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【連載2】SMAPにとっては“異色”だった国民的ソング「世界に一つだけの花」

 前回の『SMAP解散がもたらした喪失感 終わらないことは“残酷”なのか?』に続く、SMAP連載第2弾。解散報道を受けたファンの購買運動により、現在もオリコンランキングTOP10内にランクインする「世界に一つだけの花(シングル・ヴァージョン)」。同曲とSMAPは、いかにして“国民的”となり得たのか? 長くSMAPを追ってきたライターが解き明かす。

SMAPは8月14日未明、年内をもって解散することを発表した

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◆“反逆の精神”を内包? 「世界に一つだけの花」までのSMAPソング

 「世界に一つだけの花」という曲を、正直、ずっと好きになれなかった。一般的には、2003年に草なぎ剛が主演したドラマ『僕の生きる道』(フジテレビ)の主題歌として知られるが、2002年7月に発売されたアルバム『Drink! Smap!』からのシングルカットである。2002年のSMAPの夏のライブは、初のスタジアムツアーで、「世界に一つだけの花」は本編のラストで歌われた。

 SMAPの曲は、観客が一緒に踊れるような振付のある曲は少ない。周囲と同じ動きを意識せず、好き勝手に楽しめるのも、SMAPのライブの良さだと、個人的には思っていた。なのに、「世界に一つだけの花」にはちゃんと振付がついていて、すでにリピーターになっているファンが率先して振りを合わせていて、内心“何か違う!”と思ったものだった。

 歌詞の内容だって、「君は君だよ」(1993年9月9日発売のSMAP9枚目のシングル)と同じではないか。もちろん、普遍性のあるいい曲なのはわかっていた。でも、それまでのSMAPの曲は正論をかざさず、どこかに反逆の精神みたいなものを内包していて、そこがファンキーで魅力的だった。あくまで個人的には。

◆「夜空ノムコウ」では30男の哀愁を20代のSMAPが歌う

 SMAPは、「Hey Hey おおきに毎度あり」(1994年3月リリース)でジャニーズとして初めてラップに挑戦している。「Hey Hey〜」は、12枚目にして初めてオリコン週間ランキング1位を獲得し、そこから「オリジナル スマイル」「がんばりましょう」への快進撃へと続く。1994年9月9日に発売された「がんばりましょう」は、応援ソングでありながら、“努力すればきっと夢は叶う”というようなポジティブな歌詞ではなく、カッコ悪い自分たちを肯定し、“とりあえず今を生きよう”と呼びかける。

 阪神淡路大震災直後の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)で、SMAPがこの曲を歌った時、日本におけるアイドルの役割がひとつ、広がった。それまでは、男性アイドルグループの音楽は基本的にラブソングか青春の儚さを歌う曲がほとんどで、働く人々に訴えかける“日常的な応援ソング”などほとんど存在しなかったのだ。

 1998年1月「夜空ノムコウ」発売。ノンタイアップの8インチシングルは、その前年から『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)で部分的に披露されていた。それを初めてフルで聴いた時の衝撃たるや。私がスガ シカオの名前を知ったのは、1997年にリリースされたSMAPのアルバム『ス』に収録された「ココニイルコト」のクレジットだった。木村拓哉香取慎吾が2人で歌うそのバラードがあまりに名曲だったため、そこからスガのアルバム『Clover』を即買いに走ったほどだ。作曲は川村結花だが、「夜空ノムコウ」に漂う無常観は、やはりあの歌詞によるところが大きい。

 「夜空ノムコウ」をSMAPの5人が歌う説得力。それは、リリースの1年半前に、森且行が脱退し、そこから全員が奮起し、ドラマで主役を張れるまでに成長したというストーリーに裏打ちされている。<あれからぼくたちは 何かを信じてこれたかなぁ>の、<ぼくたち>の中には、森という存在も含まれていたような気がしたし、もっと言えば、森の不在を乗り越えたファンである自分も、同じ気持ちで“何かを信じてこれたかなぁ”と自問しているような気持ちになった。「がんばりましょう」で、“カッコ悪いのはオレたちも一緒だぜ”と聴き手のいる場所まで降りてきてくれたアイドルは、「夜空ノムコウ」で、<悲しみっていつかは 消えてしまうものなのかなぁ>と、自分たちの痛みを素直に曝け出した。スガ シカオは、サラリーマン生活を経て、30歳でミュージシャンとしてデビューした遅咲きのアーティストである。20代前半から半ばのSMAPに、30男の哀愁を歌わせたことも、従来のアイドル路線にはなかったことだ。

◆20世紀までは“国民的”でなかった? 歌われたのは稲垣の復帰ライブ

 そして15年前、SMAP10周年ツアー、ナゴヤドームでのライブの前日、稲垣吾郎が道路交通法違反と公務執行妨害で現行犯逮捕され(のちに不起訴処分となる)、2001年は4人でのツアーを余儀なくされてしまう。

 1998年に「夜空ノムコウ」のミリオンヒット、2000年に木村拓哉結婚、01年に稲垣吾郎の活動自粛。20世紀から21世紀をまたいで、SMAPはいろいろな意味で世間の注目を浴びていた。とはいえたぶん20世紀までは、SMAPのことを“国民的アイドルグループ”と呼ぶ人はいなかったように思う。ヒット曲もあり、出演するドラマ、バラエティは軒並み高視聴率で、押しも押されもせぬスーパースターであることは間違いなかったが、まだ、“いつ消えるかもしれないアイドル”という危うさを消せないままでいた。

 SMAPが、ツアーで初めて100万人を動員したのは2002年。日韓ワールドカップが開催された年、全国のサッカー場でライブが開催されることでも話題となった。ツアー直前に発売されたアルバムは、『Drink! Smap!』。映像と巧みにコラボしながら、ド派手な演出のライブは進み、本編の最後に「世界に一つだけの花」が歌われた。歌の後、巨大な缶ジュースのオブジェから大量の空き缶が飛び出し、スクリーンにはその空き缶に挿された一輪の花が映し出された。ドラマティックな演出だな、と思った。稲垣復活のライブに相応しい、“君の代わりは誰もいないんだよ”というメッセージ。会場の雰囲気が、とてもピースフルだったことをよく覚えている。と同時に、“私のSMAP”から“みんなのSMAP”になってしまったような、妙な寂しさも感じていた

◆ダブルミリオンの大ヒット、「世界に一つだけの花」は教科書に掲載

 翌年、「世界に一つだけの花」は『僕の生きる道』の主題歌となり大ヒットし、大人も子供も誰もが口ずさめる“国民的ソング”として認知された。だが、私はこの曲のせいで、SMAPが“守り”に入ってしまったような気がしていた。今後もずっと、メッセージ性のある曲を求められるのではないかと危惧していた。とはいえ世間からは、徒競走でも順位をつけず手を繋いでゴールする世代を象徴する“ゆとりソング”などと揶揄されたり。「世界に一つだけの花」がダブルミリオンを記録し、音楽の教科書に載ったというニュースを耳にするたび、SMAPがこの曲とともに、国民全員が関心を持つ存在になったことを実感していた。

 あとになって、槇原敬之に楽曲を発注してはどうかとアイディアを出したのが、中居正広だったことを知った。1999年に覚せい剤取締法違反で逮捕されて以来、あまりメジャーな場に出てきていなかった、どん底を味わった彼だからこそ、伝えたい何かがあるはずだと思ったのだろうか。

◆金メダリスト、ベイカー茉秋が最初に買ったのもこの曲

 その後も、「世界に一つだけの花」という曲の世界観に浸れなかったひねくれ者だけれど、今年初めてこの曲を心からいい曲だと感じた瞬間があった。3月の『震災から5年 明日へコンサート』(NHK総合)。SMAPは「オリジナル スマイル」と「この瞬間(とき)、きっと夢じゃない」と「世界に一つだけの花」の3曲を披露した。ずっとずっと思っていた。SMAPの歌にはいつも“心”がある。<悲しみすべて街の中から消してしまえ>と歌う時も、<どんなときも 諦めず ただ進むよ>と歌う時も、心からの思いが込められる。たぶんあのとき、5人は心を一つにして、オンリーワンの花束として咲き続けようとしていたはずだ。どん底の感情を味わってなお、笑顔で進もうと心に誓っていたはずだ。この曲を、5人で歌うことの尊さ。当たり前だと思っていたものが、実は当たり前じゃなかったことに、あの数分のパフォーマンスで気づかされたのだった。

 先日の『SMAP×SMAP』で、リオ五輪柔道金メダリストのベイカー茉秋(1994年生まれ)が、初めて買ったCDが「世界に一つだけの花」だったことを告白していた。これがもし、5人バラバラの個性を主張したアイドルグループに歌われなかったとしたら、こんなにもストレートに子供の心を掴むことはなかったはずだ。とびきりゴージャスで、でも親しみやすくて、おもしろくて、純粋な気持ちを持った花が集まってできた“世界に一つだけの花束”SMAP。彼らが歌ったからこそ、歌がリアリティを持って、幅広い世代の聴き手の心に響いたのだ。

 歌は、人の心に生き続ける。SMAPの歌は、“うまくいかないこと”をたくさん抱えた人々の人生に寄り添う。彼らの歌は切実で、いつも日常の物語を喚起させ、そして励ます。だからこそ、50年先も、100年先まで「世界に一つだけの花」は誰かの心の中に響き続ける。
(文/菊地陽子)

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