2022年4月、ポニーキャニオンと、ビームスとフロウプラトウの合弁会社であるビーアットが、地域活性化事業において業務提携することを発表した。エンターテインメント企業のポニーキャニオンと、ビームスが昨年設立した新会社で新規事業開発を行うビーアット。両社の強みを活かし地域活性の加速化を目指す今回の提携のきっかけ、今後の展開について、ポニーキャニオンのエリアアライアンス部・部長の村多正俊氏と、ビーアット代表取締役の土井地博氏に話を聞いた。
■ブームではなくカルチャーとして継承 マッチングの発想で結びついた業務提携
ポニーキャニオンでは「エンターテインメントで地域を、ニッポンを元気に!」を事業コンセプトに、17年に地域活性化事業専門セクション「エリアアライアンス部」を創部。エンターテインメント企業が地域活性に元請けとして関わることは当時としては異例の取組みだったといっても過言ではないだろう。なかでも代表的な事業が愛媛県松山市の道後温泉に手塚治虫の「火の鳥」をマッチングさせたPR事業「道後REBORNプロジェクト」(18年7月〜21年3月)。築125年の道後温泉本館の耐震工事中にしかできない装飾やプロジェクションマッピング、アニメ制作などのPR施策を行ったものだが、この取り組みが「スポーツ文化ツーリズムアワード2020」(文化庁・スポーツ庁・官公庁共催)の「文化ツーリズム賞」を受賞したことは記憶に新しい。現在では地方自治体や、国(内閣府、観光庁、防衛省など)、地域法人等、300を超える事業を受託している。
ビーアットとの業務提携も、「マッチングの発想が始まりだった」とエリアアライアンス部・部長の村多正俊氏は振り返る。連携事業の第1弾は、ポニーキャニオンが東京・町田市のシティプロモーションの場として活用している「旧白洲邸 武相荘」とビーアットとのマッチングによって制作したオリジナルTシャツだ。
「次世代にリーチする新しいアクションを起こしたいという相談を武相荘サイドから受けました。白洲次郎さんといえば、Tシャツとジーンズ姿でくつろぐ写真が有名ですが、グラフィックTシャツといえば私の中ではビームスさんというイメージがあり…。個人的にビームスが好きだったこともあり、同社の古くからの友人を通じてお話をもちかけたのがビーアットの土井地博さん。高い目利き力でカルチャーを創造してきたビームスから派生したビーアットですが、その企業理念や事業が弊社の地域活性化事業とも共鳴するところが多かったことが、このたびの提携に至ったきっかけです」(村多氏)
一方、ビームスのショップスタッフを経て、20年以上にわたり宣伝PR業務を担ってきた土井地氏も社内に「グローバルアライアンス部」を立ち上げ、国内外の各企業やブランドとのマッチングを行い、人と次世代型ビジネスモデルを構築してきた。コミュニケーションディレクターという特異な肩書を持ち、アパレル事業のほかにも音楽イベントやアートイベントなども手掛ける土井地氏が代表取締役を務めるビーアットは、フロウプラトウとビームスの合弁会社として21年2月に設立された。「様々なテクノロジーを駆使しながら、世界に眠る様々な才能の発掘とその掛け合わせで生まれる新たな歴史、人、場所、想いをひとつのストーリーにして紡いでいく」ことを企業理念としている。
「エンターテインメントの力で数々の地域に活性を与えてこられたポニーキャニオンさんですが、持続可能なものとするためには、ブームで終わらせてはいけない。その地域活性事業に、ビーアットのクリエイティブやヒト・モノ・コトをつなげるノウハウを掛け合わせることで、しっかりとカルチャーとして継承していくこと。それがこのたびの業務提携の意義だと感じています」(土井地氏)
ビーアットがプロデュースしたTシャツは、そごう千葉店からスタートした巡回展『白洲次郎生誕120年記念 白洲次郎・正子展』(4月22日〜5月5日)で限定販売され、たちまち完売した。
「このTシャツに持たせたかった機能は、白洲次郎さんのストーリーや世界観をカルチャーとして継承していくこと。Tシャツそのものが売れること以上に、武相荘にアクセスしてみたいというモチベーションにつながったり、もっと言えば町田市に住んでいる方が『武相荘』という場所を再発見し、この町にさらに誇りを持つようになったり、その先のアクションを生み出すことを目指しました」(土井地氏)
地域活性というと観光や移住など外部から人を呼び込むことをイメージしがちだが、これまで同社の事業を推進する上で村多氏は「その地域に住む人々のシビックプライドを醸成することを重要視してきた」と語る。
「移住PRをする以前に、今ここに住んでいる人にいかに定住し続けてもらうか…。少子化で自然減する人口をキープさせることに苦慮している自治体が大多数。これを食い止めるには、まずその地域に住む人たちが『自分の住む町は素晴らしい』という誇りを持つことが大切。やがてその中から『この町のために何かをしたい』とアクションを起こす人が出てきて、外部の力を借りなくても町が自走していく。そうした地域のアクションをサポートするのが弊社の地域活性化事業です」(村多氏)
人口減の末に市町村合併を重ね、その土地で継承されてきたいくつものカルチャーが失われてきたのが日本の現代史だった。土井地氏もまた、「地域活性には新しいものを無理やり持ってくるのではなく、“今あるもの”を安定化させて次世代に継承する観点が必要」だと語る。
「その町に住む人にとって“今あるもの”は当たり前過ぎて、“誇り”という観点で捉えられなくなっているかもしれません。だけど客観的な視点が入ることで、その価値が再発見されることは往々にしてあります。私も立ち上げから携わってきたビームス ジャパン事業もその取組みの1つです。日本再発見をテーマに、全国に眠っていた匠の技やサブカルチャーなどを発掘して紹介する試みですが、単に発掘するだけでなくその背景にあるストーリーや人の思いも含めてお伝えする、いわばキュレーションの観点を重視してきました」(土井地氏)
外部からの評価はその地域に住む人々のエンパワーメントにつながる。さらに現代は誰もがクリエイターになり得る時代。やがて定住はもとより、自分の町の誇りを外部に向けて発信する人がどんどん出てくれば、それはまさに町が自走していく姿になる。
「きっと誰もが持っていると思うんです。有名なお土産や観光地ではない、『ここの定食屋さんの〇〇丼がめちゃくちゃ美味しい』『あの神社の雰囲気は最高』といった、自分の町の自慢って。その町の魅力を高め、二度、三度と足を運びたくさせるのは、定番の観光地よりもそうした『第二のガイドブック』的な提案なんです。今後もポニーキャニオンさんとは是非そんな提案をしていきたいですね」(土井地氏)
土井地氏はビーアットの特性を「偏愛主義の集団」と称する。いわばマニアックな『第二のガイドブック』のキュレーションに強い。一方でポニーキャニオンはダイナミックな展開にも長けたエンターテインメント企業。この両者が結びつくことで、地域活性化事業も次のステージに進んでいきそうだ。
■地域活性は10年後、20年後を見据えた 自分たちの未来のための事業
地域が抱える課題は多いが、地域活性に意欲的な若者が増えているというポジティブな傾向もある。村多氏は「エンタメ×地域創生」をテーマに成城大学などで講演を行っているが、学生の地域への意識が昨今ますます高まっていることを感じるという。また同社の就職希望ランキングは昨年度大きくランクアップしたが、エリアアライアンス部の存在が大きく影響を及ぼしていることは事実である、と人事担当も公言してはばからない。
「自分の育った町や関わりのある町に貢献したいという思いをレポートにびっしりと書いてくれる学生が多く、とても頼もしく思っています。また弊社を志望する学生の多くがエリアアライアンス部で働きたいと言ってくれているんです。これは本当に嬉しいことです」(村多氏)
「若い世代が前向きな当事者意識を持っているのは、やはり地域活性が10年後、20年後を見据えた、自分たちの未来のための事業だからではないでしょうか。彼らが持続可能な社会に生きられるために、年齢と経験を重ねた我々世代が何を残していけるか。この事業の責任は非常に大きいと感じています」(土井地氏)
価値観と志を同じくする両者が結びついた今回の業務提携は、「会社同士ではあるけれど、縦というよりも横のつながりが強い」と土井地氏。村多氏もまた「業種や業界、個人や企業を問わず、地域に対してアクションを起こしたい方はぜひ我々と関わってほしい」と呼びかけている。
「アイデアやヒントを出し合って、“共創”するには、会社をまたいだほうが効果は出る」という両者。点から線、そして面へと広げることで、一過性のブームではなく、カルチャーとして継承し、次世代への強い訴求力を与える地域活性化事業となることを期待したい。
文・児玉澄子
取材協力・旧白洲邸 武相荘
■ブームではなくカルチャーとして継承 マッチングの発想で結びついた業務提携
ポニーキャニオンでは「エンターテインメントで地域を、ニッポンを元気に!」を事業コンセプトに、17年に地域活性化事業専門セクション「エリアアライアンス部」を創部。エンターテインメント企業が地域活性に元請けとして関わることは当時としては異例の取組みだったといっても過言ではないだろう。なかでも代表的な事業が愛媛県松山市の道後温泉に手塚治虫の「火の鳥」をマッチングさせたPR事業「道後REBORNプロジェクト」(18年7月〜21年3月)。築125年の道後温泉本館の耐震工事中にしかできない装飾やプロジェクションマッピング、アニメ制作などのPR施策を行ったものだが、この取り組みが「スポーツ文化ツーリズムアワード2020」(文化庁・スポーツ庁・官公庁共催)の「文化ツーリズム賞」を受賞したことは記憶に新しい。現在では地方自治体や、国(内閣府、観光庁、防衛省など)、地域法人等、300を超える事業を受託している。
ビーアットとの業務提携も、「マッチングの発想が始まりだった」とエリアアライアンス部・部長の村多正俊氏は振り返る。連携事業の第1弾は、ポニーキャニオンが東京・町田市のシティプロモーションの場として活用している「旧白洲邸 武相荘」とビーアットとのマッチングによって制作したオリジナルTシャツだ。
「次世代にリーチする新しいアクションを起こしたいという相談を武相荘サイドから受けました。白洲次郎さんといえば、Tシャツとジーンズ姿でくつろぐ写真が有名ですが、グラフィックTシャツといえば私の中ではビームスさんというイメージがあり…。個人的にビームスが好きだったこともあり、同社の古くからの友人を通じてお話をもちかけたのがビーアットの土井地博さん。高い目利き力でカルチャーを創造してきたビームスから派生したビーアットですが、その企業理念や事業が弊社の地域活性化事業とも共鳴するところが多かったことが、このたびの提携に至ったきっかけです」(村多氏)
一方、ビームスのショップスタッフを経て、20年以上にわたり宣伝PR業務を担ってきた土井地氏も社内に「グローバルアライアンス部」を立ち上げ、国内外の各企業やブランドとのマッチングを行い、人と次世代型ビジネスモデルを構築してきた。コミュニケーションディレクターという特異な肩書を持ち、アパレル事業のほかにも音楽イベントやアートイベントなども手掛ける土井地氏が代表取締役を務めるビーアットは、フロウプラトウとビームスの合弁会社として21年2月に設立された。「様々なテクノロジーを駆使しながら、世界に眠る様々な才能の発掘とその掛け合わせで生まれる新たな歴史、人、場所、想いをひとつのストーリーにして紡いでいく」ことを企業理念としている。
「エンターテインメントの力で数々の地域に活性を与えてこられたポニーキャニオンさんですが、持続可能なものとするためには、ブームで終わらせてはいけない。その地域活性事業に、ビーアットのクリエイティブやヒト・モノ・コトをつなげるノウハウを掛け合わせることで、しっかりとカルチャーとして継承していくこと。それがこのたびの業務提携の意義だと感じています」(土井地氏)
「このTシャツに持たせたかった機能は、白洲次郎さんのストーリーや世界観をカルチャーとして継承していくこと。Tシャツそのものが売れること以上に、武相荘にアクセスしてみたいというモチベーションにつながったり、もっと言えば町田市に住んでいる方が『武相荘』という場所を再発見し、この町にさらに誇りを持つようになったり、その先のアクションを生み出すことを目指しました」(土井地氏)
地域活性というと観光や移住など外部から人を呼び込むことをイメージしがちだが、これまで同社の事業を推進する上で村多氏は「その地域に住む人々のシビックプライドを醸成することを重要視してきた」と語る。
「移住PRをする以前に、今ここに住んでいる人にいかに定住し続けてもらうか…。少子化で自然減する人口をキープさせることに苦慮している自治体が大多数。これを食い止めるには、まずその地域に住む人たちが『自分の住む町は素晴らしい』という誇りを持つことが大切。やがてその中から『この町のために何かをしたい』とアクションを起こす人が出てきて、外部の力を借りなくても町が自走していく。そうした地域のアクションをサポートするのが弊社の地域活性化事業です」(村多氏)
人口減の末に市町村合併を重ね、その土地で継承されてきたいくつものカルチャーが失われてきたのが日本の現代史だった。土井地氏もまた、「地域活性には新しいものを無理やり持ってくるのではなく、“今あるもの”を安定化させて次世代に継承する観点が必要」だと語る。
「その町に住む人にとって“今あるもの”は当たり前過ぎて、“誇り”という観点で捉えられなくなっているかもしれません。だけど客観的な視点が入ることで、その価値が再発見されることは往々にしてあります。私も立ち上げから携わってきたビームス ジャパン事業もその取組みの1つです。日本再発見をテーマに、全国に眠っていた匠の技やサブカルチャーなどを発掘して紹介する試みですが、単に発掘するだけでなくその背景にあるストーリーや人の思いも含めてお伝えする、いわばキュレーションの観点を重視してきました」(土井地氏)
外部からの評価はその地域に住む人々のエンパワーメントにつながる。さらに現代は誰もがクリエイターになり得る時代。やがて定住はもとより、自分の町の誇りを外部に向けて発信する人がどんどん出てくれば、それはまさに町が自走していく姿になる。
「きっと誰もが持っていると思うんです。有名なお土産や観光地ではない、『ここの定食屋さんの〇〇丼がめちゃくちゃ美味しい』『あの神社の雰囲気は最高』といった、自分の町の自慢って。その町の魅力を高め、二度、三度と足を運びたくさせるのは、定番の観光地よりもそうした『第二のガイドブック』的な提案なんです。今後もポニーキャニオンさんとは是非そんな提案をしていきたいですね」(土井地氏)
土井地氏はビーアットの特性を「偏愛主義の集団」と称する。いわばマニアックな『第二のガイドブック』のキュレーションに強い。一方でポニーキャニオンはダイナミックな展開にも長けたエンターテインメント企業。この両者が結びつくことで、地域活性化事業も次のステージに進んでいきそうだ。
■地域活性は10年後、20年後を見据えた 自分たちの未来のための事業
地域が抱える課題は多いが、地域活性に意欲的な若者が増えているというポジティブな傾向もある。村多氏は「エンタメ×地域創生」をテーマに成城大学などで講演を行っているが、学生の地域への意識が昨今ますます高まっていることを感じるという。また同社の就職希望ランキングは昨年度大きくランクアップしたが、エリアアライアンス部の存在が大きく影響を及ぼしていることは事実である、と人事担当も公言してはばからない。
「自分の育った町や関わりのある町に貢献したいという思いをレポートにびっしりと書いてくれる学生が多く、とても頼もしく思っています。また弊社を志望する学生の多くがエリアアライアンス部で働きたいと言ってくれているんです。これは本当に嬉しいことです」(村多氏)
「若い世代が前向きな当事者意識を持っているのは、やはり地域活性が10年後、20年後を見据えた、自分たちの未来のための事業だからではないでしょうか。彼らが持続可能な社会に生きられるために、年齢と経験を重ねた我々世代が何を残していけるか。この事業の責任は非常に大きいと感じています」(土井地氏)
価値観と志を同じくする両者が結びついた今回の業務提携は、「会社同士ではあるけれど、縦というよりも横のつながりが強い」と土井地氏。村多氏もまた「業種や業界、個人や企業を問わず、地域に対してアクションを起こしたい方はぜひ我々と関わってほしい」と呼びかけている。
「アイデアやヒントを出し合って、“共創”するには、会社をまたいだほうが効果は出る」という両者。点から線、そして面へと広げることで、一過性のブームではなく、カルチャーとして継承し、次世代への強い訴求力を与える地域活性化事業となることを期待したい。
文・児玉澄子
取材協力・旧白洲邸 武相荘
2022/07/15