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“国民的ブランド”名称変更の葛藤とは? 10年前『マイルドセブン』を『メビウス』に変えたワケ

 昨年、ケンタッキーの『チキンフィレサンド』が『チキンフィレバーガー』に名称変更され、大きな話題に。これまでも既存の商品名を変えるケースはいくつもあるが、世に浸透したものをリブランディングするのは非常に難しく、消費者離れの危険を伴う。10年前、昭和・平成の大人気たばこだった『マイルドセブン』を『メビウス』に変更する際も、大きな葛藤があったという。たばこへの逆風が吹きすさぶなか、なぜ“国民的ブランド名”を変えなくてはいけなかったのか。リブランディングの顛末を探った。


(左から)2000年頃の『マイルドセブン』と、現在の『メビウス』

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■『鼻セレブ』に『カレーメシ』成功例はあるも…前例ない“国民的ブランド”の変更は諸刃の剣

 『チキンフィレバーガー』への名称変更の理由は、オンラインオーダーでユーザーが“バーガー”と検索した際、“サンド”では表示されにくいという問題を解決するためだったという。当初はSNSなどで賛否両論あったが、結果として売上は大幅増。「ケンタッキーにバーガーがあることを知らなかった」という層への認知向上にもつながったそうだ。人気商品だとしても、発売から時間が経過すると状況は変わる。時流をとらえたこの名称変更は、問題解決型の成功例と言えるだろう。そもそも、“チキンフィレ”を残しているわけで、マイナーチェンジと言えなくもない。

 一方で、それまで売上が捗々しくなかった商品の名を変え、成功した事例もある。よく言われるのが、『モイスチャーティッシュ』⇒『鼻セレブ』(ネピア)、『カップカレーライス』⇒『カレーメシ』(日清食品)、『三陰交をあたためるソックス』⇒『まるでこたつソックス』(岡本株式会社)などだ。どれも、元は商品の概要を表す名ではあったが、ユーザーとしてはいまいちピンとこない。そこに、伝わりやすさ、キャッチーさが加味されたことで、売上が増加し大成功を収めた。

 このように、具体的な問題解決のため、発展途上・低認知度の商品を飛躍させるため…など、名称変更には様々な側面がある。とくに後者の場合は変更しやすいし、可能性に賭ける価値もあるだろう。だが、すでに商品名が浸透していたり、人気がある場合、せっかくの知名度を無に帰する危険性が高く、決断は難しいだろう。結果的には成功を収めたものの、『チキンフィレバーガー』への賛否を見ても、二の足を踏む気持ちはわかる。

 そんななか、ある“国民的ブランド”ともいうべき商品名が変えられた事例があった。時を遡ること10年前、紙巻たばこ『マイルドセブン』から『メビウス』への変更だ。『マイルドセブン』は1977年の発売以来、日本を中心に人気が拡大。「一時は半数近くのシェアがあり、たばこといえば『マイルドセブン』という時代でした」と話すのは、JTたばこ事業本部マーケティンググループのRMC統括担当部長・岩根徹氏。

 「たばこが国民的ブランド?」と感じる向きもあるかもしれないが、ときは昭和、平成である。自分が喫煙しなくても、祖父や父親、周囲の人が皆吸っていて、『マイルドセブン』に見覚えのある人は多いのではなかろうか。喫煙率の高かった当時、いわゆる“マイセン”として親しまれた同商品は、「日本人好みの味と吸いやすさがちょうどよく、みんながマイセンを吸っていた」(岩根氏/以下同)という。そんな社の主力商品の名を変えたことは、「B to C企業でも前例のないリブランディングだったと思う」と回顧する。

覚えてる? 1977年発売当初の『マイルドセブン』

覚えてる? 1977年発売当初の『マイルドセブン』

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 世に浸透し、圧倒的シェアを誇った商品名をなぜ変えたのか。そこには、「将来的、海外展開的に見てどうか?」という懸念があった。そもそも『マイルドセブン』は、同じく人気商品であった『セブンスター』を「マイルドにした」という意味合い。いわゆる“製品スペック”でしかなく、海外では「変な名前だな」という印象を抱かれる。世界展開を考えていたJTは、チャンスを狭めるよりは…と、変更に踏み切ったというわけだ。背景には、味さえ変えなければ顧客はついてくる、という自信もあった。

 ではなぜ、『マイルドセブン』から、似ても似つかぬ『メビウス』になったのか。一見、“メビウスの輪”からの着想で、無限、不思議、宇宙…などのイメージかと思いきや、「その意味はまったくないです(笑)」とのこと。

 「会議で200個くらい候補を考えたのですが、あまりにマイセンに親しみすぎて、どれもピンとこなくて。どうにもならず、お客様に語感に関する調査をしてみたんです。すると、文字の“音”が商品イメージに強く影響することがわかりました。例えば、Mは落ち着く、LやVは高級感…など。そういった良さそうな音を持つ文字をゴチャゴチャに並べ替えて、出来上がったのが『MEVIUS』。『MILD SEVEN』にも入っていた文字を使っているので視覚的にも違和感がない。あくまで造語で、“メビウスの輪”のメビウスとは綴りが違います」

 『チキンフィレバーガー』は検索表示のためのマイナーチェンジ、『鼻セレブ』などはわかりやすさ・キャッチーさという明確な基準があったが、新名称『メビウス』の成り立ちはどれでもなく、前例もなかった。しかも、社の主力商品の名をガラッと変えるだけに、社内でも反発はあったのではないか。

 「極秘プロジェクトで、社員のほとんどは公式発表まで知らなかったんです。営業の現場からは大反対されると思っていましたし、あとから『この名前はよくない!』とも言われました。たしかに、お得意様、全国のたばこ屋の店員さんに説明して回る営業は、一番大変だったと思います。なので、発表から発売まで半年間は、まず社員に理解してもらおうと必死でした。『顧客調査もした、味も香りも変わらないなら買い続けてくれるとみんな言っていた』としつこいくらいアピールして。でも、実際は何が起こるかわからないから、信じ込むしかなかった。ここまでの大きなリブランディングになると、もうビジネス論じゃない、感情論なんですよ(笑)。それくらいクレイジーにならないと、こんなことできない」

 いざ新名称が報じられると、一般ユーザーの反応は「名前がダサいとか、ネガティブなものしかなかった」。あわや大惨事かと思いきや、意外にも“でもパッケージはかっこいい”という好反応を得た。心配されたネガ反応のピークは発表時のみで、半年後の発売時にはすでに沈静化。「しかも、マイセン=普通、凡庸、おじさん…と言われがちだったが、なぜかイノベイティブ(革新的)なイメージになった。そういう商品を発売したわけじゃないんですけどね(笑)」

低温&高温加熱式用も登場、現在の『メビウス』ラインナップ

低温&高温加熱式用も登場、現在の『メビウス』ラインナップ

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 こうして、『マイルドセブン』は2013年2月に『メビウス』へと生まれ変わった。顧客が減ることもなく、海外展開としてはアジアで評判良く受け入れられたという。なぜか、マイセン時代はいっこうに売れなかったメンソール商品が、『メビウス』になってからシェア1位を獲得するという副産物もあった。「とはいえ、喫煙者の間での認知度はメビウスよりマイセンのほうが高い。いまだに勝てていないんですよ」と岩根氏は語る。

 「名称変更した10年前は、すでにたばこのテレビCMは打てなくなっていたので、幅広く浸透させるのに苦労しました。そして今、テレビだけでなく、新聞、雑誌、ネット…これだけの広告機会が使えない。アウトドア広告もできないため、コンビニなどで商品をアピールするしかありません」

 今、メディア等でたばこを宣伝することはできない。これは世の流れ、人々の意識の変化によるものであるから致し方ない。10年前から比べても、改正健康増進法全面施行、自治体による受動喫煙防止条例など、喫煙を制限する法律やルールも増えた。吸う人はもとより、周囲の人にまで健康被害をもたらすかもしれないたばこは、マイセン時代からは見る影もなく、敬遠されるものに。リブランディングを成功させた『メビウス』にしても状況は同じだ。さらにそれは年々厳しくなり、現在の喫煙率は全体の20%程度だとみられる。

 そんななか、大きな転機となったのが加熱式たばこの登場だ。主に“周囲への配慮”を理由に加熱式たばこのシェアは年々伸びていき、アイコス、グロー、プルームなどの各デバイスがシェアを競っている。『メビウス』もまたそれを一つの契機とし、2018年には低温加熱式用、2019年には高温加熱式用たばこスティックを発売した。ただ、マイセン時代から長らく紙巻たばことして親しまれてきただけに、思うところはあるという。

 「たしかに葛藤はあります。今も7割いる紙巻ユーザーに『加熱式に移ってください』と言うようにも見えますが、そういうわけではありません。ただ、日本人の嗜好の真ん中をきた『メビウス』です。包容力ある商品だからこそ、その時々のニーズに合わせて全方位で展開していきたいと思います」

 加熱式にすれば問題がすべて解決するわけではないが、煙やにおいの点から見れば、紙巻たばこよりは周囲への影響が少ないことはたしか。TPOに応じた喫煙者側の配慮が不可欠となった今、“ニーズ”はたばこのおいしさだけでなく、喫煙環境も含んだものとなる。

 「安心感や信頼感を持っていただけるブランドになったと思います。影響力が強いからこそ、『メビウス』が変わると大きな変化が起こるし、『メビウス』ならできる…と、役割の大きさを感じていて。今は、お客様からも『新商品を出すより喫煙所を作ってほしい』という声が大きい時代。『メビウス』などの商品を通して、JTでも喫煙者の利便性の向上、非喫煙者との共存を目指していきたいと思います」

(文:衣輪晋一)

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