アニメ&ゲーム カテゴリ
  • ホーム
  • マンガ
  • マガジン運営『マガポケ』“人気漫画”定義の変化「SNSの声、無視できない」 PV評価よくない作品異例の単行本化

マガジン運営『マガポケ』“人気漫画”定義の変化「SNSの声、無視できない」 PV評価よくない作品異例の単行本化

 熱心な読者を抱えているのに漫画が単行本化されず、「なぜだ!?」と今年3月にツイッターで話題となった作品がある。「週刊少年マガジン」編集部が運営する漫画アプリ『マガポケ』(講談社)で連載している100メートル走を題材にした漫画『ひゃくえむ。』だ。3月に一度、単行本が発売されないことが決定するも、数週間後に撤回され単行本化が決まった。業界では珍しい発売までの経緯について作者・魚豊(うおと)氏と、「週刊少年マガジン」副編集長で『ひゃくえむ。』担当編集の詫摩尚樹氏にインタビューを実施。「人気の指標はアプリ内での数字や評価を重視していくが、SNS上での評価はデータ観測の指標として無視できなくなる」と、漫画の世界にいま起きている“人気の定義”の変化などを語ってもらった。

【写真】その他の写真を見る


■第1話の人気は振るわず…「スポーツ漫画は初動の人気を取りづらい」

 同作は、100メートルの距離を『時間に権力を与える』『人間の価値を決める』と表現し、「100メートルだけ誰よりも速ければ(世の中)全部解決する」と持論を展開する“瞬足だけが取り柄”の小学6年生・トガシと、根暗な転校生で走るのが遅い小宮が織りなす人間ドラマを展開している。

――陸上漫画は世の中に多くありますが、100メートル走を題材にしたこと、小学生を主人公にして、王道である中学・高校の青春系部活ストーリーにしなかった理由は。

【魚豊】 2016年に開催されたリオ五輪の100メートル走をテレビで見ていた時に、ある選手がフライングをして失格になってしまった。フライングをしてもやり直しができると思ったら退場となり、「少しのズレで約10秒間を走らせてもらえないのか。次の五輪出場があるかわからないのに…」とショックを受けた。と同時に、「9秒を制して誰よりも早く駆け抜ければ、とんでもない収入が得られて、世の中のある程度のことが解決できる」と思いました。その緊張と高揚が凝縮されたものが作品のテーマになると考えたのがきっかけです。

 スポーツ漫画だと「部活」や「チーム」に入っている主人公の物語が描かれることが多いと思いますが、クラブ活動もしていない小学生を主人公にすることで、誰もが100メートルを全力で走ったことがあるであろう小学校時代を思い出してもらい、親しみやすくしたかった。僕はスポーツとは無縁の人生で、走るのも苦手。でも、だからこそ、自分なりに『スポーツの存在意義』を考えて描きました。競技というよりは人間ドラマとして描いたつもりです。

――『ひゃくえむ。』は魚豊先生にとって、初めての連載作品となります。2018年11月に連載をスタートさせた時の読者の反応はどうだったのでしょうか。

【副編集長】 掲載媒体の特色もありますが、「マガポケ」では当時、スポーツ漫画が人気ジャンルではなかったこともあり、第1話の読者の反応は芳しくありませんでした。ただ、スポーツ漫画は、キャラクターの努力や成長を地道に描く必要があり、魅力が読者に浸透するのにどうしても時間がかかる。一方で、1話目から“ウリ”を明確にできるラブコメやサスペンス作品だと、初動の反応がいい傾向にあります。このような状況があったので、「最初は苦労するだろうな」と予想していました。早く人気が出てほしいとは思いつつも、「焦らず、長い目で見ていこう」と考えていたことを覚えています。

■ネット台頭でタイトル数は1.5倍に増加…全作品の単行本化は「資金的に厳しい」

――魚豊先生が自身のツイッターで3月12日に「単行本は出ないそうです。この決断は結構覆らないっぽいので、ゆくゆく紙の本は自費出版したいと思います」と、単行本化されないことを明かしています。すべての漫画は単行本化されると思っていましたが、人気がないと出すのは難しいのでしょうか。

【副編集長】 紙やインクの値段、デザイン料など、単行本1冊を作るにあたっては様々なお金が必要で、何千〜何万部刷るとなると大きな金額となります。連載の調子を見た上で「売っていける」という判断ができなければ単行本にはできないのが現状です。人気の指標として、読者アンケートやアプリ内での評価・数字を重視しなくてはいけません。 また、この数年で漫画を掲載する媒体が急激に増えました。10〜15年前に比べると、世に出ている作品の数は1.3から1.5倍くらいに増えているのではないでしょうか。そういった環境で、すべての漫画を単行本化するのは資金的に難しい。そこで、アプリ内などの数字の評価を中心に判断しているんです。

【魚豊】 「読者の反応が良くない」「このままだと単行本は発売できない可能性が高い」と聞かされた時は「編集部のクソ野郎!」と冗談半分に思いましたね(笑)。「ただ、同時期に連載されたほかの作品が1週間で2万人以上の読者を獲得しているのに比べて、自分の作品は1500人ほど。

 デジタル媒体で連載をしていますが、紙の単行本として書店に並ぶことは漫画家にとっては喜びであり夢。デビューする前は媒体に掲載された漫画が単行本化されるのは当たり前だと思っていたのですが、そうではないことを知りました。出版社が単行本として世に出すことは大きなお金が動くことであり、リスクも背負った大変なこと。だからこそ、単行本が発売されることには特別な想いがありました。

【副編集長】 一般的に、単行本が出ないということは連載の終了を意味します。その判断は割と早期に下されることが多いなか、『ひゃくえむ。』はかなり長く見てもらえた。だからこそ、「単行本が出ない」とジャッジされた時は、「あまり数字が良くないから仕方ない」という気持ちと、「なんでだ!」という感情的な部分が混ざって、何だかモヤモヤしていたことを覚えています。

ただ、作品の評価は連載開始当初に比べて徐々に上がっていた。そこで、社内の関係各所に「どうにかして、出すことはできないのか?」と相談をしてみたんです。いち編集部員として、マガジン編集部がこの作品を単行本にしないのは「単純に嫌だ」という気持ちもあった。『マガジン』の歴史においてスポーツ漫画はひとつの大きな柱。スポーツ漫画を世に届けることに積極的な編集部であってほしかった。

 この時期に、魚豊さんと担当とで共有していた意識は、「この漫画は間違いなく面白いはずだ」というものでした。そのうえで、世に受け入れられていないのだとしたら「作品に何かが足りない」か「知られていない」ことが原因だろう、と。作品に何かが足りなければ打ち合わせを重ねて修正する必要がありますが、「知られていない」については心配はありませんでした。「マガポケ」自体はユーザー数を伸ばしていましたし、読者の方からも多くの熱いコメントをいただいていた。あと、マガジン編集部内だけでなく、漫画家さんや他社の編集者から評価されることがとても多かったんです。担当としては、そういった熱量を感じつつ、それがより多くの読者の方に広まっていくことを願っていました。

■「単行本化しない」決定を異例の撤回 人気の指標は数字重視もSNS評価無視できず

――先生の投稿がきっかけで、読者の「なぜ、単行本にしないのか?」などのコメントがツイッター上で拡散され話題となり、結果的に単行本が発売されることになりました。

【魚豊】 人気が出なかった作品ですが、アプリ内のコメント欄では評価してくれる人が大勢いて、ここで酷評の嵐だったら心が折れていたと思います。「面白い」と言ってくれる方が居たおかげで安心もしましたし、「この作品は人気を取れる」と信じることができたので、応援してくれる読者の言葉は作者の支えになると実感しました。「単行本が出ない」と最初に告知した時も、読者がネット上で声をあげてくれたみたいで頭が上がりませんね。

【副編集長】 誤解がないように言うと「なぜ単行本化しないんだ!」「単行本化しろ!」などといった、SNS上での反響が大きくなったから発売することになったわけではないんです。単行本化の判断基準は、あくまでアプリ内での評価。ただ、拡散されたことにより作品が注目を集め、アプリ内での評価が一定ラインを超え、最終的に発売が決まった。ネット上での反響がその結果に反映されたことは事実だと思いますし、一度単行本を発売しないと決めたことを撤回したのは、編集部として異例なことです。

―――ネット上での反響によって作品が注目され、アプリ内に新たな読者を呼び込むことで結果的に人気に繋がったわけですね。ただ、誌面やアプリ内での評価・数字が絶対的だとしても、このような事例が起きると「人気」の基準が難しくなっているような気がします。

【副編集長】 ある意味『ひゃくえむ。』は、試金石と呼べる作品になったと思いますね。アプリ内で「どれくらいの人が読んだのか、購入したのか」という数字で評価しなければ、当たり前ですが媒体が成り立たない。それは事実ですが、「今回のようにツイッターで注目された結果、アプリ内で読者が呼び込まれ、数字が良くなる」みたいな事例が生まれると、運営上の判断材料が増える。
今後、その時は人気が振るわなくても、「ツイッターですごく拡散されているから、『ひゃくえむ。』みたいにこれから人気が出るかもね」と、SNS上での評価が観測データの指標として無視できなくなる可能性はあると思います。

関連写真

  • 『ひゃくえむ。』コミックス第1巻 (C)講談社
  • 漫画『ひゃくえむ。』の1コマ(C)講談社
  • 漫画『ひゃくえむ。』の1コマ(C)講談社
  • 漫画『ひゃくえむ。』の1コマ(C)講談社

オリコントピックス