『TEZUKA2023』プロジェクトの概要説明会が12日、都内の慶應義塾大学 三田キャンパスで行われ、「AI×手塚治虫」で『ブラック・ジャック』の新作を今秋に公開することが発表された。
AIと人間のコラボレーションでマンガの神様・手塚治虫に挑み、新作『ぱいどん』を生み出したプロジェクト『TEZUKA2020』から3年。その後も、プロジェクトメンバーであった慶応義塾大学栗原聡教授と手塚眞氏、手塚プロダクションが中心となり、「AIと人間の共創マンガの実現」に取り組んできた。
そして今年『TEZUKA2023』として今年誕生50周年を迎えた『ブラック・ジャック』の新作制作に着手し、今秋に公開予定となった。前作の経験で、クリエイティブの分野においてはインタラクティブ性の高い共創型AIサポートシステムの存在が、人ならではの能力である創造性の発揮につながることに着目。研究を重ね、今回の制作においてはクリエイターとAIのインタラクティブなやりとりがポイントになっている。
新たな局面に入ったAIと人間が手を取り合うことで、手塚治虫が礎を築いた日本の「マンガ文化」は転換期を迎えることが出来るのかに注目が集まりそうだ。掲載は秋田書店『週刊少年チャンピオン』で予定されている。
手塚プロダクション取締役の手塚眞氏は『ぱいどん』の発表後、否定的な意見があまりなく、好意的に受け入れられたと感じたという。そこで「可能性を感じた」と振り返った。「次の研究成果という形で何か発表しようという時に『ブラック・ジャック』という提案を私の方から提案させていただきました。これは非常に大それた提案だったと誰よりもよくわかっています。今でも心の中では半分、無理だろうなと思っております。ですけど、こういう研究の中で挑戦するというのは非常に需要なことです。何より手塚治虫本人が漫画という形でさまざまな表現に挑戦して参りました。クリエイティブという世界の中で、新たな挑戦をしていくことに手塚治虫の漫画は最適であると思っておりましたし、やはりハードルをある程度高くすることによって、より研究が進むのではないかと思いました」と語った。
なぜ『ブラック・ジャック』にしたかということも言及。200話以上と作品数が多く、1つのエピソードの中でも複雑に物語が絡んでいる構造になっている。それがAIの研究に役立つのではないかと考えた。加えて「『ブラック・ジャック』の連載開始から50年。私の直感で『ブラック・ジャック』に挑戦するのがいいのではないかと提案した」と振り返っていた。
一方で、あくまで研究の中間発表。「まだまだ研究は続いていく。『これからブラック・ジャックの連載が始まります』という話ではございません。あくまで研究ということで挑戦する、という発表でございます。これからでございます。まだ何も始まっておりません。『これは発表しない方がいい』と感じましたら私の方で責任を持って止めます」と強調した。
また、手塚眞氏は「これは人間のためにやる研究です。AIを漫画家にする研究ではございません。あくまで人間のクリエーターのサポートをする。どこまでサポートをできたのかというのが今回の研究の1番の主要目的。全て100%、『ブラック・ジャック』をAIに描かせるということでは決してございません。そこのところは誤解なきように考えていただきたい」と呼びかけた。
人間のクリエーターは果たす役割について問われると手塚氏は「最終的にまとめ上げるのは人間。最初のアイデアも人間の仕事。間を少しAIがサポートする」としたが、研究次第では任せる範囲を広げるとしていた。
最後に手塚眞氏は「自分自身、期待しているところです。もちろん、いろんな意見が出てくると思っています。批判も受け止める覚悟もあります」ときっぱり。そして「1つ遺族として言えるのは、手塚治虫が生きていたら、AIを使っていただろうなと思います。1番、いい形で使って見本を示したと思います」とし、「誰よりもこういう技能を使いたかったのが手塚治虫だと僕は思っています。たくさんの作品を量産しておりました。それも高い質で。その中で手が足りませんでした。『自分をサポートしてくれる人間が、もっといればいいのに』というところからアシスタントという人たちを使うようになりました」と振り返った。アシスタントは、主に背景などを担当する。「AIがあれば手塚治虫は、もっと量産できたはずです。非常に高い質の作品をもっともっと生み出せたと思います。AIが進化することで、クリエーターたちは仕事を奪われるのではなく、よりたくさんのクリエーターが登場して、より幅の広い仕事をする社会になることを夢見ております」と思いを語っていた。
■コメント
【栗原聡慶應義塾大学理学部教授】
『TEZUKA2020』に参画したことで、クリエイティブなタスクへのAIサポートの可能性を強く感じたもの、同時に人の創造力に対してまだまだAIの力量が足りないことを痛感しました。この経験が現在の「AIとマンガの共創の可能性」を追求する、NEDOに採択された研究プロジェクトの立ち上げにつながったのですが、研究を進める中、絶妙なタイミングで我々の研究プロジェクトにとって大きな追い風となるChatGPTのような生成AIが登場したことは極め幸運なことでした。今回、私たちはインタラクティブなやりとりを通してクリエイターの創造的作業をサポートする、GPT-4を基盤とするAIのコンセプトを提案しております。無論、素晴らしい技術には、今多方面で議論されている負の面に対してもしっかり考える必要があります。この研究プロジェクトを通して、さらに進化していくAIと人・社会がどのような関係を構築することが、今後のあるべき人間社会の実現のために必要であるのかという、根元的な問いへのひとつの答えにたどり着けるのではないかと思います。まずは、『TEZUKA2023』により、どのような作品が完成するのか自分自身楽しみです。
【手塚眞手塚プロダクション取締役】
『TEZUKA2020』では、『ぱいどん』というマンガを制作しましたが、そのときAIはまだマンガ初心者で、慎ましい関わり方でした。それから3年。AIは飛躍的に進歩しています。もう初心者とは言えないということで、ハードルを一気に高くして、手塚治虫の代表作である『ブラック・ジャック』(BJ)の新作に挑戦します。『BJ』はエピソード数も多く、あらゆるジャンルを含み、手塚治虫のエッセンスが凝縮されている作品。そして、コロナ後の今の時代が一番渇望しているコンテンツと言えます。今回はさまざまなクリエイターが実際にAIと共同制作することで、コンテンツ作りの新たな方法論を生み出せるでしょう。日本のマンガ文化が、また新しい未来を手に入れるのかもしれません。
■『ブラック・ジャック』
秋田書店『週刊少年チャンピオン』で1973年11月から1983年10月まで連載された手塚治虫の代表作。無免許の天才外科医ブラック・ジャックが活躍する医療ドラマ。今年誕生50周年を迎える。
AIと人間のコラボレーションでマンガの神様・手塚治虫に挑み、新作『ぱいどん』を生み出したプロジェクト『TEZUKA2020』から3年。その後も、プロジェクトメンバーであった慶応義塾大学栗原聡教授と手塚眞氏、手塚プロダクションが中心となり、「AIと人間の共創マンガの実現」に取り組んできた。
そして今年『TEZUKA2023』として今年誕生50周年を迎えた『ブラック・ジャック』の新作制作に着手し、今秋に公開予定となった。前作の経験で、クリエイティブの分野においてはインタラクティブ性の高い共創型AIサポートシステムの存在が、人ならではの能力である創造性の発揮につながることに着目。研究を重ね、今回の制作においてはクリエイターとAIのインタラクティブなやりとりがポイントになっている。
新たな局面に入ったAIと人間が手を取り合うことで、手塚治虫が礎を築いた日本の「マンガ文化」は転換期を迎えることが出来るのかに注目が集まりそうだ。掲載は秋田書店『週刊少年チャンピオン』で予定されている。
手塚プロダクション取締役の手塚眞氏は『ぱいどん』の発表後、否定的な意見があまりなく、好意的に受け入れられたと感じたという。そこで「可能性を感じた」と振り返った。「次の研究成果という形で何か発表しようという時に『ブラック・ジャック』という提案を私の方から提案させていただきました。これは非常に大それた提案だったと誰よりもよくわかっています。今でも心の中では半分、無理だろうなと思っております。ですけど、こういう研究の中で挑戦するというのは非常に需要なことです。何より手塚治虫本人が漫画という形でさまざまな表現に挑戦して参りました。クリエイティブという世界の中で、新たな挑戦をしていくことに手塚治虫の漫画は最適であると思っておりましたし、やはりハードルをある程度高くすることによって、より研究が進むのではないかと思いました」と語った。
なぜ『ブラック・ジャック』にしたかということも言及。200話以上と作品数が多く、1つのエピソードの中でも複雑に物語が絡んでいる構造になっている。それがAIの研究に役立つのではないかと考えた。加えて「『ブラック・ジャック』の連載開始から50年。私の直感で『ブラック・ジャック』に挑戦するのがいいのではないかと提案した」と振り返っていた。
一方で、あくまで研究の中間発表。「まだまだ研究は続いていく。『これからブラック・ジャックの連載が始まります』という話ではございません。あくまで研究ということで挑戦する、という発表でございます。これからでございます。まだ何も始まっておりません。『これは発表しない方がいい』と感じましたら私の方で責任を持って止めます」と強調した。
また、手塚眞氏は「これは人間のためにやる研究です。AIを漫画家にする研究ではございません。あくまで人間のクリエーターのサポートをする。どこまでサポートをできたのかというのが今回の研究の1番の主要目的。全て100%、『ブラック・ジャック』をAIに描かせるということでは決してございません。そこのところは誤解なきように考えていただきたい」と呼びかけた。
人間のクリエーターは果たす役割について問われると手塚氏は「最終的にまとめ上げるのは人間。最初のアイデアも人間の仕事。間を少しAIがサポートする」としたが、研究次第では任せる範囲を広げるとしていた。
最後に手塚眞氏は「自分自身、期待しているところです。もちろん、いろんな意見が出てくると思っています。批判も受け止める覚悟もあります」ときっぱり。そして「1つ遺族として言えるのは、手塚治虫が生きていたら、AIを使っていただろうなと思います。1番、いい形で使って見本を示したと思います」とし、「誰よりもこういう技能を使いたかったのが手塚治虫だと僕は思っています。たくさんの作品を量産しておりました。それも高い質で。その中で手が足りませんでした。『自分をサポートしてくれる人間が、もっといればいいのに』というところからアシスタントという人たちを使うようになりました」と振り返った。アシスタントは、主に背景などを担当する。「AIがあれば手塚治虫は、もっと量産できたはずです。非常に高い質の作品をもっともっと生み出せたと思います。AIが進化することで、クリエーターたちは仕事を奪われるのではなく、よりたくさんのクリエーターが登場して、より幅の広い仕事をする社会になることを夢見ております」と思いを語っていた。
■コメント
【栗原聡慶應義塾大学理学部教授】
『TEZUKA2020』に参画したことで、クリエイティブなタスクへのAIサポートの可能性を強く感じたもの、同時に人の創造力に対してまだまだAIの力量が足りないことを痛感しました。この経験が現在の「AIとマンガの共創の可能性」を追求する、NEDOに採択された研究プロジェクトの立ち上げにつながったのですが、研究を進める中、絶妙なタイミングで我々の研究プロジェクトにとって大きな追い風となるChatGPTのような生成AIが登場したことは極め幸運なことでした。今回、私たちはインタラクティブなやりとりを通してクリエイターの創造的作業をサポートする、GPT-4を基盤とするAIのコンセプトを提案しております。無論、素晴らしい技術には、今多方面で議論されている負の面に対してもしっかり考える必要があります。この研究プロジェクトを通して、さらに進化していくAIと人・社会がどのような関係を構築することが、今後のあるべき人間社会の実現のために必要であるのかという、根元的な問いへのひとつの答えにたどり着けるのではないかと思います。まずは、『TEZUKA2023』により、どのような作品が完成するのか自分自身楽しみです。
【手塚眞手塚プロダクション取締役】
『TEZUKA2020』では、『ぱいどん』というマンガを制作しましたが、そのときAIはまだマンガ初心者で、慎ましい関わり方でした。それから3年。AIは飛躍的に進歩しています。もう初心者とは言えないということで、ハードルを一気に高くして、手塚治虫の代表作である『ブラック・ジャック』(BJ)の新作に挑戦します。『BJ』はエピソード数も多く、あらゆるジャンルを含み、手塚治虫のエッセンスが凝縮されている作品。そして、コロナ後の今の時代が一番渇望しているコンテンツと言えます。今回はさまざまなクリエイターが実際にAIと共同制作することで、コンテンツ作りの新たな方法論を生み出せるでしょう。日本のマンガ文化が、また新しい未来を手に入れるのかもしれません。
■『ブラック・ジャック』
秋田書店『週刊少年チャンピオン』で1973年11月から1983年10月まで連載された手塚治虫の代表作。無免許の天才外科医ブラック・ジャックが活躍する医療ドラマ。今年誕生50周年を迎える。
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2023/06/12