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共同印刷、電子書籍漫画の画像処理にAI導入の理由「より高画質な漫画を提供したい」

 1968年の創刊号から『週刊少年ジャンプ』を印刷している共同印刷が6月、AI(人工知能)を活用して電子書籍の漫画画像を処理する『eComicScreen+』(イーコミックスクリーンプラス)を開発した。スクリーントーンなどによって生じる「モアレ」を細部まで抑制し、細い線でも鮮明となり、より自然な仕上がりの電子書籍漫画の作成が可能となった。デジタルの台頭が凄まじい漫画業界で、このシステムの登場で何が変わるのか? 開発担当者でIT統括本部の伊藤貴彦氏に聞いてみた。

『eComicScreen』比較画像(左から適用後、適用前) (C)共同印刷

『eComicScreen』比較画像(左から適用後、適用前) (C)共同印刷

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■紙とデジタル漫画の“モアレ問題”解決の違い「コストや手間をかけられない事情」

 まず、モアレというのは、規則正しく分布した線や網点が重なり合ったときに生じる、縞(しま)やマダラの模様のこと。漫画画像にはスクリーントーンという規則正しく並んだ網点が使用されるため、画像リサイズ処理などの際にモアレが発生する。

一般的に電子書籍の漫画は、印刷用のデータ(天地約8000ピクセル)をデジタル向けに縮小して作成されており、天地1200ピクセルといった小さな画像にすることが主流。これは、縮小時に細かいスクリーントーンの網点(濃淡を表現する小さな点)がつぶれて周りと馴染み、モアレが軽減されるため。最近では、デジタルデバイスの高画質化に伴い、画像が1600ピクセル以上になるケースが増え、従来の画像処理では網点が残りモアレが目立つようになっていたが、今回開発された新技術を導入することで、2000ピクセルでもモアレを軽減したものを作れるようになった。

 モアレの問題の現状について「電子漫画に限ったことではなく、紙の印刷物を作る際も昔からモアレの問題はありました。紙の媒体の場合は、実際に印刷する用紙サイズや解像度が決まっているため、そこへ向かってモアレを出さない加工が可能でした。具体的には『このコマでモアレが出たら、そのコマだけ別にスキャンして張り替える』など、手間をかけることができたのです。しかし、電子書籍の場合は、納期やコストの問題もあり一個一個にあまり手間をかけられない事情があります」と紙と電子書籍の違いを説明。

「電子書籍は、印刷用のデータをデジタル向けに縮小して作るため、モアレの問題が根深いです。読者が漫画を表示するスマホやタブレットの画素数も違いますし、さらに、デバイスも高画質化が進んでいます。読者側で拡大もして大きさを変えるため、モアレの問題を解決することが難しかった」と電子書籍におけるモアレの問題の深刻さを明かした。

■AI導入の新技術開発までの経緯「作家の複雑なスクリーントーンの使い方」

 そこで、2016年にモアレ問題を解決するため、印刷用のデータを電子書籍向けに変換する際、画像を解析してスクリーントーン領域を抽出し、モアレの軽減処理を施す「eComicScreen」(イーコミックスクリーン)を開発する。これは、イーコミックスクリーンプラスのベースとなったもの。

「最近では、スマホの解像度の向上もあり『天地2000ピクセルでお願いします』という依頼もあります。それぐらいになると、特別な画像処理、変換をしないとモアレが出てしまいます。『モアレが出ない1200ピクセルと、モアレが出る2000ピクセル。どちらがいいですか?』と伺うことになり、結局は『モアレがない方』といった結論に。ですが、先方の要望に少しでも応えるため、イーコミックスクリーンを開発するに至りました」と振り返った。

 イーコミックスクリーンにAIを導入し、画像処理の技術者が培ってきたノウハウを学習させることで、抽出の精度を向上させて改良したのが、今回開発されたイーコミックスクリーンプラス。一体何が変わったのか?

 「前バージョンは、規則正しいスクリーントーンのパターンでしたら、ほぼパーフェクトに認識できていましたが、漫画はとても複雑で作家さんが自由に描きます。スクリーントーンを2枚、3枚と重ねることも多い。そうすると複雑に重なりあって見たことのない模様となり、細線のボケのほか、スクリーントーンの認識に漏れやムラが生じていました」と、課題があったという。

 「もちろん、そういう領域に対しても認識できるように、アルゴリズムを書いていましたがキリがないなと。未知のトーンが出てきた時、また、それに対応していく。いたちごっこです。これを打開する方法はないかと考えていた際に、機械学習がいいのではないかと思いました。画像認識の分野では非常に性能があがっているとのことで、1年半くらいの時間をかけてこの技術を導入して改良しました。すると、細かい線も潰れずに2000ピクセル程度でも問題なく表現できるようになりました」と良い成果が出たことを報告。

 さらに「従来のシステムだと、いただいた画像を我々が用意したアルゴリズムで解析していく仕組みなので、処理時間がかかっていました。電子書籍の制作部門からは、『少しでも処理時間が早い方がいい』という意見があったので、機械学習導入により、性能と速度面を解決することができました」と期待以上の物に仕上がったという。
 
 AI導入で以前より高品質な物を出版社へ提供できることになったが「一般的なAIは、常時解析してより良い結果を出していくイメージがありますが、イーコミックスクリーンプラスは、常時学習させるのではなく、学習して出来上がったものを使用する形。これは、印刷会社特有と思いますが、時間が空いて再版する場合も、前回と同じ仕上がりの物を納品しなくてはいけません。随時学習させて中身を変えてしまうと、前回の物とは違う仕上がりになってしまう。頻繁に学習させることはせず、未知のトーンが発生してある程度のデータが溜まった時に、前のクオリティーと変わらないように学習させます」と使用方法を説明。

 「わかりやすく言うと、コミックス初版を再版する際に、随時学習した場合だと漫画の表現に変化が生じて、厳密に言うと初版と『同じ作品』にはなりません。どんどん良くしていけるところを抑えている感じです。一般的なAIのイメージより、機械学習という言葉がしっくり来るのかも知れません」と明かした。

■モアレを気にしない、高画質漫画を求めない読者へ「今の漫画は可読性に難がある」

 年々、スマートフォンやタブレット端末など高画質なデバイスが登場しており、デジタル漫画も高画質が求められる。それと同時にモアレも発生していくが、読者からしたらモアレなど気にせず読んでいる。「正直な話、一般読者は『モアレがあるかないか』ということは気づかず細かいところは気にしないこともあると思いますが、出版社、漫画家さんからしたら、モアレというのは元の原稿にはないもので、作家さんの意図とは違うものです。あるのとないとでは作品のイメージが変わる。コミックスの印刷物が一番の完成された表現なので『モアレを消してください』とよく先方から言われます」とモアレの問題に引き続き力を入れることを宣言。

 また、「実は1200ピクセルだと、ルビ(文章内の文字に対してのふりがな)を単体で見ると、カスカスな状態で読むことは難しい。読者は頭の中でスムーズに日本語を変換できているから、読めているだけなんです。ルビだけ見ると可読性は保っていません。そういうことも考えると、2000ピクセル程度の電子書籍を世の中に普及させていくことが大切です」と、高画質の漫画の必要性を訴えた。

 今後の展開については「6月に発表して漫画とAIという組み合わせが面白かったのか、多くの問い合わせがあります。まずは、紙漫画も電子漫画も両方展開している出版社へ提案し、漫画関連の受注拡大に努めて、2021年度までに10億円の売り上げを目指します」とし、「読者が1200ピクセルと2000ピクセルの漫画を読み比べた時に『こんなに粗い画像だったのか』と、ビデオテープからDVD、Blu-rayくらいの驚きみたいなものを感じていただけたら、高画質な電子書籍が普及していくきっかけになると思います」と期待した。

関連写真

  • 『eComicScreen』比較画像(左から適用後、適用前) (C)共同印刷
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