これはもはや宗教革命といっていい。
Adoは卑弥呼を超え、宗教革命を起こしたのです。
※ツアーは、タイ・バンコク「Thunder Dome」(キャパ約1万5000人)や香港「AsiaWorld-Expo, Runway 11」(キャパ約3800人)、米NY「Palladium Times Square」(キャパ約2000)など様々な会場で行われる。
※参考記事
「Ado、初の世界ツアー全14公演完売 当初予定の2倍収容会場に変更の異例対応も」
■プロフィール
■Adoは卑弥呼を超え、宗教革命を起こした。
時代というものは常にビッグスターを生み出しますが、まさにAdoさんの旋風が続いています。2023年末の『NHK紅白歌合戦』では、雨の京都で東本願寺の能舞台から、楽曲「唱」を全日本に届けました。あのコンディションでのあまりに圧倒的な歌唱力は、人々の印象に深く残ったところです。
Adoさんが全国的に有名になった「うっせぇわ」の配信開始は2020年。まだ4年ほどしか経っていません。このあいだに「踊」があり、映画『ONE PIECE FILM RED』でフューチャリングされた「新時代」「私は最強」「逆光」がありました。昨年末に「クラクラ」を出したかと思えば、本年にも「ショコラカタブラ」公開とまさにリリースを緩めようとはしません(ところで私は「世界のつづき」を推します)。
何かご自身が背負った業を利用して、創作で解き放っているようです。
ところで、個人的な話ですが、私が以前、日本テレビ『スッキリ』に週一レギュラー出演していたときのことです。私の出演翌日に、テレビの前で大声を出してしまいました。Adoさんが「天の声」としてナレーション出演をしていたのです。令和の、かつ、世紀の歌姫とニアミスすらできなかった後悔を私は背負って生きることになるでしょう。
そのナレーションは素晴らしく、私はその後、Adoさんの『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)熱心なリスナーになります。番組のキャッチフレーズは<「21歳の明るい陰キャ」が一生懸命、月曜深夜に喋ります>という自虐的かつ逆説的なもの。とくに冒頭のオープニングトークは「明るい陰キャ」と「暗い陽キャ」の融合のようなトークを聞かせてくれました。残念なことに、番組自体は今年の3月で終了します。海外ツアーなどのスケジュールの関係のようです。
この才能は日本だけに埋もれるはずはなく、世界ツアーの11ヶ国・地域、全14公演は即完売となりました。2倍のキャパへ変更した会場もあります。この世界ツアーは今年の2月から4月までで、世界にAdoさんのシルエット歌唱が届きます。
企業のマーケティング観点から、ここに驚愕せざるをえません。というのも、数年前に無名だったアーティストが、わずかな期間で途方もない金額を稼いでいます。14公演それぞれ平均5000人としても(※)収容は約7万人。チケットが1万円としたら7億円で、さらに関連の経済効果までを含めると倍の14億円が生じます。これは最低の金額であり、実際にはさらに増えるでしょう。しかもたった数ヶ月。数ヶ月で14億円とは、日本の少なからぬ上場企業における売上高にも匹敵します。現在、SNSを中心とした注目が個人に集まり、それによる爆発的な評価を受けることの凄さがわかります。つまり、ビジネス観点からアーティストのヒット要因を深掘りすることは、自社ビジネスのヒットを模索することにほかなりません。
ところで、私はAdoさんのキーワードとして、圧倒的歌唱力、精力的リリース、明るい陰キャ、シルエットなどを挙げました。おそらく、年末に紅白を見ていた少なからぬシニアが、実家帰りの子どもらに「これカメラミスかね。歌手の顔が映ってないやないか」と話しかけたはずです。
かつて芸能界で成功するとは、顔を出し、プライベートをさらけ出し、プライバシーもなく、メディアとファンに追いかけられる存在でした。有名税、という単語もあるくらい、「お金を稼げるんだから当然でしょう」とする雰囲気がありました。かつて芸能界でハラスメントまがいの行為が氾濫していても、一般人は「そんなの仕方ないでしょ」と是認する空気があったのは否定できません。名誉と豊かな生活の代償だと。
卑弥呼のようなシャーマン(宗教的職能者)は尊敬され敬われる対象でありながら、同時に非難、処刑や処罰の対象にもなってきました。日本における芸能人はシャーマンだったのです。
しかし、私の子どもらもよくAdoさんを愛聴しています。姿のわからないシルエットだけのAdoさんをまるで、アニメキャラかVTuberか、そもそもAdoさんという記号を楽しむほど人類として“進化”しています。
「Adoさんのライブに行っても、本人を見られないから意味がない」といっている人。たぶん、わかってないのは、そっちのほうだね。むしろ、そんなAdoさんと空間を共有していることに人々は興奮しているのです。Adoさんでも、yamaさんでも、ずっと真夜中でいいのに。でも、いいのですが、もしかしたらスタバで、自分の隣でスターがコーヒーを飲んでいるかもしれない、というリアリティ。
これまでビジネスでは「素顔を出せ」「自らをさらけ出せ」といわれました。それが令和になってからは、出さないことが、むしろリアルになっているのです。これはビジネス観点からもきわめて示唆的です。
すべてをさらけ出さないといけないシャーマン(宗教的職能者)を脱して、自らを隠してスターダムに登った痛快さ。これはもはや宗教革命といっていい。
Adoは卑弥呼を超え、宗教革命を起こしたのです。
※ツアーは、タイ・バンコク「Thunder Dome」(キャパ約1万5000人)や香港「AsiaWorld-Expo, Runway 11」(キャパ約3800人)、米NY「Palladium Times Square」(キャパ約2000)など様々な会場で行われる。
※参考記事
「Ado、初の世界ツアー全14公演完売 当初予定の2倍収容会場に変更の異例対応も」
■プロフィール
坂口孝則(さかぐち・たかのり)
1978年生まれ。福岡放送『めんたいワイド』(隔週)、TBSラジオ『日本リアライズpresents 篠田麻里子のGOOD LIFE LAB!』など出演。日本テレビ系『スッキリ』木曜コメンテーターも担当していた。趣味はメタルのライブに行くことで、音楽をこよなく愛する調達・購買コンサルタント、講演家。未来調達研究所株式会社所属。大阪大学経済学部卒業後、電気メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買に従業。現在は、製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書は『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『未来の稼ぎ方』『製造業の現場バイヤーが教える 調達力・購買力の基礎を身につける本』『調達・購買の教科書』など。直近で『買い負ける日本』(幻冬舎刊)を発売した。■エンタメニュースを“経済視点”で解説【オリコンエンタメビズ】
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2024/02/07