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ながら聴取コンテンツに追い風 音声メディア市場拡大の理由

 米国発の「Clubhouse(クラブハウス)」やTwitter「Spaces(スペース)」といった音声SNSサービスの登場により、“ながら聴取”コンテンツが再注目されている。この動きを受けて、音声メディアの老舗であるラジオ局も新たなニーズを探り始めた。TOKYO FMでは、早くから音声コンテンツ市場に着目しており、昨年7月にオンデマンドコンテンツ事業の重要な拠点となる、オーディオコンテンツプラットフォーム「AuDee(オーディー)」を立ち上げた。約1年で月間のアクティブユーザー数(MAU)が160万人を突破するという順調な歩みを進めるなか、さらに攻勢を仕掛けていく計画だ。

山崎怜奈(乃木坂46)がパーソナリティの『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』

山崎怜奈(乃木坂46)がパーソナリティの『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』

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■2020年の国内音声デジタル広告市場は前年比229%の16億円の見込み

 世界全体の推定ユーザー数が1000万人の「Clubhouse」が今年に入って日本でも急速に普及し始めた。LINEリサーチが4月に発表した同サービスの認知率は69%という高い結果が出ている。年代差はなく、10代から50代までの各年代でも6〜8割程度の認知となっており、短期間で幅広い層にすっかり浸透したことがわかる。そして、5月頭には米Twitterが、音声ライブ配信機能「Spaces」の正式提供を開始。米Facebookも音声を使って利用者が交流できるサービス「Live Audio Rooms(ライブオーディオルーム)」を今夏に利用可能にすると発表し、にわかに音声SNSサービスをめぐる競争が激化の様相を呈している。

 これら音声SNSサービスの特徴は、ポッドキャストのように誰でも手軽にラジオ番組のような音声コンテンツを配信でき、さらにリスナーは“聞き専”に徹することも会話に参加することも可能で、発信と受信の両面の自由度があることに集約される。一気に注目度を高めた背景にはコロナ禍で在宅時間が増え、仕事や家事をしながらでも楽しめる“ながら聴取コンテンツ”へのニーズが高まったことも大きい。

 デジタルインファクトが3月に発表した、デジタル音声広告(インターネットを通して配信される音声を主軸とした広告)の市場調査では、2020年の国内音声デジタル広告市場規模は前年比229%の16億円が見込まれている。21年以降は、広告主によるブランディングを目的とした音声デジタル広告の出稿需要の高まりや、テクノロジーの進化によって最適化された広告コミュニケーションが広がり、25年には420億円規模に拡大すると予測されている。

 そういった音声SNSによって一般利用が広がる“ながら聴取コンテンツ”と音声デジタル広告市場の成長に、ラジオ局も熱い視線を送っている。ラジオと言えば、そもそも“ながら聴取”に適したメディアであると自ら謳ってきた。そういう意味で、これまでの制作ノウハウと営業ネットワークを活かし、音声デジタル市場に参入するのは自然な流れと言えるだろう。AM局のTBSラジオ、ニッポン放送、文化放送にFM局のTOKYO FMやJ-WAVEも新たな商機を狙って、同分野に参入している。

乃木坂46山崎怜奈のスピンアウトなど人気コンテンツをラインナップ

 この7月で立ち上げから1年が経過するTOKYO FMのオーディオコンテンツプラットフォーム「AuDee」は、今年2月に月間ユーザー数が100万MAUを突破し、4月末には160万MAUに到達。5月28日に開催した20年度決算発表後に行った社長会見で黒坂修社長自らAuDeeを「近未来の収益の柱に育てたい事業の核」と説明するほど、肝煎りの事業である同サービスは、音声SNSサービスの普及に後押しされる形で、ここへきて順調にユーザーを増やしており、今後の同社のビジネス拡大への貢献が期待されている。

 AuDeeで配信されている多種多彩なコンテンツは700近くに上る。これほどの数を揃えることができる理由には、地上波ラジオ番組をベースに、短尺版から長尺版まで、スピンアウトコンテンツを充実させている点が挙げられる。その一例が、20年10月から地上波でスタートした乃木坂46の山崎怜奈がパーソナリティを務める午後帯の生ワイド『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』のスピンアウトコンテンツである。生放送終了後に1週間を振り返る「#だれはな裏トーク」や、ラジオ好きの山崎がおススメのラジオ番組を紹介する「#あのラジオがすごい」も展開。これまでに局や地域を飛び越えて十数番組が紹介されている。

 同社広報部は「配信ラジオだからできること」と説明する。タイムテーブル(番組表)に沿って放送される地上波ラジオ番組では、同時間帯の番組は競合相手として見られる傾向が強い。だが、配信の場合はその時間軸の概念から外れるため、他局制作の番組も紹介しやすくなったというわけだ。また、リスナーの聴き方も大きな変化を遂げている。これまでラジオメディアは習慣性が強くザッピングされにくいメディアだと言われてきたが、今や1000万人近くのユーザーが利用する音声ラジオサービスradikoの普及により、タイムフリーでコンテンツを選んで聴く利用が一般化されつつある。今の時代のニーズに合わせたコンテンツであることも前出の『山崎怜奈〜』の人気の背景にある。

 これまで、地上波ラジオでは新番組を投入する際、リスナーが限定されがちな内容は企画が成立しにくかった、しかし、配信コンテンツであればむしろそれがウリになる。俳優・大谷亮平と声優・谷山紀章が、アメリカ凶悪犯罪事件を取り上げる犯罪ドキュメンタリー番組『トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル』や、人の脳内の声を耳でのぞく没入型サウンドボイスドラマ『脳内干渉』などはその事例にあたる。

■3年後に単体売上8億円が目標、今年度中に黒字化見込む

 上記のような独自コンテンツにも力を入れるなか、事業運営の肝となるのが企業ブランドを伝えるためにストーリー性を持たせたブランデッドコンテンツである。AuDee単体の20年度の売上は2億円近くに上り、その多くはブランデッドコンテンツによる売上だった。「松屋」などの飲食店をチェーン展開する松屋フーズ提供の『劇団松屋』はその代表例だ。松屋の人気メニューが必ず登場するドラマが展開され、思わず松屋を利用したくなる内容になっている。ラジオ広告の受賞レースの常連組である同社はこうしたエンターテインメント性のあるコンテンツ作りにも長けている。今後は、コンテンツにUGC(一般ユーザーの手によって作成されたコンテンツ)も取り入れた展開を検討しているという。

 TOKYO FMはAuDee単体の売上高を3年後には8億円に伸ばす目標を掲げている。ラジオ局にとって、音声デジタル市場はこれまでのリソースを活用しながら、新たな収入源を開拓できる期待の分野だ。電通によると、2020年度の国内のラジオ広告費は1066億円と試算されており、コロナ禍の影響だけに限らず、それ以前より下降線をたどっている。それだけに、黒坂社長が「AuDee単体で売上5億円を達成すれば、放送収入の低落に歯止めをかけることができ、8億円の達成で成長軌道に乗せることができる。音声デジタル広告の市場予測400億円のうち、5%のシェアを我々が獲ることを考えれば、十分達成できる数字だ」と話す言葉からも、音声デジタル分野に活路を見出していることがわかる。

 サービス立ち上げから半年が経過した時点では、目指すべき目標設定にしか感じられなかった8億円という数字は、風向きが変わった今、にわかに現実味を帯びてきた。黒坂社長の「初年度は赤字からのスタートだったが、配信の場合は放送のような巨大なシステムを備える必要がなく、経営効率が良い。今年度、来年度中に確実に黒字転換されるはずだ」の言葉が、それを裏付けている。TOKYO FMの今後を担うAuDeeの次なる展開から目が離せない。

(文・長谷川朋子)
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  • 山崎怜奈(乃木坂46)がパーソナリティの『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』
  • TOKYO FMのオーディオコンテンツプラットフォーム「AuDee(オーディー)」
  • 犯罪ドキュメンタリー番組『トゥルークライム アメリカ殺人鬼ファイル』
  • 松屋の人気メニューが登場するドラマ『劇団松屋』
  • 人の脳内の声を耳でのぞく没入型サウンドボイスドラマ『脳内干渉』

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