アニメ&ゲーム カテゴリ
ORICON NEWS

「10年もたない」現役アニメ監督が語る、過酷な製作現場の内情と解決策

 スタジオジブリは先ごろ、宮崎駿監督の引退撤回、そして新作長編アニメーション映画制作を発表。と同時に、同作品のためのスタッフ募集を開始したのだが、その求人内容の“月収20万円”は高いのか、安いのか、と世間をザワつかせた。実際、日本における新人アニメーターの平均年収は約110万円。これは月収10万円にも届かない金額だ。さらに、アニメーターの1日の平均作業時間は11時間、1か月の平均休日は4.6日、これらの数字が示す通り、日本のアニメ業界は“ブラック労働”の代表格となっている。

アニメ業界の過酷な内情を明かす「日本アニメーター・演出協会(JAniCA)」代表理事の入江泰浩氏

アニメ業界の過酷な内情を明かす「日本アニメーター・演出協会(JAniCA)」代表理事の入江泰浩氏

写真ページを見る

【写真】その他の写真を見る


 年間の制作本数が300本以上、市場規模は2兆円、そうしたアニメ業界の活況が取りざたされる裏で、若いアニメーターは日々の生活に四苦八苦している。この現状に対しメディアなどを通じて一石を投じているのが、『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』(TBS系列)、『灼熱の卓球娘』(テレビ東京系列)などを手掛けたアニメーション監督であり、「日本アニメーター・演出協会(JAniCA)」代表理事の入江泰浩氏だ。

 「以前、私は『クローズアップ現代+』(NHK総合)に出演した際に、制作費を2倍にしてほしいと発言しました。それが実現したときに何を最優先で行うか。それは、極端に低い新人アニメーターの収入を底上げすることでした」と入江氏。

 いま、アニメ業界は“ブラック労働”というイメージが独り歩きし、さまざまな問題点が噴出しているが、まず取り組むべきは、新人アニメーターの収入を上げ、アニメーターを志す新人が安心して自分の技術を覚える、安心して暮らせる。そんな生活を実現させることだと入江氏は強調する。

■アニメ業界の亡霊「制作費の中抜き問題」 その誤解とは?

 アニメ業界を語るとき、ネット上でよく見かけるのが“制作費の中抜き”問題だ。これは、スポンサーが出したお金を代理店や放送局が中抜きし、余ったお金が制作会社に支払われるというもの。しかし、これには大きな誤解があるという。入江氏によれば「中抜きは、ゴールデンタイムにアニメをバンバン放送していた時代のひとつの例。いまの“製作委員会”というシステムでは、スポンサーや代理店、テレビ局も含めみんなでお金を出しあい、その集めた資金を元に、制作会社がアニメを作っている」のが主流だという。つまり、基本的には製作委員会に参加するすべての会社が出資者であり、中抜きができるシステムとは異なるのだ。中抜きは20年前、30年前のやり方であって、それを持ち出すのは、存在しない悪者を叩いているだけ。それでは本当に解決すべき問題に目がいかなくなる、と入江氏は警鐘をならす。

「製作委員会の中には制作現場の実状を知らない人が多かった。だから、メディアなどを通じて“ブラック労働”の実態を認知してもらえれば、製作委員会の考え方も変わっていくはず」と入江氏。また、製作委員会の中にも、「制作費を上げて問題がクリアになるなら、そこに対して全然ちゅうちょはない。むしろ言ってほしい」という声もあるのだとか。だからこそ、制作会社側がもっと積極的に声を上げていく必要がある、と同氏は語る。

■増え続けるアニメの制作本数、減り続けるアニメーター

 ブラック労働と言われるが、アニメーターを目指す人達の数は以前とさほど変わらない。しかし、生活できないから辞めていく人が年々多くなっている。そんななか、年間300本以上といわれる制作本数は適正なのだろうか。一方で、制作本数が多ければ、メジャーな作品だけではなく、以前なら実現しなかったようなマイナーな作品も作られる。アニメの多様性という観点からいえば、制作本数は多い方が良いという声もある。

 しかし、そこには見逃せない問題があると入江氏。「いま、国内にはヒマなアニメーターはいません。すると、海外に仕事が流れてしまい、海外の技術は上がるが国内での技術向上が難しくなる。制作スケジュールの悪化もあり、先輩アニメーターが後輩アニメーターを指導する技術の継承、経験の蓄積の機会が失われつつある。なので、作品数を絞るという方向性よりも、まずは働き手の収入を改善することが先決」(入江氏)

 もし、若い人の収入が増えれば、「アニメって食えないから辞めざるをえない」と諦めてしまった人たちが、「食えるのであればアニメの仕事がしたい」となり、再び業界に帰ってくる可能性もある。人が増えれば、当然上手いアニメーターも増える。現場の効率も上がり、それぞれの負担も減る。つまり、若手アニメーターの収入を増やせば、アニメの多様性を維持しながら、アニメーターの技術の継承もすすめられるのだ。

■急場しのぎでは10年もたない!? 制作会社が生き残る方法とは

 現在の制作会社は「現状の予算をどうやりくりするか」「どうやって納品するか」で苦心している。しかし、それは急場しのぎでしかなく、「今までのやり方では今後10年を乗り切れない」と入江氏は断言する。では、アニメ業界が10年、20年と続けていくためには必要な方策とは?

 「アニメーターは自らの技術を少しずつでも向上させる。そうすれば良い仕事を取りやすくなります。制作会社は、製作委員会に掛け合うなり、自らで資金調達を行う方法を考える時期になっています。そのためには強い発信力と行動力も必要。製作委員会に関して言えば、制作会社への予算を上げる時代になっていると考えて頂きたい。そうやって、それぞれが変わっていく必要がある。そして国には、これからもクールジャパンの柱にアニメーションを置くのであれば、国にしかできない事を行ってもらいたいです」と入江氏。

 限界に達しようとしているアニメ業界の制作現場。内部改革が必要なのはもちろんだが、一方で、超党派による国会議員連盟『MANGA議連』の中には、税制面で何かできることがあるのではないか、という声もあるのだとか。日本が“クールジャパン”を掲げるなかで、国として、この問題とどう向き合うかにも注目していきたい。

関連写真

  • アニメ業界の過酷な内情を明かす「日本アニメーター・演出協会(JAniCA)」代表理事の入江泰浩氏
  • ネット上に蔓延する、誤解に基づくアニメ制作方式の一例
  • 参加するすべての会社が出資者となる現行の制作員会の一例

オリコントピックス

あなたにおすすめの記事

 を検索