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『マガジン』いじめ題材の漫画、掲載する意義とリスク 炎上し宣伝苦悩も売上好調「読者が興味のあるジャンル」

 連載がスタートした直後に苦情が殺到した漫画がある。『週刊少年マガジン』(講談社)の公式漫画アプリ『マガポケ』で連載中の学校内での壮絶ないじめを描いた『いじめるヤバイ奴』だ。コミックス1巻が2月に発売された際、編集部は「連載が始まったときや、話題になったときは、本編の画像付きで作品について、ツイッターでつぶやくようにしています。同作も同じようにつぶやいたのですが、すぐに苦情がきてしまいました」と、第1話の画像を載せたところアカウントがBANになりかけ「宣伝すると通報される」と説明していた。そこで「“いじめ”という難しいテーマに触れ、編集部&作家がそこまでしてリスクを背負う理由」は何か。担当編集者と作者・中村なん氏にそれぞれ聞いてみた。

『いじめるヤバイ奴』コミックス第1巻(C)中村なん / 講談社

『いじめるヤバイ奴』コミックス第1巻(C)中村なん / 講談社

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 同作は、学校内での壮絶ないじめを描いた物語。クラスに君臨する「いじめっ子」の仲島の標的になった女の子・白咲は、教室内で縛られて水も飲めないという、壮絶ないじめにあっていた。取り憑かれたようにいじめる仲島だが、実は、白咲の命令によっていじめをさせられていた…。うまくいじめが実行できないと、生死に関わる罰を白咲から受けることになる仲島が、いじめの被害者としても描かれている。

――今の時代、「いじめ」を題材に扱うことは、編集部として炎上につながることがあるリスキーなテーマだと思います。それでも編集部として掲載する意義は何でしょうか?『週刊少年マガジン』では『GTO』など、いじめや社会問題を題材にした作品もありますが。

【担当編集】 もちろん、リスキーだということは重々承知です。「いじめ」は繊細なテーマですし、扱い方を間違えると読む人を不快にさせてしまいます。それは我々としても本意ではありません。ただ、炎上につながる題材ということは、みんなの興味があるジャンルでもあるのです。

 クラスで、部活で、会社で、家庭で、自分が当事者になるかどうかはさておき「いじめ」の恐怖は身近に存在します。それを直接解決できるとは思っていませんが、『いじめるヤバイ奴』を読んで、「(主人公の)仲島も大変そうだな」とほんの少しの助けになるといいなと思っています。

――連載がスタートした直後に苦情が寄せられ、ツイッターにて第1話の画像を載せたところアカウントがBANになりかけましたが、これは想定内のことだったのでしょうか。

【担当編集】 完全に想定外ですね…。1話の構成上、前半部分はかなり凄惨ないじめのシーンが続きます。1話を最後まで読んでもらえれば、これがすべてまったく別の意味だと理解できるのですが、SNS上での宣伝ではそこまで伝えきれません。ただの胸糞悪いいじめ漫画だと思われてしまったと思います。それ以来、「いじめを強要されるって怖い」というコンセプトをきちんと伝えられるように宣伝を行っています。

――「WEBで連載している作品なのに、WEBで宣伝しにくい」という状況ですね…。編集部としても多くの漫画を知ってもらいたい気持ちがあると思いますが、こういう状況が起きてしまうと掲載する漫画のジャンルが狭くなってしまうのでは。

【担当編集】 WEBで宣伝しづらいことは懸念点ではありますが、WEB漫画のジャンルに関しては、逆に幅広くなっていると思います。WEB漫画創成期は「刺激の強い作品」が多くなる傾向にありましたが、今はさまざまな作品が連載されています。『マガジンポケット』を見てもらえばわかるのですが、スポーツ、ラブコメ、ファンタジー、サスペンス、ギャグなど多種多用な作品がそろっています。

 同作のファンが増えたかどうかはわかりませんが、おかげさまで1巻には重版がかかっています。連載媒体である『マガジンポケット』では1話分を有料で先読みできるのですが、この数字がとてもいい。狙い通り、読者に続きを気になってもらえているのでしょう。サービス内の「コミュニティ」という読者のコメントが残せる場所の活気がすごいですね。金曜日更新された直後から感想の書き込みが始まり、土日は追いきれないくらいのコメントが残ります。

――いじめをテーマにした理由は?

【中村】 「こんな虚しくてくだらないいじめはやめたほうがいい」「いじめているといつか自分にも返ってくる」ということを読者に感じてほしくて、作品を描いています。でも、エンタメである漫画は面白くなくては読んでもらえないので、そのとっかかりとして『いじめをさせられている』人を描く企画ができあがりました。被害者側の視点から描く作品は多いので「暴力を振るう側も怖いぞ」という、ほかとは違う切り口でいじめを否定したいと思っています。

 いじめというテーマを考えるようになったのは、いじめが原因で起きた自殺のニュースでした。学校でいじめられ、それを苦に自殺した少年の話は壮絶で、とても嫌な気持ちになったことを覚えています。この事件だけでなく、SNSを覗けばいじめの話はごまんとあります。自分の過去にはあまりそういうことがなかったから衝撃でした。目に触れる機会が増えたことも、いじめ漫画を描くきっかけになった。

 ちょうどその時期は、漫画家という夢に向けて会社を辞めてみたものも、すぐに結果が出るわけでもなく会社員時代の貯金を切り崩しながらニート生活をしている時期で、考える時間はたくさんありました。会社員のままだったら、絶対にこんなに深くまで考えてなかったと思います。あの時期にしっかりと考えられたことは僕にとって、実はいいものだったと、今となっては思います。

――いじめられていると思っていたら、いじめを指示していたという異例の設定。どのような経緯でキャラクターやストーリーが作られたのでしょうか。 

【中村】 ちょうど連載案を考えている時に、金曜の終電間際のホームで酔っ払い同士の殴り合いのケンカを見たんです。時間にして10秒程度だったのですが、2人ともお互いボコボコに殴っていて、とても痛そうな光景でした。すぐに駅員がきて収まったのですが、そのケンカを見て「痛そう」という気持ちに加えて、「人を殴ることって怖いな」とも思いました。

 なんの躊躇(ためら)いもなくに生きている人間を殴るって、たとえ「殴ってもいい」と言われてもできることではないなと。「加害者になる恐怖」とでもいうのでしょうか。この感情はこれまでの漫画には多くなく、みんなに共感してもらえるんじゃないかなと思いました。それがきっかけで、ニート時代に深く考えていた「いじめ」と結びつき、「いじめっ子を強制されるシチュエーション」が誕生しました。

――いじめという楽しいテーマではないため、描き続けていると私生活に影響がありそうですが。ため息が増えた、頭痛が増えたなど…。

【中村】 ひどいいじめのシーンなど怖い絵を描くことは、やはりいい気持ちがしないのでなかなかペンが進みづらいです。だから対策として、もう1人の架空の自分を作っています。その自分は、ホラー映画やスプラッターとかサイコホラーとかが大好きだという設定で、ヤバイシーンも描くのが苦ではありません。その彼にバトンタッチして描くのです。すると、ノーマルな自分には描けないシーンも普段よりはすらすらとペン入れが進みます。

 ただ、最近では、その架空人物の影響が強くなってしまって、ゴキブリが出たときなんかは「駆除しなきゃ!」より先に、「ゴキブリはどうしたらいじめに使えるだろうか」と作品への活用法を考えてしまいます。(笑)

関連写真

  • 『いじめるヤバイ奴』コミックス第1巻(C)中村なん / 講談社
  • 苦情が寄せられた第1話の1ページ (C)中村なん / 講談社
  • 苦情が寄せられた第1話の1ページ (C)中村なん / 講談社
  • 苦情が寄せられた第1話の1ページ (C)中村なん / 講談社
  • 『いじめるヤバイ奴』コミックス第3巻(C)中村なん / 講談社

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