今月9日に食道胃接合部がんのため亡くなった元参院議長で俳優だった扇千景さん(本名:林寛子/享年89)の葬儀告別式が27日、東京・増上寺でしめやかに営まれた。 開式前には、長男の中村鴈治郎(64)、次男の中村扇雀(62)、孫の中村壱太郎(32)、中村虎之介(25)が取材に応じた。葬儀の日を迎え、壱太郎は「天寿を全うした。よかった、という思いがそこにあったんじゃないかなと思います」と思いを明かす。「歌舞伎役者という仕事をしていますと、親族の死に目に会えないということがあります。祖父の時も私は舞台に立っておりまして。最後に会うことができませんでした。今回、祖母は京都で公演しながらも休演日だった。厳しい歌舞伎の世界にいるということを、いつも見守ってくれ、励ましてくれた中で、最後にそういった機会を与えてくれたのかな。最後の顔を見た。それで心の中の整理が1つついた」としみじみ口にすると「きょうは、寂しさというよりも感謝の気持ちで、この場に立っています」と気丈に語っていた。 2020年11月に扇さんの夫の坂田藤十郎さんが死去。虎之介は「数年前に祖父も亡くなって、祖母も亡くなってしまいました」と寂しそうに語る。「残された自分たちは、祖父や祖母が築き上げてきた偉大な功績に恥じないように生きていかなければいけないなと思いました」と天国の藤十郎さんと扇さんにさらなる飛躍を約束を約束する。「『おばあちゃん』と1回も呼んだことがないんですけど、あんなに力強くて自分の意思を強く持っている女性を見たことがない。そこを孫として尊敬している。そういう自分の意思を強く持った祖母のような人間になりたいと思っています」と決意を新たにしていた。 扇さんは1933年、神戸市生まれ。兵庫県立神戸高等学校卒業後、宝塚音楽学校を経て54年に俳優となった。58年に歌舞伎俳優の二代目中村扇雀(四代目・坂田藤十郎さん)と結婚。『3時のあなた』の司会などを務め、77年には参議院議員に初当選した。以後、国土庁長官、運輸大臣、北海道開発庁長官など数々の要職を歴任し、2000年には保守党党首となり、翌01年1月には初代国土交通大臣に就任し、04年には女性初の参議院議長となった。 扇さんの法号は華扇院妙慧日寛清大姉。祭壇は胡蝶蘭やスプレーマム、カーネーション、バラ、トルコキキョウをあしらった。個人らしさを感じるピンクを使用し、扇のイメージとともに華やかさと故人の優しさを柔らかく包み込むようなイメージを表現した。また、旭日大綬章、女性で初めて受章した桐花大綬章や従二位も飾られていた。