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カンヌ常連監督の制作の秘密に『あまちゃん』ディレクターが迫る

 7作品連続カンヌ国際映画祭コンペティション出品の快挙を誇る兄弟の映画監督コンビ、ジャン=ピエールリュック・ダルデンヌ監督が、最新作『午後8時の訪問者』(4月8日より公開中)のプロモーションで2月に来日。連続テレビ小説『あまちゃん』や『トットてれび』などを手掛けける NHK のディレクター・井上剛氏との鼎談が実現した。

カンヌ映画祭常連の(左から)リュック・ダルデンヌ監督(弟)、ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督(兄)とNHKのディレクター・井上剛氏が鼎談(C)ORICON NewS inc.

カンヌ映画祭常連の(左から)リュック・ダルデンヌ監督(弟)、ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督(兄)とNHKのディレクター・井上剛氏が鼎談(C)ORICON NewS inc.

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 かねてからダルデンヌ監督作品のファンだったという井上氏が「真似したいけど真似できない(笑)」という2人の映画作りについて根ほり葉ほり聞いていくと、兄弟たちも火が付いたように身振り手振りを交えて語りだし、通訳は大わらわ。白熱した鼎談の模様を紹介する。

【井上剛】『午後8時の訪問者』を拝見しました。貧困や国籍などが原因で大病院にはなかなか行くことができない人たちにも分け隔てなく扉を開いてきた診療所が、たった一度だけ、些細なことが原因でドアを開かなかったことから始まる物語ですが、自分も含めて誰もが犯してしまいそうな罪が描かれていて、最後まで心がヒリヒリしていました。今作の着想はどのように生まれたのでしょうか?

【ジャン=ピエール・ダルデンヌ(以下JP)】「追及」というアイデアが数年前からありまして、主役を警官にすることも考えましたが、医師にしようと思ったんですね。医師は患者をいやし、命を救うのが仕事。そして、どんな患者にも扉を開けるのが診療所。その逆を設定として考えました。診療所近くで見つかった身元不明の少女の遺体。その少女は診療所のベルを鳴らしたのに、女医のジェニーはドアを開けなかった。少女を殺したのは自分ではないけれど、扉を開けていれば命を救えたかもしれない、と罪の意識が生まれる。そこから誰も知らない少女の名前を探りはじめ、同時に自分にも責任の一部があるその死の真相を知ろうと主人公が動き出すのです。

【井上】いつも開けているドアをたまたま開けなかった。僕は、『息子のまなざし』(2002年、長編劇映画5作目)からファンになりましたが、些細な出来事やふとしたきっかけで人や日常が崩れていく設定がいつもすばらしいと思いますし、観客の目線をすごく意識して、その目線や観客の想像も映画の一部分になっている。そんな映画を作られる監督さんたちだなと感じていました。

【リュック・ダルデンヌ(以下L)】ちょっとしたことで人生が破綻するのは、物語を語る上では基本ですが、私たちはより些細なことだからこそ、余計に心に残ることがあって、それを映画にしていこうと思っています。

【JP】『午後8時の訪問者』でいうと、医師の主人公が、追及していくという漠然としたアイデアから、何を見せたくないか、見せないかを考えるんです。そうすると自ずと見せたいものが見えてくる。例えば、観客から見えそうで見えないものがあると、そこに何かあるんじゃないかと、興味を引くことができる。そこにサスペンスが生まれるんです。

【L】何があるのか見たい、もっと知りたいと思わせることができたら、今度は、観客が期待しているものではない情報をあえて与えたりする。そうすると、裏切られた驚きがあって、自分がある場面や状況に関して持っている先入観から離れて、目の前の作品に没入できるようになる。

【JP】登場人物の自然な姿を追いかけるカメラワークによって、登場人物たちの言動が観客にインプットされていき、この人はこうなんじゃないか、あの人が怪しいといったことも自分の頭の中で考えていくことができるようになるんです。私たちが演出している世界だけに登場人物たちを閉じこめるのではなく、観客の中で広げてもらいたくて。

【L】サスペンスのために今は見せないだけで、後で見せてくれるのかと思っていたら、答えが明かされないまま終わることもある。映像とせりふですべてを説明しきってしまわないことで、映画を観終わった後に、あれはどう思う? これはこう思うんだけど、と話してもらいたいよね。

【JP】イギリスのある批評家に、「あなた方の映画を観ると、最初の1時間を見逃した気分になります。最初から足りない感じがする」と言われたことがあるんだけど(笑)、その通りだと思うよ。カメラのフレームにしても何か足りないように意識して作っているんです。それが私たちの撮り方なんです。

【井上】編集で抜いたりすることもあるのですか? それとも撮影の時から撮らないのでしょうか?

【JP】撮影の時からだね。撮りながら自然にそうなっていく。

【L】もちろん、いきなり撮影するわけではありません。脚本が完成したら、2人で2ヶ月くらいかけて実際の撮影現場でシミュレーションします。そこで、この壁にドアホンがあると収まりがいいね、ここには何も置かないでおこう、などと細かいことから全部、具体的に決めていくんです。

【JP】そこで重要なのは実際の撮影場所でそれをするということ。僕らは自分たちでやってみないとわからないタイプの監督なんです。映画の中で少女が診療所に来た時に、どっちから走ってきてどっちに去っていくのか、右から左か、左から右か、どちらも試してみて、こっちがいいねと、判断する。そういう作業を積み重ねていくんです。2人でやる分にはお金はかからないから(笑)。

【L】その後、役者を入れて、やはり実際のセットでリハーサルを4、5ヶ月やるんです。役者と一緒にカメラワークも含めて状況や人の動きを検討します。役者さんから質問されたり、提案されたり、私たちに思いがけないアイデアを与えてくれることもあります。

【井上】なるほど! 僕も撮影前に脚本家と2人でセットに入っていろいろシミュレーションしてみようと思います。きょうはありがとうございました。

【JP&L】(日本語で)どうもありがとう!

■鼎談を終えて

 「説明しすぎないダルデンヌ監督の手法に、表現のヒントがあることが改めてわかりました。撮影前にセットに入って、一人で演出プランを考えることは私たちも少なからずやっていることではありますが、おふたりほどの徹底ぶりはなかなかできないことなので、本当に勉強になりました。21世紀を代表する名匠といっても過言ではないおふたりなのに、とても気さくで親しみやすくて。対談中、おふたりが同時に足を組んだり、うなずいたり、茶々を入れたりする様子や佇まいがものすごく絵になって、リズミカルで、上質なフランス映画を観ているようで、すてきでした。撮影前のシミュレーションの話を聞くと、一人じゃできない、やはり2人必要なんだな。おふたりでないと撮れない映画なんだと、お会いしてわかりました」(井上氏)

■プロフィール
井上剛(いのうえ・つよし)
 NHKチーフ・ディレクター。代表作に『64(ロクヨン)』『クライマーズ・ハイ』『ハゲタカ』『ちりとてちん』『てっぱん』など。阪神・淡路大震災の特集番組『その街のこども』ではテレビドラマとドキュメンタリーを融合、自身初となる監督映画作品として劇場公開もされた。チーフ演出を務めた連続テレビ小説『あまちゃん』は数々の伝説と話題を生み、東京ドラマアウォード2013 演出賞を受賞した。近作『トットてれび』で芸術選奨文科大臣新人賞を受賞。2019年大河ドラマ『いだてん』の演出を担当する予定。

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  • カンヌ映画祭常連の(左から)リュック・ダルデンヌ監督(弟)、ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督(兄)とNHKのディレクター・井上剛氏が鼎談(C)ORICON NewS inc.
  • 2019年大河ドラマ『いだてん』を担当する予定の井上剛氏 (C)ORICON NewS inc.
  • 映画『午後8時の訪問者』(4月8日より公開中)(C)LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM ? FRANCE 2 CINEMA - VOO et Be tv - RTBF (Television belge)

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