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尾崎世界観、直木賞候補2度選出の千早茜と強力タッグ 小説の魅力を語る「手で土を掘っているような感覚」

 ロックバンド・クリープハイプのボーカル&ギター・尾崎世界観と、直木賞候補に2度選出された実力派作家・千早茜氏による共作の恋愛小説『犬も食わない』(新潮社)が、きょう31日に出版された。「結婚とか別れ話とか、面倒な事は見て見ぬふりでやり過ごしたい」、「ちゃんと言ってよ。言葉が足りないから、あたしが言い過ぎる」。脱ぎっ放しのくつ下、たたまれた洗濯物、冷えきった足、ベッドの隣の確かな体温…。同せい中の恋人同士の心の探り合いを男女それぞれの視点から描いている。

共作の恋愛小説『犬も食わない』を出版した(左から)千早茜氏、尾崎世界観(撮影・新潮社写真部)

共作の恋愛小説『犬も食わない』を出版した(左から)千早茜氏、尾崎世界観(撮影・新潮社写真部)

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 クリープハイプの最新アルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』の収録曲紹介トレイラー映像を手がけた気鋭のイラストレーター・雪下まゆ氏が、カバー装画を描き下ろし。さまざまなコラボが話題となっている同書ができるまでの過程、バンド活動と執筆との関わりなどを千早氏と尾崎が語り合った。

──どうしてこういうスタイルで共作をしようということになったのでしょうか。

【千早】きっかけは2016年に、尾崎さんの1作目の小説『祐介』(文藝春秋)の刊行記念で、雑誌で対談させていただいたことでした。もともと私はクリープハイプの音楽が好きで、とくに尾崎さんの書く歌詞に注目していたんですね。それで実際に尾崎さんとお話ししてみて、やっぱり一緒に何か仕事をしてみたいと、私からお願いしました。

【尾崎】書く前には毎回ここ新潮社クラブ(新潮社のそばにある小さな一軒家で、執筆や打ち合わせ、対談などにつかわれる施設)で、どんな話にするかある程度打ち合わせをしてから執筆をしていました。最初の打ち合わせで、「ラップバトルのような小説スタイルにしたい」という話になって。たとえば、登場人物が2人でどこかに出かけて、そこで2人の価値観が合わないことから何かが起こる、というようなものを描きたかったんです。それなら毎回お互いの言い分をぶつけ合うような構成がいいですね、ということで、1組のカップルを男女の視点でお互いに描いていくことにしました。

【千早】バトルなので、タイトルもけんかを連想するような言葉がいいと話している中で、最初に尾崎さんが出してくれたタイトルは、「腐人口論」でした(笑)。

【尾崎】文字通り、腐った人が口論するというものだったんですけど、他社の雑誌のタイトルを悪く言うことになるのでNGでした(笑)。『犬も食わない』という案は千早さんからだしてくれましたね。

【千早】そうでしたっけ。打ち合わせ中にでてきたものだったと思っていました。タイトルもそうですけど、雑談中にアイデアが生まれたことも多かったですね。

【尾崎】毎回千早さんと編集さんが机をおやつだらけにして、まず1時間ほど雑談をします(笑)。それからだんだん打ち合わせになっていくんですけど、雑談ででた近所にある商業施設の、なんか「おしゃれですけど?」という感じが気に入らないですよねという話から、おしゃれな商業施設に行った2人がけんかする設定にしようとか。

【千早】打ち合わせの途中で、編集さんも一緒にその商業施設やその近くにあるおしゃれな本屋さんをのぞきにいきました。そこにある雑貨も値段が高くて、尾崎さんがイライラしだして(笑)。

【尾崎】そうそう、思いだしてきました! その本屋で、『犬も食わない』を連載していた雑誌『yom yom』の編集長が、千早さんに「ほしいものがあれば一緒に買いますよ」と言ってマンガを買ってあげて、僕には買ってくれなかったんです。それで、おまけみたいに「あ、尾崎さんもほしいものがあれば言ってください」とか言われて(笑)。

【千早】私は帰ったらマンガを読もうとワクワクしていました(笑)。それで、打ち合わせではどこへ行ってどんなことが起こるというような大まかな流れだけ決めて、あとは前編を書いた人の原稿を読んで、後編の執筆者が話を合わせつつ展開させていったんです。執筆の順番は回ごとに替えて。物語の前半あたりでは、尾崎さんの書く罵倒の言葉がすさまじくて、それと張り合える言葉ってどんなものだろうということはかなり考えました。私は、自分のパートの主人公になる福については、こういう言葉遣いをする女性とある程度の人物像は決めていたんですが、大輔に関してはよくわからない部分が多いまま書き始めたので、尾崎さんの書いた原稿を読んで、大輔ってこんな人なのかとようやくわかるということもありました。初めの頃の大輔は暴力的な描写もあって、「福が好きになる人物としてはちょっと激しすぎるのではないでしょうか」と尾崎さんとすり合わせをして、変えてもらったこともありました。

【尾崎】僕は千早さんの書く福について、「違うな」と思ったことはあまりなかったです。千早さんの原稿で福を知って、こういう人だったのかと思ったら、その流れに任せて書きました。一緒に暮らしているけれど、まだお互いを知っているようで全然わかっていないとか、あえて知らないようにしているという部分もあるのかな、と思いました。とくに大輔は福の家に住まわせてもらっている立場なので、福の態度や言葉に変化があればその時々でしっかり受け止めて書いてくようにしていました。

──普通の小説だと、著者は全ての登場人物の性格や言動を把握しているわけですが、共著で主要登場人物のひとりの言動は自分じゃない人が握っている。となると、人物を能動的に動かせる前編を書く方が楽なんでしょうか。

【尾崎】どうでしょう。ただ単純に後編の方が、締め切りが長いので、楽かもしれません(笑)。それに僕はタイアップでCMの曲を作ったりだとか、「お題」に答えるのが好きなタイプなので、後編だと千早さんが前編で出した課題をクリアしていく感覚があって、それも楽しかったです。

【千早】私はどちらも好きでした。どちらにしても尾崎さんは台詞(せりふ)回しが本当に上手で、大輔のパートを読むのは楽しかったです。私が先に書いたある場面に対して、尾崎さんがものすごくはっとするような比喩を使って心情を表していて、感動したこともありました。「2人でコツコツ溜めていたポイントを勝手に使われたような悔しさ」という表現なんですけれど、私の中からはでてこない感覚でした。ポイントカードという言葉は、クリープハイプのニューアルバムの「お引っ越し」という曲でも出てきましたね。

【尾崎】小説を書いている途中に思いついたフレーズを歌詞にも使ったんです。

【千早】尾崎さんは連載中にもどんどんうまくなっていて、とくに最終回は尾崎さんの原稿を読んで、私はラストを書き直しました。尾崎さんは「普通」を簡単に超えていくので、焦りました。

【尾崎】いや、僕にはまだ普通ができていないだけです。自分ではまだ軸がないと感じていて、それがコンプレックスでもあるんですけど、今回千早さんと共作をさせていただけてすごく勉強になりました。1人では成り立たないことで、安心してできたのが心強かったと思います。

【千早】ありがとうございます。私は尾崎さんと初めて対談した時期に、小説を綺麗にまとめすぎてしまう自分に悩んでいたんです。作品作りにおいて違和感をすごく大事にする尾崎さんから、違和感の入れ方を教えてもらいました。お互いに自分に足りない部分を補いあえたのかもしれませんね。

──最後に、ご自分にとって「小説を書く」とはどんなことなのか教えていただけますか。

【千早】小説を書くのは本当に「1人の世界」なので、創作しているときは誰の声も聞こえないし、家族に悪いからこれは書かないというような忖度もしません。今回、すごく孤独だった世界を尾崎さんと共有して、こんな方法で表現もできるんだとわかったことは大きな発見でした。

【尾崎】小説を書くのは手で土を掘っているような感覚があるんです。目の前でお客さんの反応がダイレクトにわかる音楽に比べると、そこまでわかりやすい反響があるわけではないのですが、肌触りとして「いま表現している」という気持ちになれるんです。この年になると「うまくなりたい」と心から思えることも少なくなってきますが、小説についてはうまくなりたい、伝えたいと強く思います。もっともっと勉強して、ギターを始めた中学生の頃のような気持ちで、書いていきたいです。

関連写真

  • 共作の恋愛小説『犬も食わない』を出版した(左から)千早茜氏、尾崎世界観(撮影・新潮社写真部)
  • 共作の恋愛小説『犬も食わない』を出版した尾崎世界観(撮影・新潮社写真部)
  • 共作の恋愛小説『犬も食わない』を出版した千早茜氏(撮影・新潮社写真部)
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