日本中が大いに盛り上がった「FIFAワールドカップ カタール2022」で、“特別”な観戦スタイルとして話題を集めたホスピタリティプログラム。専用スペース(個室やラウンジ等)を利用した飲食やギフト等に観戦チケットを組み合わせた付加価値の高い“体験”を楽しめるパッケージ商品のことだ。欧米ではよく知られたこの観戦スタイルは今、日本でも徐々に広がりつつある。昨年12月には、チケット販売大手のぴあが、欧州でホスピタリティ事業を展開するDAIMANI Holding AG(本社 スイス・チューリッヒ) と業務資本提携し、集客エンタテインメント業界におけるホスピタリティ市場に参入することを発表した。
■体験価値のバリエーション増加で集客エンタテインメントの楽しみ方は拡張
「専用スペースでの特別なおもてなしと良席での観戦」と聞くと、招待客やスポンサー、あるいは一部セレブ向けのものという限定的なイメージが強いが、ぴあが目指すホスピタリティ事業は、単なる富裕層向けサービスではなく、「お客様に対しての体験価値を向上させること」だと川端俊宏氏(ぴあ 取締役<グローバル事業担当>)は語る。
「ホスピタリティとは、イコール“おもてなし”であって、我々がやろうとしているのは、おもてなしの種類を開発し、お客様の体験価値のバリエーションを増やしていくことなのです」(川端氏/以下同)
スポーツやエンタテインメント分野で、日本国内でも少しずつダイナミックプライシング(需給に応じて価格を変動させる仕組み)が広がりをみせているが、そのチケットの料金差は、例えば音楽ライブの場合であれば、ステージからの距離や見え方といった区分けや、グッズ付きなどのファンサービス的な意味合いでつけられるケースが多い。しかし、川端氏が考えるホスピタリティプログラム構想とは、そういった良い席で観たい、絶対にチケットが欲しいという人向けに単なる高額チケットを用意するものではなく、価格相応の“体験価値”までをセットにしたサービスを提供しようというものだ。
「先日のFIFAワールドカップを例に挙げると、とにかく日本戦を観戦できればいいという人もいれば、せっかくならたくさん試合を見てワールドカップ自体を楽しみたいという人もいて、観戦スタイルによってチケットの価値も変わります。その時に、一律料金のチケットしかなければ、対戦カードや座席からの見え方でしか差がつけられませんが、数種類のホスピタリティプログラムが用意されていれば、“今日は一般席、明日はホスピタリティプログラムで”というふうに楽しみ方が広がるのです」
身近な例で考えても、リーズナブルに何度もライブを観たい人と、一生に一度のラグジュアリーなライブ体験を満喫したい人とで、そこに見出す価値は必然的に異なってくる。もちろん、スポーツと演劇、音楽ライブといったカテゴリーによっても、求められる体験価値は変容する。そうした多様な価値に応じて体験のバリエーションを用意するというのが、本事業の根本的な考え方だ。
その最上級のプログラムの1つとして挙げられるのは、いわゆるVIPルームだ。現状、スポンサーなど特定の人しか入れないエリアだが、そこでの観戦・観覧に特別な価値を見出し、相応の金額でイベント主催者、チーム、あるいはアーティストを応援したい人がいれば、スポンサーにならずとも、ホスピタリティプログラムを活用して、特別な1日を存分に堪能することができる。また法人ユースの場合は、街中の高級料亭やレストランで接待を行うのと同じように、自身のトップクライアントを招いて“おもてなし”をし、ワンランク上の空間で一緒に楽しむことで関係性を強めることもできる。
■ホスピタリティプログラムによる収益増は大きなビジネスチャンスに
国内では、こういった体験価値をプロデュースする試みは新たな概念と言えるのだが、欧米では、特別な日にファミリーでイベントを観に行き、豪華な食事をしてスポーツやエンタテインメントを楽しむといった具合に、当たり前のように活用されており、特に先進的なイギリスを中心に市場は大きく成長しているという。最近では、ホスピタリティプログラムに割り当てられる席数は会場全体の1〜2割程度だが、その収益はチケット収入の4〜5割を占めるほど大きい。会場側にとってはその増益分を会場の改修やサービス向上に充てられるため、ビジネスチャンスにもつながっている。
そのため、新規にアリーナやスタジアムを建設する際はホスピタリティゾーンの併設が必須であり、スポーツやエンタテインメントそのものが“ホスピタリティありき”で考えられているという。また今後の可能性として、高騰するイベント制作費を補填し、一般チケットの値上がりを抑えるといった効果も期待されている。
そこでぴあは、2020年にオープンした自社運営のライブ会場「ぴあアリーナMM」にホスピタリティラウンジを設置。ハード面でも対応できる環境を整えている。しかしながら、このように国内でホスピタリティ設備を持つイベント会場やライブハウスは極少数で、施設設備の面で欧米からは大きな遅れをとっているのが実情である。ならば、特に音楽エンタテインメントにおけるホスピタリティプログラムの導入は困難のように感じるが、「会場の設備や座席に依存しない、日本ならではの“おもてなし”を作り出せる可能性は大いにある」と川端氏は続ける。
「欧米のイベント会場の周辺に飲食店はほとんどありませんが、日本にはたくさんある。ですから、スムーズな入退場、イベントでの盛り上がりを会場で実現し、会場までの移動や、会場を出た後の周辺地域での楽しみ方などを組み合わせたホスピタリティパッケージを上手くプロデュースできれば、むしろチャンスは大きいと我々は考えています」
■「その1日を存分に楽しむ」発想はぴあの理念に通底 模索する日本独自の体験価値
欧米で実績のあるスタイルをそのまま輸入するのではなく、日本独自にカスタマイズしたホスピタリティプログラムを、チケットと体験価値を組み合わせて構築する。イベントそのものだけでなく、前後の時間の過ごし方も含めて「その1日を存分に楽しんでほしい」という考え方は、ぴあの理念とも根底ではつながっている。もう1つ、日本独自の部分と言えば、ファンクラブが企画するチケット販売サービスとの共存も大きな課題だ。
「主催者がホスピタリティを考えると、当然ながらファンサービスやライブ、イベント自体の価値を最大化しようとするので、どんどんアーティストやイベント、作品等のコンテンツに特化したものになっていく。一方で我々は、ライブやイベントの前後も含めて、どのように体験価値を創出できるか、を考えることは得意分野であり、そこに顧客層を広げていくチャンスがあると思います。だからこそ、我々が主催者と一緒に考えていく意義があるのです。そして両者を上手にミックスできれば、音楽ライブを含む、集客エンタテインメント業界全体でのホスピタリティも加速させていけると思っています」
取組みはスタートしたばかり。現状は、さまざまな可能性を探りつつ、構想を練り上げている段階だ。とは言え、長年に渡り大規模なチケット事業を手掛けてきたぴあが、この事業に取り組む意味合いは非常に大きい。ここからどんなグローバル基準の日本流のホスピタリティが生まれるのか。長期的な目線で、その挑戦に注目したい。
文・布施雄一郎
■体験価値のバリエーション増加で集客エンタテインメントの楽しみ方は拡張
「専用スペースでの特別なおもてなしと良席での観戦」と聞くと、招待客やスポンサー、あるいは一部セレブ向けのものという限定的なイメージが強いが、ぴあが目指すホスピタリティ事業は、単なる富裕層向けサービスではなく、「お客様に対しての体験価値を向上させること」だと川端俊宏氏(ぴあ 取締役<グローバル事業担当>)は語る。
「ホスピタリティとは、イコール“おもてなし”であって、我々がやろうとしているのは、おもてなしの種類を開発し、お客様の体験価値のバリエーションを増やしていくことなのです」(川端氏/以下同)
スポーツやエンタテインメント分野で、日本国内でも少しずつダイナミックプライシング(需給に応じて価格を変動させる仕組み)が広がりをみせているが、そのチケットの料金差は、例えば音楽ライブの場合であれば、ステージからの距離や見え方といった区分けや、グッズ付きなどのファンサービス的な意味合いでつけられるケースが多い。しかし、川端氏が考えるホスピタリティプログラム構想とは、そういった良い席で観たい、絶対にチケットが欲しいという人向けに単なる高額チケットを用意するものではなく、価格相応の“体験価値”までをセットにしたサービスを提供しようというものだ。
「先日のFIFAワールドカップを例に挙げると、とにかく日本戦を観戦できればいいという人もいれば、せっかくならたくさん試合を見てワールドカップ自体を楽しみたいという人もいて、観戦スタイルによってチケットの価値も変わります。その時に、一律料金のチケットしかなければ、対戦カードや座席からの見え方でしか差がつけられませんが、数種類のホスピタリティプログラムが用意されていれば、“今日は一般席、明日はホスピタリティプログラムで”というふうに楽しみ方が広がるのです」
その最上級のプログラムの1つとして挙げられるのは、いわゆるVIPルームだ。現状、スポンサーなど特定の人しか入れないエリアだが、そこでの観戦・観覧に特別な価値を見出し、相応の金額でイベント主催者、チーム、あるいはアーティストを応援したい人がいれば、スポンサーにならずとも、ホスピタリティプログラムを活用して、特別な1日を存分に堪能することができる。また法人ユースの場合は、街中の高級料亭やレストランで接待を行うのと同じように、自身のトップクライアントを招いて“おもてなし”をし、ワンランク上の空間で一緒に楽しむことで関係性を強めることもできる。
■ホスピタリティプログラムによる収益増は大きなビジネスチャンスに
国内では、こういった体験価値をプロデュースする試みは新たな概念と言えるのだが、欧米では、特別な日にファミリーでイベントを観に行き、豪華な食事をしてスポーツやエンタテインメントを楽しむといった具合に、当たり前のように活用されており、特に先進的なイギリスを中心に市場は大きく成長しているという。最近では、ホスピタリティプログラムに割り当てられる席数は会場全体の1〜2割程度だが、その収益はチケット収入の4〜5割を占めるほど大きい。会場側にとってはその増益分を会場の改修やサービス向上に充てられるため、ビジネスチャンスにもつながっている。
そのため、新規にアリーナやスタジアムを建設する際はホスピタリティゾーンの併設が必須であり、スポーツやエンタテインメントそのものが“ホスピタリティありき”で考えられているという。また今後の可能性として、高騰するイベント制作費を補填し、一般チケットの値上がりを抑えるといった効果も期待されている。
そこでぴあは、2020年にオープンした自社運営のライブ会場「ぴあアリーナMM」にホスピタリティラウンジを設置。ハード面でも対応できる環境を整えている。しかしながら、このように国内でホスピタリティ設備を持つイベント会場やライブハウスは極少数で、施設設備の面で欧米からは大きな遅れをとっているのが実情である。ならば、特に音楽エンタテインメントにおけるホスピタリティプログラムの導入は困難のように感じるが、「会場の設備や座席に依存しない、日本ならではの“おもてなし”を作り出せる可能性は大いにある」と川端氏は続ける。
「欧米のイベント会場の周辺に飲食店はほとんどありませんが、日本にはたくさんある。ですから、スムーズな入退場、イベントでの盛り上がりを会場で実現し、会場までの移動や、会場を出た後の周辺地域での楽しみ方などを組み合わせたホスピタリティパッケージを上手くプロデュースできれば、むしろチャンスは大きいと我々は考えています」
■「その1日を存分に楽しむ」発想はぴあの理念に通底 模索する日本独自の体験価値
欧米で実績のあるスタイルをそのまま輸入するのではなく、日本独自にカスタマイズしたホスピタリティプログラムを、チケットと体験価値を組み合わせて構築する。イベントそのものだけでなく、前後の時間の過ごし方も含めて「その1日を存分に楽しんでほしい」という考え方は、ぴあの理念とも根底ではつながっている。もう1つ、日本独自の部分と言えば、ファンクラブが企画するチケット販売サービスとの共存も大きな課題だ。
「主催者がホスピタリティを考えると、当然ながらファンサービスやライブ、イベント自体の価値を最大化しようとするので、どんどんアーティストやイベント、作品等のコンテンツに特化したものになっていく。一方で我々は、ライブやイベントの前後も含めて、どのように体験価値を創出できるか、を考えることは得意分野であり、そこに顧客層を広げていくチャンスがあると思います。だからこそ、我々が主催者と一緒に考えていく意義があるのです。そして両者を上手にミックスできれば、音楽ライブを含む、集客エンタテインメント業界全体でのホスピタリティも加速させていけると思っています」
取組みはスタートしたばかり。現状は、さまざまな可能性を探りつつ、構想を練り上げている段階だ。とは言え、長年に渡り大規模なチケット事業を手掛けてきたぴあが、この事業に取り組む意味合いは非常に大きい。ここからどんなグローバル基準の日本流のホスピタリティが生まれるのか。長期的な目線で、その挑戦に注目したい。
文・布施雄一郎
2023/03/07




