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存在感増すデジタルディストリビューションサービス「FRIENDSHIP.」のキュレーション機能

 2020年、コロナ禍で音楽ストリーミング市場が大きく拡大した。ストリーミングランキング上位には、インディペンデントアーティストの楽曲が常時ランクインするようになり、自分の音楽を手軽に音楽ストリーミングサービスへ配信できるデジタルディストリビューションサービスは、アーティストファーストな仕組みとして大いに注目を集めるようになった。「FRIENDSHIP.」もそういったデジタルディストリビューションサービスの1つだが、エントリーされたアーティストの楽曲を審査して配信し、プロモーションも併せて行う点で、異彩を放っている。サービス開始から2年、配信希望のアーティストが右肩上がりに伸長する同サービスの次なる展開を聞いた。

世界187ヶ国へ音楽配信を行うデジタルディストリビューションサービス「FRIENDSHIP.」

世界187ヶ国へ音楽配信を行うデジタルディストリビューションサービス「FRIENDSHIP.」

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■「FRIENDSHIP.」エントリーの増加で実感 コロナ禍でアーティストの意識に変化

 

 音楽プロダクションHIP LAND MUSICが運営するデジタルディストリビューションサービス「FRIENDSHIP.」。“日本から海外に発信していきたいアーティストを応援する”をコンセプトに、世界187ヶ国へ音楽配信を行うアグリゲーション機能と、プロモーション機能も併せ持つサービスとして、19年5月にスタートした。当時、海外ではストリーミングがすでに主流となっていたが、日本ではCDなどのパッケージビジネスが主流で、デジタルへの移行期という状況であった。

 しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、アーティストがリスナーに音楽を伝えるための手段の1つ、CDなどパッケージでの発信が困難になり、一気にデジタルがメインストリームに躍り出た。「デジタルだとアーティストがリスナーに直接自分の音楽を届けられることに気づき始めたことで状況は一変した」と、ヒップランドミュージック執行役員の山崎和人氏は振り返る。

「コロナ以前のアーティストの意識にはまだ、音楽のリリースというと、レーベルに所属してCDを発売し、それが店頭に並び、デジタルでも配信されるといった流れがあったと思います。しかし、コロナ禍で活動ができなくなり、その考え方も変わらざるを得なくなった。自ら学んでデジタルディストリビューションを利用して音楽を発信するようになっていったんです」(山崎氏)

 「FRIENDSHIP.」へのエントリーの増加は、そういったアーティストの意識の変化を実感させるものであったという。また、同サービスでキュレーターを務めるクラブDJのタイラダイスケ氏も、コロナ禍で思うような活動が行えず困窮するアーティストをバックアップする受け口を作ることができていたのは良かったと胸をなでおろす。

「いい作品を作っているけれど、プロモーションが上手くいっていない、そんなインディペンデントのアーティストを応援したいという思いで始めたサービスなので、コロナ禍でサポートすることができて良かったと思っています」(タイラ氏)

■14名のキュレーターが一堂に会して多角的な視点で配信曲を選定する熱量の高さ

 「FRIENDSHIP.」のユニークさは、登録して手数料を払えば誰でもサービスを利用できるものではなく、配信する楽曲を審査するというスタイルにある。そして、選ばれた楽曲は同サービスが責任をもってプロモーションする。この点が評価されて、今年3月に内閣府知的財産戦略推進事務局が主催する『クールジャパン・マッチングアワード2021』の「奨励賞」を受賞。「文化の先端にいるキュレーターが日本人アーティストの音楽を選定し、コロナ禍によって海外ライブの開催が困難になる中、音楽配信サービスを通じて日本の音楽のファンを開拓するプロモーションを行った」というのが選定理由であった。

 デジタルディストリビューションサービスが、キュレーション機能を持つケースは、国内外を見渡しても他に当てはまるものがない。ある意味、日本的なローカライズの最たるものという印象を受けるのだが、その中身を知るにつれてその魅力、そしてユニークさが際立って見えてくる。

 選定会議は月1回で実施されている。14名のキュレーターが1つの部屋に集まり、エントリー楽曲全てを順に聴いて投票を行う。最近は応募数が増えたこともあり、試聴だけで2時間を超えることも珍しくない。その後、投票ポイント数を見ながら、楽曲についての熱い議論が始まる。キュレーターの顔ぶれは実に多様だ。Yuto Uchino(The fin.)や井澤惇(LITE)など海外で活動するアーティストをはじめ、DJ、ライブハウススタッフ、アパレルショップオーナー、ライターや、台湾のフェスティバルやイベントのオーガナイザー、中国国内で多くの日本人のツアーやプロモーションを行う集団のCEOなど、セレクトだけでなくアウトプットもできる人選になっている。

 立ち位置や立場の異なるキュレーターが、多角的な視点から1つの音楽について考え、意見を交換する。これは、とても楽しい体験なのだと、前出のタイラ氏は目を輝かせる。

「審査自体はシビアなのですが、僕自身はとても楽しんで参加しています。他のキュレーターの視点を知ることで、苦手だった音楽が好きになることもありますし、何よりもリスナーとしての体力がつくというか、これまで使っていなかった筋肉を鍛えている感じ。キュレーターのある一言によって、オセロのように決定がひっくり返ることもあるんです」(タイラ氏)

 1回の会議はかなりの長丁場となるが、タイラ氏のように各キュレーターが楽しみを見出しているためか、出席率は高いという。

「出席は強制ではありませんが、物理的に無理な場合を除いては、毎回3分の2以上の方たちが出席しています。それぞれの活動につなげられるという意味を見出してもらえているようです。アーティストの人生に関わることなので、選ぶ側も真剣です。次第に将来も視野に入れて選ぶようになっていると感じています」(山崎氏)

 キュレーターたちはその後のプロモーションにも関わっていくため、応募曲以外の楽曲も聴いて判断している。そのため、通過するのは毎回、応募曲の5%程度という倍率の高さになっている。「もう少しブラッシュアップすれば一緒にやれる」と思うアーティストには、会議の内容をフィードバックすることもあるという。この熱量が同サービスの魅力の根幹にあることは間違いない。

■想定よりも早いスピードで目指す形に近づいている反面、見えてきた次なる課題

  では、その狭き門を突破したアーティストは今、「FRIENDSHIP.」をどう活用し、どのようなサポートを得ているのだろうか。まず、基盤となるディストリビューションは、固定費なしで収益の85%がアーティストに戻される。15%の手数料内にベーシックのプロモーションが含まれ、キュレーターによるプレイリストの公開や、各メディアへの情報発信や個別プロモーション、各ストリーミングサービスのプレイリストへアプローチするなどのデジタルプロモーションが行われる。また、国内だけでなく、海外メディアへのプレスリリース配信や、SXSWなど海外でのライブ・フェスのブッキングもサポートされているほか、音楽マネジメント事務所の持つ機能を活かして、CDやグッズ制作のサポートプランなど、必要なサービスをオプションで選べる仕組みも作っている。このほかにも、アーティストのニーズを吸い上げ、月に1度デジタル講習会なども開催されている。

「アーティストが原盤を持つわけですから、皆がレーベルオーナーのような意識に変わってきているように感じています。アーティストの数だけレーベルがある感じで協力を求められるので、もはやデジタルディストリビューションの範疇を超えているかもしれない」と山崎氏は笑う。

 コロナ禍で想定よりも早いスピードで目指す形に近づいている反面、次なる課題も見えてきている。

「これまでは曲が多く聴かれることを目指してプロモーションを行ってきましたが、ストリーミングのヒットがライブの動員につながるかどうかは未知数であることも分かってきました。アーティストファンを作るために、僕らはアーティストのブランディングを高めていく必要があります」(山崎氏)

 デジタルフォーマットだけでは伝えられないアーティストのメッセージの発信やファンとのコミュニケーションの場づくりとして、昨年10月に東京・渋谷にライブストリーミングや映像収録が行えるオンラインスペース「FS.」を作ったのも、その取り組みの1つ。今年2月からは、FM福岡でラジオ番組『Curated Hour 〜FRIENDSHIP. RADIO』が始まっている。今後もアーティストのプロモーションになる施策を考えていくという。

「まずは多くの人に音を聴いてもらって、そこからリアルなファンベース作りにつながる道筋をいかに作っていけるか。全てのアーティストが同じ一本道ではなく、いろんなパターンが考えられるため、FRIENDSHIP.は最適化の道を探して根気強くアーティストをサポートしていくしかないですね」(タイラ氏)

 "良いと思った音楽をセレクトし、責任を持ってプロモーションまで行う"…言うはやさしいが、その道のりは平坦ではない。しかし、「FRIENDSHIP.」のプレイリストを聴いていると、インディーシーンには可能性を秘めたアーティストが数多く存在すること、そしてその可能性をひしひしと感じ取ることができる。同サービスが、これから羽ばたこうとするアーティストの強力なサポーターとして、大いに存在感を発揮していくことを期待したい。

(文・カツラギヒロコ)

【キュレーター 一覧】(敬称略)
タイラダイスケ(ロックDJパーティ「FREE THROW」DJ) / 井澤惇(LITE、FULLARMOR) / 青木ロビン(downy、zezeco) / 金子厚武(音楽ライター) / 片山翔太(下北沢BASEMENTBAR ブッキングスタッフ、「BYE CHOOSE」DJ) / Lu Jin(BYNOW) / 沙田瑞紀(miida) / JE Cheng & Keitei Yang(東京兜圈Megurin' Tokyo) / Yuto Uchino(The fin.) / 奥冨直人(ビンテージセレクトショップ「BOY」オーナー) / MONJOE(DATS) / 亀井達也(レコードレーベル「Hot Buttered Record」主宰) / 溝口和紀(「New Audiogram」主宰)

関連写真

  • 世界187ヶ国へ音楽配信を行うデジタルディストリビューションサービス「FRIENDSHIP.」
  • ヒップランドミュージック執行役員・山崎和人氏(写真左)、キュレーターを務めるクラブDJ・タイラダイスケ氏
  • 選定会議の模様 ※新型コロナウイルス感染拡大前に撮影
  • 東京・渋谷のオンラインスペース「FS.」
  • デジタルディストリビューションサービス「FRIENDSHIP.」のサポート内容
  • FM福岡で始まったラジオ番組『Curated Hour 〜FRIENDSHIP. RADIO』
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